第159話 本多忠勝降臨

文字数 3,241文字

「ありがとう幸村君。。。助かったよ。。。」
座り込み肩で息をしながら 信忠が、喘ぐように声を絞り出す

「氷壁を壊された、僕の責任です」
井伊直政が唇を噛み締め、肩を震わせる

「そんな事はないよ、誰がやってもあれだけの敵を食い止めるのは不可能だよ」
北条氏直が井伊直政の肩に手を置き慰める

「ああその通りだ 実際、俺もこれだけの規模の氷壁は維持するだけで手一杯だったからな 
あれだけ攻め込まれた俺達の責任だ 後は俺達に任せて天武のみんなは下へ行って
休んでくれ 本当によく戦ってくれた」
みんなの元へ歩み寄ってきたブルートが半壊した階下へ続く階段を指差す

「そんな!先生達だけを残して僕達だけが降りるなんて、絶対に駄目です 僕はまだ魔力が枯渇していません!残ります!!」
珍しく声を荒げる 井伊直政

「そうは言ってもな。。。はっきり言って、打つ手が無いんだ お前達を無駄死にさせるわけにはいかない 俺達が時間を稼いでいる間に魔力を回復させて、逃げれるなら逃げて欲しいのが本音だ」
氷の屋根にぶち当たり自爆する魏頭魔を見上げ、不安そうに呟く ルイ

「どちらにしても。。。逃げ場など。。。無い。。。回復だ。。。」
床面に大の字に横たわり、目を瞑るアラン その横にアランに倣って大の字になる千代

「幸村 この氷壁はどのくらい維持できそうだ?」

「僕の残り魔力を注ぎ続ければ30分は維持できます」

「よしみんな!魔力回復だけに時間を使うんだ!!頼んだぞ幸村」
率先してごろんっと横になる ブルート

「そう言えば、天女様はどこに?」

「ナーダと戦っています」
上空を指差す おりん


生物の頂点を自負するナーダと互角に見える攻防を続ける エヴァ
しかし両者の表情からは、余裕の笑みを浮かべ続けるナーダに対して、どこか切羽詰まった様子のエヴァ
«いったい奴の魔力は、どこから供給されているというのだ? 本当に底なしだとでも言うのか?»
ナーダの尻尾による刺突を、草薙剣の腹で受ける エヴァ

「くっ!! 古龍様の妖力も底なしですよね?」
ナーダの覇気を纏った右腕が下腹へと伸び、後ろへと飛び退きながら左手の古龍の覇気で
相殺する
«我の妖力は地精が途切れぬ限り、無限に供給されるが、それを使う天女よ お前の器が小さすぎるのだ 
言ってみれば激流で小さな水車を回しているような物だな
早くは回るが、作られるエネルギーは小さく、いずれ壊れるだろう。。。»
「今それを言われましても。。。今更ですが、こんなに動いてお腹の子供は大丈夫なのでしょうか?」
至近距離からの魔王の息吹を、瞬歩で横にずれて交わし 距離を取る エヴァ

«大丈夫だ 我が守っているのだぞ!?お前が死なぬ限り、この子供が死ぬことはない»


距離を取り、一息ついたエヴァに、ナーダの瘴気を纏った何千枚もの竜鱗が襲いかかる
それを風刃と無数に浮かべた結界で撃ち落としていくが、竜鱗に紛れてナーダが射出した
腐食の込められた竜爪が結界を潜り抜け加速する 
反応の遅れたエヴァ 草薙剣と八岐大蛇の八本の尾で数本を払い落とすが
円錐状の竜爪が、エヴァの左足の太腿を抉り、骨を砕き貫通して飛び去る
激痛に唇を噛み締める エヴァ
迫りくる竜鱗がエヴァの直前で魏頭魔へと変幻し、エヴァを囲うように自爆する
陽も上りきった空に次々と大輪の花火が咲く エヴァを包み込み守る 金色の古龍の覇気

«油断しおって!!止血と腐食の効果はなんとかするが、しばらく使い物にはならんな»
「すいません!大丈夫です!」

«上だ!避けろ!!»
魏頭魔を巻き込み、蒸発させながら 速度を重視して限界まで細く絞った魔王の息吹が
エヴァの後頭部に迫る ー「間に合わない!?」ー

その時、懐かしい匂いと、慣れ親しんだ逞しい腕に背中から包まれる 
(せき)を切ったように溢れ出す涙と鼻水に顔をクシャクシャにする エヴァ

「旦那様!旦那様!旦那様!旦那様!旦那様!旦那様!私の旦那様!!」
忠勝への思いが、愛おしさが、せつなさが様々な思いが一気に溢れ出す
顔をくしゃくしゃにしながら、頭だけを巡らせ振り返る エヴァ
すると忠勝の生気の無く、淀んだ瞳と目が合う ナーダの覇気に延髄を焼かれ
がくりっと忠勝の顎が落ちる
「えっ!?」 眼を見開く エヴァ

一拍の間をおいて、首を押さえながら忠勝の視線が、エヴァの視線と絡み合う
「びっくりした!! また死ぬのかと思った!!!。。。ただいま戻りました。。。」
エヴァの体を自分の方へと振り向かせ、おもむろに抱き寄せる
その間も絶え間なく押し寄せる魏頭魔だが、忠勝の覇気に触れ 自爆する事も無く消滅していく

「お帰りなさい。。。よく無事で。。。何度も、もう会えないのかと思いました。。。」

「はい 何度も死にかけましたし、実際に何度も死にました はっはっははは〜」
当時の事を思い出し乾いた笑いを発する

「旦那様。。。」

「ちょっと待って下さい 五月蝿すぎますので片付けます【神衝·神殻】!」
本多忠勝を中心に極光の蒼い波動が新岐阜城の上空で破裂する 
2人の周囲はもちろん、新岐阜城に押し寄せていた1万を超える怒愚魔、魏頭魔までもが
波動に触れた瞬間に霧散していく ナーダただ1人が、顔の前で腕を十字に組み波動に耐えるが、数10mも押し戻され苦渋の表情を浮かべる

「この光は何なのだ!?そしてこの感情は??」
ナーダが産まれ落ちてから、初めての感情 他者から与えられた恐怖そして憤り

「まさか我が蔑まされているというのか? あの男は我を自分より下に見ているというのか? 
この魔王に対して?」
極大の息吹を放つべく、魔力を練る ナーダ


新岐阜城 地下4階 大食堂
「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」」」」」」」

「見たかっ!!!あれがわしの好敵手!!本多忠勝だ〜!!!!!」
大食堂中に響き渡る雄叫びを上げる 風魔小太郎

「まったく遅すぎるわい!はらはらさせおって!!」

「お館様、しかし本当に戻られましたな。。。正直、もう駄目かと思っていました」

「年寄りの心臓に悪い男じゃわい」

人混みを掻き分け、壁面の最前列に辿り着いた 上杉謙信
「真田幸隆殿!本多忠勝殿は、本当に尊天の加護を授かったというのか!?」

「どうやら、そのようですな 戻るのが後1日。。。いや数時間遅かったら、考えるだけで恐ろしい事です」

「おのれ!本多忠勝!かっこよすぎだろ!!」

「お〜〜〜忠勝〜〜〜我ら徳川の誇りじゃあ〜〜〜!!」

「徳川も武田も織田もあるか!!侍の誇りだ!!!」

「お前は俺に勝った男だ!!負けたら承知せんぞ!!」

「あれが、本多忠勝殿か!?見るからに強そうじゃのう〜!!」

「天女様〜 本当に良かったです〜 忠勝さんが戻られて。。。」
お市の方の胸に顔を埋め 泣きじゃくる 茶々

新岐阜城 地上階
純度の高い、氷の屋根にぼとぼとと落下しては霧散していく 魏頭魔
氷壁の周囲で絶え間なく続いていた怒愚魔の爆発音が途絶え 静寂に包まれる
「いったい。。。何が。。。起きているんだ。。。?」

「まさかエヴァが、やられたのか!?それともナーダを倒したのか??」
取り乱し慌てて立ち上がる ルイと天武の子供達

「落ち着くんだ!よく見てみろ!!」
上空を指差す ブルート
視界を遮っていた魏頭魔の大群がすべて霧散し、視界の良くなった上空に浮かぶ 蒼い珠
その中で抱き合う エヴァと本多忠勝を確認すると、へなへなと腰から崩れ落ちる 面々

「本多忠勝。。。本当に尊天の加護とやらを授かって帰ってきたのだな!」

「あれだけの怒愚魔や魏頭魔の群れを一瞬で葬ったというのか!?」

「アラン様〜 忠勝様が!忠勝様が戻られました〜 天女様〜良かったですね〜!」
アランの手を強く握り 咽び泣く 千代


「ようやく静かになりました。。。あらためて、愛しています!。。。いや!ただ今戻りました。。。いや!愛しているのも本当です 否定したわけではありません!!」
顔を赤くして、エヴァの両手を取る 忠勝

「貴方が居なくなって。。。辛いことばかりでした、もうどこにも行かないで下さい」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み