第132話 毒雀蛇

文字数 3,068文字

刃の精霊フーカーのフルアーマーを装備した 北条氏直が最下層に続く階段を背にして立つ
耐久性を重視したために、階段の幅は狭く 全員が避難するまでには、まだしばらくの時を要し 
地下1階で治療中のエヴァや満腹丸が避難する時間も稼がねばならない

「じゃあみんな始めよう 防御力と機動力に特化したエント·キングを誕生させるぞ!」
ドーム外で、ナーダの腐食攻撃により装備の大部分を失ったエント·キングが霧散する
そして、残り少なくなった魔力を絞り出し、新たなエント·キング作成に注力する子供達

「まずは、僕からだな精霊エントよ、どんな攻撃にも折れない、どんな炎にも燃えない
そんな木人を僕達に与えてくれ!!」
武田信勝が精霊エントに語り掛ける
氏直の足元が盛り上がり、青々とした無数の(つた)が、スルスルと伸び
氏直のフルアーマーの身体に絡まり付いていく 木人の体とは大きく異なり
氏直の身体を覆い尽くした蔦は瑞々しく、氏直の動きを身体の隅々までストレスなく伝え
重量も木人の半分にも満たず 機動力を重視しているだけでなく耐久性まで向上させて
バハムートとの戦いから学んだ、正当な進化を見せている

「次は、僕の番だ! 鉄の精霊フェローよ 刃の精霊フーカーの装備に触れ模倣してくれ 
より薄く強靭に、鉄の精霊である貴方になら出来るはずだ!!」
身長が5mほどと小ぶりになったエント·キングにフーカーのフルアーマープレートが装備されていく
身体の至る所から刃が飛び出し 凶暴に光り輝く勇姿が聳え立つ

「茶々が、春の精霊ベラと花の精霊フローの加護をエント·キングに授けるよ
“生命の象徴”なんだって、腐食攻撃にも耐えられる筈だって」

「それは、凄いな! 頼むよ茶々!!」
一瞬にして全身が赤く染まる エント·キング

「なるほど。。。武田の赤備えみたいだ。。。」

「えっと。。。千代のサンドマンの出番は無さそうね 視覚の共有は必要なさそうだから、下に行って天女様の避難の手伝いをしてきます」

「ありがとう千代ちゃん! 天女様とお兄ちゃんの事をお願いします!!」

「政宗君も天女様の元へ行って欲しい、バハムート達は、ネボアを取り返しに来ているのだろうから 出来るだけ安全な場所で、抑えつけておいてくれ」
エント·キングの中の氏直が、少しくぐもった声で政宗に声を掛ける

「わかったよ みんな絶対に死なないでくれ!危ないと思ったら逃げると約束してくれ」


地下1階 天女御殿
「おりんちゃん あの。。。もう動けると思うんですけど。。。」

「駄目です!! 天女様、まだ半分も魔力が回復していませんよ 腕の骨折は治しましたが
肋骨はこれからです もう少し我慢して下さい」
エヴァの胸元を開き、乳房に手を当てる おりん

その時、天女御殿の襖が勢いよく開けられる
「「天女様!おりん様!! 最下層まで避難しましょう!!!」」
「あっ!?」 
慌てて政宗の隻眼を右手で覆う 千代
「政宗君。。。見ましたね?」

「いえっ!!伊達家の名に掛けて、すべては見ておりません!!」

「少しは見たという事ですね!?サンドマンにお願いして、記憶を削除して貰いましょう いいですね?」

「千代ちゃん、減るものでもありませんし いいんですよ それよりも上は、どうなっていますか?」

「はい 射手のみなさんは、練兵場へ避難を始めています ドームも、もうそれほどは、もたないかと。。。みんなは、2体目のエント·キングで、みなさんが避難するまで、なんとかバハムートを抑えると言っています」

「苦戦しているようですね。。。みんなの魔力も残り少ないのが、わかります」

「天女様が、戻られるまでは、なんとかみんなが、頑張ってくれると思います!天女様もおりん様も練兵場まで避難しましょう!手伝います」
エヴァの横に寝かされていた 満腹丸が目を覚まし、むくりと起き上がる

夜叉であるネボアが、エヴァの結界に囚われた事により
呪いの効果が薄れ、意識を取り戻した 満腹丸
上半身だけ、むくりと起き上がると政宗の横に転がる 結界に閉じ込められた夜叉を見る

「ビシュー変幻【マムシ+オオスズメバチ】=【毒雀蛇】」
満腹丸の寝床に鎮座する マムシというよりも巨大なツチノコ
チロッチロッ!と舌を出し、両眼の上には、蜂の触覚を備え 首から腹に掛けて厚みを増す胴体、そこから細く長い尾が続き、その先には金属のような光沢を持った毒針が見える
そのずんぐりとした体躯からは、想像も出来ぬ素早さで球状結界に飛び掛かると
鋭い尾を蛇の鎌首のように持ち上げ真上から結界に突き刺すと、顎の関節を外し毒牙を突き立てる
「「「「えっ!!??」」」」
ゆっくりと球状結界を飲み込んでいく毒雀蛇
「満腹丸君。。。そんな物を食べたら、お腹を壊しますよ。。。」

「大丈夫です 天女様、僕はこのまま練兵場まで行って、サナギ化してネボアを消化します 政宗君も千代ちゃんもみんなを助けてあげて、おりん様も天女様の治療に専念して下さい ネボアは僕の毒針と毒牙で動けません」
ずるずるとさらに丸みを帯びた腹部を引きずり、廊下へと出ていく満腹丸

「どうやら本当に大丈夫そうですね、政宗君、練兵場まで一緒に行ってくれますか?
避難しているみなさんが驚かれると思うので」

「はい わかりました!すぐに戻ります!!」


目を丸くして驚く、射手の間を抜け 練兵場の片隅で白い繭を張りサナギ化する 毒雀蛇
「満腹丸君、本当に大丈夫なんだろうね?」

「大丈夫だよ 政宗君、蛇の消化器官は骨まで溶かすんだよ ビシューも大丈夫だと言ってるから心配しないで、それよりもみんなを守ってね」

「ああ わかった約束するよ すぐ戻るからね! 羽柴様、満腹丸をお願いします!」

「ああ 任せてくれ!誰も死ぬなよ!!」
踵を返すと、人並みを掻き分け、エヴァの待つ地下1階へと急ぐ
避難を誘導していたお雪と落ち合い 共に天女御殿の襖を開ける

「天女様、みなさんの練兵場への避難は済みました お手伝いしますので、天女様もおりん様も練兵場へ避難しましょう」

「ありがとう、ご苦労様でした お雪ちゃん、もうすぐ治療も終わります時間が勿体ないので、ここで大丈夫ですよ」

「では、僕と千代ちゃんは、みんなと戦います!お雪ちゃん先生、天女様とおりん様をお願いします 行こう千代ちゃん!」

「政宗君!千代ちゃん!そしてみんなにもご武運を!!」

「「行ってきます!!」」

地上への階段へと駆ける 政宗と千代 後ろを走る千代が、政宗の背中を引っ張る
「どうしたんだい!?千代ちゃん?」

「政宗君、私ね上に行っても、どうやってみんなを手伝えばいいのか、わからない。。。私のサンドマンって攻撃魔法が無いでしょう それでねサンドマンの“陽炎の夢”を覚えてる?」

「ああ もちろん覚えてるよ すべてが実体で、すべてが実体でない分身の術だよね
あれは凄いよね!驚いたよ」

「今は、10体まで増やせるんだけど、攻撃魔法が無い私では、宝の持ち腐れでしょう? 
それで政宗君に“陽炎の夢”を掛けてもいいかな?」
「えっ!? そんな事が出来るの!?」

「うん 出来ると思う 家にいるポチで試したから」

「ポチって犬だよね。。。犬で出来るなら、人でも大丈夫か!? わかった少し下がってくれるかな」
階段の踊り場で、エフリートの大剣を顕現させ、政宗の全身をエフリートの業火が覆う
「僕も、こんな事が出来る様になったんだよ 準備は出来たよ!」

「じゃあいくね!“夢の精霊サンドマン!私の夢を叶えて!陽炎の夢をこの伊達政宗に”」
 階上から“ガラガラッ!!ガッシャンッ!!!”何かが崩れる音と、振動が伝わってくる


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