第135話 我が名はナーダ

文字数 2,941文字

フォゴの口から放たれた獄炎の息吹が、ゆっくりと砦へと突き刺さる
「やめろーー!!!やめてくれーーー!!!!」
すべてが、現実感を伴わない、ゆっくりとした時の中で起きている出来事のような 
自分の身体さえも、脳からの指示どおりに動かすことが出来ずに眼球だけが忙しなく
上下左右に動き回る

“ドッゴーーーーンンンンッ!!!!!!!”
爆音が氏直の耳をつんざき 氏直の目と脳に、色と現実をつきつける

「信勝っ〜!!!幸村っ〜!!!!!逃げるんだ〜〜〜!!!!!!」
血の涙を流しながら、氏直が叫ぶ “グッシャッ!!!”
2発目の“黒き竜の覇気”を至近距離でまともに受け、巨大な脚で床に踏みつけられたように
フーカーのフルアーマープレートがひしゃげ、鉄屑のように転がる 氏直
肺の中に、わずかに残った空気を押し出し この世で最も信頼をおく人の名を叫ぶ!
「天女様っーーーー!!!!」

天蓋のほとんどを失ったドーム 瓦礫と舞い散る砂埃に陽光がきらきらっと反射する
久方ぶりに訪れた静寂 2匹の神にも等しい竜の“グルルルルルルルッ”という息づかいが響く
“ガッシャャャャャャャャンンンンンンっっ!!!!!!!!”
静寂を引き裂く破壊の音 地下へと続く扉が吹き飛び 人外の者の目から見ても
あまりにも美しく、あまりにも恐ろしい天女が降臨する 
「お雪ちゃん、ここで待っていて下さい 3人を連れてきます」

「はい 天女様、気を付けてください」
ドーム中央から、ただ一点、東壁に転がる北条氏直を見つめ、ゆっくりと歩き出すエヴァ 
その進路上で腕を組み 立ち塞がるナーダ
ナーダには、目もくれずに横を通り過ぎようとするエヴァを黙って見下ろす ナーダ

氏直の横に膝をつき、そっと結界の上に乗せる
「ごめんなさい 痛かったでしょう。。。私が、もう少し早く戻れていれば。。。」
そのまま壁沿いを歩き、砦のあった場所を目指す 焼け焦げた茨を掻き分け
2人をそれぞれ、結界の上に乗せると、3つの結界を浮遊させ フォゴの横を抜け
ドーム中央のお雪へと歩みを進める
「お雪ちゃん、3人をおりんちゃんの所まで連れて行ってください 政宗君のように
間もなく蘇ると思います」

「天女様は?。。。」

「すぐには無理でしょうが、必ず戻りますので待っていて下さい」

「必ず戻って来て下さいね みんなで待っています」
お雪を見送り 地下への階段を結界で塞ぎ、2匹のバハムートと向き合う

「理由はわかりませんが、待ってくれた事には感謝します しかし貴方達は、私の大事な人達を傷つけ過ぎました 全力で葬ります」
“女よ。。。”
エヴァの脳内に念話が飛び込んでくる
「驚きました!?話せるのですか??」

“我が名は。。。ナーダ あそこに居る炎を操る。。。兄がフォゴだ 我等の末弟ネボアを返せ。。。”

「貴方達にも兄弟を思う気持ちがあったのですね? 断ったらどうします?」

“言うまでもない お前を滅し。。。その後で階下に逃げた人間共を皆殺しにするだけだ”

「そんな事は、させません!!」

“お前一人で我等を止める事が出来ると本当に思っているのか? 
言っておくが我等の魔力は、ここまでの戦いで1割も減ってはいないぞ”

「出来る、出来ないでは無いのです やらねばならないのです!」
無数の不可視の結界を、空中に放り ナーダへと向かい結界を蹴る エヴァ


「ルイ、大丈夫か!?少し速度を落とそうか?」

「大丈夫だ、ブルート 新岐阜城まで後どのくらいだろう?」

「まだ半分も進んじゃいない エヴァが無事だといいのだが。。。」

「ブルート、俺たち情けないよな、昔から肝心なところで、いつもエヴァに頼りっきりで あの2匹のバハムートを相手にして、無事なわけが無いだろう!?」

「そうか? エヴァなら大丈夫な気がするがな。。。根拠は無いんだけど。。。昔からそうだろ?」


一つ 二つ 三つ目の結界を蹴り ナーダの頭上を超え、はるか高くまで飛ぶと
上段に振り上げた玉龍を、ナーダの頭頂部へと一気に振り下ろす
それを左腕の上腕で受け、滑るように左へと移動する ナーダ
浮遊する結界を蹴りながら、風刃を放ち 追撃する エヴァ
視界の右端に翼を羽ばたかせ、飛び立つフォゴを捉え 射線上に身を置かないように
結界を移動させながら、ナーダを追う 
エヴァの風刃を玉龍の斬撃を、尻尾と腕を使い 払い続ける ナーダ
上空より、炎球を連射し 結界を蹴りながら右に左へと飛ぶエヴァを追い詰める フォゴ
飛び交う炎球の合間を飛びながら、身体を反らし避ける“チリチリッ”と髪を焼く炎
エヴァの結界を蹴散らしながら、両腕に炎を纏わせ エヴァに迫る
唸りをあげて薙払われる 尻尾 ほんの鼻先を掠める 業火に包まれた 右腕
正確にエヴァの心の蔵を貫かんと繰り出される 刺突
わずかな戦いの経験でバハムート達も進化をしており、単純な攻撃一つを見ても洗練されつつあり、巨体を生かした力任せの攻撃が鳴りを潜めつつある
足元に散乱する 殺生石の矢を数本、尾を使い拾い上げると尾をしならせ投げつけてくる
玉龍で弾き、回避するが 爆破の効果が次々と作動し爆炎が立ち昇る
『私達との戦いの中で、成長しているという事ですか。。。。武器まで使われるとなると厄介ですね』

地上のナーダに目をやると、腕を組み、エヴァとフォゴの戦いを見上げている
“女 この地で、お前より強い人間は居ないのだろうな。。。 しかし我の兄弟一人にも勝つことは出来んぞ。。。 それでどうやって、ここの下にいる人間共を守るのだ?
いや。。。そもそもお前は、人間なのか?”

「喋っていないで、掛かってきてはどうですか? 私が勝てないのかどうか、その身に解らせてあげます!」

“何故お前達は、我等の邪魔をする? この地に産まれ出て、生きているだけの我等の前に、何故こうまで立ちはだかるのだ?”

「貴方達は、私達の仲間を、人間を傷つけ殺し過ぎました これ以上、放っておくわけにはいきません」

“お前達も、鳥や魚、獣を捕らえて喰らうではないか! 我等が人間を喰らう事となにが違うと言うのだ? この地に産まれ出て間もない我らにも解るように教えてくれ”

「確かに矛盾しているように感じるかもしれませんが、人間も捕らえようとした獣に返り討ちに会うこともあります 種の存続を掛けて戦わなければならない運命と言う事です」

“お前達に勝ち目など無いと、まだ解らぬのか? 我等の兄弟を、おとなしく返すのであれば、お前とお前の仲間達は、見逃してやっても良いのだぞ?”

「この地に住む、すべての人間が、私達の仲間です! 交渉決裂ですね」

“お前は、あまりにも矮小な我が種族が、この地で生きる権利は無いというのか?”

「貴方達の母親であるベヒーモスを、この世界に連れてきたのは、どうやら私達のようです 申し訳なく思いますが、この世界に貴方達の生きる場所は無いのです そして貴方達を滅ぼすのが、私の使命でもあります」

“そうか。。。人間か我らか、どちらかが滅ぶまで。。。抗うまでだな”

「お玉様、青龍。。。私に力を貸して下さい 旦那様、私を守って下さいね」
願いを言霊に乗せる 天女の覇気で黒髪と九本の尾が、扇状に逆立つ
結界を足場に高空まで駆け上る エヴァ
竜の覇気を身に纏い 翼を羽ばたかせエヴァの後を追う フォゴとナーダ







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