第118話 エヴァ対ルイ

文字数 3,122文字

母竜ベヒーモスが焼き尽くした 人間共の城だった岐阜城の跡地から 膨大な魔力を
感知した夜叉が、瞬間移動を駆使しながら、高空より様子を見ていた
覚えのある魔力を確認するネボア 天女と呼ばれる女、母竜に手痛い傷を負わせたルイ
名は知らぬが、この2人と似た強大な魔力を持つ者が2人に
質は異なるが、明らかに侮ってはならない魔力の持ち主が10人ほど。。。
奴らに探知されないよう、瞬間移動を繰り返し10日ほど前から監視を行っているのだが
10日前には、燃やし尽くされ禿山となっていた稲葉山城の山頂が、掘り返され巨大な
空洞となった山の内部を石や金属で固め、何層かの居住空間が作られ
今では山の上部にドーム状の巨大な建築物が聳え立っている 
これが、完成したのが3日前 地理的にみて御嶽山に近く、人の住んでいる地域からは隔離され
異常なまでの堅牢さの建築物
その事から考えても、御嶽山に居る我らに対したものである事は、明らかであろう

そして、この10日の間に瞬間移動を絶え間なく繰り返した結果 
当初は発動まで5秒ほど掛かっていたのが、今では1秒ほどで発動出来るまでに短縮していた
夜叉の肉眼で見える範囲で、移動先を指定して、瞬間移動を唱え発動するまでに1秒
敵の至近距離に出現し、触れる事さえ出来れば、崇徳院がやったように呪いをかける事が出来る 
これも街道を歩く旅人を攫い、大型の獣を捕獲し検証してみたのだが
触れた箇所から呪いが侵食を始め、心臓、あるいは頭部まで侵食されて絶命する
つまり足先から侵食を始めた場合、絶命するまでに数分を要し 直接、胸や頭に触れると
数十秒で絶命するという事までは、検証が出来ている

瞬間移動の発動までに1秒。。。これ以上の短縮は出来ないのだろうか。。。?
実を言うと、この2日間、どれほど瞬間移動を重ねても、コンマ1秒も短縮出来ていない
瞬間移動後に攻撃をかわされ、反撃された場合 あるいは不意打ちを掛けられた場合
1秒というのは、あまりにも長い時間である 
この夜叉の身体は、まだ解らない事が多すぎる 眼下のドームを見る限り
あまりゆっくりと検証している時間は無さそうでは、あるのだが。。。


そしてまた翌日、眼下にドーム状の岐阜城を見下ろしている ネボア
探知をされないように、瞬間移動を繰り返し、魔力を極力抑えるために 息を潜める
すると侮ってはならない魔力を持つ者が、1人で岐阜城を飛び出し、山の北側を走る
殺す?捕らえる? どちらにしても、岐阜城から近すぎる
しばらく後を追い、観察することにしよう 標的の能力など知る事が出来るかも知れない
標的は、城下を抜けると街道を使わずに、生い茂った森林に入り 時折立ち止まっては
また走り出すという行動を繰り返す 上空を覆う木々で標的が、何をしているかまでは
知る事が出来ないが、魔力を探知出来ているので見失うことは無い


岐阜城ドーム内の回廊の仕上げに掛かっている、羽柴組の面々と羽柴組の仮顧問のルイ
「ルイ殿、まもなく完成ですな!」
羽柴秀吉が、遅めの昼食を摂っているルイの向かいに座る
「ああ 予定よりだいぶ早いな 羽柴組も腕を上げたな」

「ルイ殿が、顧問になってくれたおかげです」

「いや。。。顧問とか、なってないけどな ところで次の現場は何処なんだ?」

「次は、浜松城ですな 童夢(ドーム)の建設と改修、増築と今までで最大の仕事になりそうです」

「そうか、火竜を片付けたら 駆け付けるよ ん!?」
視界の端に、満腹丸が一人で走り出ていくのを捉える
ー『珍しいな、満腹丸が一人で外に出るなんて。。。どこに行くんだ?』ー

「お〜〜それは、ありがとうございます 首を長くして待っておりますぞ!」

「ああ 回廊の仕上げを、さっさと終わらせるか 狭間の扉の開閉に、妙に引っ掛かる
のがいくつかあったぞ」
ルイが、頭上のいくつかの狭間を指差す
「それは、いけませんな! すぐにすべて点検します」

「さて俺は、飯も食ったし 練兵場に行ってるよ 何かあったら呼びに来てくれ」

「わかりました ルイ殿、また後ほど」
回廊を駆け上がっていく 羽柴秀吉の背中を見送る ルイ

「考えたら、この城。。。と言うか要塞、地下5階の練兵場から回廊の天辺まで、年寄りには、階段の登り降り無理だろう? 何か考えないといけないな」


「アランまで、いい加減にして下さい!」
練兵場の扉を開けると聞こえてくる、エヴァの怒鳴り声
「なにかあったのか?」

「ルイ、聞いて下さい アランもブルートも、模擬試合中、私に狐の耳や尻尾が生えていたというのです」
エヴァが手に持つ薙刀を見る ルイ

「その薙刀を振るっていたのなら、そんな事もあるんじゃないか? お玉様の妖力を感じるぞ」

「それは、わかりますが 私に尻尾などと。。。それと、この薙刀は、玉龍と名付けました」

「じゃあさエヴァ、それを確かめるためにも、俺と模擬試合をしてくれないか? 俺もどのくらい回復しているのか知りたいからな」

「いいですけど、私と玉龍は、強いですよ」

練兵場の中央で大薙刀·玉龍と大太刀·童子切安綱の剣戟が火花を散らす
縮地術と疾風を駆使して立体的な機動で空間を制するルイに、羽衣に風魔法を纏わせ
結界を足場に玉龍のリーチを活かし、ルイに対するエヴァ
空中で、地上でと切り結ぶ2人に、いつしか輪になって試合の行方を見守る 面々
「もう、すっかり回復しているのではないですか? ルイ?」

「どうだろうな? エヴァの剣圧が温すぎてわからないな?」

「怪我人だと思って、手加減してあげてるんですけどね〜 弱い者いじめは性に合いませんので」 
不敵に笑うエヴァに、両腕を鬼化して応えるルイ 童子切安綱の刀身が黒く染まり
酒呑童子の妖力が練兵場の温度を下げる
まるで、それに呼応するかように玉龍の穂先が青い光を放ち 同時に地を蹴った
2人の中央で盛大な火花が散る ルイの胸の中央を目掛けて玉龍が走る
エヴァの首筋を童子切安綱が残像を残し、一閃する
まるで演舞のような2人の攻防に、おもわずため息を漏らす 天武の子供達

「エヴァちゃんと避けろよ!“幻影散棘”」
土魔法で次々に“童子切安綱”の複製を自分の体を中心にして創り出すと、数十本もの太刀がルイを中心に右回りに回転し 結界の上に乗ったエヴァに目掛けて一斉に射出される

「避けるまでもありません!」
玉龍の石突きを“トンッ”と結界に打ち付けると、エヴァを中心に大気が振動し物理的な波となって
迫りくる太刀を地上へと落下させる 太刀が地上に到達するよりも早く
結界を蹴ったエヴァが、ルイの胴を薙ぎ払う 三角の狐耳を“ピンッ”と立て
豊かな毛並みの尻尾をくゆらせ 歓喜の表情を浮かべる エヴァ
「天女様。。。“モフモフ”です!」

「エヴァ、尻尾。。。」
童子切安綱で玉龍を受けたルイが、エヴァに囁く

「あらっ!? 本当だったのですね!」
体を捻り、自分のお尻から生えた尻尾を確認する エヴァ

「でも、触ることは出来ないみたいです。。。残念です」
自分の頭部やお尻に触れるが、触れる事は叶わず がっかりと肩を落とす

「ブルートとアランが言っていた事は、本当だったという事だな」

「本当でしたね、2人ともごめんなさい」

「それにしても、エヴァが体術でこれほど動けるとは。。。ちょっと驚いたよ」
ルイが、素直に感嘆する

「この玉龍と羽衣のおかげです」

「そういえば、さっきからお兄ちゃんの姿が見えないのですが。。。?」

「ん!?そう言えば、さっき一人で、外に出ていったな 虫取り網を持っていたから
昆虫採集か?」

「ちょっと。。。戻るのが。。。遅い。。。 探しに。。。行こう。。。」

「ここは、防御壁を厚くしすぎて、魔力探知が効かないのが問題だな。。。
急いで上に行こう」
アランとブルートが先導して駆け出す

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