第126話 エヴァと直政対ネボア

文字数 3,194文字

黒き竜·ナーダの鱗より錬成した2本の太刀を両手に持ち、エヴァと互角に切り結ぶ夜叉 
過去に憑依した相手の知識や経験を模倣する能力を有するネボアは、夜叉の体を得た事により
大嶽丸の双剣術を模倣する事としたのである
並外れた膂力に物を言わせ、半ば強引に2本の太刀を振るう 夜叉
それを最小限の力で受け流し、華麗に舞うように玉龍を操る エヴァ
「実体を得て、戦うという事は、これほどに楽しい事なのだな それに気づけた事には感謝しているぞ」

「貴方に感謝などして欲しくは有りません さっさと死んで下さい」
冷めた目で言い返す エヴァ

「まぁ そう言うな、この身体で試したいこともある もう少し付き合え」
軽く地面を蹴り、後方へとふわりと宙に浮く 夜叉
逃すまいと、結界を宙に放ち、間合いを詰めるエヴァ
伸ばした腕を、鞭のようにしならせ 空中へと踏み出したエヴァの足元に太刀が襲う
玉龍の石突きを振り上げ太刀を払い、その反動を利用した穂先が夜叉の首元に迫る
それを左手の太刀の柄で受け ぱかっと開いた口から“黒い竜の息吹”を吐く
至近距離からの、息吹に対し 予め放ってある不可視の結界を移動する事により
エヴァの左上空へと逸らすが、少しの間をおいて“パリンッ”と音を立てて砕け散る結界
警戒したエヴァが、後方へと飛ぶ


ここまでの戦いで“赤い竜の息吹”を結界で受け流しても、破壊される事は無かった
それが“黒い竜の息吹”を受け流すと、わずかな間をおいた後に砕け散った
その事から思い当たるのが、闇属性の腐食効果である 通常の攻撃魔法と異なり
被弾した箇所にじわじわと侵食し破壊する 武具を破壊するには最も適した
遣い手の少ない属性魔法である
ー『ルイとアランが危ない!?』ー
ブルートを介した念話で呼び掛ける
「ルイ!アラン!聞こえますか?」

「ああ。。。エヴァ聞こえるぞ。。。」

「黒い竜は、闇属性の腐食魔法を使う可能性が有ります 注意して下さい」

「それは、厄介だな!今のところ、雷魔法しか使っては来ないけどな 気をつけるよ」

「そちらの状況は、どうでしょう?」

「エヴァがネボアを倒すまでの時間稼ぎだ 楽勝だよ こっちの事は心配するな」

「ルイ。。。本当に無理はしていませんね!?」

「ああ 忙しいから、後でな」
嫌な予感がエヴァの脳裏を横切るが、眼前に迫る、炎の息吹を玉龍で両断する
チリチリッとエヴァの長い髪から焦げた匂いが漂う

「天女と呼ばれる女よ 我が兄弟を赤だの黒と呼んでいるのか? 我が兄弟にも立派な名がある 
赤き竜は、獄炎の炎を操るフォゴだ、そして黒き竜は、すべてを無に還すナーダだ覚えておけ!」

「貴方、まさか私達の念話が聞こえているのですか?」

「ああ そのようだな」
先ほどの直政君との会話が、口頭であった事に胸を撫でおろす エヴァ

「それと良い事を教えてやろう 俺は、兄弟達の視界を共有できるのだがな
ナーダの相手をしている でかい方だが、すでに片腕を失っているぞ」
一瞬エヴァの顔が青ざめる

「でかい方では、ありません!!名をアランと言います 貴方達を倒す者の名を覚えておきなさい!!」
エヴァの頭部から三角の耳が生え、たおやかな尾が空気を打つ
弾かれるように夜叉へと飛ぶエヴァ さらに複数の結界を展開し、それを足場に縦横無尽
あらゆる方向から、風刃が玉龍が夜叉を襲う
それを嫌ったのか、夜叉の正面の空間が歪む 
すかさず煙玉を、夜叉に投げつける エヴァ その煙玉を両断する 夜叉
付近に赤い煙が広がる 十分に拡散するまで一拍の間をおいた 井伊直政が時を止める

「時の精霊ハロルよ!時間停止!!」
地上で夜叉とエヴァの戦いを見守っていた 直政が、空中に目を凝らす

井伊直政だけが、動いていられる世界
新岐阜城で、エヴァと組む事を告げられてから、今のこの時まで、直政が密かに考えている事があった
夜叉とエヴァの戦いの最中にも、何度か時間停止、時間遅延を発動し 時の精霊ハロルに語りかけ、時の止まった世界で自分だけでなくエヴァをも、時間の枠の外に置く事は出来ないのかと。。。
つまり時の止まった世界で自分とエヴァが動けないかと模索していた
エヴァが夜叉と戦っている最中に、直政もまた自分と戦っていた訳である

自分だけが、動ける世界で空中を凝視していた直政だが、どれだけ目を凝らそうと 
エヴァの周囲にも、夜叉の周辺にも立ち昇る煙を見つける事は出来なかった
直政の体感で、およそ2秒。。。間もなく時間停止の効力が切れようと言うときに
自分の足元に漂う、赤い煙に気付く 歪んだ空間からは、夜叉の鋭い爪のついた腕が
直政を捕らえようと伸びていた

「しまった!ネボアは、僕を人質にするつもりだったのか!? これに攻撃魔法を撃ち込んでも、天女様との距離が遠すぎて、おそらく捕らえる事は出来ないだろう。。。それどころか、時を操る能力に気付かれる可能性もある」
そう判断した直政は、エヴァの真下まで移動しようと瞬歩で駆ける
その時に見上げたエヴァの指先が、時の止まった世界で、微かに動いたような気がした

“時が動き出す”

出口から抜け出した夜叉の腕が空を切る 不思議そうに自分の手の平と直政を見る
ー『時間を操れる事をネボアに気付かれてはいけない!』ー
すると、エヴァから伸びた紐が、直政の腰に巻き付いている事に気付き 
エヴァが、その紐を操ると直政の体が宙に浮き、夜叉からさらに距離を遠ざける

『なるほど、これなら天女様が僕を引き寄せたように見える ネボアに余計な疑念を抱かれずに済む 
さすが天女様だ! それにしても、時間が動き出す寸前に天女様の指先が
動いたように見えたのは、やはり僕の見間違いでは無かったのか?
だからこれほど早く、僕の腰に紐を巻くことが出来たのではないか?』

何かを警戒するようにエヴァと直政を睨みつける 夜叉
右手の太刀を腰に収めると、夜叉が右手を突き出す 
掲げた右の手の平に黒い瘴気が纏わりつき あふれた瘴気が“ぽたぽたっ”と零れ落ちる
「直政君、あの右手には注意して下さい 以前に見た呪いとは違うようですが。。。
腐食の可能性があります 触れたものを、その名の通り腐食させていく、非常に厄介な代物です 
私の後ろから出ないようにして下さいね」

「わかりました 天女様も気をつけて下さい」

『あの天女の後ろに隠れる様に付いている あの小僧から、何とも言えぬ違和感を感じる 戦いに参戦する様子も見せず なんの為に天女は小僧をここに連れているのか?
それに先ほどの動き、あの小僧の足を掴んだと確信していたのに。。。天女が、あの紐で引き寄せたというのか? 試して見ねばならんな』

強く地を蹴り、エヴァと直政よりも高く飛び上がると、右腕を限界まで伸ばし
頭上で回転させ、あふれる黒い瘴気を周囲に撒き散らす
その瘴気を浴びた、地上の木々、岩、砂までもが“ジュッ!ジュッ!”と音と煙を上げる
腕を振り回し、瘴気を撒き散らしながら エヴァと直政へと迫る 夜叉
無数の結界を空中に放ち、それに対抗するが、瘴気に触れるたびにひび割れ砕けていく

「直政君!ここでは、不利です一旦距離を置きます!!」
直政の元まで飛び、手を引き地上へと飛び降りる

「あっ!!足が!?」
直政の脹脛(ふくらはぎ)に瘴気が付着し、じゅわっじゅわっと黒い煙を上げながら
直政の足を侵食していく
直政の耳元に顔を寄せ、小声で呟く エヴァ
「すぐに治療します この症状は経験済みですから心配しないで下さい 
直政君は、出来るだけ大袈裟に痛がって転げ回って下さい」

痛がり転げ回る直政の治療をしようと、慌てたエヴァが、この戦いで初めてネボアに背中を見せる
「そんな子供を戦場に連れてきたのが、お前の敗因だ!!」
瞬間移動を発動する ネボア 夜叉の正面の空間が歪む
「直政君、治療は済みましたよ ネボアは、瞬間移動を使ったのではないですか?
煙玉を使うまでもありません 私の背に出口が開くでしょう 時間を止めて下さい」


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