第13話 松倉城伝説

文字数 3,644文字

禁酒を言い渡された 翌日
勉強会も回を重ね 今日は、朝廷について勉強をしていた

「お館様は、従四位下ということですか。。。? ということはですね
足利義昭公の従三位より上で、さらに征夷大将軍に準ずる官位を戴けば、幕府を興す事が出来るのではないのですか?」
いたずらっぽく笑う エヴァ

「それは、そうなのですが そんな簡単な話では無いのです」
徳本の方をチラチラッと見ながら 答える 昌幸

「わりと簡単に思えますけどね 朝廷としても傀儡化した幕府より ちゃんと朝廷を敬って 武士をまとめる力のある武将が将軍になったほうが良いと思うのでは?」

「まさしく天女様のおっしゃる通りじゃな 昌幸殿 何でも難しく考える癖は改めたほうが良いぞ」
ニヤッと皮肉気に笑う 徳本

「徳本先生は、いつまで天女様の部屋に居られるのですか?」

「わしが昌幸殿と天女様を二人っきりにさせると思うか?」

ー『今日のお昼に頂いた七草粥というのは、物足りなかったですね。。。お肉が食べたい』ー
2人を尻目に物思いに耽る エヴァ

今日も浜松城内は平和である

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浜松城を出立して5日 目的の松倉城が見える
「報せの通り囲まれておるな 兵数は2千と聞いておるが
もう少し多そうだな ルイ殿 本当に侵入出来るのか?」

5日間を、共に旅をしたルイと内藤昌豊は、軽口を叩けるほどに気安い関係になっていた

「随分とでかいな 三方を崖に囲まれた山城か 守るに良い城だな 侵入は、わけないぞ あの崖を登る」

「お主が言うのであれば たやすく登れるのだろうな」

「これ以上近づくと上杉に見つかるかもしれない 予定通り海津城に向かってくれ、すぐに終わらせる」
百姓にしか見えない衣装を着たルイが松倉城に向かい歩き出す

後ろ姿を見送る内藤昌豊 
ー『子供のようにしか見えないが 道中2匹もの猪を素手で瞬殺だからな 本当にすぐに帰ってくるやもしれんな』ー 踵を返し海津城に向う 内藤昌豊


「あんたが椎名康胤(しいなやすたね)か?」
松倉城内 本丸にて4人の家老と軍議を重ねる康胤の耳に男の声が囁く

「誰だ?」キョロキョロと室内を見渡す

「この声は、あんたにしか聞こえない 中庭を見ろ」
おもむろに立ち上がり、腰の刀に手を掛けながら 中庭に面した障子を開ける

「何奴!?」そこには、百姓にしか見えない小柄な男が立っている

「ほら お館様から、あんたへの文だ」横柄にも見える態度で手紙を差し出す 
道中に話に聞いていた この椎名康胤という男を、ルイは好きではなかった 

上杉に従属したと見せて裏切り、状況が悪くなると許しを請い 戻ったかと思えば 武田に付く 乱世の処世術かもしれないが
好ましくはない印象を抱いていた


文を受け取り 文面に目を落とす 康胤の頬が一瞬引き攣り ルイを見る

「ルイ殿と申されるのか 遠路ご苦労でした 文には最強の援軍を送ったとありますが どちらで待機を?」

「お前の目の前にいるぞ 俺一人で10万の兵にも匹敵する そう書いていないか?」ニヤッと笑う

「確かに天女様の付き人で龍神殺しと書かれていますが」
援軍が一人と聞き 情けない顔をする 康胤

「2千もの上杉軍に囲まれて居るのですぞ 対してこちらは、400足らず、援軍も見込めず降伏もやむ無しと話しておったところです」

ー『なぜ、このわしがこのような小僧にペコペコせねばならん?
武田信玄公も、この小僧の言は、わしの言だと思えだと!? このわしを舐めておるのか??』ー

「好きにするといい 俺は俺の仕事をする2千居るなら 500も動けなくすれば退くだろ? 弓の扱いに長けた者を、10人ほど借りるぞ」

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「お前たちの弓を強化しておいた 射程距離は800メートルといったところだな 日暮れとともに敵本陣に向けて威嚇射撃をしてくれ 当てる必要はない とにかく一本でも多く撃ってくれ」
800メートルと聞いて どよめく射手達

「あの。。。我らの弓では、300メートルがせいぜいで、あそこの本陣まで届きませんが?」

「大丈夫 届くぞ 試し打ちをさせることは出来ないが、心配するな 日暮れまでに出来るだけ 多くの矢を集めておいてくれ 頼むな」
そう言うと桜の木に背を預け 目を瞑り すぐに眠りにつく ルイ

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「あの ルイ殿そろそろ日が暮れますが。。。」

「そうか〜じゃあ そろそろ始めるか〜」伸びをしながら答える

「では、みんなは石垣の裏で、敵からは見えないように 敵本陣を中心に狙って 一射目で距離だけ確認したら 頭を引っ込めてくれ あとは盲撃(めくらう)ちでいいから」

「あの 本当にそんなので宜しいので?」

「大丈夫! 30分もせずに退いてくれると思うから」
ビシッと親指を立てて ニカッと笑う ルイ

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松倉城の麓 大手門から約600メートルの距離に陣を張り
上杉景勝(謙信の養子)を総大将とした 2200人の上杉軍 

「景勝様! 松倉城より攻撃!!

「なに? 大手門が開いたのか?」兜を手に立ち上がる 景勝

「いえ 弓による攻撃です」

「馬鹿を申すな 届くはずがなかろう」

「それが。。。我らの遙か頭上を越えて、後ろに着弾した矢もございます」

「盾を持って参れ!」陣から出て松倉城を見上げる

ー『確かに届いておるな 当たったところで致命傷にはなるまい』ー

「皆の者 盾を持って頭を守れ」

トスッ!「うわっ」 トスッ!「くそっ!やられた!!」 トスッ!「痛いっ」 トスッ!「うおっ」
トスッ!「どこから?」 トスッ!「見えなかったぞ!?」 

一定の間隔で増えていく負傷者

「なにが どうなっている!? この距離でなぜ当たるのだ!?

「下がれ 距離を開けよ!!」時とともに混乱を増す 上杉軍

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「よ~し 敵さん下がりだしたぞ みんな50メートル距離を伸ばして」
石垣の切れ目から、弓を引き絞り上杉軍を狙い撃つ ルイ
弓を土魔法で強化+視力強化+筋力強化+風魔法で矢を操作して百発百中 敵兵の左手のみを狙って 
矢を射続けている

弓兵たちの盲撃ちによる矢が、1分間に約30発飛び交い 
その矢の雨の中を ルイの狙いすました攻撃が 一矢また一矢
確実に上杉軍の 左腕に突き立っていく

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「景勝様 負傷者は全員 左手を射抜かれています おそらく負傷者は、300名を超えているかと」

「いったい 何が起こっている? なぜ届くのだ!?
盾に身を隠し後退する景勝の左腕に矢が突き立つ

トスッ!「くそっ! 椎名め許さん!! 下がれ!!!あそこの雑木林に身を隠すのだ」
松倉城より距離を取り、後方の雑木林まで後退する 上杉軍

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「よし!予定通り雑木林に入ったぞ みんなご苦労様、飯でも食って、ゆっくりしてくれ 俺は行ってくる」
薄闇に紛れ 漆黒の忍び装束に着替えたルイが 雑木林へと逃げ込んだ 上杉軍へと忍び寄る
「ふんっふっふふんっふっふん♪♫」不気味な鼻歌を歌いながら。。。

「景勝様 信じ難いことですが 負傷者約400名全てが、左腕に矢を受けています 死者は無しですが
全員が祟りだ、呪いだと浮足立っております」

「このような話を、誰が信じる!? 呪いだと言われたほうが、まだ納得もしよう まったく見えずに気付いた時には、矢が突き立っているなど。。。すまぬが、この矢を抜いてくれ」

ビシッ!「うわっ」 ビシッ!「ぎゃっ!」 ビシッ!「げっ」 ビシッ!「もう嫌だ!!」 
ビシッ!「やめてくれ〜」

「ここまで矢が届くというのか!?」矢を抜いた痛みに脂汗を流しながら 上杉景勝が叫ぶ

「木の陰に身を隠すのだ!!」必死に叫ぶが すでに蜘蛛の子を散らしたように 散り散りに逃げ出す兵達

「退却!! 退却だ!!!」

樹上にてほくそ笑む黒い影

「ま〜予定通りだな」
雑木林の樹上より【指弾】を使い 小石を飛ばし
さらに100名ほどの左腕だけの負傷者を積み上げた ルイ
ここに数百年語り継がれる[左腕のみに呪いの宿る松倉城]という伝説を残す

松倉城 物見櫓で北の方角に目を凝らしていた椎名康胤

「終わったぞ」背後から、不意に声を掛ける ルイ

「いったい 何があったのだ?」状況を把握できず 口から泡を飛ばす 康胤

「う〜ん 面倒だから 説明しない 協力してくれた 弓兵に聞いてくれ」ある意味イジメである

「。。。。。。。!?」言葉もなく口をパクパクとさせる

「当分は大丈夫だろう この鳩を従属させておいた もし何かあれば文を括り付けて飛ばせ 俺がどこに居ても この鳩は俺に向かって一直線に飛ぶからな 餌をやり忘れるなよ」

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