第163話 時の宝戟

文字数 3,109文字

«ここからは、ちと難しくなるが、時間も無いのでな ついてこれん者は置いていくぞ
お前達が、今見ている世界は、3番目の次元なのだ、面倒なので3次元と言うぞ
1次元というのは、線じゃな»
エヴァと直政、2人の頭の中に八岐大蛇が描いた直線が浮かび上がる

«その線を切断するぞ»
2人の脳内の線が切断され、切断面が拡大される
«面になったであろう?紙のような物だと考えても良いな これを2次元と言う»
「なるほど!だからこの世界は3次元なのですね!?」
「えっえっ?直政君!何がなるほどなの??」

«ふむ 察しが良いな つまりこの面となった2次元を、また切断すると縦と横に加え奥行きが生まれる これが今見えている3次元と言うわけじゃな»
2人の脳内に紙のような平面が切断され拡大される 

«小僧 お前の時の精霊の能力は次の次元 4次元に干渉出来る能力なのだ»
「つまり、この世界 3次元を切断すると言うことですね!?」

「えっと。。。なるほど切断するのね。。。? どうやって、何を切断するのかしら?」
考える事を放棄した エヴァ

«では切ってみるか?切った切断面にもう1つの次元の世界があると、その頭で理解するのだ、今いる世界から4次元を経由し3次元に干渉するというイメージだな»
「理屈は理解できましたが、どのように切ればいいのでしょう?」

«お前の精霊だけが持っている【時の宝戟(ほうげき)】を使うのだ そこから動かずに、あそこに見えている玉龍を取ってみよ!»
500m以上離れた所に穂先を地面に突き立てている 玉龍に赤い点が重なる
「あっ!お玉様、青龍あんな所に。。。ごめんなさい」

「やってみます!時の精霊ハロルよ、僕に新たな力を与えて下さい【時の宝戟】を貸し与え下さい!」

見えているすべての物が色褪せる 直政だけの時の世界、妖狐の宿る玉龍を片目で見て、時の宝戟と化した草薙剣を振るう 
直政と玉龍との間、ちょうど中間地点に巨大な時の刃が突き立つ 空間が裂け、色褪せた世界が大河の流れのように滝壺へと落ち、呑み込まれていく
玉龍の突き立つ地面と井伊直政の足元までが、すべて滝壺へと落ち 直政の目の前に突き立つ 玉龍

«お前の前から落ちて消えた世界が、4次元 時空の異なる世界だ»
「古龍様は、この時の止まった世界で見えているのですか!?」

«我に時という概念は無いからな しかし1度で理解し成功させるとは、恐ろしい小僧じゃな がっはっはっは! 我の目に狂いは無かったということか! その玉龍を手に取るが良い»
「ありがとうございます!まさか古龍様に褒めて頂けるなんて。。。」

«ちなみにお前の精霊は、次の次元である5次元まで干渉する権限を有しているぞ»

「あの。。。直政君。。。?」
動けるようになったエヴァが口を開けて“ぽかんっ”と目の前の光景に立ちすくむ

「5次元? この4次元をさらに切断した世界ですか?」
«ふむ 人間の矮小な脳で理解するのは無理かもしれんが、我の管理する異世界では
【パラレルワールド】と呼ばれている»

「異世界?パラレルワールド?ですから古龍様の言葉には、イメージとか聞き慣れない言葉が出てくるのですね!?」
完全に置いて行かれている エヴァ

«その事は、まぁよい では直政 天女の夫を助けるとするか、奴に死なれても困るのでな»
「直政君を名前呼び!? 私には、お前とか天女としか言ったことがないのに!?
お玉様!酷いと思いませんか!?」
手渡された玉龍に縋るように話しかける エヴァ


瘴気の渦巻く球の中で、大天狗の変幻も解け 本多忠勝の姿で魏頭魔と戦い続ける
ときおり飛来するナーダの爪の攻撃に体中を貫かれ、再生速度が明らかに遅くなっている事に焦りを募らせる 忠勝
「ここから、なんとか脱せねば これ以上失態を晒すわけにはいかん!」

地上より発せられる、井伊直政のこれまでとは異質な魔力を感知したナーダ
脳裏を一抹の、いわゆる嫌な予感がよぎる

「そろそろとどめを刺して置くか」
独り言ちると、魏頭魔に囲まれた本多忠勝の背後へ瞬間移動で現れる
忠勝の後頭部へ腕を伸ばす ナーダ

「これを待っていたんだ!」
身を屈め、蜻蛉切りに残されていた神威を取り込み一瞬で大天狗へと変幻すると
身を翻し、背面へ向け脇に挟んだ蜻蛉切りを横に薙ぐ 
それに反応していたナーダが一歩後退るが、左腕の肘から先が瘴気の立ち込めた空を舞う
一歩踏み込み、肩でナーダの上体を押し上げると下段から残された力で穂先を跳ね上げる
一匹の魏頭魔を巻き込み切断すると、ナーダの腰に刃が喰い込んだ その時
ナーダの右手で胴金をがっしりと掴まれ 忠勝の変幻が解ける
すでに再生された左腕で忠勝の首を鷲掴みにすると、魔王の息吹を至近距離から放つため
顎が、がくりっと落ちる
その刹那、ナーダの目の前の空間が歪む そう認識した時には、すでに忠勝と己の手首から先が消えている事に気づく

「旦那様!!」
「ぷっは〜っ〜っ! ようやく息が出来ました!!何が起きたのだ!?
任せておけと言っておきながら、助けてもらうとは。。。面目ない。。。」
気恥しそうに肩を落とす 本多忠勝

「直政君と古龍様が助けて下さいました」

「それは、ありがとうございました しかしながらなぜ自分がここに居るのか?
どうやって助けられたのかが解っていないのですが?」

「それは、僕の精霊ハロルの能力で時を止めて、ここから忠勝さんが居た場所までの空間を時の宝戟を使って切り裂きました 次の次元を越えて、草薙剣でナーダの手首を切り落とし、忠勝さんを担いで、次元を正常に戻しただけです 僕の力でナーダの手首を切り落とせるなんて、草薙剣と古龍様の力は凄いです!」

「いや。。。直政君、君が凄いと思うんだけど。。。ねぇ!?」
隣のエヴァに同意を求める 忠勝

「ええ 目の前で見ても何がどうなっているのか私も理解できていませんので、大丈夫です 旦那様」
忠勝の足元に落ちていたナーダの手首が砂のように崩れ、風に乗り消えていく


しばらくの間、切断された自分の手首を眺めていた ナーダ
どのように切断されたのか? どのようにあの男を奪われたのか?
全知全能の神竜を凌駕したはずの自分にも理解が及ばない現象
地上にいる、あの子供が時を操るという確信はあった しかしこれまで見てきた現象では
この距離を詰め、男一人を攫うほどの驚異では無いと思いこんでいた 認識を改めねばならない
失われた手首が再生する その手首から、たった今起きた現象の記憶を探る
切断された時の衝撃、この世界ではない次元に入り、この世界に戻った!?
「次元を越えただと!?」
母竜の記憶から、この世界とは異なる別の次元が存在する事は理解していた
しかし、生身の生物の身で、別次元の世界に干渉することなど不可能だと思っていた
あの能力を是が非でも手に入れたい物だ。。。この世界を喰らい尽くしても、また別の次元で戦い喰らい尽くすことが出来る 素晴らしい!なんと心躍る考えだ!!
あの子供を喰らえば、あの力が手に入るのか?

瞬間移動を使い エヴァ達3人の頭上に現れる ナーダ
すぐさま大天狗へと変幻し蜻蛉切りを握りしめる 忠勝
直政を背に庇うように、玉龍をナーダへと向ける エヴァ

「1つ提案がある」
頭上のナーダから、重々しい声音で話し掛けられる

「提案?一応聞いておきましょう」
エヴァがナーダを見上げ 応える

「天女よ お前の伴侶との戦いは見ての通り、いつ終わるとも知れないものとなるだろう お互いが不死身で魔力が枯渇することも無いのだからな そこでだ、お前達が日の本と呼ぶこの国を見逃してやってもいいと考えている この国の生物には一切手を出さぬと言うことだ その代わり、お前の後ろにいる子供を我に捧げよ」

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