第12話 正月

文字数 3,566文字

「明けましておめでとうございます」

天守曲輪の縁側に並ぶ 左から真田幸隆 山県昌景 内藤昌豊 武田信玄 エヴァ 諏訪勝頼 馬場信春 武田家の重鎮たち中庭に集まった武田家の家臣 徳川家の家臣たちから
もっとも注目を集めているのが 信玄の横に並ぶエヴァである

「皆の者 明けましておめでとう 昨年は武田にとっても皆にとっても最高の年となった 本年も この日の本の平定のために皆の力を貸してくれ 今日は存分に飲み食い踊るがよい!!」

天守曲輪の大広間が開放され 中庭にも人が溢れる 城下より呼んだ 大量の酒樽が並び 魚を焼く者
餅をつく者 大鍋でほうとうを炊く者 握り飯を握る者 猿回しまでが居り、人気を博している

「お館様 明けましておめでとうございます」

「天女殿 おめでとう こうして無事に新年を迎えられるのも天女殿のおかげじゃ 心より感謝いたす」

「私とルイが、こうして笑っていられるのも 皆さんのおかげです こちらこそ感謝しています」

「天女殿にそう言って貰えるとは、まさに天にも昇る気分じゃ ガッハッハッハ」 豪快に笑う信玄

「食べ歩き。。。いえ 私も見て回ってまいります」

「存分に楽しんで来られよ」終始、上機嫌な武田信玄
中庭へと降りていく天女を見送る重臣達

「それにしても、巫女の衣装とは、考えたのう幸隆」

「はっ 帯が苦しいのではと考えまして 巫女の衣装を取り揃えましたところ 気に入って頂けたようで 何よりでございます」

「しかし緋袴(ひばかま)を天女殿が召されると あの緋色が目に痛いほどに眩しいのう 勝頼よ 幸隆のように気が回るのが おなごに惚れられるコツじゃ」

「拙者も、食べ歩いてまいります」逃げるようにエヴァの後を追う勝頼

「逃げおったか ときに昌豊よ 越中の一向一揆の方は、どのような塩梅(あんばい)じゃ?」
上杉謙信を抑えるための加賀、越中の一向一揆への援助等を内藤昌豊が担っていた

「はっ 昨年の垂尻坂の敗戦以降勢いが衰え 上杉に鎮圧されるのも時間の問題かと。。。」

「椎名康胤の尻を叩かねばならんな わしに考えがある 後ほど話そう 皆も飲め!」

       〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「忠勝!本当にお前は、化け物だなハッハッハ」

「お主にだけは、言われたくない!」
杖を突きながらではあるが、人の手を借りずに、中庭へと降りてきた本多忠勝を見つけ
早速、声を掛けるルイ

「天女様の話では、1月はまともに動けぬということだが7日ほどで歩けるようになるとはのう」

「これは、山県様 明けましておめでとうございます 我が殿が わずかな共だけを連れ、尾張へと向かっておりますのに拙者が、いつまでも寝ているわけにもまいりませぬ」
山県の目を直視できずに、どこか視線を泳がせながら話す 本多忠勝

「新年だ! 戦のことは、それぞれの働きをしたという事だ甘利の事は残念じゃが 
貴殿の叔父上も残念であった 水に流す事は出来ぬであろうが お互い恨みっこは無しだ」
忠勝の肩を叩く 山県昌景

ー『もし甘利が首を落とされていなければ、甘利か忠勝 お館様は、どちらの死に戻りをお願いしたのだろうか? 。。。考えるまでもないことか。。。』ー

「はい そのように心得ております」

「早く 元気になれよ! 稽古をつけてやるぞ イッヒッヒ」
ルイが忠勝を、茶化す

「今すぐでも、構わぬぞ」杖をルイの鼻先に向ける

「弱い者いじめは、天女様に怒られるからな」

「そう言えば 後ほど、天女様にお礼がしたい 仲立ちしてもらえるか?」

「いいけど 気にするなって言われるだけだぞ」

「確かに、天女様なら そうおっしゃる」したり顔で頷く 山県

「あっちにいるぞ? 行くか?」
聴覚を強化して耳を澄まし 徳本がエヴァを呼ぶ声を聞き取った

      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「天女様 もうそのくらいにされたほうが。。。」 

「徳本先生がすすめたんです 責任を取ってください!」
諏訪勝頼の声も聞こえる 声の方向を見る



「行かないほうが、いいと思うぞ。。。」山県と忠勝に告げる

「どこにいらっしゃるのだ?」視線を巡らす 忠勝

「あそこの酒樽の前だな 悪いが俺は行かない。。。」急いで踵を返す ルイ

「仲立ちしてくれるのではないのか?」

「酒癖がな。。。」なにかを思い出し震える ルイ

「ならば拙者が一人でご挨拶をして参ろう」
可哀想なものを見る目で見送る ルイ

「それほどに酒癖が悪いのか?」山県が聞いてくる

「いきなり股間を握られてな。。。硬化魔法を掛けられた事がある 
エヴァが素面に戻るまで小便も出来なかったな〜」
懐かしそうに、遠い目で話す ルイ  股間を抑え、黙って青ざめる 山県


酒樽の前に猿回し以上の人垣が出来ており 人混みをかき分けて ようやく見つけたエヴァはというと
徳本先生の白く長い顎髭を鷲掴みにし 酒を無理矢理、飲ませる。。。もうメチャクチャである

「鳴いてみろ トクホン!!」

「めえ〜〜」 爆笑に包まれる、場内

そっと忍び足で もと来た道を戻る 本多忠勝 



「そのような事が、起きていたのですか。。。にわかには、信じられませぬが 
お館様のそのお元気な姿を見るに、信じぬわけにもいきますまい」
内藤昌豊が混乱した様子で相槌を打つ

「今からする話は、お主を含む家老までの耳に入れておくが 一切の他言を禁ずるぞ」
ぎょろりと大きな双眸で昌豊を睨む

「今までに聞いた以上の話があるのですか?」

「実はな、そのルイにこの城内で本多忠勝は一騎打ちに破れ殺されたのじゃ しかし天女殿の奇跡の術で死に戻りおった」

「本多忠勝。。。昼間に見かけましたが、杖をつき衰弱しているようにも見えましたが あれが死に戻り。。。」

「天女殿の話では、一月は動けんと聞いていたが あの男もまた化け物かもしれんのう」
楽しそうに笑う 信玄

「いやはやなんとも 言葉になりませぬな」

「今の話を、海津城の高坂にも聞かせてやってくれ、ここまで上杉を抑えたこと大義であったと 
わしが感謝していると付け加えてな」

「それは、何よりの褒美となりましょう しかとお伝えしておきまする では、明日にも越中に戻ります」

「ふむ では。この文を椎名に 先ほど話した通りルイを連れて行け 話は、通してある」

「それは頼もしい護衛が出来ました」

「鬼が出ようが、天狗が出ようが心配いらぬ」ガッハッハッハ高らかに笑う信玄



「はて? 私は、なぜ部屋で寝ているのでしょう??

ー『たしか。。。お餅を頂いて ほうとうを頂いて 鮎という魚を焼いたものは絶品でした アランやブルートから、固く禁じられていた お酒もちょっぴり頂きましたね 美味しゅうございました』ー

「まぁ いいか。。。」えへっ

「まったく よくない!!」エヴァが目覚めた事を察知したルイが部屋に入ってくる

「あら? なんのことでしょう?? ルイあなたいつの間に髪を切ったのですか??
肩まで伸びていた髪が半分ほどの長さで切り揃えられている

「眠ったエヴァを部屋に運ぼうと抱えた時に、エヴァに燃やされたんだが こんなのは、まだいい」

「ルイ。。。私はもう一度寝ますので 出ていってくれませんか?」
これ以上聞きたくないと耳を塞ぐ エヴァ

「徳本先生の髭を鷲掴みにして 何度もメェ~メェ~鳴かせていたぞ 大勢の人の前でな」

「イヤーーー聞きたくない!!

「それに飽きたら、魔法で山羊に変えようとしたぞ さすがに止めたけどな」

「止めてくれて、ありがとう」ルイの手を取り 目を潤ませる

「酒を飲むたびに惨事を引き起こすのは、やめてくれ。。。禁酒な!」

「この国のお酒が、どんな味か気になっただけ。。。もう飲みません」

当の徳本本人は、ちょっと嬉しそうだった事は、黙っておく

「俺は、明日から越中の松倉城に行ってくるぞ 内藤昌豊の護衛と向こうでは、一向一揆の手伝いだそうだ」

「よく引き受けましたね? 私と離れて寂しくないのですか?」

「ここに一週間以上閉じ込められて、退屈していたからな 戦があるのなら退屈しのぎに行ってくる」

「聞いていると思いますが、無駄な殺生は駄目ですよ
 1,2ヶ月は戦場に出れないくらいの怪我でお願いします」

「そうなんだよ しかも俺だとわからないようにって事だ。。。まぁ なんとかなるだろ」

「上杉謙信を滅ぼしたくないそうです 後々のこの国のために。。。もし上杉が滅ぶと、この国が一層荒れるということですね」

「それほどの人物なのか〜 会ってみたいな」

「私達だけでは、念話が使えないですから 何かあったら鳩でも飛ばしてください こっちも何かあれば飛ばしますので」

「うん わかった 俺がいない間 酒を飲むなよ! みんなには、言ってあるから大丈夫だと思うけどな!」

「もう飲みません。。。」


その頃 永田徳本は一人 部屋で悶々と眠れぬ夜を過ごしていた
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