第10話 禁忌

文字数 3,672文字

家康と会談する、数時間前の話



この世界に来て初めての朝を迎える

ー『この布団というものは、実に心地の良いものですね〜』ー
冒険者稼業が長いエヴァは、野宿やダンジョンの安全地帯での
毛布1枚での雑魚寝に慣れきっていた。。。 悲しい習性である

「天女様 お目覚めでしょうか? 真田昌幸でございます」
障子の向こうから声が掛かる

「はい おはようございます」布団に未練を残しつつ、半身を起こす

「お館様が、天女様と朝食を共にしたいとの事なのですが いかがでしょう?」

「少々お待ちいただけますか えっと。。。どちらへ伺えば?」

「はい 隣の天守曲輪です ご案内いたしますので お支度が整うまで ここで待たせていただきます 
新しい着物を用意しておりますので女中が、着替えの手伝いに入りますが よろしいでしょうか?」

「寒いでしょうに すぐに支度しますね どうぞお入りください」

「失礼いたします」風呂敷を抱えた少女が障子を開けて入ってくる

「お願いします」エヴァが微笑み軽く会釈をする

「こんなに奇麗な人。。。初めて見た。。。」心の声が口から出てしまったようで、思わず両手で口を塞ぐ
昨夜用意してもらった寝間着を脱ぎ 無詠唱で身体に洗浄魔法を掛ける 洗浄、脱臭が瞬時に完了する
着物の着付けを始めるが、昨日借りた着物と違い 何着もの布地と紐、帯等を少女が手際よく着付けてくれる

「これ、苦しいのですね? どうやって走るのでしょう?」

「走るのですか?」キョトンとした顔で聞き返してくる

「走らないのですか?」エヴァも聞き返す

「走らないですね。。。。」どうやら この世界の女性は
走ったり 戦に出たりはしないようだ

ー『そうか。。。魔法のない世界では、単純に身体能力に劣る女性は、戦力にならないということか』ー
着替えを終え 髪を整え(結っていない、断固として拒否した)

ー『だって重そうだし どうやって寝るの?』ー という理由で

「お待たせしました」昌幸の待つ廊下へと出る 

「お美しい。。。」昌幸も、心の声が出たようである
用意してもらった履物を履く ー『ははっ こりゃ 走れないわ』ー
城内の中庭を抜け 信玄の待つ天守曲輪へと向かう


「天女様をお連れしました」 「お通ししろ」

「おはようございます 昨夜はよく眠れましたでしょうか?」
信玄の隣に座る真田幸隆が聞いてくる

「おはようございます はい とてもよく眠れました」

「天女殿のお口にあえば良いのだが」信玄が気遣う
お膳に並べられた料理を見る 焼き魚に米を炊いたもの漬物に味噌汁、焼き魚以外見慣れない物ばかりだが
冒険者時代の干し肉と乾パンに比べたら 大抵のものは、ご馳走である

ー『実際にどれも美味しい 昨日のほうとうも美味しかったし、この醤油と味噌というものが魔法の調味料ね!!』ー
朝から上機嫌である

「天女殿とルイ殿は、どういったご関係であろうか?」

「付き人ですね」即答である 実際には、同じ孤児院出身の姉弟のようなものであるが

「なるほど あの陰陽師の術は我々でも習得出来るものなのでしょうか?」

「才能と努力でしょうか。。。ただルイに人様にものを教えるような能力は無いと思いますよ」
目に見えて、落胆する幸隆

「天女殿 その。。。 なにか不自由はされておりませぬか?」

「この着物と履物は、とても美しいのですが。。。走れません。。。昨日の着物の方が良かったです」

「いや 昨日の着物は、男物なのです。。。わかりました なにか動きやすい着物を(あつら)えますので 今日のところは、それで我慢して頂けますでしょうか」

「天女様 率直にお聞きしますが、今後も武田家にご助力頂けると考えて宜しいのでしょうか?」
信玄と幸隆が交互に質問してくる、段々と核心に近づいているようだ

「私もルイも,皆さんの事をとても気に入っておりますし 昌幸殿との勉強会で学びました この国は武田家が舵を取るのがもっとも良策なのではないかと ですから、ご迷惑でなければお世話になろうかと考えております」

「おぉっ ありがとうございます!」
と明らかに二人の表情が和らぐ

「もっとも被害が少なく、平和に平定出来ることを願います」
2人が大袈裟に頭を下げる

「その。。。我々が天女様に報酬というのも、おこがましいのですが お礼というのはどういったものが望ましいでしょう?」

「そうですね衣食住を保証して頂ければ 特に食が重要です!!
あとは勉強会は必要です もし私に嘘の情報を与えたら。。。その時は、わかりますね?」
2人の顔を交互に見て、ニヤッっと笑っておく 効果は絶大であろう

「天女殿 その。。。 あのですな わしを治療してくださった 奇跡の術なのですが。。。あの。。。」
男を相手には無敵の信玄もエヴァを相手にすると形無しのようだ

「死者をも蘇らせることは可能なのでしょうか!?
業を煮やした幸隆が信玄に代わり、質問する

「いくつか条件がありますが 可能です」

「おぉっ! て 天女殿にお願いが御座います!!」
このような、今朝のやり取りのあと、信玄と家康の会談へといたり
エヴァの居る部屋の襖が開く 

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

遺体と見惚れてしまうような絶世の美女、昨日まで凄惨を極めた 城内の一室
現実の境界が曖昧になり 軽い目眩を覚える 家康

「これは、どのような趣向で?」 振り返り信玄を見る

「最強の盾を見たくはないか?」 信玄がそう言うと
真田幸隆、山県昌景が立ち上がり 遺体の置かれた部屋へと家康を誘う
布団を囲うように座りエヴァに一礼する
要領を得なかった家康だが 3人に倣い一礼をする

「では、天女殿 宜しくお願いします」 信玄が目で合図をすると
天女と呼ばれた女が遺体に掛かった面布を静かに取り去る

「忠勝!? 信玄公 死してもなお弄ばれるおつもりか!?」
声を荒げる 家康

「そうではないぞ、この男は死すには、惜しいのでな、天女殿にお願いしたのじゃ」

「この方が。。。天女? お願いとは?」

「死に戻します」表情も変えずに はっきりと言い切る

「そのような事が?。。。。」

「わしの病もご覧の通り 完治しておる 黙ってみておれ」

「初めに、お断りしておきます これから行う行為は 自然の理に背く行為であり 禁忌だと言うことを了承してください その禁忌を犯すのは、ここにいる本多忠勝殿が、この国を再興するために欠かす事が出来ないと 信玄殿より強く望まれた為です」 一同を見渡すエヴァ

「いくつかの条件があります まず肉体から魂が離れて24時間以内であること 寿命以外で死んだ者 
肉体、精神共に人の域を超越した者 この条件が満たされない場合は、灰となり消滅します 
この条件を満たし 死に戻った場合ですが
体力、精神力共に大きく衰えています 1ヶ月程は、まともに動けないでしょう 生前の力を取り戻せるかは、本人次第です。。。それでもやりますか?」

「そのような条件で死に戻れた者はいるのでしょうか?」
家康が身を乗り出して聞いてくる

「居ますよ 皆さんもご存知のルイが2度 死に戻っています」
こともなげに言い放つ エヴァ

「えっ!? あのルイが!?」目を丸くして驚く 山県昌景

「ほ〜あの者を殺せる者が居たと?」素直に驚く 武田信玄

「まさか。。。天女様が手を掛けた??」真田幸隆までもが、とんでもない想像を巡らせる

「若い頃に水龍神リヴァイアサンに殺され 1年後にまた挑んで殺され 更に1年後にようやく倒しました」

「倒した!? 龍神を!? 2度殺されても挑むとは。。。確かに並の精神力ではない」

「ルイ殿を怒らせるのは、絶対に避けなばならん!!」


「24時間の縛りがあります 詠唱も長いので やるのでしたら、始めたいのですが。。。」

「天女様 この家康 忠勝を戻していただけるのでしたら、どのようなことでも 
天女様の力となります 何卒」

「始めますが この部屋に居るのでしたら 喋らない、動かないように 術後、私も3日間ほどは、動けなくなります 護衛をお願いしますね では」
固唾をのんで見守る 一同

静かに目を閉じ その顔から表情が消えるエヴァ 詠唱へと入る
【天界に座します 遥かなる王 カドマス神よ その深き輝きとともに 深遠なる天幽の力を我に与え給え】
忠勝の遺骸に乗せられていた杖が 緑色の光を放ち 浮遊する
その様を 目を見開き見守る4人

【$#%&℃†※÷=~?:※¶¤#%@&№§€#%&℃†※÷=~※¶¤#%@&№】
聞いたことのない言葉が延々と続く

【#@%$÷№§€※¶$%@#!¢№¶∆$µπ※€#@%¥℉‡№¤∆%#$@¿©£$】
天女の額から汗が滴り落ちる 胸の前で組んだ手から血の気が引いている事に言いようのない不安を感じる

【死したる者 カドマスの息子たる本多忠勝 健やかなる時に いざ戻らん さあ本多忠勝なる魂よ 
汝の器は今ここにあり 収まるべき 場所へと 今ここに蘇り給え】
天女の肩から力が抜け 血の気のない唇で笑みを作る
糸の切れた人形のように ゆっくりと突っ伏していく。。。
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