第101話 ネボアの歓喜

文字数 3,133文字

「お玉様、おりん様。。。大嶽丸様の事は、残念でした。。。」
人型に変幻する妖狐

「まぁね ルイも大嶽丸も無茶をするからね、でも数年で復活はするから 心配ないよ」

「叔父上が戻られるまで、一緒に待ってくださると天女様が仰ってくださったので
私も大丈夫ですよ なんでしたら2,30年戻らなくても寂しくないです ふっふっふ」
少女のような、笑みを浮かべる おりん

「大嶽丸のおっさん、不憫すぎるだろう。。。」
同じくらい不憫なルイが、大嶽丸に同情する

「ルイや、あんたの気が早るといけないからね、言っていなかったけど 母竜の気配は
もう無いよ 死んだようだね」

「お玉様!本当か!? そうか。。。ベヒーモスを倒したんだな」

「ああ 間違いなく、あんたの最後の一撃が致命傷になったようだね」
しかし母竜が息絶えてすぐに、残った子竜達の魔力が数倍にも膨れ上がった事を
妖狐は、伝える事ができなかった

「凄いよルイ!みんなの悲願がようやく叶ったんだね!!」
ルイの手を取り、喜び合う お雪

「お玉様が、弱らしてくれていたしな ベヒーモスより更に強い子竜が、残っているからな 早く動けるようにならないと!」

「無理はしないでね ここの復興工事に2週間を予定しているから、それが終わったら
羽柴組のみんなと岐阜城に向かうから ゆっくり治してね」

「ありがとう お雪ちゃん、そんなに心配してくれて。。。」
感激し目頭が熱くなる ルイ

「ところで、お雪ちゃんは今夜は、どの部屋で休まれます?」

「おりん様と同じ部屋で構いませんけど?」

「私は、毎晩ルイと一緒にこの布団で寝ていますが 3人は、ちょっと狭いですね?」

「ふ〜〜ん 毎晩一緒に寝てるんだ〜〜?」
氷のように冷たい視線でルイを見る

「ちょっと待って!治療だって言うし、指一本まともに動かないのわかるよね!?」
必死に言い訳をする ルイ

「ふ〜〜ん 股間の$#@&は、元気そうだけどね」


翌日より、復興作業に取り掛かる 羽柴組

「これは、秋山虎繁殿、お久しぶりに御座います」
焼け野原と化した城下に図面を広げる、羽柴兄弟の元に訪れる 秋山虎繁

「羽柴殿 久しぶりであるな 大層のご活躍だと聞いております 今回は、遠路をこのように早く駆けつけて頂き、かたじけない 焼け出されて家の無い民が溢れておりまして」

「すべては武田信玄公の指示です 大変だったろうが、もう少し頑張ってくれと
言伝を預かっております 素晴らしい主君ですな」 

「誠に、素晴らしき主君です 長らくお会いしていませんが お元気そうで何よりです」

「お会いしたら、驚かれますぞ 日に日に若がえっているようにさえ見えまする」
秀長が両手を広げて大袈裟に驚いてみせる

「それは、楽しみですな! ところで今回の滞在は2週間の予定と聞いておるのですが
200戸ほどの住宅が不足しておるのですが、どれほど建てて頂けるでしょうか?」

「資材もすべて揃っていますし、下地まで出来ておりますので、2週間もかからずに
200戸すべて終わりますな、大通りには、店舗付き住宅も建てましょう」

「えっと!?聞き間違いですかな? 200戸ですぞ?? 1戸の家でも2週間で建ちますまい?」

「武田信玄公、直属の羽柴組は、それが出来てしまうのです ちょっと見ていて下さい
では、お雪殿、よろしくお願いします」

「はい それでは、皆さん頑張ってくださいね ヴァルキュリアよ願いを聞いて下さい 
ここに集いし全ての者に脈動を!奮い立たせよ!!」 

「待ってました!!」「よ〜し働くぞ!!」「俺は蟻だ!蟻になるんだ!!働き蟻だ〜」
柱を束ねて、軽々と持ち上げる者  目にも止まらぬ速度で(かんな)をかける者
猛烈な勢いで石畳を成形していく者  意味も無く走り回る者。。。

「火竜の、襲撃にも驚いたが。。。。羽柴組にも驚いたな!? というか、わしも無性に働きたいんじゃが!! 何か出来る事は無いか!!??」


御嶽山 最深部
足元にマグマの流動が感じられるほどの深部で、身体を丸め 消費する熱量のすべてを
自己の回復のみに充てる2匹の竜 
もし彼らが、母竜の産まれたダンジョンのある世界に産まれていたのならば
危険度SSSランク国家存続の危機と認定され、龍神の上、神竜と区分されていただろう
歴代のSランク冒険者を集めても、討伐成功率は5%以下 
伝説の勇者の誕生を待たなければ、人類存続の危機と恐れられていたであろう
それほどの驚異だと、理解しているのは、この時点で当の兄弟竜でなく
ここから南に遠く離れた 岩村城に籠もる 妖狐のみであった

赤いバハムート“フォゴ”の眼から見える 視界を共有するネボア
視線の先で丸まり、尻尾をくゆらせ 半眼でこちらを見る “ナーダ”
同時に黒いバハムート“ナーダ”の視界も共有し 2匹の兄弟竜を見比べる
赤と黒という、色の違い以外の差異を見つける事は難しいのだが
その事を知っているのが、ネボアだけだというのが、少し可笑しく思える
彼らは、相手の姿は見えているが、自分の姿を見た事など無いのだから
母竜ベヒーモスの獰猛な牛を思わせる、4足歩行に寄った体躯から
彼らは、より2足歩行に適した体躯で産まれた 当初は前足に当たる部分は短く
物を掴むことには、適しておらず 頭部が大きく、肩幅も狭く、腰から下が大きい
体躯全体のアンバランスさを補う為に、太く長い尻尾と、幅広く長い足の裏でバランスを
捕っていたように今では、思える
母竜ベヒーモスを取り込んでからの彼らは、体躯全体が引き締まり より人間に近い
体躯となった 竜人という種族が存在するのであれば、いかにもと言った姿である
頭部も小さくなり、前足というよりも腕と言ったほうが相応しく、容易に物を掴み
人間の持つ武具さえも扱えるのではないかという細く長い指も5本備え
常にくの字に曲がっていた後ろ足までもが、ほぼ直立で歩行することが可能なほどに
膝が伸びている 尻尾も付け根から中程まで、同じ太さで伸び、先に行くにしたがい
細く鋭くなっていく
空気も歪むほどの環境で、赤いバハムート“フォゴ”の周囲は、さらに高温なのだろうか?
ゆらゆらと空気が揺れ動き
黒いバハムート“ナーダ”の周囲は、表皮から30cmほどの厚みのある 明らかにここの
空気とは異質な空間が存在している
これは、どのような作用を持っているのだろうか?
焦らずとも、もう間もなく、傷が癒え 魔力も回復した後に外界へ出る事で解るだろう
この世界に生息する、すべての生物に絶望を与え 抗うことなど出来ぬと、奴等に
解らせてやらなければならない
ネボアは自分の頬が喜びに引きつる感覚に襲われ 赤と黒のバハムートの顔を見る
彼らもネボアの予想したように、あまりにも醜悪に広角を上げ、笑みとも怒りともとれない
なんとも複雑な表情を浮かべていた
外界へ出たら、何が出来て、何が出来ないのか? 検証せねば。。。外界へ。。。
ん!? ネボアの脳裏に一瞬であるが、見慣れた御嶽山の火口周辺の風景が横切る
んんっ!? どちらかの憑依が解け、浮上したのだろうか? 
今度は、はっきりとした意思を持って、外界へと意識を向けてみる
昼時だろうか、太陽が高天に浮かび、草木1つ、生き物の営み1つ無い火口周辺が
視える 視える? 確かに見えている!?
慌てて兄弟竜の視界に意識を切り替える “フォゴ”が見え“ナーダ”が見える。。。
そして火口にいる視点を上昇させる またたく間に火口の全体像が眼下に広がる
ネボアは理解した、もう一つの並列した思考を手に入れた事を、上昇しながらも
赤と黒それぞれの意識が、同時に感じられ、命ずればいつでも手足を動かす事が出来る
何という僥倖、何という幸運 母ベヒーモスから何かを与えられていたのは、自分だったのだ!! 感謝!!! 歓喜!!!! 



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