第57話 十六八重表菊紋

文字数 3,147文字

下鴨神社 葵生殿
真田幸隆が上質な紙に描かれた日の本の地図を広げる

「天女様もご存知のように、お館様が征夷大将軍に任命され朝廷より、正親町天皇の名ですべての諸大名に書状が送られました お館様が征夷大将軍に任命された旨と属従するか否かを問う書状なのですが こちらの地図で言いますと北は、最上、伊達、葛西と南は島津、大友というようにほぼ全ての領主から、さらには武田に次ぐ勢力である毛利からも 武田信玄公であれば属従するという友好的な返信が届いておりました」

「流石は、お館様ですね 家臣からも領民からも敵だった者からも、これほど慕われるのは武田信玄をおいて居りませんでしょう」

「はい、ここまでは拙者も予想していた通りなのですが。。。」
ちらっと武田信玄を見る 真田幸隆 
不機嫌そうに頬杖を突き 唇を尖らせている 武田信玄

「つまり、この地図の空白部分。。。上杉謙信からは、色よい返事が頂けなかったということですか?」
「天女殿!!色よい返事どころではないのじゃ!!耄碌(もうろく)した年寄りに国の舵取りを任せる気は無いと返事をしおった!!」湯気が出るほどに顔を紅潮させる 信玄

「あらっ そうなのですか!?」

「いえ 遠回しな言い方ですが。。。まぁそのような内容です 上杉謙信とお館様は、お互いがもっとも刃を交えた間でして それ故に、もっともお互いを知り尽くしているといいますか 正親町天皇の勅令であれば、この国の平定の為に属従すると読んでいたのですが、どうやら甘かったようです」

「だから申したであろう!! あ奴は、天の邪鬼なのじゃ!!」

「実は、上杉が兵量を集め、兵を募っているという報せが入りまして」

「それは、穏やかではありませんね 今の武田家に勝てると思っているのでしょうか?」

「浅井、朝倉、北条を同盟国にしている我らに到底勝ち目は無いと考えるはずなのですが。。。」

「幸隆!!武田だけで十分じゃ!!」激昂して席を立つ 武田信玄

「お館様! どちらに!?」 「厠じゃ!!」

「お見苦しいところをお見せしました お館様は、上杉謙信に犬死にをして欲しくないと、お考えなのだと思います おそらくは、我らの誰が行っても上杉謙信は、聞く耳を持たぬでしょう そこで天女様のお知恵をお借り出来ればと、わざわざご足労頂いた次第です 申し訳ありません」

「わかりました 少しお時間を頂けますか? 考えてみます」

「ありがとうございます それと、孫がお世話になっております 迷惑をかけていなければ良いのですが」

「幸村くんですね 何事にも一生懸命に取り組まれていますよ とても良い子ですね」

「天女様にそう言って頂けるとは、有り難いことです 明日も正親町天皇に謁見なのですが、出来るならば天女様も、御一緒にとの事に御座います」

「わかりました 同行致します」



「ルイ、ブルート、お玉様もご苦労さまです 二条城の再建現場を見てまいりました 予定よりも早く終わりそうですね」

「お玉様は、何もしていないけどな 寝てるだけだ」
ルイの尻に噛みつく 妖狐

「日に日に魔力量が増えていくようで、出来る仕事量も増えているんだ 明日からは、内裏内も取り掛かれそうだ」

「魔力が枯渇する寸前まで使うと、魔力の上限が上がるというのは、感じていました 私もこの世界に来て随分と魔力量が上がった気がします」

《この2人の魔力量は、随分と上がってるよ 容量が上がっているからね 次は、出力を上げる鍛錬をするといいよ》

「さすが千年を生きる、お玉様ですね 出力を上げる鍛錬と言いますと 何をすれば良いのでしょう?」

《そうだね〜 自分よりも強い相手との実戦に近い試合が一番手っ取り早いけど、アンタ達よりも強い相手を見つけるほうが難しいやね〜》

「それでしたら、なんとかなるかも知れません」
不敵な笑みを浮かべる エヴァ



内裏 常寧殿
「上杉謙信か〜あ奴は、頑固でごじゃるからな。。。あいわかった朕から今一度だけ遣いの者を、やるでごじゃる 火竜を、その目で見ておれば あ奴も人間同士で争っている場合でないと気づくでごじゃるのにのう〜」

「誠にその通りに御座います お手を煩わせ申し訳ございません」

「それと、二条城の再建を毎日見ているでごじゃるが 凄いものでごじゃるな あの鍋をひっくり返したような建物を、ここにも作るでごじゃるな?」

「さように御座います 火竜の攻撃にも耐え地震でも倒壊する事はない最強の要塞に御座います 今日から取り掛かるそうです」

「それは、楽しみでごじゃる さて朕は天女殿と少し話しがあるでごじゃる その方は、下がってよいぞ」

「はっ では上杉の事よろしくお願い致します」


「天女殿、例の話じゃが。。。草薙剣(くさなぎのけん)があれば、火竜を討てるというのは真か?」

「この国で最も強い力を込めることの出来る神器ですので、討てると信じています」

「今から話すことは、何があっても他言無用じゃぞ、三種の神器というのは、我ら天皇家の象徴なのじゃが、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は、ある場所に保管されておる 八咫鏡(やたのかがみ)は、伊勢神宮の御神体として祀られており、ここにあるのは形代じゃな そして草薙剣こと天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)じゃがな。。。」
言いにくそうに渋い面持ちの 正親町天皇

「どうされました?」

「絶対に他言無用だからな!! 実は、無いのじゃよ」ぶっきらぼうに言い放つ

「はっ? 無いとおっしゃいました!?」

「熱田神宮に祀られているのは、紛い物じゃ無論ここにある形代もな 天女殿は、源平の戦いを知っておるか?」

「はい 勉強しました」

「ふむ 時の天皇である安徳天皇は、平家に擁立されていたのじゃが 壇ノ浦で源氏に破れた安徳天皇の母、二位尼(にいのあま)は幼い安徳天皇を胸に抱き、草薙の剣を伴って壇ノ浦に入水、平家滅亡と共に海の底に沈んだというわけじゃ 無事引き揚げられて熱田神宮に祀られていると皆は信じておるがな。。。」

「つまり壇ノ浦という所の海の底に沈んでいるわけですね? 探しに行って来ます」
笑顔で軽く言い放つ エヴァ

「簡単に言うが 海の底じゃぞ!? 湖や池ではないのじゃぞ しかも長門国赤間関壇ノ浦といえば
ここより700kmもあるかのう〜」
昨夜、真田幸隆と見た地図と照会する 

「確かに遠いようですね。。。毛利領を抜けた先ですか。。。では、ちょっと行って参りますね」

「えっ!? 見つかると思っておるのか!?」

「はい 見つけますよ」

「もしも 見つかったら返してくれるかのう??」

「はい 用事が済んだらお返ししますね」

「おお〜 天皇家の悲願が400年の時を経て叶うという事か!?」

「通行手形をお願いしますね 十六八重表菊紋(じゅうろくやえおもてきくもん)の印籠の中に入れてください」

「はっ? 天皇家の家紋の入った印籠で!?」

「はい 今巷で流行っているのですよ 印籠が」

「いや 流石に天皇家の家紋は、不味いじゃろう?」

「400年の悲願が叶うと良いですね〜」にた〜っと意地の悪い笑みを浮かべる エヴァ

「うん。。。わかった用意するでごじゃるから頼むぞ」

「かしこまりましたでごじゃる」



陰陽門で待っていた、武田信玄と護衛の本多忠勝と落ち合う

「お待たせしました」

「天女殿、随分と話し込んだようじゃが、なんの話だったのじゃ?」

「お館様。。。本当に知りたいですか?」意味深に信玄の目を下から覗き込む

「いや。。。聞きたくないかも。。。」

「ちょっと長門国へ行って参ります」

「ちょっとで行ける距離では無いがのう」

「天女様!! お供は、どう致しましょう!!」

「そうですね(忠)勝さん 貴方ともう一人誰かお供をお願いします」

「勝さん!? あの護衛でしたら拙者一人で十分ですが」

「いえ どうしても2人は必要なのです。。。なんとなくですが。。。」


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