第134話 童夢崩壊

文字数 3,178文字

「あああっ!!政宗君が死んじゃった〜!!」

「茶々ちゃん落ち着くんだ! 回復魔法を!!」
伊達政宗を抱き上げ、茶々の顔を覗き込む 武田信勝

「政宗君ごめんなさい 私が“陽炎の夢”なんかを掛けるから。。。ごめんなさい!」
政宗に、抱きつき泣きじゃくる 千代

「ベラとフローが言っているの、政宗君は死んじゃったけど、即死回避の効果でもうすぐ蘇るって。。。でも即死回避は一度だけだから、避難しなさいって」

「茶々ちゃんと千代ちゃんは、政宗君を連れて避難してくれ」
そう言うと、階下への扉を開ける 信勝

「えっ!? みんなは?」

「僕達は、まだ戦える 2人は、もう魔力が無いだろう 天女様が来るまで、逃げ回ってやるさ」
開けた扉に無理矢理3人を押し込み 固く扉を閉ざす 信勝


「天女様〜 うぇ〜ん みんなが〜 ひっくっ 死んじゃうよ〜」

「茶々ちゃん 落ち着いて 千代ちゃん!それは、政宗君!?」
遅れて入ってきた 千代の背中から、お雪がそっと床へと下ろす

「天女様、政宗君。。。私が“陽炎の夢”を政宗君に掛けたから。。。死んじゃってるけど、大丈夫です。。。茶々ちゃんの即死回避でもうすぐ蘇ります。。。」
寝かされている、政宗の隻眼が、見開かれる

「ぶっふぁーーーーっ ひぃっ!ひぃっ!息が!?」
政宗の背中をさすり、手拭いで血だらけの顔を拭ってやる お雪

「みんな、わかるように話してちょうだい 上は、どうなっているの?」

「はい 天女様、政宗君が黒いバハムートにやられて死んだんですけど 茶々ちゃんの
即死回避で、今見たように蘇りました でも即死回避の効果は1度だけなので避難しに来ました 
信勝君も幸村君も氏直君もまだ戦っています」

「そうか。。。僕は死んでしまったのか、千代ちゃん“陽炎の夢”を使いこなせなくってごめんよ」

「私が悪かったの!練習もしないで政宗君だけ戦わせてごめんなさい」

「即死回避って!茶々ちゃん、そんな術を覚えたの!?」

「ベラとフローが、みんなに掛けなさいって。。。1度だけ死んでも蘇るって。。。」

「そんな魔法は聞いたことがありませんが。。。おりんちゃん知っていましたか?」

「はい 私などでは、行使出来ませんが 私の母でしたら、あらかじめ加護を与える事により、即死を含むすべての状態異常に対して、それを受ける数分前の状態に戻してくれる奇跡が有ります」

「そんな凄い術を茶々ちゃんが。。。本当に精霊に愛されているのですね」

「おりんちゃん もう行かなければなりません」

「天女様 肺に開いた穴が、もうすぐ塞がります そうすれば完全ではありませんが、戦えます」


すでにドームと呼ぶには、天蓋のほとんどが崩れ落ち 無事に残った南側の壁に複雑に入り組んだ茨の砦を、信勝の精霊エントが組み上げ、幸村の氷の精霊フラウが絶対零度の氷壁でそれを覆い 信勝と幸村の2人がそこに籠もる

「信勝君、もう魔力がありません 気を抜いたら倒れてしまいそうです」

「僕もだよ 戦いというものは、ここまで厳しいものなのだな。。。もうすぐ天女様が
戻られる それまで耐え抜くぞ!」
そんな2人を守るように氷の砦を背にして2匹のバハムートの攻撃を防ぎ続ける 
エント·キングであるが 再三の腐食の瘴気に晒され、腐食攻撃にも耐性を持つ
“生命の象徴も”次第に効果が失われていき 光り輝いていたフルアーマープレートも
黒いシミを広げつつあった

フォゴの極炎の竜の息吹を盾で受ける エント·キングの後ろへと回り込んだ ナーダが
黒く変色した左肩の可動部に尾を突き立て、力任せに氷の砦へと叩きつける
「氏直君! 息吹が来る!!盾を前に!!」
ナーダの雷撃の息吹が、エント·キングを襲い フォゴがナーダの後ろで極大の息吹を放つ為に口を大きく開き、巨大な炎球が渦を巻きながら形成されていく

「信勝君 エント·キングを絶対零度の氷壁で取り込みます 信勝君は、氏直君をこの中に引っ張り出してくれますか!?」

「もう魔力が無いだろう!?」

「大丈夫です やってみます!」


氷の砦に背中を預ける形のエント·キングを、絶対零度の氷壁が“パキッパキッパキッ!”
と侵食していく わずかな時間で盾を全面に押し出したエント·キングが氷の砦と一体となり 
その内部では、エント·キングの背面の装甲のみを解除し 
信勝が、氏直を引っ張り出していた 
「氏直君!大丈夫かい?」

「ああ 2体の相手は無理みたいだ でも1対1なら十分戦えるよ 
信勝君達のエント·キングは!誇ってもいいと思うよ」

「ありがとう 氏直君も含めて、僕達のエント·キングだよ」

「でも、これで打つ手が無くなりましたね この砦で籠城するよりありませんが
魔力もいよいよ底をつきました。。。」

雷撃を放っていたナーダが、絶対零度の氷壁に対し雷撃が拡散されてしまい、それほどの効果が無いと 
一歩下がり フォゴに視線をやる
フォゴの口がさらに大きく開かれ、体長の半分ほどにもなった巨大な炎球が“メラッメラッ”と周囲の酸素を焼き尽くしながら “ボッッッ!!!”という音とともに放たれる
地を這いながら、彗星のような尾を引き 絶対零度の氷壁へと吸い込まれていく
砦の周囲に残っていた外壁が吹き飛び、エント·キングの盾がみるみるうちに
真っ赤に染まっていく、なおも続く獄炎の息吹に盾は崩れ折れ エント·キングだった
物が金属塊へと変わっていく
何分、何十分にも感じられた 赤いバハムートの息吹がようやく収まり
十分な厚みのあった絶対零度の氷壁も、頼りないほどに溶け落ち 再び同じ攻撃を受ければ、跡形もなく燃え尽くされる事が容易に想像ができた
「信勝君、幸村君、どのくらいの時間を稼げるのかわからないけど、僕の魔力は半分ほど残っているから討って出るよ 茶々ちゃんの即死回避もあるし大丈夫」
「氏直君、無理はしないで もし逃げれる隙があれば、逃げていいんだからね」

「この北条氏直 逃げる事は、絶対に無い!“刃の精霊フーカーよ我の魔力を喰らい
決して折れぬ刃を我に与えよ!!”」
氏直の全身が紫色の光に包まれる、これまでのフーカーの装備とは異なり カイト型の盾と両刃の細身の剣に、限界まで薄く鍛え抜いたフルアーマープレートに身を包む

「この装備は、生身の身体よりも軽く感じられるぞ
防御を捨てて機動力重視という事だな じゃあ行ってくるよ」

「氏直君、ご武運を。。。」

「さっきの戦いで赤い竜の攻撃には慣れたからね 簡単には、やられないから心配しないで」
砦の縁に両腕を掛け、弓の弦を引き絞るように全身の可動域を引き絞る

「行きます!!」
その声に合わせ、砦の前面が開くと、放たれた矢の如く 再び息吹を練り、巨大な獄炎球を湛えたフォゴへと飛び込んでいく

一本の矢の如く 唸りを上げ、空気を切り裂く
剣の先で、獄炎球の中心を貫き、フォゴの額に剣先を突き立てる“ガキンッ‼” フォゴの首が大きく仰け反り たたらを踏んで後退る
「凄いぞフーカー! まるで羽のように軽く動ける」
空中で体を捻り、着地すると、連射されたナーダの息吹を高速で左右に動きかわし
狙いを絞らせない
態勢を立て直したフォゴが氏直に背を向けたまま 再び獄炎の息吹を練る 

「僕を無視して、まだ砦の2人を狙うつもりか!? させないっ!!」
一歩を踏み出した、氏直とフォゴの間に割って入る ナーダ

「そこを退!!」
わずか3歩で最高速に達し、姿勢を低くしてナーダの横をすり抜ける 横目でナーダを見ながら。。。
“グッシャッ!!”巨大な質量の物体に弾き飛ばされたような衝撃 何が起こったのかも、わからないままに
弾け飛び、床に叩きつけられ転がる 氏直
「いったい何が。。。?」
頭だけを起こし 2匹のバハムートを探す
フォゴの口からは、今にも解き放たれそうな巨大な質量の獄炎の炎が燃えたぎり 空気を歪ませている

「駄目だ!間に合わない!! 2人とも逃げるんだ〜!!!」




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