第170話 さらば日の本

文字数 4,929文字

千代の陽炎の夢の効果が、忠勝の上に降り注ぐ
蒼い大天狗が突如として10体へと増殖し一斉に飛び立つ
1体はナーダへと向かい、残りの9体は東西南北すべての方角へ瘴気の雲の端を目指し
瞬間移動を繰り返して飛ぶ 視界の届く範囲まで飛ぶ事が可能な瞬間移動
尊天の加護に加え、八岐大蛇の半分を宿した本多忠勝の視力は、暗闇にも影響されず
わずか数十秒で本州のすべてを包み込む勢いの瘴気の雲の端を捕らえ 懐より風神の風袋を取り出すと
袋の口を広げ、猛烈な勢いで瘴気を吸い込み始める
9人の忠勝が、9方向から新岐阜状へと瘴気の雲を吸い込み、浄化しながら飛んでいく
経験した事のないほどの頭痛に顔を歪ませながら。。。


八岐大蛇が、みんなに与えた作戦とは、魔王ナーダを地上へと降ろし
本多忠勝に草薙剣を持たせ、井伊直政にネボアの欠片が憑依する直前に草薙剣に神通力を通させ
そして直政は時を止める
時を止めた世界でも自由に動ける八岐大蛇が、ネボアの憑依を阻止し魔王ナーダを捕縛する
エヴァが動けるようになったら、古龍ごと封印結界に閉じ込める

«我が宿主を離れ、動ける時間がどれほどかは解らん 最悪はエヴァよ、お前一人で
封印結界で動けるようになったナーダを抑えねばならぬかも知れん»

古龍の話をみんなに伝えたエヴァが、緊張した面持ちで答える
「みんなが動けるようになるまで、命に替えても封印は守ります」

«そうじゃな まずそれが最初の関門だ、皆が動けるようになれば、全員が持てる魔力の
すべてを使い 魔王ナーダを押さえつけるのじゃ 瘴気の雲を落とすには何らかの術の
行使が必要なはずじゃからな 忠勝がすべての瘴気の雲を浄化するまで耐えろ 
それが第2の関門じゃ»
「そんな。。。旦那様一人ですべて浄化するなど。。。」

“一人ではない そこの娘の術で10人に増やせる術があるじゃろう?陽炎の夢だったな?
忠勝に封印結界を抑えさせ、残りの9人で瘴気の雲を浄化させるのだ”
そこまでの話を全員に伝えるエヴァ 千代には忠勝に陽炎の夢を掛けれるかを確認する
「政宗君の話では、とんでもない頭痛が伴うそうですが、術を掛けることは出来ます」
政宗を申し訳なさそうに覗う 千代 うんうんと頷く 伊達政宗

“耐えさせろ 瘴気の雲さえすべて浄化すれば、我と直政で奴を魔界へと突き落としてくれるわ!! 
では時間も無いしのう、草薙剣を2つに折れ”
「はいっ!?」

“2つに折るのだ、柄の部分を直政に剣先を、機会を伺い忠勝に持たせよ”
あまりの恐れ多さに草薙剣に触れる事さえ遠慮する天武の面々をよそに 膝に剣を当て
簡単に折ってしまう ルイ
武田信玄と真田幸隆の目が飛び出んばかりに驚いた事は言うまでもない


ナーダの閉じ込められた封印結界を全身を使い抑え込む 忠勝
その正面に立ち、玉龍を掲げ全力で魔力を注ぎながら 封印から逃れようと狂ったように覇気を爆発させる
ナーダから、必死に封印結界を維持する エヴァ
そしてアランから、ブルートから、ルイから、天武の子供達から色とりどりの魔力の鎖が
伸び巻き付くと、封印結界を縛りあげる
おりんがエヴァのすぐ後ろに立ち、神通力を注ぎ 魔力を補充する
「ヴァルキュリアよ みんなの魔力を強化して下さい!【鼓舞】」
封印結界を縛り付ける魔力の鎖が、さらに力強く締め上げていく


狂ったように怒り猛っていたナーダの動きが緩む
と同時にナーダと共に封印結界内に閉じこもり、ナーダを抑えつけていた八岐大蛇の分体も宿主である
忠勝へと戻っていく
白く濁っていた封印結界の内部にどす黒い炎が踊り、赤黒く染まっていく封印結界
フォゴの特性である地獄の獄炎を燃え上がらせ脱出を試みる
ジュッと忠勝の体表から焦げた匂いが上がるが、力を緩めることなく抑えつけ
神威に古龍の覇気が混ざり合い瑠璃色の神威へと変わり 瞳の色も金色の龍眼へと変わった忠勝が
さらに強力に封印結界を抑えつける

「瘴気の雲を落とす!この国もこれまでだ!!」
瘴気の雲を落とす誘導剤となる術を発動するも、忠勝の神威に阻まれ 
地獄の獄炎で己を縛る戒めを焼払おうと魔力を高め、封印結界を黒い炎が包み込み
忠勝を焦がす そしてその直後、瘴気のガスを発し高温から急速に冷えた封印結界に
ヒビが入り、忠勝の蒼い体表も温度差に耐えられずにぼろぼろと崩れだす
「旦那様!!」

「これしきの苦痛など、魔王殿での試練に比べれば何でもありません!」

「旦那様の分身達は、あとどのくらいで浄化が終わるのでしょう?」

「もう半分ほど終わっているようです 間もなくここに姿を見せるでしょう」
瘴気の雲を大量に吸い込み浄化し続ける忠勝の分身達は、蒼い大天狗の身体が、少しづつ
瘴気に蝕まれ、徐々に変色しており 猛烈な頭痛とともに想像を絶する苦痛に耐えていた


地獄の獄炎と瘴気のガス、超高温と超低温を繰り返すナーダに魔力の鎖も劣化しはじめ
限界を超えた出力で魔力を維持する事を強いられて来た天武の面々にも披露の色が濃く拡がり
ガクガクっと痙攣し始める両腕を必死に前に突き出す 茶々
溢れ出す鼻血も気にせずに魔力を流し続ける 満腹丸
「みんな!もうすぐ瘴気の雲が晴れるはずだ!!もう少し頑張るんだ!!」
織田信忠が全員に激を飛ばす
もっとも負担を強いられている エヴァと忠勝は、これまでに経験したことがないほどの
魔力を封印結界に注ぎ続け、魔力を補充され続けているにも関わらず 魔力欠乏に似た症状で
意識が朦朧とし始めていた 一方の10分の1の分身である忠勝は、繰り返される温度差に
自己再生が追いつかずに体表の部分部分が、炭化し始める


2,000人が一斉に空を見上げる 暗闇に包まれていた空にわずかな月の光が射す
ザワザワっと静かな歓声が伝播していく
「みんな!瘴気の雲もあと僅かなようです 頑張って下さい!!」

「「「「「「みんな〜!!もう少し頑張ってくれ〜!!!!!」」」」」」

「「「「「「みんな よくやった!本当にありがとう!!」」」」」」
武田信玄の真田幸隆の上杉謙信の浅井長政のお市の方の徳川信康の前田慶次郎の風魔党の
2,000人の声援が、意識が朦朧となりかけていた 天武の面々の背中を押す


«直政よ 最後の仕上げだ!魔王ナーダを魔界に落とすぞ!!»
「はいっ!古龍様!!」
刀身が半ばで折れた草薙剣を上段に構える 直政の背後に金色の古龍の覇気が沸き立ち
全身が金色に染まる
«エヴァよ 忠勝を封印結界から遠ざけよ!»

巨大な魔力と妖力が混じり合うのを察知したナーダが身を丸め防御体制を取ると同時に
忠勝を盾とするために、鋼のように丸めた身体から無数の鉄棘を突き出す
弱まった封印結界をあっさりと貫き、幾本もの鉄棘が忠勝をも貫く
「旦那様!そこから逃げて下さい!!」
封印結界から逃れようと必死に藻掻くのだが、反しの付いた棘先に全身を貫かれ
思うように手足を動かす事が叶わない

エヴァが駆け寄り、忠勝を力の限り引き剥がそうと腕にしがみつく
「お願い!旦那様を助けて!!お願い!離れて!!」
さらに魔力の弱まった封印結界に大きな亀裂が走り黒い瘴気が漏れ出る
ぎしぎしっと音を立てて軋む12本の魔力の鎖が、1本また1本と切れだす
ようやく忠勝の右腕一本を引き剥がしたエヴァに瘴気が襲い掛かる

「短い間でしたが、私の人生にこれほどまでに幸せな時が訪れるとは、想像もしていませんでした 
本当にありがとうございました お腹の子供に愛していると伝えて下さい
お前とお前の母さんを誰よりも愛し、必ず何処かから見守っていると」
そう言うと自由になった右腕でエヴァを突き飛ばす

「旦那様〜!!!!」

「古龍様!!私の事は気にせずに魔王ナーダを魔界に送って下さい!!」
「駄目です〜!!旦那様〜!!!!」

«直政よ!お前の仕事だ 終わりにするぞ術は完成している、時間が無い!!やれっ!!»
一瞬だけ躊躇った後に草薙剣を振り下ろす 井伊直政

忠勝と封印結界が存在した空間がぽっかりと割れ 虚空が現れたかと思うと、その刹那
空間ごと引きずり込む。。。
まるで何事も無かったかのような静寂に包まれ それをエヴァの号泣と嗚咽が引き裂く
放心状態で座り込む 直政  その場に倒れ込み 肩で息をする 天武の面々
そんな子供達に2,000人の大人達が駆け寄ってくる

アランが、ブルートが、ルイが、エヴァを囲む
「エヴァ。。。俺達は、エヴァと忠勝になんと言えばいいんだ!?」

「ルイ 何も言わなくてもいいです すいませんが、直政君の横に落ちている 草薙剣を持って来てもらえますか?」

「エヴァ本当にありがとう それ以外の言葉が見つからない。。。」

「アラン、ブルートお礼を言うのは、私の方です ナーダを倒せたのもみんなのお陰ですから」
ルイが差し出す、草薙剣の柄を握るエヴァ

「約束を守らねばなりません 古龍様。。。どうぞこの身を贄に。。。」

「そんな!!お腹の子はどうなるんだ!?」
エヴァの背後に顕現する 金色に輝く四頭四尾の八岐大蛇
«お前達 ご苦労であった»
腹の底まで響くような声で、古龍が口を開く
「古龍様!生贄ですが俺では駄目ですか!?俺なんか身寄りもいないし、死んでも悲しむ人も居ないし!!
頼むよ 古龍様!!」
ルイがエヴァの背後の八岐大蛇に懇願する

«誰が生贄を殺すと言った?喰いもしないぞ?»
「えっ!?じゃあっ!!??」

«古来より我への生贄となった者達は、我の治める異次元の世界で我の手足となり働いて
おるのじゃ そのための特別な力を与えている、向こうでは転生者と呼ばれているがな»
「転生者。。。そんな伝承を聞いたことがあるな。。。と言うことは、元の世界に戻れるというのか!?」

«我も ちと疲れた今回は働きすぎたようじゃ ではエヴァ送るぞ»
エヴァの足元に金色の円が浮かび上がる
「みんなにお別れを言う時間も無いのか!?」
その円の中に、飛び込むアラン、ブルート、ルイ
«まぁ よかろう あっちの世界に戻ったら働いて貰うぞ»

瞬きほどの時間の後、日の本の冷たい空気から生暖かい空気に投げ出される
暗闇の中、辺りを見渡す4人 どこか懐かしい匂い
「ここは。。。サランドル·ダンジョン。。。入り口。。。!?」

「ああ!そうだな、確かにサランドル·ダンジョンだ!」

「エヴァ!草薙剣を持って来れたのか!?俺達は武器も服も向こうの世界の物は何1つ
持っていないぞ!?」

「えっ裸!?また丸裸ですか!!??」
自分の体を見下ろし、しゃがみ込むエヴァ

「この剣は、古龍様の宿主ですから 持ってこれたのでしょう。。。でも折れていた筈なのに直っていますね?」
ガサガサッとエヴァの背後の草むらが揺れる すぐさま振り向くエヴァ

「旦那様っ!!!!」

「「「忠勝!?なんで!!??」」」
草むらから全裸の忠勝が、草を掻き分け這い出してくる

「いえ 急に草薙剣の刀身に引っ張られて気づいたら、ここに。。。」
エヴァに這い寄り、抱き合う2人

「よくご無事で。。。」

「はい 魔界と言うのは、恐ろしい所でした でも向こうでは、お玉様や大嶽丸様に助けて頂いて。。。
御二人は早速ナーダを虐めていましたが」

「そりゃ〜いいや!」
涙を流しながら笑い合う5人 

「この子を一緒に育てられるのですね。。。」
エヴァの腹に手を添える 忠勝

「ここは、日の本とは随分勝手の違う世界ですよ?」

「貴女と子供と一緒に居られるのでしたら 例え地獄でも構いません」
さらに強く抱き合う2人 目のやり場に困ったルイが着るものを探しに、その場を離れる



忽然と消えた4人が立っていた場所を、唖然と見つめる 
「天女様達は一体どこに!?」

「そう言えば、あの者たちが現れて丁度1年 もしやしたら帰るべき所に帰ったのやもしれぬな」

「そんな!?天女様!?お願いベラ!フロー!天女様達を探して!! あれっベラ?フロー? 
2人とも応えてくれない!?」

「大丈夫じゃ あの者たちは、きっと何処かで元気にやっておる さぁこれから忙しくなるぞ! のう幸隆!!」

「はい お館様きっと天女様達は、お役目を終え 自分達の国へと帰られたのでしょう」




           ー終話ー

もしかしたら、それぞれの、その後の話を書くかもしれませんが、完結とさせて頂きます
最後までお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました m(_ _)m
















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