第141話 エヴァの決意

文字数 3,150文字

翌早朝の秋山虎繁が居城·岩村城の物見櫓から 西の空を見上げていた兵が
雲の更に下を流れてくる 暗い灰色の切れ目の無い巨大な雲に気づく
西の空からゆっくりと空を覆い尽くし ここ岩村城に迫っていた

「おい!あれを見てみろ!!」
背後で東の方角を監視している兵に声を掛ける

「何があった!? なんとも気味の悪い雲だな。。。あれは本当に雲なのか?」

「どんな些細なことでも報せるように言われているからな ちょっと行ってくるから見ておいてくれ」
そう言うと滑るように物見櫓を降りていく


しばらく待っていると、家老と共に櫓を登ってくる秋山虎繁

「おはようございます 殿、自ら来て頂く事では無いと思うのですが。。。
あの雲のようなものなのですが、ゆっくりとこちらへ流れていまして、まもなく上空を
覆い尽くすと思われます」

「ああご苦労 ちょっと気になる事があってな 昨夜だが岐阜城の天女様から文が届いたのだが、2日後に訪れるかもしれない厄災とは、これの事かもしれんな。。。
出来るだけ遠くへ逃げろと言う事だが、北なら伊達、最上 南なら毛利の領内までって事だ、お主ら逃げたければ逃げて良いぞ」

「実は、さきほどあの雲に入っていった渡り鳥の群れが、ボトボトと落ちていきました
どうにも嫌な予感がするのですが、殿は逃げぬのですか?」

「どこに逃げようが天女様達でも、どうにもならん相手であれば、どこにも逃げ場など無いだろうな。。。
わしは、死ぬならここが良いな」

「我々も同じに御座います」



新岐阜城 天女御殿

「エヴァ 朝からひっきりなしに伝書鳩が、到着してるんだけどな」

「文は無事に届いたということですね 皆さん無事に避難してくれているのでしょうか? 
中心地である新岐阜城から近い大垣城の皆さんは、2日で圏外まで出れるのかが心配です。。。」

「いや ほとんどの領主が避難は必要ないと言ってきているぞ それどころか陣中見舞いと称して
ここに向かっているようだ」
頭を掻きながら、心底困ったという表情のルイ

「それは予想外でした。。。ここの地下でしたら、何人来ても収容は出来ますが。。。」

「エヴァ、ルイ きっとみんな俺たちが負けたら、どこに居ても助からないと思っているんだろうな 
いや俺たちが負けるとは思っていないのかもしれない 絶対に負けれない戦いという事だな」

「もちろん負ける気はありませんが、昨日の戦い方では、勝てる見込みがありません
魔力の総量が違いすぎます それと瘴気の雲にも対応しなければなりません」

「風魔法で、拡散できないものだろうか?」

「ブルートそれは、私も考えていました あと1日で出来る事を考えてみましょう
それとルイ、草薙剣を返して下さい」

「エヴァ 何度も言うけど、これは使わせられない たとえ勝ててもエヴァが居なくなるのが解っていて使わせる訳がないだろう!」

「ルイ、そう言ってくれるのは嬉しいのですが、数百万人の命が掛かっているのですよ? 
私の命一つで救えるのなら安いものではないですか?」

「絶対に駄目だ!そんな考え方に納得する事は出来ないぞ!!」

「今は、草薙剣の八岐大蛇と話がしたいだけです 出して下さい」
強固な意思を込めた眼で、ルイを見つめる エヴァ

「話す?そんな事が出来るのか?」

「ルイ 貴方は、酒呑童子と話が出来るのですよね? 酒呑童子を通じて話が出来るのでは?」

「なるほど、それなら出来そうだな その代わり 話を終えたらすぐに返すんだぞ」

「いいでしょう 約束します」


ルイが、空間収納から草薙剣を取り出し 畳の上にそっと置く

「久しぶりに見たが、相変わらずでたらめな魔力量だな。。。こんな小さな刀身のどこにこれだけの魔力量を込めているんだ!?」

「ではルイ、早速お願いします 酒呑童子を呼び出してください」

“このわしを伝言の為に、呼び出すとは、良い度胸じゃな”
酒呑童子の発言をルイが伝えることになるが、周囲の会話は、空間収納に居る酒呑童子等には聞こえている

「あそこに積まれている物が見えているか?」
天女御殿の壁際に山のように積まれている、酒樽を指差すルイ

“ふむ なんでも言伝かるぞ 遠慮なく申すがよい”

「何でも聞いていいってさ」

「まずお聞きしたいのは、昨日の戦いを見てどう思われましたか?」

“あの2匹の火竜共は、実力の半分も出しておらんぞ、このまま100回戦っても1度も勝てんだろうな 
だそうだ”

「それは、本当か!?あれで全力には、ほど遠いというのか!?」

「やはり。。。そうですか 古龍様の力ならば、勝てますでしょうか?」

“。。。。。。。使い手によるな”
しばらくの間の後に、ルイの口を借りて答える

「使い手と言われますと?」

“我のすべての力を使えば勝てるだろうが、我の百の力を使える生き物が居ると思うか?
普通の人間であれば2分の力でも弾け飛ぶぞ と言ってる。。。まぁ自慢だな”

「酒呑童子!言ったことだけ伝えろ!!禁酒させるぞ!!」

“うむっ!わかっておる!!”

「この中の誰でしたら、古龍様の力を最も引き出せますでしょうか?」

“ほう。。。面白い事を聞くのう お前たち4人の誰が使っても、我の力の5割は引き出せると思うぞ 
5割以上出せれば、十分勝負になるじゃろうな”

「ちょっと待ってくれ!俺達の誰が使っても、火竜を倒したあとで生贄にはエヴァがなると言うのか?」
ブルートがルイの眼を覗き込み、問い掛ける

“そう言う約束だからのう、男は贄にならぬしのう、その女の身内なら考えても良いぞ
実に珍しく美味そうな血筋じゃからのう”

「この世界にエヴァの身内など居ないのをわかって言っているのか?」

“ほう、そうなのか?まぁ良いいずれ解るであろう このくらいにしておくか、酒樽を寄こせよ いつでも我を手に取り魔力を流せば良い それが火竜との戦いの始まりだ
それとな、今はまだ幼すぎるが、お前たちよりも将来、我の力を最も引き出せるのは
あの井伊直政と言う小僧じゃな 近い将来もしかしたら我の力を、すべて引き出せる存在になるやもしれん 大事に育てよ”

「最後に1つだけお願いします!私が呼んだら、応えてくださいますか!?」

“よかろう、契約だ!お前の呼び掛けには応えてやるぞ このルイという小僧がどこに居てもな! その言葉を待っておったのだ!!”

「エヴァ、やってくれたな!最初からこれが狙いか!?」

「ごめんなさい ルイ。。。 でも自分の運命は、自分で決めたいのです」

「まったく。。。」
ぶつぶつと言いながら、鬼切り·鬼丸の分も含め4つの酒樽を収納する ルイ


「アランが義手を錬成しているらしい、様子を見てくるよ」
天女御殿を後にする ブルートとルイ

「あの天女様。。。」
浮かない顔でエヴァの正面の席に座る おりん

「おりんちゃん、どうしました?元気が無いように見えますが。。。昨日の疲れが癒えていないのですね
ごめんなさい通力のほとんどを私に与えたからですね」
申し訳なさそうに、おりんの手を握る エヴァ

「いえ そうではないのです。。。天女様も私もそうですが、自分の身を回復できないように、他者の状態異常を感知できても自分の状態異常には感知できませんよね?」

「はい?。。。状態異常の種類にもよりますが、ええっ?私がなにかの状態異常に侵されているのでしょうか!?」

「異常と言えば異常なのですが。。。」

「呪いとか、遅延性の毒とかでしょうか!?困りましたね。。。」

「この状況で言って良いのかわかりませんが、天女様は懐妊されています!」

「なんだ〜妊娠ですか?。。。。えええええぇぇぇっ!!!!????妊娠????」

「ええ女の子です 古龍様が言っていた、身内と言うのは、お腹の子の事でしょう」

「え?え?え?え? わたし種族的に妊娠し難いといいますか え?え?え?
どうしましょう??旦那様〜帰ってきて下さい〜」


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