第75話 妖かしどもが夢の跡

文字数 2,906文字

《大嶽丸は生きているのかい!!》
少し遅れて妖狐が降り立つと同時に叫ぶ

「危険な状態ですが、なんとか生きています」

《あたしは、火竜を追うよ!》

「駄目です! すぐに鈴鹿城に大嶽丸様を運びます」

《あんたも見ただろう! あのベヒーモスとかいう火竜も虫の息だったじゃないか!?》

「お玉様!ここの魔素は瘴気に汚されていて、これだけの深手を治療する事は不可能です 
しかも火口の中は、数千度を超える高温ですよ。。。わかってください」

《ああ。。。。。。。すまない取り乱してしまったようだね あたしの背に乗せて運ぶよ》
そう言うと、小さくなり大嶽丸を動かさないように体の下に潜り込み 徐々にゆっくりと大きくなっていく
妖狐 その背にエヴァも飛び乗る

「大丈夫ですか? 重たくないですか??」

《重たいね。。。おりんに妖力を貰っておいて良かったよ 飛ぶよ!》

「はい お願いします この瘴気を抜けたら治療を始めます」



グルルルルルルルッ グルルルルルルッ グルルルルルルッ 
子供達の待つ岩棚にドサリッと身を投げる 尾の先端は切断され 
身体には数本の槍が残る 雷撃のおさまったその槍を2匹のバハムートの幼竜が器用に抜いてくれる 
ネボアは無事だろうかと首を巡らせると、少し興奮した様子で飛び跳ね漂う
その気配に安堵する ベヒーモス
危なかった。。。己のこの尾を切断した魔力には、覚えがあるが 少しの間に異質な力を取り込み
より強大になっていた
そして、その後を追ってきていた黒鬼と似た妖力を持った存在 憎悪を剥き出しに叩きつけてきたが
それだけで身が縮んだ この世界にも強者が多々いるという事か。。。
この子達を、より強靭に育て上げねばならない そう心に誓うベヒーモスであった

ネボアは興奮していた 自分の母親に勝るとも劣らない高位の生物の精神に一瞬であるが
侵食したことで、自我が芽生えかけていた
父ともいえる、黒魔術により誕生した怨念の塊で生物に憑依し操る能力を持った怨霊と
母とも言える、異世界で地上最強と謳われた四足獣の間に生まれた 霧の魔獣ネボア
共に生を受けた 2匹の兄弟は、母の特性を強く継いだようだが、自分だけが父の特性
のみを継いでいるようだ 今後どのような進化を遂げるのかは不明だが
この2匹の兄弟を使って、この世界を絶滅するという欲求に従い行動の指針を決めていく
なかば本能で行っていたが、近隣の生物の群れを洗脳して兄弟たちの餌にしていたのも
その一貫だ 大事な駒は、大切に強靭に育て上げなければいけない
そしていずれは、自分の目に見える範囲すべての生物の命を狩ることで怨霊である自分の
本懐を遂げるだろう
この世界に生物が存在しなければ 怨む事が叶わぬのだから、成仏するより他に無いのだ
つまり怨霊である、自分が成仏する為には、すべての生命を狩り尽くせばよいのだ
その為には、誰に憑依し操れば良いのか。。。もっと見聞を広げねばならない


鈴鹿城
飛行する、妖狐の背で治癒魔法を掛け続ける エヴァ
人間や他の生物と異なり、神に等しい高位の者の治療には、複雑な魔法の構築と時間が必要になる
眼下に鈴鹿城が見え、ゆっくりと下降を始める妖狐

「叔父上!!」

《大丈夫 死んじゃいないよ 天女が居てくれなければ死んでいたけどね。。。》

「このまま治療を続けます 横になれる部屋をお願いします お雪ちゃん、運ぶのを手伝ってくれますか?」


夜を徹して続けられた治療の結果
大嶽丸の意識も戻り、人型へと変幻し、自室での療養 当分の間は、外出禁止と強く
おりんと妖狐に言い渡された
エヴァはといえば、明け方に魔力が枯渇し 用意された客室にて眠りについている

露天風呂で疲れを癒やす 3人
「お玉様!なんですか!?その見目麗しい姿は!!??」

「お雪、あんた声が大きいよ! あたしゃ疲れてるんだよ あたしの人型に変幻した時の姿さ 
昔は、美福門院と呼ばれていてね この国に並ぶ者無き美姫と言われたもんさ
おりんから妖力を貰ったからね 変幻出来るようになったのさ」

「お玉様。。。美しすぎます、天女様もおりん様も美しくって、私が可哀想すぎます」

「念話で話さなくていいし 風呂にも入れるからね この格好しているだけだよ お雪あんたも十分に可愛いじゃないか 胸もでかいし」

「その姿で言われても、嫌味にしか聞こえないですし。。。胸がでかいでかいって胸だけの女みたいじゃないですか!?」

「あの皆さんに倣いまして お玉様と呼ばせていただきます 昨夜は本当に叔父上を救って頂き、ありがとうございました」深く頭を下げる おりん

「大嶽丸を救ったのは天女だよ 大嶽丸を置いて火竜を追おうとしたら天女に怒られちまったよ 
まぁそんなわけだから、礼なら天女に言いな」

「いえ お玉様に、ここまで運んで頂けなければ 助けられなかったと天女様も仰っていました」

「あんたも治療を手伝えたからね」
「私も回復術は心得があるつもりでしたが、天女様の使われる術は、私などでは足元にも及びません 
世の中は広いのだと思い知りました」

「天女様は、これまでに何千人もの命を救ってきましたからね 天女様が居るから皆が安心して戦えるのだと思います」誇らしげに胸を張る お雪

「天女様に、お弟子にして頂けないものでしょうか。。。?」

「あんたには、大嶽丸の世話があるから無理だね」意地悪く笑う 妖狐



新二条城 童夢内執務室
内装工事も終わり、童夢内に新設された執務室
武田信玄と真田幸隆、浅井長政の3人が西洋風のテーブルを挟み、クッションの効いた長椅子に腰を下ろす
「天女殿は遅いのう。。。」

「おそらく今日中には、来られると思いますが」

「信玄公 少し落ち着かれては、いかがでしょう 上杉謙信が上洛してくるまでには、まだ間があります」

「そうなんだが、ルイからは3日前に鳴海城を発ったと連絡があったじゃろう? 天女殿が急げば、その日のうちにも到着してしまうのだぞ!? 遅すぎるじゃろう。。。」

「天女様の事ですから、また何処かで人助けとか、化け物退治などされておるのでしょう 
天女様に危害を加えられる者など、そうそう居りません、もうしばらく待ちましょう」
真田幸隆が落ち着くようにと 諭す

「わかっておるのじゃが 天女殿は武田家の、いやこの国の守り神じゃからのう
あの毛利も天女殿に会ってから、親書を送ってきおって、全面的に新幕府を支持するので何なりと言ってくれと書いて寄越したろう 最上も伊達もそうじゃ 上手く行き過ぎて怖いくらいじゃな。。。 上杉も天女殿ならば、上手く行きそうな気がするんじゃがのう」

「正親町天皇も天女様には、なぜか頭が上がらないご様子ですし。。。そう言われてみれば、恐ろしい方ですな」浅井長政が呆れたように洩らす

「そうじゃろう!? わしとお主の此度の異例なまでの大出世も、天女殿が絡んでおるような気がしてしょうがないのう」腕を組み考え込む 武田信玄

「お館様も浅井様も、例えそうだとしましても、この国の将来の為に、間違いなくもっとも適した人事である事に変わりは有りません」

「まぁそうですな 信玄公以外にこの国の舵を取れるものは居りませんな それにしましても 天女様は遅いですな。。。」

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