第52話 天女教

文字数 3,509文字

早朝より京の市中いたる所に立てられた、立て札
〈本日、昼過ぎより丸太町周辺 及び二条城跡にて再建工事を行う 地鳴りが起こるが地震では無いので取乱さぬように 尚、5000戸の住居を建設予定である 入居を希望する者は、京都東御役所まで〉
立て札を見た人々が何事が起こるのかと、焼け野原となった丸太町を遠巻きにして見物している

「ルイ殿、久しぶりですな。。。まさか京の町がこのような事になり、本能寺までが焼け野原になるとは。。。本当に信長様は、お亡くなりになったのでしょうか?」
羽柴秀吉が呆然とした様子で聞いてくる

「ああ残念だが、この焼けた範囲に居たもので助かった者はいないんだ 岐阜城までもが
燃やされて織田は、重臣の殆どを失ったようだな」

「場合によっては、我ら兄弟もここに居たのかもしれなかったのですな。。。」

「鳴海城の時のように、この一帯をぱっぱと作るから またあの時のように頼むな!」

「ルイ殿 任してくだされ!!」

《よ〜しルイ、そろそろ始めるか 二条城の地面を掘り進めて、土砂をこっちまで飛ばしてくれ》

《わかった いくぞ!!》
目を閉じルイの体が紫色の光に覆われ、その光がルイを中心に渦を巻く 地面に両の手の平を翳す
土魔法により固まっていた地面の土が撹拌される
ごっごっごっごっごぉぉぉぉぉっ!!!と重い音が地中より鳴り響き まるで火山の噴火のように
地中にいた土砂が行き場を失ったかのように真上へと爆ぜる
地震のように地面が縦に揺れ、遠巻きに見守っていた観衆から驚きの声が挙がる
その吹き上がった土砂を風魔法に乗せ50メートルほど離れたブルートの元へと積み上げていく
その土砂を粘土質へと変化させ、幅6m厚さ30cmに均し東に向け、どんどんと伸ばしていく
2階建て長屋の土台となる部分だ きっちり40mまで伸ばすと間口4m奥行き6mの長屋住居10軒分の土台が出来上がる 
3mの通りを挟んで、その土台と平行にもう一本の土台へと取り掛かる ブルート
完成した土台に羽柴秀吉土木部隊、改め[羽柴組]が群がり排水用の竹を加工した管を埋めていく

「そっちの端、もう2度傾斜をつけるぞ!」

「おい! そこの継ぎ目、もう少し粘土で補強しておけ!!」
元兵士とは思えない練度で工程を進めていく 羽柴組

500戸分の土台が出来上がった所で、ルイとブルートの魔力が残り僅かとなり休憩となる
この異様なまでの土木作業を見守っていた観衆から
お茶やお菓子が差し入れられ 羽柴組の面々が汗を拭う

「戦でなく、こんな作業で汗を流すのも良いもんだな〜 お茶と甘味が沁み渡るな」

「んだな〜 オラたちが民から感謝されるなんて、初めての事かもしんねぇ」

これから連日、常軌を逸した土木作業を見るために、大勢の民衆が押し掛ける事となり
ルイやブルートだけでなく、羽柴組の名が広く知れ渡ることとなり 土木建築の職人集団として日の本一
となるのは、もう少し先の話


鳴海城 北曲輪
毎日、朝9時から夕方6時まで北曲輪の一角が城下町
及び近隣の町村の民に開放され 無料で食事が提供されている 
その食材はというと、併設された天女堂にて毎週日曜日に催されている、天女の奇跡に触れた者達からの寄付で賄われていた
さらに老若男女を問わず 読み書き、算術を教える為の教室も毎日開かれており
付近の住民からは、鳴海城でなく天女城といつからか呼ばれるようになっていた

「天女様、お久しぶりで御座います」
井伊直虎、直政親子が頭を下げる

「はい お久しぶりです 遠い所を来ていただき ありがとうございます」

「とんでも御座いません 天女様がお呼びとあれば、例え地の果てまでも駆けつける所存に御座います」

「今日来ていただいたのは、この国の子供たちに私達の法術を伝授する学舎を作ろうと計画をしていまして 直政殿にその素養があるのかを確かめたいと、お呼びしました」

「えっ!? 天女様の奇跡の術を直政にですか!?」

「はい その素質があればですが」

鳴海城 北曲輪·風組教室
「はい、今日のそろばん教室はここまで 明日も同じ時間に、この教室で九九の勉強をします遅れないように それと5歳から13歳までの子供達と保護者の方が居れば残ってもらえるだろうか?」
算術の教室に残った6人の子供達と、その保護者

「では、一人ずつこの石を握って貰えるだろうか。。。権蔵 お前からな」
6人の中で最も年長の男の子に殺生石の欠片を握らせる 山県昌満
無反応。。。2人目。。。3人目。。。4人目。。。5人目と殺生石に反応は無く
最後の1人、もっとも年少の女の子に殺生石を握らせる 
閉じられたか細い指のすきまから、ぼーっと桃色の光を発する殺生石

「お〜 千代じゃったな 今日は、母上と一緒か?」

「いえ 奉公人のトメと来ております」見た目よりも、大人びた物言いをする

「そうか 千代は、城下の酒問屋の娘じゃったな 年はいくつになる?」

「はい 父上は酒問屋“大谷屋”を営んでおります 千代は、8歳になりました」

「そうか 千代お前には、特別な才能があるようだ 明日も必ず来るのだぞ」

「はい 先生の授業は欠かさずに出席するように父上から言われておりますので」

「ふむ そうか、また明日な」 奉公人のトメと共に教室を後にする千代

鳴海城 大食堂
「天女様、こちらに居られましたか」

「久しぶりですね 昌満殿も食事ですか?」

「いえ 授業が終わりまして、天女様を探しておりました」

「それは、お疲れさまでした 昌満殿の授業は、解りやすいと評判ですよ お雪が申していました」

「ありがとうございます 私は父·昌景のように武の才が無く、子供の頃より勉学に励んでおりましたので
このようにお役に立てて本望にございます それよりも、今日だけで30人の子供達に石を握らせたのですが
この石が光る少女が1人居りました」
「本当ですか? それは何色に光りましたでしょう?」

「桃色に光りましたが。。。」

「この石には、ブルートの鑑定魔法が込められており、色によって属性が解るのです」
手を伸ばし、殺生石をエヴァが受け取ると眩いばかりの銀色の光が溢れる

「おおー」あまりの光量に目を覆う 昌満

「その少女は、神聖魔法の素質があるようですね、ご両親に会わなければなりませんね
明日にでも同行していただけますか?」

          〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

鳴海城から徒歩20分ほどにある“大谷屋”の暖簾を潜る
「いらっしゃいませ これは、山県先生! ようこそいらっしゃいました。。。まさか!天女様!?
このような汚い所に あわわわっ あ、貴方!! 天女様が〜〜!!」
千代の母親のお月が腰を抜かしながら、出迎える

「なんだお前は、店先で大きな声を出して お客様に失礼だろう てってってっ天女様!! あわわわわわっ
はっ早く 奥にお通ししろ」

「腰が抜けてしまって。。。」

「わしもだ。。。」

「見苦しいところをお見せしてしまい 申し訳ございません おいお前 お茶を」

「はっはい 粗茶ですが」 カタカタカタカタカタッ
震える手で お茶を注ぎ急須が湯呑に当たる

「落ち着かれよ 今日は天女様より、その方等に頼みがあって参った」

「はい どのような事でも天女様の意のままに」
深く深く平伏する2人

「実は、ご息女の千代ちゃんに私と同じような素質があることが解りました」

「へっ!? 天女様と同じ。。。へっ!?」

「はい そこで千代ちゃんを私達に預けて頂きたいのです 預けると言っても近くですから毎朝迎えの者を寄越しますので 夕方まで学問、法術、体術を修めて貰うことになります」

「はい 何卒宜しくお願いします」 さらに深く平伏する2人

「えっと。。。そんなに簡単に決めて良いのですか? 将来、危険な戦場に従軍することになるのですよ」

「千代は、私共が子を諦めかけていた時に、ようやく授かった。。。それはもう目に入れても痛くないほどの愛情を注ぎ育てた娘です しかし昨年から原因不明の発熱と頭痛に悩まされるようになり、床に伏しがちになりまして医者にも看せましたが、原因が解らず 日に日に痩せていく娘を見守るよりありませんでした
藁にもすがる思いで評判になっておりました天女堂にて天女様の奇跡に触れさせて頂き 嘘のように元気になったのです ですから天女様に救われた命なのです それが天女様の。。。この国のお役に立つのでしたらこれほどの誉れはございません」

「なるほど 日曜日に来られていたのですか。。。」

「はい毎週欠かさず 一族総出で通わせて頂いております」

「今度、歌でも披露しますかね。。。? どうでしょうか?」

「お〜それはもう信者一同、喜ばれると思います!!」

「信者!?」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み