第64話 山本管助の失態

文字数 3,632文字

下鴨神社 
「ブルート エヴァから明日にも帰ってくると連絡があったぞ」

「目的の物は、手に入ったのかな? ベヒーモスを倒す切り札になりうると言っていたが気になるな」

「俺と、この“童子切安綱“で今度こそ奴の息の根を止めてやるけどな!!
この太刀に宿っている“酒呑童子“の事がわかってきたんだよ わかってきたというのと違うな。。。
感じられるようになってきたんだ」

「“酒呑童子”か、この国でも最強の鬼だと聞いているが、鬼というのは、前の世界で言うとワイトのような
実体のある死霊系のような者なのか?」

「死霊系とは違うと思うな、気を抜くと憑依しようとしてくるのは似ているが、前の世界には居なかった種族だな お玉様が言うには、邪神といって罪を犯し地上に堕ちた神だそうだぞ」
ルイの足元で寝ている妖狐がぴくりっと片眼を開け ふんっと鼻を鳴らす

「憑依って。。。制御出来ているんだろうな? 取り憑かれるとか辞めてくれよ」

《この鬼はね、いやこの世界の(あやかし)すべてが、あたしと同じように本能で、あの火竜を嫌っているんだよ 憎悪していると言ってもいいね だから火竜を倒せるかも知れないルイを気に入ってるよ ルイ、あんたも出来る事が増えているだろう?》

「お玉様〜皆を驚かそうと思っていたのに〜 まずはブルートだけに見せてやるよ “部分融合”」
両手で太刀を持つルイの腕が瞬時に倍ほどの太さとなり鋭い爪が伸び、肘からも短刀のような刃が突き出す、手先から肩までが赤黒く変色し太くなった動脈が浮き上がり脈打つ

「ほぅ 憑依されるのではなく、鬼の力を取り込んでいるのか。。。」

「まだ長時間は制御出来ないが、筋力だけでも数倍の出力になってるな 何より凄いのは硬度だけど金剛石に匹敵すると思うぞ これならベヒーモスの鱗も貫ける!!」

「金剛石の硬度で、その爪に肘の刃か 凶悪だな」

「そしてこれが、飛行する敵を討つための術だが 名付けるなら“幻影散棘”《げんえいさんきょく》ってところだな」
そう言うと“童子切安綱”を胸の前に掲げ、土魔法で次々に“童子切安綱”の複製を自分の体を中心にして創り出していく、数十本もの太刀がルイを中心に右回りに回転し 上段に構えた太刀を振り下ろすと同時に風魔法に乗った無数の太刀が、強烈な加速と共に上空へと撃ち出され、尾を引きながら一瞬のうちに大空に吸い込まれていく

「これは、凄いな。。。これほどの魔力の制御が出来るようになっていたとは、正直に言って驚いたよ」
ブルートが太刀が消えていった大空を見上げながら 感嘆の声を上げる

「魔力の上限が上がった事で、繊細な制御が出来るようになった気がする」

「それは、言えるな 俺もこんな事が出来る様になったしな」
両手の平を突き出し、すべての指からスルスルと黒い糸が伸びていき その一本一本の糸が意思を持っているかのように絡み合い、太い綱になったかと思うと横に広がり巨大な蜘蛛の巣を上空に浮かべる 
ブルートの十指から伸びた黒い糸が、わずかな指の動きに合わせて波打ち、伸縮しあらゆる敵を絡め取ろうとする様を容易に想像できる

「この糸に雷を流したり、凍らせる事も出来るな」

「さすがブルート!器用なものだな、これならベヒーモスを捕獲するのも可能だな」

《あんた等の方が、化け物に思えてきたよ》口角を上げて 妖狐が笑う


御嶽山 火口
ルイやブルート、天武の子供達が成長するように 
ベヒーモスの子供達も順調に成長していた 人間ほどだった体躯も倍ほどに大きくなり
後ろ足で直立出来るようになり、時折だが体躯に比べると頼りないほどに小さな翼を羽ばたかせるようにもなった 母親譲りの赤黒い体表にも赤い筋が浮き上がっている
しかし母親と異なるのは、前足が小さく長いカギ爪が4本伸びており尻尾も太く長い
おそらくこれが、ベヒーモスからバハムートへの正常な進化なのだろうと母親は理解していた そして最後に孵化した見えない我が子も母親の魔力を喰らい 順調に成長していることも。。。感じる事ができる

        〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

摂津国 若江城下 とある“めし処”
「おいおい 何やら騒がしいな」「キリシタン狩りだとよ」

「そんなもん どうやってキリシタンを見分けるっていうんだ!?」

「なんでも、奴らの神様が描かれている絵を踏めない者が、信者だとよ」

「なんじゃそりゃ!? 信者だろうがなんだろうが絵を踏みゃいいだろ??」

「ところがキリシタンってのは、絶対に踏めないんだとよ すでに何人かお縄になってるらしいぞ」

「はっ!? なんだそりゃ俺なら母ぁの顔でもなんでも、いくらでも踏むがな!!」

そんな男たちが会話する、隣の席で昼食を摂っていたエヴァ一行

「弥助、貴方はキリシタンですか?」小声で聞く エヴァ

「はい 先祖代々生粋のキリシタンです」

「その、あなた方の神、イエス様が描かれた絵を踏めと言われても踏めないですか?」

「それは、絶対に踏めません!!」

「踏まねば殺されると言われても??」

「はい 信者のほとんどは、死を選ぶと思います」

「それほどですか。。。それは、それで問題だと思いますが 助さん!」
急に名を呼ばれ 飲んでいたお茶を咽る 山本管助

「天女様、なんでしょうか?」

「この国には、信仰の自由というものは無いのでしょうか?」

「それは、非常に繊細な問題なのですが 南蛮人の貿易の条件に布教活動も含まれているのです 
ですから貿易を続けたい朝廷や旧幕府は、宣教師の布教活動を黙認していたというのが現状です 
これから将軍·武田信玄公も頭を悩ませる事になるでしょう」

「つまり基本的には、信仰の自由は認められているということですね?」

「そうなのですが。。。各領主に判断を任されているとも言えまして ここは三好義継が収める地なのですが、若江三人衆と呼ばれる家老衆の1人多羅尾綱知というものが大の付くキリシタン嫌いでして
おそらくその者の政策だと思うのですが」

「さすが助さんですね よく勉強されています」

「はっ 真田幸隆様のもと、日々精進しております」

「では、この目で確かめるとしますか!」

若江城下の中心地である、若江鏡神社の門前にて踏み絵は行われていた
視覚と聴覚を強化し、離れた場所より、その様子を観察する

小さな女の子を連れた、若い母親が踏み絵の前に引きずり出される
「踏むのだ! 女!!」
踏み絵に描かれたキリストと女の子を交互に見る母親 その顔には苦悶の表情を浮かべ
跪き女の子を抱きしめ 何度も「ごめんね ごめんね」と繰り返す
そして徐ろに振り返り、踏み絵に口づけをする

「キリシタンだ! この女を引っ捕えよ!!」後ろ手に縛り上げられる母親
その足元にすがり付き、泣き叫ぶ 幼い女の子 その女の子を背後から大きな影が包む
2m近い黒人の大男が胸に大きな十字架を垂らし 気配もなく女の子の後ろに立っていた
一瞬 唖然として立ち尽くす役人達 若い母親に縄をかけていた役人の襟首を持ち後方へと放り投げる 弥助

「無礼者!! 引っ捕えよ!!」10人もの役人が弥助を囲む

「勝さん、助さん、怪我をさせない程度にお相手して差し上げなさい」
意地の悪い笑みを浮かべる エヴァ 無手で役人達を地面に叩きつける 弥助と本多忠勝
敵わぬと覚り 加勢を呼びに走る役人が1人 役人の持っていた縄で、動けなくなった役人を縛り上げていく

「お主ら、全員キリシタンじゃな!! 成敗してくれる、そこになおれ!!!!」
30人を超える帯刀した役人が一斉に太刀を抜く ほど近い、若江城内より駆けつける役人たち

「天女様、あの一番後ろで騎乗しているのが、家老の多羅尾綱知です」

「なるほど、あちらも本気のようですね 勝さん、助さん、殺さない程度にお相手して差し上げなさい」
千切っては投げ、千切っては投げ、動かなくなった役人の山を築いていく 弥助
指弾を飛ばし、額に大きなたん瘤を作り気を失わせていく 本多忠勝

「お主ら、このような事をしてただで済むと思っておるのか!! このわしを誰だと思っておる!!」 
ただ一人残され顔を真っ赤にして喚き散らす 多羅尾綱知

「天女様、今ですか!?」菅助が小声で問いかける

「ちょっと待って下さい 皆が気を失っています」
独鈷杵を掲げ、気を失っている者等に回復魔法を掛ける
遠巻きに見守っていた民衆にも、近くへ来いと手招きをする エヴァ

ー『思えば長い道のりでした 旅の最終日にしてようやく。。。この旅の目的の一つが叶うのですね』ー

「助さん、心の準備が出来ました どうぞ!!」
青い顔で、忙しなく自分の体をまさぐる 山本菅助

「助さん! 今です!! どうぞ!!!。。。。助さん?」

「すいません。。。天女様。。。宿に置いてきてしまったようです」
震える声で告げる 山本菅助  その場にうずくまる エヴァ

その後、多羅尾綱知を簀巻きに縛り上げ 若江城内へと殴り込む エヴァ一行
若き城主 三好義継にこんこんと説教をし鬱憤を晴らす エヴァであった


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