第29話 関ケ原にて待つ!

文字数 3,507文字

二の丸の東端に増築された 天女専用の私室
徳本先生の「天女様がゆっくりお休みになれる部屋を差し上げたいのう」という呟きを聞いた
大工仕事の腕に覚えのある兵が、あっという間に数百人集まり
武田信玄と徳川信康の許可を得て 徳本先生のわしの部屋も隣に。。。という案は、却下され
わずか2週間で作り上げてしまった

工期は早いが 意匠は見事なもので 中庭と専用庭の仕切りとなる竹垣にも趣向が凝らされ
最上級の畳20畳を敷き詰めた居間に12畳の寝室 庭園へと降りる縁側には、
樹齢500年以上のヒノキの一枚板を使用
専用庭園には露天風呂に鯉が数十匹も放たれた池まで備える
襖、掛け軸には狩野派の絵師を呼び寄せ 襖には、ため息が出るほどに見事な[四季花鳥図]を
そして掛け軸には、天女様を題材とした[白衣観音像]を仕上げていった

完成後、天女様の希望で出入りのポルトガルからの宣教師に頼み ペルシャという国の絨毯を居間に敷き詰め
オランダで製造されたテーブルと椅子を運び込み ポルトガル製の巨大な寝台を寝室に設置
中庭には竹細工職人を集め 居間のテーブルと椅子を模した物を数台設置した
出来上がった 天女御殿を見て武田信玄が「これだけで城が一つ建つんじゃけど」と言ったとか言わなかったとか

その完成したばかりの中庭に大樹寺での葬儀を終えた武田信玄とその重臣たち
上杉景勝などの主だった弔問客たちが徳川信康、武田信玄、細川藤孝に挨拶をと集まっていた

「これは、美味しいです! クジラというお魚ですか? お魚というより獣の肉のような野性味が溢れていますね」

「天女様は、お目が高い!これは、我が領土 南房総で捕れたクジラを醤油ダレで漬け込み天日干ししたものですな
言わばクジラの干し肉です ちなみにクジラは魚ではありません 卵を産まずに出産して授乳しますからな
こいつは、久々に20メートルを超える大物でした」
がっはっはと意気揚々と答える 安房6代目当主 里見義弘

「さっさ こちらの塩漬けの方も お召し上がりください」がっはっはっは

「天女様 そのような下品な物でなく 拙者が天女様のために持参しました こちらの笹巻きをお召し上がりください」 最上家が重臣 氏家定直が里見義弘と天女の間に割って入る

「何が下品じゃ! そう言えば お主のところでは、もち米を蒸した物をクジラの形をかたどって、クジラ餅などと言って喜んでいるらしいの クジラが捕れるのが羨ましんじゃろう」がっはっはっはっは

「あら こちらの笹巻きですか?正月に頂いたお餅に似ていますがぷるぷるとして 食感も楽しく美味しいです!」

「そうでございましょう! もち米を笹で包み 灰汁の上澄みで茹であげますと、このような食感と透き通るような黄色に仕上がるのです そちらのきな粉をつけて頂いても美味しいです」

「あっ本当ですね これも美味しいです!気に入りましたヒック」


「天女様お初にお目にかかります 伊達家より遣わされました遠藤基信21歳未だ独り身でございます
天女様 お口直しにこちらをお召し上がりください 松島で取れたヒラメを使った笹かまでございます
クジラだのもち米などの下賤な物でなく 高級白身魚ヒラメをふんだんに使った上品な一品にございます」

「ほぅ〜見た目も可愛くって上品ですね どれっヒック確かにこれは、外側はサクッとして中はぷるぷる
このヒラメという白身魚も味わい深いです どれも美味しくって甲乙つけがたいです ヒック」
心から幸せそうに微笑むエヴァに完全に不抜ける面々

「天女様 上杉景勝にございます 我が領土越後と言えば米どころ その日の本一の米から作った、
先ほどから天女様に飲んで頂いている 地酒ですが気に入って頂けましたでしょうか?」

「「「「「「「えっ!! 地酒!!??」」」」」」」

「お前なんてことを!!」ルイがいち早く竹垣を飛び越え避難する
すでに髭を捕まれ 捕獲されている徳本先生 

「おい! お前ら上手いものを食べさせてもらったお礼だ 飲め! ほらぼやっとせずに飲め!!」

「はっ 頂きますが 武田も徳川も家臣の皆さんは、どちらへ?」

「厠(かわや)だ! 気にするな 飲め! そして唄え!!」 

「おい!遠藤基信21歳未だ独身 飲んでおらんではないか!」

「いえ 頂いております」

「口だけでなく鼻からも飲め!!」キャハハハッ

これを見ろと4人の前に右手の拳を差し出し 3人の鼻先で握った手を開く
すると開かれた手の平から一斉に雀蜂が飛び立つ

「一番飲んでいない者に襲いかかりますよ!」キャッハハハハッ まさに地獄絵図である
それを櫓から見ている武田、徳川の面々

「天女様が眠るのを待つよりないのう。。。」

「あいつら。。。わしらに挨拶に来たんじゃなかったか??」

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

5日間に及ぶ 大樹寺での徳川家康の葬儀は、弔問に訪れる人々が後を立たず
内外に武田、徳川のこの国での影響力を誇示する形で終わった


岡崎城 本丸 大広間

「此度は、我が殿の葬儀をこれほど立派に執り行えたこと我ら一同、心より感謝致しております」
筆頭家老である、酒井忠次が上座に座る武田信玄に頭を下げる

「わしは、ちょこっと力を貸しただけじゃ その方らと家康殿の人徳じゃよ」

「この国における、武田信玄公のお力の強大さに感服いたしました 今日より我ら一同 武田家の末端として
親方様と呼ばせて頂く許しを頂けましたら 恐悦至極にございます」
一斉に平伏する 徳川家臣団

「それはならん!」 静まり返る 大広間

「その方らの気持ちは嬉しい それは真じゃ しかしのお主らの主君は、わしに降ってはおらんぞ
共に東国に幕府を興そうと語り合ったのじゃ わしも家康殿も源氏の嫡流として 東国に幕府を興す願い
お主らの当主である 徳川信康殿と共に叶えたいと思うが。。。どうじゃ?」
平伏したまま聴き入る一同

「それが叶いますのでしたら これほどの誉れは御座いませぬ」榊原康政が口を開く

「信康殿は、まだ若い お主らがしっかりと支えよ まずは尾張 織田信長を討ちに行くぞ!」
そう言うと、立ち上がり奥の間へと消える 信玄  真田幸隆が話を繋ぐ

「これより2日後 鳴海城へ向け 出陣いたします ご存知のように相模、駿河、遠江、三河より続々と
鳴海城に集結しており 甲斐、信濃の武田軍は、東美濃の岩村城を目指しております 加賀の朝倉も2万を率いて、浅井長政の小谷城に向かっていると報せが入っており 時を合わせて尾張討伐に動きまする」

「いよいよでございますな!」


奥の間にて武田信玄を待っていた 細川藤孝
「細川殿 聞いての通りじゃ」腰を下ろすなり 言い放つ信玄

「東国に幕府でございますか? 鎌倉幕府の再興と言うことですか。。。足利義昭を滅ぼすと?」

「お主は、このまま将軍義昭公に就くもよし わしの下に来るというのなら歓迎するぞ それと義昭公を滅ぼすつもりは無い」

「それは、放っておくという事ですか?」

「討てというのなら討つが、その必要もあるまい 顕如を通じて朝廷に従三位、源氏長者を承れるよう打診しておる 義昭公と同じ官位で源氏長者であれば東国に幕府を興すことも無理な話ではあるまい 真に強い武士の幕府を作るとなれば 朝廷もわしか義昭公かどちらに肩入れをするか お主ならわかるじゃろう?」

「織田信長を討ったとなればの話ですな まぁ 負けるとは思えませんが」

「そういう事じゃ 上杉、毛利あたりが騒ぎそうじゃが 後の祭りという奴じゃな」

「そういう事でしたら、私からも朝廷に上申しておきます その代わり将軍義昭には手を出さないと言質を頂きたい」


京へと帰って行く 細川藤孝を見送り 一息をつく信玄

「お疲れ様でした 親方様」

「天女殿 どうじゃったろう?」

「素敵でした 親方様! あの“それはならん“!と一喝されるところ 痺れました」うふっ

「そうかの〜 ちょっとやりすぎたかと思ったんじゃけど」照れくさそうに笑う 信玄

「あの後の、皆さんの尊敬の眼差し 感動しました」うふふっ

「細川藤孝の前で、東国に幕府を興すことを宣言して将軍義昭公の耳にも入るのではないかのう?」

「そうですね〜 入っても問題ありませんけど あの人は、言いませんよ もうすでに見限っていると思います いずれ親方様に取り入ってきますから 安心してください」

「天女殿が、そう言うのならそうなんじゃろうな」



小谷城 浅井長政居室

「殿! 伝書鳩にて武田より文が届きまして御座います」

《朝倉軍が到着次第 出陣し関が原に陣を張り織田を迎え撃つべし 関ケ原にて待つ》

「関ケ原にて待つ? 援軍が先に待っているということか?」


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