第8話 再会

文字数 3,775文字

「なるほど、そう言うことですか。。。これは、ブルートを見つけても 帰れないかもしれませんね
困りましたね。。。。。。。」
本当に困ったように 眉間にしわを寄せ、独り言ちる

ー『まあ なんとかなるでしょう!』ー

月を見上げ 清々しいほどの笑顔で思考を切り替える

ー『この戰場しか見ていませんが武器や防具を見る限りだと、文明水準は、私のいた世界とさほど変わらないようです しかし魔法が無い!! 戦争にしても、狩りにしても、日常生活においても
まず魔法ありきの世界から来た私には、魔法を使わず生きている、この世界をもっと知らなければ。。。
1つ不思議なことは、この世界は魔素が溢れていて 魔力の回復が驚くほどに早い 通常の回復魔法であれば
まったく魔力を消費しないほどに、陰陽師という職業の方が魔力を使うのかはわかりませんが
徳本先生の話では、物の怪を退治する事と未来予知に秀でた職業だったということですが
物の怪自体が居なくなり随分と昔に廃れた職業だということですから』ー

「もしかしたら私とルイで最強なのでは?」
思わず口にしてしまう
おそるおそる馬上の徳本を見る 目が合うと不思議そうな顔で
首を傾げているので微笑みを返しておく なんだか嬉しそうだ

脳内会議の仕切り直しである

ー『例えば 部隊に硬化魔法を掛けるだけでも 相手に魔法が無いのであれば 負ける訳が無く さらに加速、筋力強化で。。。無双出来きてしまいますよね? ま〜 そんなに都合よくいくわけはないか?』ー

「天女様、お疲れでは有りませんか?」徳本が聞いてくる

「まったく大丈夫です 歩くことには慣れていますので」

ー『まずは、この世界の情報を収集する必要があるわね 
うまく溶け込んで 私とルイが生きていけるのかを見極めなくては』ー

「その浜松城という所で、今夜は休むのですね? その後は、どうするのでしょう?」
徳本に聞いてみる

「それは。。。」答えにくそうに、前方の信玄を中心とした一団をチラチラッと伺っている

ー『なるほど、機密情報に当たるわけですね これだけの部隊の移動なのですから当然ですね
世間話くらいから入っていくのが、無難ですね。。。その世間がわかっていないのですが。。。』ー

「天女様 よろしいですか?」 前方の集団から真田幸隆が歩みを緩めて並んでくる

「浜松城には数日間 滞在する予定です その後の事は、まだ未定となりますが 
天女様にも共に滞在いただけるのでしたら これほど嬉しいことはございません」

「私は、天より落ちてきたばかりですので この世界の事が、何もわかっていません この国の事を
色々と教えて頂けると嬉しいのですが」
嘘は言っていない 天女設定で開き直ることにしただけである

「何を、お知りになりたいですか?」

「何もかもです 庶民の生活から この国の社会情勢 この国の歴史等も教えて頂ければ」

「わかりました お館様の許可を頂ければ 私が知りうる限りの事をお教えいたしましょう」 幸隆の誠実そうな人柄が伺える

「ありがとうございます 宜しくお願いします」

「では、少々お待ち下さい 聞いてまいります」
歩みを早め、武田信玄の元へと向かう 真田幸隆

浜松城への道程 真田幸隆の生い立ちから始まり
自らの領土での庶民の生活、生計、職種等事細かに語ってくれる
その話のわかり易さから、幸隆の知性を窺い知ることができる
領土内での農作物 庶民の主な食事 農閑期の内職等を聞いていたところで
月の明かりに浮かぶ建造物が見えてくる

「あれが曳馬城、今は浜松城と呼ばれています」

「あそこに私の仲間 ルイが居るのですね?」

「はい 伝令の報せでは、大層な活躍だったと聞いております」

「ルイは強いですよ 体は小さいのですが、単純な白兵戦であれば まさに一騎当千です その上 土と風の精霊に愛されていますので」自慢気に微笑む 調子に乗るタイプである

「陰陽師と聞いておりましたが 土と風の精霊を使役されるのですか ところでルイ殿と天女様とのご関係は?」幸隆の瞳の奥が光る

「私が彼の者の国へと降臨した際に、共に物の怪の退治へと赴いたのです 今は、付き人のようなものですが」 予め予想していた質問集より 用意していた答えを滞りなく話す

篝火の灯る浜松城城下で、三方ヶ原の合戦において勝利を収めた武田軍重臣による戦勝報告が行われていた

「にわかには信じ難いが、城内の兵500をあのルイなる若者が一人で壊滅させたというのか?」
山県の報に眉をしかめる真田幸隆

「ものの30分ほどでな その他にも三方ヶ原で大将首2つ 鉄砲隊殲滅 それがしの護衛をしながら仕留めた雑兵多数。。。 本多忠勝をも家康の目の前で一騎打ちのすえ討ち取ったとの事」

「人外であるな 天女様の連れということであるから 不思議では無いのか。。。その天女様を見つけたのが山県殿 1番のお手柄は、山県殿という事になりますな」軍議の場で珍しく笑みを見せる幸隆

「山県殿、馬場殿 その天女様の術により、お館様の肺の病が全快されたようだ 戦傷者もすべて回復している」どよめく陣内 

「ということは、もしもあの2人が徳川に就いていたら? わしらは勝てたのか?」馬場信春が独り言のように呟く

「天が我らに勝てと言っているのだ!!そのためにお2人を遣わされたのだ!!」
諏訪勝頼(後の武田勝頼)が声高に断言する

「勝頼の言うとおりかもしれんな」黙って家臣たちの話を聞いていた信玄が立ち上がる 以前のような威厳に満ちた声音と立ち居振る舞いに、この場に居る者すべてが歓喜に震える

「信長包囲網。。。将軍義昭公の策にこのまま乗ってみるのも、面白いかもしれんのう そのためにも
あの2人を全力で取り込むのじゃ!!」

軍議は続く。。。

ようやくルイと再会し、喜びを分かち合う2人 なぜか横でにこにこと話を聞いている 徳本

「徳本先生 ルイと2人で話したいのですが?」片時も離れようとしない徳本を突き放す エヴァ

「そ そんなっ」この世の終わりのような顔で縋り付く

「私達は、そこの窪地で話をしますから ここから動かないでください いいですね!?」少しきつめに睨む


「随分と懐かれているようだなエヴァ」ルイが皮肉っぽく笑う

「見ましたね!?」右手の指先に雷撃を纏わせ ルイに迫る

「えっ えっ?」目を丸くして後退る ルイ

「ですから 見たのですね!? 私の一糸まとわぬ姿を」さらに雷撃を膨らませる

「見てない! 見てません!! 山県様に聞いてくれ!!!」

「あなたが人様を 敬称で呼ぶなんて 熱でもあるのでは?」

「熱は無いが 山県様は、エヴァを助けてくれた恩人だしな
王国でも、いろんな大人を見てきたけど、あの人は信用してもいいかなって」照れ臭そうに笑うルイ

「大人になったのですね。。。ところでルイ ここが王国とは違う世界 異世界だと気がついていますか?」

「う〜ん 魔法を使う者は居ないし 魔素が濃すぎる。。。。遠い異国では?」

「空を見てみなさい」人差し指を空に向ける

「ん? 月がでかいな〜 んん!? 月が1つしかない!!??」

「そうです ブルートの転移術で異なる世界に飛ばされたようです」

「そんなことがあり得るのか? いくらブルートでも。。。」

「ダンジョンボス部屋という特殊な環境と転移阻害の影響もあったかもしれませんね おそらくブルートでも原因は、わからないでしょう 帰れるのかもわかりません」

「。。。それは困るな。。。ブルートを探さないと」

「とりあえずは、帰れないものとして行動しなければなりませんね もちろんアランとブルートも探します」諭すように語る エヴァ

「アラン。。。」消え入りそうな声で呟くルイ

「どうかしましたか? そういえば私の着替えと予備の杖はルイの空間収納に入れてありましたね?」

「無い。。。空っぽだった 装備も魔石もなんにも無い」

「なんにも。。。? 苦労して集めたのに」涙目の2人。。。2人の会議は続く

「では、そう言うことですので私は天女、ルイは陰陽師ということで、しばらくは武田軍と行動をともにしましょう 私は、今後の身の振り方のためにも、この世界の情勢を勉強します」

「俺は、何をすればいい?」自分の鼻先を指差す

「そうですねルイは、みんなと仲良くしてください 溶け込んで、この世界の人達を肌で感じてください」

「わかった 仲良くすればいいんだな」

本当に解っているのか少し心配になるエヴァ


浜松城内の片付けも終わり入城する 武田軍一行

本丸内の一室を割り当てられるエヴァとルイ そこに当然のように居座る徳本

真田幸隆が訪ねてくる

「ルイ殿 此度の戦での活躍 聞き及んでおります 武田軍師 真田幸隆と申しますお見知りおきを」

「うん よろしく 痛っ!」エヴァに尻を抓られる

「はい 若輩者ですが 宜しくお願いします」頭を下げるルイ

やればできるのね〜とばかりに満足気なエヴァ

「お二人に、我が息子を紹介します」一歩横にずれ 後ろに控えていた若者が深く頭を下げる

「真田昌幸と申します 宜しくお願いいたします」

「天女様 この浜松城にいる間 先程の勉強会の続きは、この昌幸に任せることにしております 昼夜いとわず、何なりとお聞きください」昌幸の肩を押し 一歩前へと促す

「お心遣い、感謝します では、早速ですが今からでも?」

「勉強なら。。。わしが教えられるのにの〜」不貞腐れる 徳本



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