第58話 印籠

文字数 3,696文字

「忠勝殿改め、勝さん とても重要なお話があります ここ下鴨神社に武田家臣で長介さんとか、康介さんとか、幹助さんとか、とにかく助(介でも可)さんはいらっしゃいませんか?」
いつになく必死の形相のエヴァ

「はっ? はい。。。えっと。。。あ〜 確か川中島で亡くなった軍師·山本勘助殿の嫡男が、管助殿だったような。。。今は、真田幸隆殿の元で勉強されているはずですが」

「勝さん! お手柄ですね!!」忠勝の手を取り、子供のようにはしゃぐ エヴァ
不意に訪れた幸せに 放心する 本多忠勝


「幸隆殿!! お願いがございます」

「はい なんでしょう天女様?」
「実は、私 名軍師と謳われた山本勘助殿に興味がありまして 嫡男が幸隆殿の元で修行されているとお聞きしたのですが それは真でしょうか?」
嘘をつくと早口になるという事を エヴァだけが知らない

「はい 確かに この者が、山本勘助殿の嫡男で山本管助ですが」

「貴方が管助殿ですか!! 何度かお見かけしていますね。。。?」

「はい天女様がこちらにいらっしゃる時には、天女様の配膳係をさせて頂いております」

「はい お世話になっております」頭を下げる エヴァ

「私になにか御用でしょうか? なんなりとおっしゃって下さい」

「はい 明日から長門の国へ旅に出るのですが、供をお願い出来ないかと。。。」

「それは、随分と長旅になりますね 私などで役に立つのでしょうか?」

「管助 天女様の事だから、なにか深いお考えがあるに違いない 色々と勉強にもなろうお供をさせて頂きなさい」

ー『深い考えなどありません 助さんと呼んでみたかっただけです 語呂が良いので。。。勝さん助さんって』ー

「はい 幸隆様、私も見聞を広げてみたいと思っておりました 天女様どうかよろしくお願いします」

「あの幸隆殿、上杉謙信からの返事は、最短でも10日は掛かりますよね? それまでには、戻りますので」

「天女様 私は、それほどの健脚ではありません 長門国の往復に10日は、厳しいかと。。。」

「それは、心配いりませんので安心して下さい では、明朝出立します あっ今日の配膳は、自分でやりますので 旅の準備をなさって下さい」
そそくさと、食堂へと向かう エヴァ

翌朝 内裏で印籠を受け取り
「では、勝さん助さん 世直しの旅に出ますよ!! 助さん、これ失くさないで下さいね」
そう言うとポイッと印籠を管助に渡す

「助さんって!?ええええええぇぇぇぇ!!!!! これ菊花紋章じゃないですか!!!!!!」

「中に通行手形が入っていますので、失くさないで下さい」

「この印籠があれば、手形など必要ないと思うのですが。。。」

「では、一度練習を、しておきましょう」

「あの。。。なんの練習でしょう?」

「静まれ、静まれ、この印籠が目に入らぬか。ここにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くも正親町天皇の友人にあらせられるぞ! これで行きましょう!続いて、勝さんが」

「いよいよ拙者の出番ですな!」

「一同!! 天女様の御前である、頭が高い!!控え居ろうっ!!!こんな感じでしょうか?」

「おぉぉ!! 流石は、天女様 見事なまでの啖呵にございます!! 悪者が現れるのが楽しみですな」
ノリノリの天女と、忠勝の横で開いた口がふさがらない 菅助

「では、張り切って参りましょう」


天女に身体強化の加護を授かり、軽快に旅路を進んでいく3人
摂津に入り、古びた寺の山門を通り過ぎようとした時に 強化された聴覚に不穏な台詞が飛び込む

「待ちやがれ!」 「拙者の刀の錆としてくれる!!」
「あれ〜〜お助けを〜」 「ギャ~やられた〜」
山門をくぐり石段を駆け上がる3人

「いきなりの見せ場ですね!!」
最後の石段を登りきった3人の目の前には、棒切れを振り回し、侍ごっこに興じる4人の子供達
「なんだよおじさん達」

「うん。。。弱い者いじめは、駄目だぞ。。。」

「してないぞ」

「折角ですから、この子供達で練習をしておきましょう! 助さんお願いします」

「え〜〜 天女様、本当にやるんですか!?」
うんうんと頷く 天女と、忠勝を見て 諦めたように懐より印籠を取り出す 山本菅助

「静まれ静まれ この印籠が目に入らぬか! おそれ。。。痛っ 痛っ やめろ!尻を棒切れで突くな!!」



摂津国 伊丹城下町

「暴れ馬だ! 逃げろ〜!!」
それほど広くない 商店の並ぶ通りを狂ったように駆け抜ける 暴れ馬
恐ろしさのあまり、しゃがみ込む少女の頭部に暴れ馬の蹄が、めり込むと誰もが思った瞬間 
風のように現れ、片手で軽々と馬の前足を掴み 首に腕を回し脇固めで馬の動きを封じる 本多忠勝
なおも鼻息の荒い馬に近づき、そっと額に手を添える エヴァ

「落ち着きなさい 誰も貴方に危害を加えませんよ」血走り見開かれれていた目が、瞬時に落ち着きを取り戻し、ゆっくりと立ち上がると頭部をエヴァに擦り付けてくる

「この子に謝れ!!」その頭を忠勝に拳固で殴られ 申し訳なさそうに鼻を鳴らす
少女の母親や、馬の飼い主に大層感謝されるも「先を急ぎますので」そう言うと城下を後にする3人 
「馬に印籠を見せてもね〜」「まさに馬の耳に念仏ですな!!はっはっはっ」豪快に笑う忠勝

播磨国 神前山·山使村
「天女様ご覧下さい!! ここが伊和大神の(いわのおおかみのみこ)、である建石敷命(たけいわしきのみこと)が住んでいたとされる 神前山(かむさきやま)ですね!」
目を輝かせ、興奮気味に話す 山本管助

「ふ〜ん お腹が空きましたね。。。」

「猪でも狩ってまいりましょう!」山に向かって駆け出す 本多忠勝

「では助さん、この村で少し休憩させて貰いましょうか」

「はい天女様 どこか腰を降ろせる場所を探してまいります」

「大きな村に見えますが。。。どこか寂しそうですね?」
辺りを見渡すが、まだ陽が高いというのに田畑に出ている者の姿も見かけない

「天女様、お待たせいたしました そこの神社の神主に話を聞きましたところ、なにやら流行病で村の大半の者が瀕死の重症ゆえ、早々に立ち去られよと言われました」
手拭いで口を押さえながら 管助が戻ってくる

「病人の皆さんは、どちらにいらっしゃるのでしょう?」

「はい大半の者は、二之宮神社に集められているそうです あと家に病人がいる場合は、赤い布が目印になっているそうで近づくなと言う事です」

「そうですか、では集落を回って赤い布を探しましょう」

「それでしたら、すぐそこのあばら家で見かけました」


「失礼しますね」粗末な戸を引き開ける エヴァ

「巫女様 おらのお母っさん いよいよ駄目かもしんねぇぇぇ」

「落ち着いて下さい 大丈夫ですよ」 痩せ細った母親に近づき独鈷杵を掲げる

「もう大丈夫ですよ 苦しかったですね。。。【命の鼓動よ 巡れ この者に命の息吹を】」
暖かい光が家屋中を包む、土気色だった老女の頬に赤みが挿し ゆっくりと目を開ける

「あぁ巫女様 私は極楽に来ちまったんですね。。。残してきた息子だけが不憫で。。。
あらっ!? 余吉!! あんたも来ちまったのかい!?」

「違うよ おっかぁこの巫女様が治してくださったんだよ」号泣する 余吉
その後 20件ほどの家屋を回り 二之宮神社へと向かう

「この独鈷杵のおかげで、魔力の消費が抑えられているようですね。。。青龍様ありがとうございます」
一瞬青く光る 独鈷杵

境内で遊ぶ、数人の子供達を横目に本堂へと向かう2人
「神主様、失礼します」
広い本堂に30名ほどが寝かされ、水の入った桶を持った若い女が、世話をしている

「ん!? あんたは、さっきの旅のお方 さっさと立ち去れと申したのに」

「神主様、どうやらこの病は、井戸の水が原因で感染症を起こしているようです 井戸の水は、浄化しておきましたので ここに居る方たちを治療しますね」

「どこの巫女か知らぬが、治療すると言われても。。。ここには、薬もろくに無いのだが。。。」

「大丈夫ですよ。。。【命の鼓動よ 巡れ この者達に命の息吹を】」
独鈷杵に“効果範囲増幅“を掛けると、これまでの倍近い範囲まで効果が及び
負の空気に覆われていた本堂の空間までが、清々しい空気に変わる

「えっ!?」「体が動く!!」「おっかぁ!! お腹すいた!!」「一体、何が起こったんだ??」 
「天女様〜!!」「天女様がいらっしゃる!!」 「ありがたや〜」
「もしや、貴方様が都で噂の天女様ですか!?」


「天女様〜〜 大物を仕留めてまいりました!!」

「勝さん、神前ですよ」

「天女様、今日は神も目を瞑りましょう」

「ありがとうございます では、この山の恵みを皆さんに振る舞い、精を付けていただきたいと思います 
よろしいでしょうか?」

「有り難いことです」

「では、勝さん捌いて頂けますか? 助さんは、村にいる皆さんに報せて来てください」


陽もくれた頃 大鍋に村人が持ち寄った様々な野菜で猪の鍋が出来上がり 皆で舌鼓を打つ
「天女様、誠に有り難いことです どうか今夜は、ここでお体をお休め下さい」
深く頭を下げる 神主
「では、甘えさせていただきます」

「悪者が居なくては、印籠の出番もありませんね」

「まさに宝の持ち腐れですな!! はっはっはっ」

「勝さん。。。それは、ちょっと違うと思いますよ」
この旅に少し慣れてきた 山本菅助

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