第127話 酒呑童子覚醒!

文字数 2,994文字

エヴァの言葉を信じ、躊躇うことなくスキルを発動する 井伊直政
「時の精霊ハロルよ!お願いだ!!僕と天女様にハロルの加護を!!時間停止!!」
エヴァの後方を肩越しに見ると、瞬間移動の出口が、開こうとしている
エヴァの手を取り、距離を作り反転させ 自分の行使できる最大の攻撃魔法“凍える槍”
を出口に向かい発動し、時が動き出すと同時に着弾するよう 留めておく
エヴァの顔を見る ぴくりっと瞼が動くのを確かに見た そしてエヴァの両手には
何かの魔法の発動する準備を終えているのか、高い魔力の集約が感じられる
「直政君、ありがとう」
時の止まった世界でエヴァの声を聞いた 

“時が動き出す”

出口から夜叉の体が押し出る 夜叉の般若の眼が驚きに見開かれ
右肩を直政の放った“凍える槍”が貫く 
エヴァから、内部を液体で満たされた球状の結界が放たれ 夜叉を結界内に捕える
「やりました!天女様!!」

「はい 直政君のお手柄ですね」

「お前たち、こんな物で俺を捕らえたつもりか?」
結界を破ろうと、瘴気を纏っていた右手に力を込める 夜叉

「無駄ですよ その右手は、腐食ではなく強酸による攻撃だったのですね 直政君の傷を見て気付きました その結界内は安水で満たされています 貴方の強酸は中和されます 諦めて死んで下さい」
玉龍を夜叉に向ける「重力魔法【圧縮】!!」

『フォゴ!ナーダ!俺を助けに来てくれ!!!!!!!』

ネボアから北東に4kmの地点
ネボアの信号を受けたフォゴが“ギエエエエエエエェェェェェェェェェェェッ!!!!”
甲高い咆哮を上げ 全身が獄炎の炎に包まれる 一拍の溜めの後、赤き竜の覇気で
行く手を阻んでいた鬼蜘蛛の巣を一瞬で焼き切ると、南西に向かうため翼が大気を打つ

「信忠!ネボアの所へ向かわせてはいけない!!止めるぞ!!」

「はい!ブルート先生!!」
フォゴの進行方向に居た、この戦いで6体目にもなるゴーレムがフォゴの上空から手足を大の字に広げ飛び掛かる 
翼の根本に手を掛けたゴーレムが、振り落とされないよう必死にフォゴの背にしがみつく
地上を駆ける織田信忠が、息を切らしながら精霊ノームに語りかける
「土の精霊ノームよ ゴーレム巨大化!!」
フォゴの背中に乗ったゴーレムの四肢が伸び、フォゴにしっかりと絡みつく 厚みを増したゴーレムが翼の動きを阻害しフォゴの高度と速度を下げる
魔力の切れた信忠がその場に膝を付き フォゴを見上げる

「良くやった信忠 後は、なんとかするから、そこで休んでいろ」

「はい ブルート先生 お願いします!」

唯一、自由な尻尾を使い、ゴーレムを引き剥がそうと鋭い尾の先をゴーレムの背に突き立てる 
そうは、させまいと黒蜘蛛の糸に風魔法を纏わせ、音速の糸を地上からフォゴの尻尾に
絡みつかせると“シュルシュル”とそれを引き戻し、高度も速度も落ちたフォゴに飛びつく
ー『信忠には悪いが、重石にさせてもらう』ー
フォゴの周囲を飛び回り、火炎耐性を持たせた鬼蜘蛛の糸でゴーレムとフォゴを縛り付けていく
そしてゴーレムに手を触れ「重力魔法【超重力】!」フォゴの背に数十倍になったゴーレムの体重がのし掛かる “キエエエエエエエェェェェェェェェェェェッ!!!!”
みるみる高度を下げていく フォゴ
その時、ブルートの視界が真紅に染まる、赤き竜の覇気をまともに受け吹き飛ばされると
地上に叩きつけられる ブルート
上空を見上げると、赤き竜の覇気で燃え盛るゴーレムの残骸が地上へと落ち 
南西に飛んで行く フォゴの後ろ姿を見た
「エヴァ。。。すまない、逃げてくれ!」薄れゆく意識の中、念話を飛ばす ブルート



時は少し戻り
黒き竜ナーダ対アランとルイの戦い
酒呑童子の妖力を譲り受け、童子切安綱の複製を100本以上も空中で滞空させ
その一本一本を意のままに操る事が可能となった ルイ
その童子切安綱の複製に乗り、宙を縦横無尽に駆け回り 殺生石を指弾で飛ばし
至近距離からナーダに向け“幻影散棘”を飛ばす

一方のアランは、ベヒーモスの尾を錬成した防具に身を包み、鬼切りを錬成した伸縮自在の蛇腹の鎖の付いた鉄槌で高空に居るナーダに打撃を与え続ける
この世界に来て、魔力量も魔力操作も格段に上昇した2人は、歴代のS級冒険者をも
はるかに凌駕した、戦闘力を有していた

しかし、2人が相手にしている“黒き竜ナーダ”は、地上最強と言われたベヒーモスの上位種であり
更にそこから亜種へと変化し魔獣という括りからも完全に逸脱した存在と化し
どれだけ斬撃を与えても、どれほどの打撃を与えようが“黒き竜の覇気”で完治してしまう
じわじわと魔力を削られていく ルイとアラン
突然、ここまでは、お前らと遊んでやっていたのだと言わんばかりに、ナーダが牙を剥く
胸の前で腕を組み 無造作に垂れ流していた魔力を、凝縮させ 自分の表皮に纏わせると
ナーダの身体を包み込むように黒い魔力が、ゆっくりと渦を巻く
「アラン。。。とてつもなく嫌な予感がするぞ」
ナーダから距離を取り、地上のアランの近くに着地する ルイ
「ああ。。。俺もだよ、ルイ」

その時、エヴァが念話で呼び掛けてくる
「ルイ!アラン!聞こえますか?」

「ああ。。。エヴァ聞こえるぞ。。。」

「黒い竜は、闇属性の腐食魔法を使う可能性が有ります 注意して下さい」

「それは、厄介だな!今のところ、雷魔法しか使っては来ないけどな 気をつけるよ」

「そちらの状況は、どうでしょう?」

「エヴァがネボアを倒すまでの時間稼ぎだ 楽勝だよ こっちの事は心配するな」

「ルイ。。。本当に無理はしていませんね!?」

「ああ 忙しいから、後でな」


「アラン聞いたか? 腐食魔法だってさ、悪い冗談だよな?」

「ああ。。。エヴァの回復魔法でも、治癒できないからな、本当なら絶対に避けねば」

「アラン!!来るぞ!!」
上空で、腕を組み2人を見下ろしていたナーダの身体が、左右にブレると、その場に残像だけを残し、肉眼で捉えるのが困難な速度で2人に迫る

「アラン!!後ろだ!!」
ルイを守ろうと、左手のタワーシールドを突き出していたアランの右手首を掴む ナーダ
鉄槌を手放し、力任せにナーダを振り払った瞬間 ルイが縮地術でアランを肩で抱え
ナーダの前から、離脱する

「ルイ。。。奴の動きが見えていたのか?俺には見えていなかった。。。」

「そんな事より、腐食魔法は本当だったようだ」
アランの掴まれた手首から、肘へと向かいジワジワと黒いシミが侵食していく

「ルイ。。。やってくれ」 苦痛に顔を歪める アラン

「アラン!ごめん!!」 童子切安綱を振り下ろし、アランの肘から先を切断する ルイ
地面に落ちた アランの腕が、見る間に黒く染まり肉が腐り落ちる

「アラン、全力で逃げてくれ 奴はなんとか食い止める」

「ルイ。。。すまん 足手まといになってしまったようだが、俺の事は気にするな」
傷口を火魔法で焼き、止血をすると アランの肩に手を置く ルイ

「アラン 俺がもう少し時間を稼いで見せる 頼むから身を隠して居てくれ」
そう言うと、アランに背を向け ナーダに向かい歩み出す ルイ

「酒呑童子よ 聞こえているんだろう? 俺に力を貸してくれ!!」

「よかろう 今夜から酒樽を倍で頼むぞ!」
“ギシッ!ギシッ!”と音を立てて ルイの背中が肩が、すべての筋肉が盛り上がっていく
蒸気を上げながら、身体全体が朱色に染まっていき ルイの足元から竜巻が巻き起こる
「ああ 約束するよ」



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