第39話 敦盛

文字数 3,477文字

織田軍に対する包囲を解いてはいないが 両軍ともに武装も解除しており殺気立っている者はいない
関ケ原の十九女池の辺(ほと)りに陣を張り 両軍の主だった武将が集められる

「我等は、本陣より見て居っただけですが あの城ほどもある怪鳥は、一体何だったのですか!?」
興奮気味に床几〈折り畳みのできる椅子〉より腰を浮かし 聞いてくる 浅井長政

「余も気になるが、それよりも浅井に与えた あの弓はなんじゃ!?1キロほども飛んでおるではないか!?
あんな物を使われては、戦にならぬではないか!!」
さらに興奮気味にまくし立てる 朝倉義景

「気持ちは、わかりますが どうぞ落ち着いて下さい この場は、武田家が家臣·真田幸隆が仕切らせて頂きます 何を今更と思われるかと思いますが、この場に我等が対峙する切っ掛けとなりましたのが
将軍·足利義昭公より織田信長に幕府に対し野心あり、よって尾張を討てと言う内容の御内書が各諸侯に出されました それを受けて局地的に争いが起き、我が武田軍も西上作戦を開始します
東美濃に攻め入り 三方ヶ原にて徳川·織田の連合軍を破り そこで我が殿、武田信玄のこの国を思う気持ちに賛同された 徳川家康殿が手を取り合う事を約束されます
そして今年の正月に家康殿が岐阜城を訪れ、織田信長殿に武田と手を取り合う事を上申し 激昂した織田信長殿の手により落命 我が武田軍は、残された徳川諸侯と手を取り 尾張に攻め入り 今に至る訳ですが
本来であれば、我々武田、朝倉、浅井連合軍と織田軍で雌雄を決するという事になる筈でしたが 
とんだ横槍が入りました 先ほど目撃された怪鳥 あれは竜種です」

「竜じゃと!? 伝説上の生き物では、なかったのか!?」
立ち上がり声を荒げる 朝倉義景

「落ち着いて下さい 今から皆さんに、信じ難い報告をいくつかしますが すべてがこの命に掛けて事実ですので心して聞いて頂きたい あの竜の登場で尾張だ加賀だと争っている場合ではないという事です 
この国が一つになって臨まなければ この国が簡単に滅ぼされるという事を肝に銘じていただきたい
まず1つ目が、ここ数年の織田信長殿の比叡山焼き討ちなどの目に余る暴挙の一因に異国の邪教による呪いが
関係しているという事です 今は、その呪いも解けました。。。
しかし今は、その呪い自体が竜に影響を与えているようです
その呪いを解かれたのが、こちらに居られます 天女様に御座います」

「ただの巫女ではないのか!?」
そう言った途端 周囲からギロリッと睨まれる 朝倉義景

「口を謹んで頂きたい朝倉義景公、あの竜の火炎の一吹きで負傷した数百名の兵たちを治療。。。と言うより
完全に回復してくださったのも天女様です それだけでなく、あの竜を追い払われたのも天女様とお仲間たちです」
そうだ そうだと頷く顔ぶれに織田信長、明智光秀も居り 目を合わせて驚く 朝倉義景と浅井長政

「噂には、聞いておりましたが真にそのような お力をお持ちだったとは。。。」
浅井長政がエヴァを見て 何かを言いたそうにして口籠る

「見て頂いたほうが早いのですが。。。よろしいでしょうか? 天女様」

「何をお見せすれば、わかりやすいのでしょう? この池の水をお湯にしてみましょうか?
ブルートお願いします」

「え? 俺が?」 《ブルートすいませんけど派手にお願いしますね ドカンッ!と》念話で伝える エヴァ

《しょうがないな》 
両の手の平を空に向け 詠唱を唱える「我が盟約に従い、集いたまえ炎の精霊よ、全てを焼き尽くす 猛る灼熱の炎よ」 
ブルートの頭上に直径2メートルは、あろうかという炎の玉が渦を巻く 【豪爆炎】!!!!

真上に撃ち出された炎の玉が螺旋を描きながら上昇する さらに大きさを増し、弧を描いて急降下し十九女池に突き刺さる

バッシャンンンンンンンッ!!!! ジュュュュュュュッ〜〜〜!!!!!!
猛烈な水飛沫と水蒸気を立ち上げながら ぶくぶくと一瞬にして沸騰する 池の水  
大口を開けて立ち尽くす面々

「こんなものでどうでしょう?」ニコニコしながら 朝倉義景を見る エヴァ

「こっ! こっ!! こんなもの あの竜にぶつけてやれば終わるのではないのか!?」

「そうですね。。。人でしたら千人でも一瞬で蒸発しますが あの竜には効果はありませんね 残念ですが」

「そ。。。それほどなのか? あの竜は。。。??」  「それほどですね〜」

「と言うか、織田軍は、こんなのと戦おうと。。。」浅井長政が気の毒そうに義兄を見る

「戦は、まだ終わってはおりませんでしたな どうされますか?織田信長殿??」
意地悪そうに織田勢に目を向ける 真田幸隆


「戦うまでもない 降参じゃ! あのような物を見せられて家臣に戦えと言えるか?
この場を、わしの首一つで収めては貰えんだろうか? ここに居る明智光秀も柴田勝家も
あの竜の討伐に必ず役に立つ! それを見れぬのは心残りではあるが 何卒頼む」
織田信長が家臣の為に頭を下げる 長年忘れかけていた 他者を慈しむ気持ちを 
不意に思い出した気がし、死を覚悟しながら、自然に口元が緩むことに奇妙な心地よさを感じていた

そんな主君の思いがけない言葉に衝き動かされるように上座に並ぶ、武田信玄·朝倉義景·浅井長政の前に
膝を擦りながら進み出て平伏し、額を地面に押し付ける 明智光秀と柴田勝家

「何卒ご慈悲を! 先ほど真田幸隆殿の言われたように 異国の邪教に誑(たぶら)かされていた事は、紛れもない事実 それを咎める事が出来なかったのは、我々の責でもあります 何卒!!」

「ふむ 良い家臣に恵まれたようじゃな しかしじゃ誑かされていたとはいえ その責を逃れることはできん 本人の望むように腹を切らせてやれ 介錯は、本多忠勝 お主じゃ」

「かたじけない 信玄公。。。その慈悲に感謝する
長政殿、お市には、いらぬ心配を掛けたと思うが 末永く大事にしてやってくれ頼む
その方ら、今まで世話になった 我が嫡男 信忠の事、よろしく頼む」

「装束はどうなされますか?」真田幸隆が声を掛ける

「手間は取らせぬ このまま、この場で良い 短刀のみ所望する」
しっかりとした足取りで十九女池の辺りへと歩む 織田信長 
それに従い脱いだ兜を受け取り 甲冑の紐を緩める 明智光秀

「人間五十年、下天の内をくらふれば 夢幻の如く也」静かに独り言ちる

「敦盛でございますか。。。」

「ふむ なにかを成し遂げたつもりでいたが、人の世の50年なぞ 実に儚く夢うつつのひと時であったのう」
膝立ちとなり、直垂(ひたたれ)を開け四方に載せられた短刀を手に目を閉じる

いつの間にか、横に立つ天女から放たれる香りが鼻孔をくすぐる

ー『この天女と呼ばれる女人と、もう少し話をしてみたかったものだ 今となっては詮無き事よの』ー

「徳川家が家臣·本多忠勝 介錯仕る」織田信長の横に立ち 太刀を八双に構える

「手間をかけるな 本多殿 家康には、あの世で謝っておく、許してくれると良いが」

「貴方が死んで、楽をすることを家康殿は、許さないと思いますよ」信長の耳元で囁く エヴァ

「これでしか、償う手段を思い付かぬでな そなたと話せた事、良い土産話になろう ごめん!!」
両の腕に力を込め 己が腹に刃先が触れる ザッシュッッッ!!! 本多忠勝の太刀が振り下ろされる
砂地にぽとりと落ちる。。。髷(まげ)

「「「「「!!!???」」」」」

「第六天魔王·織田信長!!見事な最後であった お主の覚悟しかと見せてもらったぞ まさに生まれ変わったつもりで、この日の本の為に尽力するが良い また悪さをしたければ、このわしがいつでも相手になるぞ がっはっはっは」信玄の笑い声が響く

「ねぇっ! 言いましたでしょう? 家康殿も許しませんって。。。あっちに行って許されるためには
何をすればよいのかわかりますよね?」
人とは、これほどまでに可憐に微笑む事が出来るのかという、笑顔を信長に向ける エヴァ

自分の身に起きたことの理解が出来ず 腹に手を当て

「なっ!?」ようやく一言を絞り出す

「すまぬな 許せ しかしじゃお主の覚悟を、この場に居る皆に見てもらう必要があった 悪く思うな」

「殿!!」信長の両脇に縋りつく 光秀と勝家

「これから忙しくなるのう わしは、京に上り将軍義昭公に謁見してくるが、天女殿はどうされるのじゃ?」

「私は、アランの治療のために鳴海城に籠もろうかと思っています」

「そうか わしらは、その後甲斐へと戻ろうかと思っておる 治療が終わったら 皆で来てくれるか?本場のほうとうを馳走しよう」

「お館様、ぼたん鍋も用意しておいてくださいね」



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