第154話 怒愚魔と魏頭魔

文字数 2,940文字

八岐大蛇の降臨したエヴァと、魔王形態となったナーダとの戦いは、まるで天界の怒れる神々の戦いを連想させる 激しい攻防が繰り広げられるが 双方が決め手に欠き 辺りは、すっかりと闇に包まれる

練兵場の依り代から蘇生した、天武の面々とアラン、ブルート、ルイは、エヴァの“絶対に参戦するな!!”
という伝言を聞かされ、自分達が行っても足手まといになるだけだと、壁面の映像を祈るように見つめていた
「エヴァに草薙剣を抜かせてしまったな。。。」
ルイが唇を噛み締めながら呟く
「これでエヴァが、ナーダを倒してくれても俺達は、どんな顔をしてエヴァに会えばいいんだ?」

「ブルート先生 天女様は、本当に自分を生贄にしてナーダと戦っているのですか!? 勝っても負けても死んでしまうということですか??」

「嫌だ!!そんなの絶対に駄目!!そんなの耐えられない!!」

「お腹に赤ちゃんが居るのが、わかったばかりなのに。。。アラン様、天女様を助けて下さい!!」

「。。。。。どうすれば。。。。」
信忠が茶々が千代がアランに縋るような眼差しを向ける

月明かりに照らされるエヴァとナーダ
そして少し離れた場所で、巧みに時間停止を繰り返しながらナーダの攻撃を避け
時には、エヴァの補助にと立ち回っている 井伊直政
時の精霊ハロルの時間を操る能力は、魔王であるナーダの圧倒的な暴力を持ってしても
仕留め切ることの出来ない 稀有な能力だと言うことが、証明されていく
天武の子供達の中でも、精霊との親和性が茶々と並んで高く、実戦の中で使い続けてきた
直政とハロルは、徐々にハロルの能力を解放していく
時間遅延から時間停止へ そして間もなく新たな能力を手に入れようとしていた
「耳の奥が、熱い。。。これってハロルが僕の頭に何かを仕込んでいる時の感覚だよね? 
時間停止を覚えた時もこんな感覚だった。。。」


エヴァが草薙剣を振るう 稲葉山の土が岩がめくれ上がり、うねりを上げ大波のように
ナーダへと襲い掛かる 瞬間移動でエヴァの背後へと飛んだナーダの真下から、その事を読んでいたかのように、地表から突き現れた巨大な岩の手が、ナーダを捕らえる
握り潰そうと閉じられた大岩の指の隙間から黒い瘴気が漏れ出ると、ボロボロと崩れ落ちる巨大な岩の手
長良川の上空までナーダを誘い込んだエヴァが、数十本の竜巻を生み出すと
水上を縦横無尽に走り回り長良川の水を巻き上げていく 巨大な水の鞭となった竜巻が
次々とナーダに襲い掛かる 
竜巻に弾かれ、叩き落され、1本の竜巻に飲み込まれると、次々と周囲の竜巻が合わさり山のように巨大になった竜巻が、ナーダを揉みくちゃにする 
その竜巻に絶え間なく水刃を投げ込んでいく エヴァ
「これで死んで下さい!!」

竜巻の水が黒く染まり パーーーーーンッと弾け 周囲に大雨を降らす
そこには水を滴らせた、無傷のナーダが浮遊していた
「女よ なかなかに楽しかったが、我に傷を与えることも叶わぬようだな そろそろお前に絶望を与えてやることにしよう あの地下の穴蔵に隠れている人間共をすべて殺せば
お前は、どんな声で泣くのだろうな フッハッハッハッハッハ!!」

「絶対にさせません!!」
ナーダの体に纏った瘴気がどんどんと膨れ上がり、爆散すると小さな無数の粒となって
新岐阜城の方へと散っていく
「我の竜鱗をあの周囲にどれだけ撒き散らしたと思う?」
万を超える、竜鱗に瘴気の粒が結び付き 次第に手足が生え 頭が盛り上がっていき
長い尻尾が生える 人の背丈ほどの黒い体を鱗で覆われた、爬虫類のような生物が
長く細い舌を出し入れしながら 新岐阜城へと向け行進していく

地表にばら撒かれた、ナーダの竜鱗から生まれた二足歩行が出来るトカゲという言葉が
もっともしっくりとくる生物が、稲葉山の麓を埋め尽くし、黒い波となって新岐阜城を
目指し押し寄せていく
黒くぬめりっとした表皮に、長く細い舌を“ちろちろっ”と出し入れしながら
行軍する 万を超える異形 月の光が反射され(おぞ)ましさがさらに際立つ

稲葉山に向かおうとするエヴァの前に立ちはだかる ナーダ
「お前の相手なら、ここだ」
ナーダが尾を振ると、瘴気を纏った竜鱗が放たれ、地上を行軍する異形とは異なり
背中に翼を備え、細く鋭い尾を持った異形が、エヴァへと群れをなし解き放たれる
「我の分身で、怒愚魔(どぐま)魏頭魔(ぎずま)だ 防ぎ切れるかな!?」

向かってくる魏頭魔に風刃を放ち、首を切断するが、そのまま飛行を続けエヴァの直近で
草薙剣を振るい両断すると、体表が赤く染まった後 爆ぜる! 
予期せぬ爆風に両手で急所を守るエヴァに次々と襲い掛かり自爆をする 魏頭魔

地上に居る、井伊直政にも容赦なく怒愚魔の群れが襲い掛かる 
自分の周囲に土盾を展開しながら、時間遅延を使い、氷槍で一体一体を確実に仕留めるが
取り囲まれ誘爆を繰り返す怒愚魔の爆風に揉みくちゃにされ次第に傷ついていく 直政
「数が多すぎます!天女様も見失ってしまった!?」
さらに増えていく異形に地上も空も月明かりが届かぬほどに埋め尽くされていく

やがて稲葉山の新岐阜城地上部分に辿り着いた怒愚魔が、一塊となり自爆する
“ドッゴオオオオオオンンンンンンンッ!!!!!!”
広範囲の床面が削れ吹き飛ばされる その衝撃が、大食堂まで響き どよめきが起こる
「。。。。ブルート。。。ルイ。。。行くぞ!。。。」

「ああ 後でみんな揃ってエヴァに怒られよう」
ルイが両腕を鬼化し、童子切安綱を構える

「自爆に巻き込まれないように、気をつけなければな」

「「「「「「僕達も行きます! まだ戦えます!!」」」」」」

「即死回避は、もう使えないんだぞ?死んだら終わりなんだ。。。ここで待っていてくれ」

「危なくなったら避難します 僕たちも行かせてください!!」

「ブルート殿、わしらの子や孫が、たとえここで命を落としても誰も文句など言わん!
連れて行ってやってくれ 頼む」
武田信玄が勝頼が浅井長政が真田幸隆が昌幸が揃って頭を下げる

「これだけの数の敵だ、お前達を守り切れないかもしれない。。。それでも行くんだな? 
ここに帰っては来れないかもしれないんだぞ??」

「「「「「「「「「「行きます!!」」」」」」」」」」

「俺たちも行くぞ!! 命の惜しくない者は俺に続け!!!」
前田慶次郎が雄叫びを上げる

「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」」」」」」」」」
風魔小太郎が風魔党員が500名の精鋭弓兵達の雄叫びが大食堂を揺るがす

「わかりましたみなさん、殺生石の鏃が無くなり次第、避難する事を約束して下さい」
お雪の鼓舞を受け、地上へと続く階段を一歩一歩踏みしめる 面々

地上階の床面はすでに破壊され、天女御殿にまで雪崩れこんでいる怒愚魔を信忠のゴーレムが殴り飛ばし空中で自爆させる ブルートが鬼蜘蛛の糸で絡め取り、アランの虎舞羅が火を吹く ルイの童子切安綱の複製がエヴァを援護するために空を駆け 千代の分身が敵を翻弄する そして一斉に放たれる、殺生石の鏃が地下一階の怒愚魔を一掃していく
これ以上の侵入を防ぐために茶々が障壁を展開すると 全員が地上階へと駆け上がる
四方から押し寄せる怒愚魔に自爆の爆風に巻き込まれないように それぞれが遠距離攻撃で徐々に数を削っていくのだった



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