第68話 魔法の種2

文字数 4,595文字

鳴海城 大食堂
「天女様、今日は息子の天武の修練を見学しても宜しいのですね」

「はい お二人の意見をお聞きしたく、勝頼殿と真田殿に見て頂きます」

「それは、楽しみですな!同じ城内に居るというのに忙しいと言って、なかなか会いに来てくれないのです 6歳の息子にそのように言われるとは。。。」
少し涙目の、武田勝頼

「では、ご案内します ブルート参りましょう」


練兵場の扉を開くと、子供達の熱気が一気に伝わってくる
アランを正面にして向き合う子供達の背中が見えるのだが、その背中だけでも真剣さが十分に伝わり 
ある種の感動を覚える 勝頼と昌幸であった
子供達の背中を見ながら、側面へと移動していく4人 そこで度肝を抜かれる
ほとんどの子供達が、両手を前に突き出し、その手の平から色とりどりの光る球体を放出させ胸の前で浮遊させているのだ
ちなみに、ブルートの隠密魔法の効果で子供達から4人の姿は見えていない
真田昌幸の嫡男 幸村は、他の子供よりも大きな青い球体を浮かべ よく見ると高速で内部が渦を巻いているのが見える
武田勝頼の嫡男 信勝は、ただ一人だけ球体でなく、円錐状に変化させたり、棒状に変化させたりと異彩を放っている

「天女様。。。これは、いったい??」

「しっ! では、食堂に戻りましょうか」口の前に人差し指を立てる エヴァ

食堂へと戻り、それぞれの前にお茶が運ばれてくる
「我々が今見たものは、一体何なのでしょうか?」昌幸がお茶を一口含んでから口を開く

「あれは、誰しもが持っている気を可視化したものですね」

「私の流派でも気を練るという修練をしていましたが。。。可視化など、人の身で出来るものなのでしょうか?」

「それについては、検証が必要ですが、おそらくですが天女の魔力を感知するという修練で体内に天女の魔力が少しずつ蓄積され、自分の気に何らかの変化が生じたのでは?と考えているのですが。。。」
ブルートが珍しく、自信なさげに言葉を濁す

「思えば、剣の師匠にも気合いを入れろ! 丹田で気を練ろ! としつこく言われましたが あのように可視化できれば修練も捗りますな もっと真剣に取り組んでいればと今になって後悔しています」

「勝頼殿、それがしも同意見です 気という物の存在自体を眉唾だと思っていたような」

「ただあの気というものに質量はありません、あの気に法力や妖力、魔力を練り合わせることにより
何らかの現象を顕在化させる事ができる訳ですが。。。」
ブルートが次の言葉を躊躇う

「なるほど、陰陽氏の術は、己の気に修行によって法力を練り合わせるわけか。。。」

「しかし子供達にこれから法力を修行させると言っても、教えられる陰陽氏は絶えていますな。。。
妖力や魔力を人間が持っているはずもないですし」
真田昌幸が的確な所見を述べる

「ところが魔力を植え付ける方法があるのです 前に居た世界で魔力を持たない亜人や従属化した魔物に魔力を与えるための魔法で【魔法の種】というものが有ります」

「つまり、その種を植え付ければ我々の子供達も魔法を行使できるということですか?」
鼻息を荒くして武田勝頼が聞く

「そう予想しているのですが、人間に試したことが無いのです。。。我々の居た世界に魔力を持たない人間が居なかったものですから。。。」

「そうなると、我等の子供達が、この世界での先駆けとなるわけですな!」

「実験体とも言えるのですが。。。」

「我等は、天女様やブルート殿を信じております
この国の民を救う役に立てるのでしたら その種を私の子供でお試しください」
武田勝頼が身を乗り出し 訴える

「いえ まずは、我が息子幸村で試していただき 問題が無ければ 信勝様で!」


しばらくの間、黙っていたエヴァが口を開く
「お二人の意見は、わかりました どのような状況になっても私達が対処しましょう
真田昌幸殿の言うように幸村君から【魔法の種】を植えてみましょう これは、幸村君を軽く見ているのではなく、一人ずつの方が、何かあった時に対処がしやすい為です」

「なるほど 天女様のお心遣いに感謝いたします」頭を下げる 昌幸

「それにもしも魔法が発動出来るとなった時に、幸村君の属性だと思われるのが4大元素の1つ
水の属性なのですが 私達でも指導が容易いというのが理由の1つですね」

「4大元素!? 水の属性?? 幸村は水の属性なのですか??」

「4大元素というのは、火水風土の事です 青い気を操っていた幸村君の場合まず間違いなく水の属性です」

「そういうものなのですか? 勝信は緑色だったと思うのですが、どういった属性になるのでしょう??」

「緑色というのは、精霊魔法の遣い手になると思われます 発動して見ないとわかりませんが、代表的なものですと4大元素の他に木や石、闇、影、聖などすべての物に精霊が宿っており その精霊の力を借りて発動するのが精霊魔法です」

「実に興味深いお話しです すると幸村の場合ですと水の属性で水の精霊の力を借りて発動するのが道理というわけですか?」

「いえ そうでは無いのです 属性と精霊は、全く別の物だと理解されたほうがいいかもしれませんね 
例えば私の場合ですと風属性の石と聖の精霊使いです、攻撃には不向きですが、防御、回復、治癒、強化などに特化するわけです ブルートも差し支えなければ属性を教えても宜しいですか?」

「ああ 自分で説明しよう たとえ仲間でも人の能力を第三者に話すことは、ご法度とされているものですから。。。俺の場合は、火と水属性の闇と影の精霊使いです 火と水属性の攻撃や隠密、幻覚魔法に特化です」

「ほぅ 複数の属性を持つこともあるわけですか? となると、その組み合わせによって人それぞれの特色が生まれるというわけですな!」

「その通りです 精霊は万物に宿ります さらにスキルによって職業という区分けもされますので、自分と同じ属性、精霊、職業の者を探すのは、ほぼ不可能かと。。。」

「勉強になりましたが、この場ですべてを理解するのは、無理そうですな また機会があればご教授願えればと思います」真田昌幸に頷くブルート

再び練兵所へと向かう4人
隠密魔法を掛けずに、部屋へと入り修練が終わるのを待つ

「では今日の修練は、ここまでです 幸村君と信勝君は、残って下さい」
お雪が告げると2人を残し、子供達が浴場へ向けワイワイと賑やかに練兵場を後にする

「幸村 頑張っているようだな!」

「はい 父上、毎日が充実しております」

「ふむ 今日は、天女様より話があるそうだ、心して聞くように」

「はい 父上」不思議そうに天女に視線を向ける 幸村

「幸村君 貴方に今から【魔法の種】を植えようと思います この種を植える事によって私達のように魔法が、行使できるようになる筈なのですが、この世界の人間で、この種を植えた者は居ません しかし幸村君ならほぼ確実に魔法を行使できるようになると私達は考えています もちろん不安があれば、断る事も出来ますが。。。どうしますか?」

「天女様 私は、魔法を会得しこの国の役に立つためにここに居ます 考えるまでもありません どうか私に力をお与えください」

「天女様!!この武田信勝にも、その種とやらを植えて頂きとうございます」
揃って頭を下げる 幼い2人

「この力を持つと、もう普通の生活はできなくなるかも知れないのですよ? 本当に良いのですね?」 

「信勝君は、将軍家の跡取りとなる、お方です私で試していただいて、何ら問題が無ければ次は、信勝君ですね」

「幸村。。。お前。。。」目頭を熱くする 真田昌幸

「さすが、昌幸殿の子で幸隆殿の孫だな 何という聡い子だ」
幸村を強く抱きしめる 武田勝頼

“我は汝と契約を結ぶものなり 魔力を司る精霊よ この者に汝の力の欠片を植え与給え”
真田幸村の額に添えられたブルートの右手が仄暗く光り
植物の根のような触肢が幸村の頭部に絡みつく
幸村の体がドクンッと波打ち、雷にでも撃たれたかのように大きく仰反る
真田昌幸が両手を強く握りしめ事態を見守る
武田勝頼の喉がゴクリッと鳴る。。。

仰け反った頭部がゆっくり起き上がり、落ち着いた眼差しで自分の両手を見つめる 幸村
「父上、天女様。。。なんだか不思議な感覚です 力が漲っているような。。。自分の体では無いような」
両足を肩幅に開き、腰を落とす 息をゆっくりと吸い込みながら丹田に留める 両足の爪先から青い光が上がっていき丹田にて渦を巻きながら眩しいほどの輝きを放つ、その輝きを胸の前に付き出した両手へと集め
いつもの要領で光の玉を作ると人の頭部ほどもある水球が胸の前で浮遊する 
波打ち仄かな輝きを放つ水球 驚きに目を見開く 幸村
と同時に水球が崩れ 床にバシャッとこぼれ落ちる
幸村の体が、糸の切れた人形のように力無く崩れ落ちるところをブルートが支える

「魔力切れですね 成功です 彼は、この世界の人間で初めて魔力を行使した人間となりました」
ほっと溜息を吐く一同 ブルートの手から息子を受け取り、その顔を見つめる 真田昌幸
「でかしたぞ 幸村! お前は、我が一族の誇りだ」


虚ろな目を足元にだけ向け、御嶽山の麓の王滝村の西側を抜ける20名ほどの集団
この20名の高齢者ばかりの集団は、王滝村から東に20キロほどの川上村から早朝に出立し、御嶽山の山頂に向け皆が、黙々とただひたすらに歩き続けている
その着衣から、一般の農民のようであり、修験者のそれとは明らかに異なる
腰の高さまでもある下生えを掻き分け、道無き道を歩むが体力が尽きたのだろうか。。。
その場に崩れ落ちる老婆 すぐ後ろを歩む老人は、目を向けることも、崩れ落ちた老婆に手を差し伸べることもなく 当然のように足を前に前にと動かし続ける
太陽が西の稜線に姿を隠し始める頃
老人たちの足では、到底たどり着けるとは思えなかった行程が数人の脱落者を出しながらも終わりを告げる
しかし歩ききった者たちは、道半ばで倒れた者達が自分達よりも遥かに幸せだったと間もなく知ることとなる
御嶽山の山頂より西側に1段下りた噴煙の上がる火口に 先頭を歩いていた 他の者よりも身なりの良い翁が、すぐ後ろを歩いてきた老婆の背中を押す
なんの抵抗をする事もなく、火口へと1人、また1人と滑り落ちていく
はたして、どこで正気を取り戻したのだろうか? 吹き上がる高熱に身を晒した時?
岩棚に身を打ちつけた時? 突起した岩で四肢があらぬ方向へと向いた時だろうか?
火口に向かい響き渡る、聞く者の居ない 絶叫! 断末魔の叫び!!
待ち構えていた火竜が、足元に落ちてきた餌を貪り食らう 岩肌に、ぼろ布のように引っ掛かった肉塊を跳躍し貪る
そして最後の翁が自らの体を火口へと投げる その瞬間、翁の体がぼんやりと光り
赤い靄が老人の頭頂部より上空へと飛び立つ 次の憑依先を探して。。。

実体を持たないベヒーモスの末っ子が有した異能 生物の群れの中で影響力のある者を見分け憑依し
周囲の個体を洗脳するという 生みの親であるベヒーモスに取り憑いた者をも凌駕する異能
今日のように近隣の村で標的を物色、観察し適した者に憑依する そして集団から消えても影響のない者
声を上げて騒ぎ立てる者が居ない者を選別し洗脳していく 自らの親や兄弟の糧とする為に 
それは、決して献身では無い 自らの駒を早く強靭に育てる為の打算であった
この国の生物を根絶やしにするという宿命に向けて

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