第166話 時空を超えし者達

文字数 2,817文字

《時が動き出す。。。》

雨のようにドーム内に降り注いだ、数百の細い息吹が、人々の肩や腕、背中や運の悪い者は脳天を貫く “じゅっ”という音を立て体内を貫通した息吹が床面をも溶かす

【慈愛に満ちたる天の光 天使の息吹となり 傷つきし者を癒やし給え 天光治癒】
と同時にエヴァが広範囲に治癒魔法を掛ける ドーム内が黄色く暖かい光に包まれる
玉龍を手にしたエヴァの魔法は、効果が増幅し四肢欠損や即死でない限りは 
瞬時に傷を癒やす 
運悪く脳天を貫通された者でさえ 息吹が極細だった事が幸いし即死には至らず
本人でさえも何事が起きたのか理解しないまま、頭を押さえ天井を見上げていた

「なんとか間に合いました!しかし。。。」
忠勝の首の刀傷は癒え 失った四肢も、あと僅かな時間で再生するだろう しかし
上空のナーダの息吹は、すでにナーダの体全体を隠すほどに膨れ上がり
十分すぎる時間を与えすぎてしまったことを物語る

「このドームが、あれに耐えられるのか!?」

「絶対に無理だろう!?」

「ここまで、みんながよく頑張ってくれたよ!悔しいけどここまでだな。。。」

「ああ 最後に凄い物を見せてもらった、我が人生に悔いはないが、あんな化け物を後世に残してしまうのは申し訳ないな」
みんなが思い思いの言葉を口にする ここまでの戦いを見て ナーダの顔前にある息吹が
どれほどの威力を持つのか、理解しているが上の感想である

「エヴァ!!あれをどうする!?」

「ブルート。。。あれを弾き返す術は。。。旦那様!!」
四肢が未だ癒えない、忠勝が目を覚ます

«これ以上、我の国の民を、あの魔王に一人も殺させぬ!»

「「古龍様!!」」
古龍の声を聞くことが出来る エヴァと直政が声を上げる

«直政よ!よく聞け! あの息吹が着弾する瞬間に、この空間すべてを我の治める亜空間に一瞬だが移すぞ
我が合図をしたら、この空間すべてを包み込むように切り取るのだ 
お前の術と我のエネルギーがあれば、成功するはずだ 合図と同時に切り取る事だけを考えろ!
エヴァよ、直政を支えよ!!»
未だ動揺している直政を後ろから抱き締める エヴァ
「解りました 古龍様。。。初めて名前を呼んでくださいましたね」

«これが、最後になるかも知れぬからな»
「直政君、解ったわね?貴方なら出来るわ」

「はい 天女様!大丈夫です 必ず成功させます!!」


「エヴァ?何を話しているんだ?」

「みんな聞いて下さい! 直政君の術と古龍様の力で、この空間すべてを息吹が着弾する瞬間に
古龍様が治める亜空間へと一瞬ですが飛ばすそうです」

「そんな事が出来るのか!?」

「すげぇ!時空を超えるという事だな!?」
ブルートとルイは、すぐに反応するが、ほとんどの者達は、なんの話か理解出来ず 
ぽかんっとしている

「来ます!念の為、身を低くして下さい!!」
高空より、ナーダから放たれた 米粒ほどの漆黒の息吹が、みるみるうちに、その大きさを増していく 映像で見ているにも関わらず、圧倒的な威圧感と存在感を持って2,000人の頭上に迫る 黒く燃える巨大な息吹 
反射的に頭を抱える者達 腰を抜かしへたり込む者達 ごくりっと息を呑む

«今だ!!!!» 八岐大蛇が叫ぶ!
草薙剣を上段から振り下ろす 直政 
古龍の欠片が体内に残ったエヴァには見えていた 現実世界で草薙剣を振り下ろす直政と
それに重なるように、平行世界で【時の宝戟】を振り下ろす 
直政が、ドーム内を丸く切り取ると、水が巨大な滝を流れていくように、亜空間と呼ばれる滝壺へと流れ落ちていく 
衝撃に備え、右手で忠勝の手を握り、左手で直政を抱き寄せ、思わず身体を硬くする
エヴァ。。。

古龍の治めるという亜空間、別の次元の世界
見渡す限りの砂漠に突然現れた、氷に覆われた巨大なドーム
そのあまりにも異質な存在は、わずか2秒にも満たぬほどの時間だけ、そこに現れ
まるで砂漠の蜃気楼のように揺らぎ消える

そして内部にいた者達は、サンドマンの目を通して その光景に目を見開く
エヴァ達には、その光景にどこか懐かしさを覚えた しかしそれ以外の者たちには
見た事の無い砂の世界が広がり、突然現れた異物に驚いたのか
全長10mを超える、巨大なミミズのような化け物が、無数の鋭い牙を剥き出しにして
地中から飛び掛かってくる 思わず腰を退け反らせる 武将達
さらに高空には、5匹の翼竜の群れが、地上の異変に注視し 注意を促すために
「キイイイイィィィィィーッ」という高音の金切り声を上げる

「えっ!?」
驚きの声を上げるエヴァ

「サンドワームとワイバーンだと!?」
ルイが映像を食い入るように見つめる

「ということは。。。ここはイタウナ砂漠だと言うのか!?」
ブルートが言い終わる前に、視界が歪み 来た時と同じように時空の滝壺へと吸い込まれ
激しい衝撃に床面にしたたかに身体を打ちつけ 苦痛の呻きや 悲鳴が聞こえる中
白煙に包まれた空を見上げ、元の世界へと戻った事を悟る

「いったい。。。あの光景は。。。?」
放心したように天井を見つめ続ける エヴァとブルートとルイにアラン

高空より、極大の息吹を放ったナーダは、自分の最大の攻撃が着弾する瞬間に
空間が歪み、攻撃目標であるドームが空間の隙間に吸い込まれるように消失したのを
驚愕しながらも、明晰な頭脳で時空を超え退避した事を確信する
消えたドームの跡地 剥き出しとなった地下一階部分に着弾した極大の息吹きが、その床面を軽々と砕き、直径200mの地下の建造物を内部から爆散させ、有り余ったエネルギーが上部へと向かい、火柱が立ち昇る

わずかに肩を上下させ、息を整える ナーダ
ここでの戦いも24時間を経過し、疲労はまったく無いにも関わらず 終わりが見えぬ故の、焦燥感に襲われる
「使いたくない手ではあったが。。。」
独り言ちり、何かを決断した様な表情を浮かべる ナーダ
そして火柱が消え去り、もうもうと立ち込める白煙の中に目を凝らす 
破壊され尽くした地下施設に、すっぽりと収まるように姿を現す ドーム
胸を張り、全身の竜鱗を逆立たせる それに瘴気を纏わせ一気に空中に浮遊させると
その動作を2度3度とさらに4度5度と繰り返すと、魔王ナーダの周囲に無数の竜鱗が漂い 「ふんっ」という鼻息とともに空を覆い尽くさんばかりの魏頭魔が、地上を見下ろし滞空する


それをドーム内で見上げていた 本多忠勝が蜻蛉切りを手に立ち上がる
「奴らを蹴散らしてきます! 怪我人も出ているようです この場をお願いします」
きょとんっとした表情を浮かべていたエヴァが、我に返る
「は、はいっ 旦那様くれぐれも気をつけて下さいね!」
ドーム内に再び広範囲に回復魔法を掛け、忠勝を送り出す

ドームのすべての障壁を一瞬だけ解除し、飛び出した忠勝が、何やら不安げにドームを
見下ろす

ー『天女様だけでなく、ルイやブルートの様子も何やらおかしかったが。。。』ー
頭を振り、その疑問を頭の隅に押しやると蜻蛉切りを手にナーダへと向かい
さらに加速していく 




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