第17話 天狗伝説

文字数 3,316文字

バァーン!! 鉄砲の音が鳴り響く
カーーーンッ 5メートルほど離れた木製の古い胴鎧に着弾する
服部半蔵が胴鎧の着弾点を確認する

「あの。。。傷1つ無いのですが。。。」おずおずと消え入りそうな声だ

「あっ?」 馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす

「外したようじゃな もう一回じゃ」

「「「「「いやいや カーーーンっていったし!!」」」」」

一斉にツッコむ、一同

本丸西側の弓道場に集められた 大将以上の家臣団 約200名が実験に立ち会っている

「天女様の加護を戴いた鎧じゃ、効果は見ての通り種子島(鉄砲)でも傷1つつけられん」
山県昌景が得意気に、声を張り上げる

「服部半蔵殿 お主の、そこにある槍で その銅鎧を突いてみてはくれんか 本気でな」

「え? 私がですか? こんな大勢の前で。。。出来れば遠慮したいのですが。。。」
そう言いながらも、渋々といった(てい)で、壁に立て掛けられた愛槍を手にする

「半蔵殿、銅鎧を貫いた経験は?」挑発する 山県昌景

「何を言われます山県様!この服部半蔵 このような古びた鎧 木っ端微塵にしてご覧にいれましょう!!」
槍を手にした途端 声量が3倍に骨格や面構えまでが別人に見える

『『『『『二重人格かよ!!!』』』』』 皆が心の中でツッコむ

息を大きく吸い込み 丹田で気を練る その気を下半身から腰へと 十分に力を伝達させながら 肩そして腕へと、力を伝え 槍を(しご)き すべての力を載せ 一気に爆発させる ドッゴンンンッ!!!
確かに並の鎧では、木っ端微塵であったかもしれない
しかし結果は、鎧が括りつけられた杭が前後に揺れているだけである
服部半蔵はというと、あまりの衝撃にヘタリ込み 痺れた両の手を見つめている
馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす

「外したか?」 血も涙もない一言を叩きつける

「見ての通りだが 服部殿が弱いのではない ここに集まった者の中でも3本の指に入る剛のものである事は
間違いない 他に挑戦してみたいものは?」

本多忠勝が愛槍【蜻蛉トンボ切り】を手に鎧に歩み寄る 穂に止まった蜻蛉が2つに切断されて落ちたという
逸話を持つ名槍だ

「本多殿 まだ体調が万全ではなかろう?」

「万全でございます 天女様のご加護をこの身を持って知りとうございます」


弓道場の入り口の扉が開き ざわめきが広がる
現れたのはお館様こと武田信玄公と眩いばかりの緋袴の天女様である
片膝をつき礼を尽くそうとする家臣を手で制する 信玄 

「ほ〜う 面白いところに来たようじゃの」楽しげに笑う 信玄

「只今 床几(ショウギ 折りたたみの椅子)を用意いたします」慌てる真田幸隆

「よい 年寄り扱いするな 水を差してすまぬな 本多殿、続けてくれ」

信玄とエヴァに一礼をし、鎧と向かい合う 忠勝
短く切った【蜻蛉切り】の巨大な穂先を鎧に向ける
両足の裏から大地の気を吸い上げる 脛、膝、太腿、腰、丹田、胸、首、頭へとゆっくりと気とともに上げていく 
頭頂部で気をしばらくの間 気を止め ゆっくりと息を口から吐き出す練った気を丹田まで降ろし 更に練る
肺に溜まった空気をすべて吐き出し 足先から膝、腰、肩、腕へと練った気を巡らせ 全身の可動域すべての
うねりを気とともに穂先に乗せる ドッガァァァンッ!!!!!!!!強烈な炸裂音が道場内に木霊する
槍を左手に持ち替え 鎧に一礼をする 本多忠勝

馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす

「穂先が鎧を貫通しておる!! 腹までは届かんがのう」

おおおおぉぉぉ!!!! 歓声が上がる 忠勝に対する歓声なのか 鎧に対する歓声なのか
おそらくは、その両方なのであろう

「驚きました! 強いとは聞いていましたが これほどとは」エヴァが素直に賞賛の声を上げる

「ふむ 天女殿には、大筒でも砕けぬと聞いていたが 良いものを見せてもらった」

本多忠勝が2人の前に片膝をつき 頭を下げる

「武田信玄公と天女様。。。我が殿に救って頂いたこの命 さらに精進を重ね 必ずやお役に立ちまする」

「ふむ 励まれよ」信玄が忠勝の肩に手を叩く 

「皆の者、見ての通りじゃ 天女様のご加護を頂いた装備で常勝である!!」山県昌景が吠える

おおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!! おおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!雄叫びで 建物が揺れる


本多忠勝の人外の力の正体は、エヴァと交わした【従属の契約】により 
常時発動の〈筋力強化〉と〈身体硬化〉と〈身体加速〉の賜物であった お互いの同意の上、契約を破棄しない限り本多忠勝は死ぬまでエヴァの意に背く事は出来ない

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

期限の当日となり 岡崎城に続々と到着する 各領土から徴兵された足軽たち

領土の規模の大小に関わらず300名 この徴兵数を、一律としたのには、各領土が、その功績を競う事に重きをおかずに全体の戦略を第一とするため 無理のない徴兵数で農家に負担を掛けないよう 農家の2男3男 
ほとんどが、武士の2男3男で構成され 兵農分離により、専業兵士として育てていくことを目的としている
織田信長の政策に倣ったものであるが 優れたものは、採り入れていこうということである

そんな中、百姓に扮したルイが岡崎城に到着する
「山県様! 聞いてくれよ〜」気配探知で山県を見つけ 飛ぶように駆け寄る

「おぉっ ルイよ久しぶりじゃな 息災そうでなにより」

「信濃から、ここまで60以上の城に鳩小屋を設置して来たんだぜ たった6日間で。。。」
半泣きで訴える

「相変わらずの人外ぶりであるな」 感心と呆れが混じる

「エヴァときたら、人使いが荒いのなんの。。。」

「天女様とお呼びなさい」 ルイに気配を覚られず 2人の背後に立つエヴァ

「おかえりなさい ルイご苦労さまでした」 不意に現れた 巫女姿のエヴァに周囲がざわめく

「ただいま戻りました 天女様。。。その服いいな それで男物ないのか?」

「そうですね、動きやすくて とても気に入っています あなたの分もお願いしておきますね」
天使のような微笑みを浮かべる

「ちょっと待て! その顔は、なにを企んでいる!?
さすが長年の付き合いである

「なにも企んでなどいません あちらに昼食を用意していますよ、それに貴方のために 皆さんにお願いして大型の鳩小屋まで作っていただきました ほらっあそこに」
指差す方を見ると、確かに鳩が200羽は入りそうな大型の鳩小屋が櫓の上にある

「ちょっと ご足労ですが食後に鳩を70羽ほど捕まえてきて下さいね」
天使以外の何者でもない笑顔で悪魔のような台詞を吐く

「なっ!!」 山県を見ながら これが、この女の本性だぞ!!っと同意を求める視線を送る



その後 夕方まで野山を飛び駆け回るルイ その姿を目撃した者達から天狗が出たという噂が流れる


「六名緑地で天狗が出たと騒いでおりますな〜」夕食の席で徳本がエヴァに伝え聞いた話題を振る

「天女がいるのですから、天狗くらい居りますでしょう」
興味も無さそうに4本目の味噌田楽に手を伸ばす エヴァ

「それが誠ならば、是非手合わせを願いたい」さらに脳筋に磨きがかかる 本多忠勝

「鬼や天狗の(たぐい)であれば 渡辺守綱殿の出番であるな」
先ほど部隊を率いて 到着したばかりの酒井忠次の一言に笑いが溢れる

「それがしの祖先 渡辺綱に近づけるよう精進してまいりましたが 本当に天狗が出たのであれば是非 
腕試しを、したいものです」
渡辺守綱が鼻息も荒く 捲し立てる

「おぉっそなたが、鬼の腕を切ったという あの渡辺綱のご子孫であるか 源氏の嫡流ですのう」
徳本が髭を扱きながら目を細める

「その天狗が参りましたよ」 可笑しそうに呟くエヴァ
座敷の襖が開き ルイが疲れ果てた顔で入ってくる

「腹が減った。。。ん? 何か顔に付いてるか??」
注目を集めるルイに 稽古の誘いが殺到する

『脳筋ばかりですのね』6本目の味噌田楽を頬張る エヴァ

「食後の運動に試合おう いや死合でも良いぞ!」久しぶりに会った、ルイに嬉しそうな本多忠勝

「そうそうルイ 明日にでも浅井の小谷城と朝倉の一乗谷と石山本願寺に鳩小屋を設置に行ってくださいね」
天使のような笑顔で命じる エヴァ

「なっ!!」誰に同意を求めたのか。。。?




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