第139話 瘴気の雲

文字数 3,160文字

上空のエヴァとブルートが対峙する黒いバハムート·ナーダとの戦いも
一進一退、互いに攻めきれずに、徐々にではあるが、魔力だけが確実に消費する
という攻防が続いていた
「エヴァ、このバハムートの魔力だが、減っているように見えるか?」

「朝からの戦いで、1割も減っていないと、さっき言っていました 嘘であってほしいのですが。。。
もしも事実なら。。。」

「ちょっと待てエヴァ、さっき話した?このバハムートは、話すことが出来るのか!?」

「向こうからは念話ですが、こっちの話していることは、理解しています
考えたらネボアの兄弟竜なのですから当然かもしれないですね」

「いったい何の話をしたんだ?」

「ネボアを返せば、私達には手を出さないと 自分達も、この地で生まれた生物として人間と同じように他の生物を糧にして生きていく権利があると、そのような内容でした」

「それほどの知能があるというのか? では、このバハムートが、本気で戦っていないという違和感は
俺達の魔力が無くなるのを待っているという奴の戦略なのか?」

「それもあるかもしれませんが、ネボアを救い出す機を見ているのかもしれません」

「兄弟に対する、愛情があると言うのか? 魔獣と同じように考えていたが、改めなければならないな。。。人間とバハムート、存亡を賭けた戦いということか。。。?」

“ギャアアアアアァァァァァァァォォォォォォ〜〜〜ッ!!!!!”
地上から聞こえてくる、耳を劈く咆哮
その瞬間、ナーダの体が左右にブレると残像だけを残してその場から消える
虚をつかれたエヴァとブルートが地上へと振り返った時には、フォゴを背に立ち
鬼神化したルイに対峙しているナーダ そして覇気を纏いフォゴの回復に当たっていた

「早すぎるだろう!?俺には見えなかったぞ。。。」

「あれが、本気を出した時の速度のようですね とにかく急ぎましょう」


「させぬっ!!」 
鬼神化したルイが、槍を大盾に変化させると全面に押し出し、鋭い踏み込みから
渾身の体当たりをナーダに浴びせる
それを左手一本を差し出し、表情一つ変えずに受け止め フォゴに右手を向けると
ルイに受けた傷が徐々にに回復していく
ナーダとフォゴを囲むように着地する エヴァとブルート

「こいつ等、出鱈目すぎるだろう!? 削っても削ってもすぐに回復されて、倒せるイメージがまったく出来ないぞ!?」

「回復している間に、それぞれの最大火力を浴びせ続けましょう!!」

「「わかった!!」」


“気象支配·竜巻!!”妖狐の力を借り竜巻を発生させると、次々と風刃を投げ込んでいく
エヴァ

“鬼蜘蛛·影縛!!”巨大な蜘蛛の巣が2匹の竜に覆い被さり、そのすべての糸に凍結の魔法
を掛け縛り上げていく ブルート

“幻影散棘·鬼舞”数百本の童子切安綱が上下左右、あらゆる方向から竜巻の中を飛び回り
2匹の竜を削っていく ルイ

「頼む!!これで倒れてくれ!!」
必死の形相で鬼蜘蛛の糸を持ち、凍結の魔法を流し続ける

「酒樽を用意するのを忘れるなよ!!ガッハッハッハッハ!!」
鬼神の覇気を纏わせ、さらに数百本もの童子切安綱を走らせる

「これで決着をつけます!!」
竜巻を両手の平で制御しながら、次々と風刃を投げ込み続ける
新岐阜城の西側 自然界では起こり得ない竜巻が、その場に留まり天まで伸び猛威を振るう 風の刃が、黒い太刀が、その中に囚われた2匹の竜を切り刻んでいく
どのような生物であろうが、例え神であろうが耐えられるとは思えない環境に縛り付けられる 
フォゴとナーダ

         〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ようやく意識を取り戻したネボアだが、自分の置かれている状況を把握する事が出来ずに
パニックに陥りそうになる精神を必死に抑えつける
あまりにも異常な状況に置かれている事だけは、間違いがなく、体の自由が利かぬことに
変わりはないのだが、視力までも失ったかの様に、完全な闇の中に身を起き
重力魔法とは異なる、身体をすべて包み込むような圧力
覚醒するにしたがい、この夜叉の体が、これ以上使い物にはならないという事を確信する
痛覚までも麻痺させられた事により、酸による攻撃だろうか?
体の末端。。。指や顔の造形をすべて失い
衣服はもちろん表皮までも溶かされ、生物としての生命活動が潰える危機的状況に陥るまで意識が戻る事が無かったようである
この身体を捨て、霧の魔獣ネボアのみの脱出を試みるが、以前に京都の嵐山で崇徳院の
意識が途絶えた時と同様に抜け出すことが出来ずに、焦りを増していくネボアであった

落ち着け!落ち着くんだ!と自分に言い聞かせ 今出来る唯一の行動
兄弟竜達との交信を試みる どのような障害なのか視覚を共有することも出来ずに
ただひたすらに助けを求める 現在自分がいる場所も状況も不明であるが、それでも
ひたすらに助けを求める以外に出来る事などなく、この酸によると思われる攻撃が
自分の身体を侵食してくる状況から考えて、おそらくは3,4日間ほどで消えて無くなるだろうと言う事 
そうなった場合に霧の魔獣ネボアとしての自我がどうなるのか不明であると言う事を
兄弟竜達に届いていると信じてただひたすらに訴える
それ以外に今のネボアに出来る事など無いのだから


荒れ狂う竜巻の中に囚われ続けている 2匹のバハムート
時間にして10分間以上、1000本を超えるルイの童子切安綱が竜巻の中を飛び回り
数える事など不可能なほどのエヴァの風の刃が、舞い飛び
絶えず凍結の魔法が流された 鬼蜘蛛の糸で縛られた フォゴとナーダ
S級モンスターと恐れられたベヒーモスやリバイアサンでも5分も生き残ることが不可能であろう3人の複合技に、この戦いの終わりを期待し 残された魔力を絞り出す 
エヴァとブルートとルイ

しかし、その期待もあまりにも儚く、そして呆気なく裏切られる事となる
吹き荒れていた竜巻が、四方へ向けて突風となり爆散する 1000本を超える黒い太刀が吹き飛び、風刃も鬼蜘蛛の糸も霧散し これまでとは、桁違いの赤と黒の竜の覇気で竜巻を消滅させた2匹のバハムートが
まったくの無傷。。。
フォゴに至っては全快した姿でそこに立っていた
「嘘だろう。。。!?」

「こんな化け物をどうやって倒せというんだ!?」

「ルイ!草薙剣(くさなぎのけん)を出して下さい!!」

「エヴァ、悪いがそれだけは、駄目だ!!」

「エヴァ、まだ出来る事があるはずだ ルイ渡すんじゃないぞ!」

「ルイもブルートも魔力もあと僅かですよね?草薙剣しか残っていません ルイ早く!」

「こいつ等を倒せたとしても エヴァが死ぬんだろ? 渡せるわけがないじゃないか!」

「それよりも、エヴァ!ルイ!空を見るんだ!!」

竜巻から爆散されたナーダの覇気が、低空でどんどんと広がっていく暗い灰色の雲となり
薄闇の迫っていた付近が、完全な夜へと変わっていく
「奴は、いったい何をしたんだ!?」
「これは。。。まさか瘴気?」

“そうだ腐食の瘴気を上空に放った”
「何をするつもりなのですか!?」

“どうやらお前たちは、自分達の命では、我等の要求を受け入れる気は無いのだろう?
人質を取らせてもらったのだよ お前たちと同じようにな”
ナーダの爬虫類のような顔が、くっくっくっと笑った気がした
「どういうことでしょう。。。?」

“この雲は、ここを中心に2日後には、東西南北に500kmほどの大きさになるだろう
2日以内にネボアを返さなければ、この雲を地上に落とす わかっているとは思うが
すべての生物は死に絶えるだろうな”
「ネボアを返せば、この雲を落とさないという保証はあるのですか?」

“我の言葉を信じるより無いな、このような殺し方は本意では無いのだ 喰えぬしな
恐怖を感じさせながら、いたぶって殺すのが我等の主義だ”
「下劣な!!」

“なんとでも言え 今から2日後この時間、ネボアを迎えに来るぞ”



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