第121話 満腹丸の呪い

文字数 3,306文字

恐る恐る、右手を差し入れた 河童の右腕が、がっしりとブルートに握られ
一気に引き抜かれる “つるんっ”と出口の地面に飛び出て尻もちをつく 小柄な河童
「まぁ夜叉が通り抜けるのですから 予想通りの結果ですね」

「ああ 打てる手は多くは無いが、発動するまでの1秒間に出口を見つける事が出来れば、勝機があるという事だな」

「発動する時の、空間の歪みを感知する事は出来ないでしょうか? ブルート、一度
私の近くで出口を発動してもらえますか?」 
目を瞑り、集中する エヴァ

「ああ やってみよう」
目を閉じたエヴァの頭上の空間が歪む。。。  穴が開き切っても、エヴァの目は閉じられたまま 気づく様子もない
水魔法で作り出したコップ一杯ほどの水を、ブルートの胸の前の入り口から、投げ掛ける

「ひゃっ!?」

「「「「ギャッハハハハッ!!キュキッキーキュキッキ!!アハハハハッ!!」」」」
盛大に笑う面々 しょげこんでいた満腹丸までが、腹を抱えて笑っている
「エヴァ、とっくに出口は開いていたぞ」

「なるほど、全く気が付きませんでした、それで、この水は、どういう事でしょう?」

「いや。。。失敗した時の、緊張感も必要かと」

「それも一理ありますね! では次は、アランですね!!」

「。。。。。。。。。いや。。。。俺は。。。」

「そうだな、アラン目をつぶってくれ」

危険を察知したルイが、気配を消し、この場から逃れようと足音を忍ばせるが、エヴァに襟首を掴まれる
目をつぶるアランの左肩の空間が歪む エヴァ同様に気づく気配もないアランに
ブルートの指から“鬼蜘蛛”の糸が射出され 全身を簀巻きにされるアラン

「「「「ギャッハハハハッ!!キュキッキーキュキッキ!!アハハハハッ!!」」」」
糸で猿轡まで噛まされ、無様に転がる アラン

「ブルート、ちょっとやりすぎじゃないか?」

「何を言っているんだルイ? 実戦なら、捕らえられているという事だぞ?」

「はいっ! 次はルイですね!!念の為に目隠しをしましょう!!」

「絶対に感知してみせる!!」

目隠しまでされ、立ち尽くすルイの両足の間の空間が歪む。。。
ブルートに何やら耳打ちをし、拳大の石を持って待機している エヴァ
『『『『『それは、まずいって!!』』』』』ぶんぶんと首を振る 観衆
なぜか彼らに、親指を立てて応える エヴァ
出口の穴が開ききると、エヴァの“にやっ〜”という微笑みとともに、指弾で放たれる石
ルイの足元から真上に向かって飛び“ぐしゃっ!!”という音とともに、2mほども飛び上がる ルイ

「アッハハハハッハハハ ルイ! アッハハハハッハハハ〜」
周りを見渡し、自分しか笑っていないことに首を傾げる エヴァ
自分の股間を抑え、青い顔をしている 面々
股間を抑え、転げ回るルイに近づき そっと回復魔法を掛ける。。。
「もう大丈夫ですよ」天使のような笑みを浮かべ 目隠しを解く

「次は、満腹丸君ですね こちらへいらっしゃい」

「おいエヴァ まだ子供だぞ!」
「大丈夫ですよ 満腹丸君を信じていますから! この魔法を必ず習得してブルートにも
この修練を受けてもらいますからね」 
かなり執念深い エヴァ。。。何を信じているのかは、不明だが。。。

目隠しをして立つ 満腹丸の正面の空間が歪む 約3秒後には穴が開き切るのだが
満腹丸の口元が“ぴくりっ”と動くと“ピュッーーーー”と勢いよく口から水が、発射される
大きな岩を持ちながら待機している エヴァが水を滴らせ目を丸くする

「「「「ギャッハハハハッ!!キュキッキーキュキッキ!!アハハハハッ!!」」」」
もちろんエヴァに向けられた 笑いである

「満腹丸 どうしてわかったんだ?」

「ブルート先生と天女様の匂いがしたので、わかりました」

「匂い?」

「はい、犬の嗅覚を借りたので あっ!この水は、鉄砲魚です さっきそこの川で見つけました」

「なるほど。。。入り口側で起きている現象が、出口側にも伝わるという事だな
しかし我々に犬ほどの嗅覚は無いからな、なにか別の方法でネボア自体かネボアの周囲に異なる現象を起こしてやれば、出口側にも伝わるという事だな」

「そうですね、ネボアの周囲だけ高温にするとか、乱気流を起こすとか、色々と考えられますね 満腹丸君のお手柄ですね!!」

「天女様、ありがとうございます その岩は、何をするものなのでしょうか?」

「さぁっ! みんなが心配していますので、大急ぎで帰りますよ!!」


童夢内で待つ、お雪やおりん、風魔党の面々、天武の子供達と羽柴組、弓兵の精鋭部隊といった
岐阜城に居る、ほぼ全ての者達に迎えられる 
満腹丸の元気そうな顔を見て、童夢内に安堵のため息が溢れる
「お兄ちゃん!! 無事で良かった〜!!」
満腹丸の姿を見るなり、駆け出し満腹丸の胸に飛び込む 茶々

「心配を掛けてごめんよ、茶々 この通りなんともないから 泣かないで」

「満腹丸、心配したぞ!でも無事で本当に良かったよ」

「みんなに心配かけてごめんなさい つい虫を探すのに夢中になってしまって。。。」

「みんなに話があります この場所は、ネボア達に知られてしまったという事です 子供達や、非戦闘員の方々には、何処かに避難してもらいたいと考えていましたが。。。ネボアが瞬間移動を使える今
この国で安全な場所など無いと言えるでしょう ネボア達が動く前に、こちらから討って出るのが最善と考えます」

「エヴァ それには、賛成だが お前の旦那は、いつ帰ってくるのか、まだわからないのだろう?」

「はい わかりませんが、これ以上この国の民を危険に晒すわけには、いきません。。。
今日の満腹丸君が無事だったのは、亀羅のおかげです、幸運だったと言えるでしょう
次も幸運に恵まれるとも限りません」

「凄えな!満腹丸!!あのネボアと戦って無傷だったとは、でもな次に奴等と対峙したら、必ず逃げろよ」

「うん わかったよルイ先生。。。」
そう答えた満腹丸の顔色が急激に青ざめていき、力無く崩れ落ちる

「「「「「「「「「「「「満腹丸!!!!」」」」」」」」」」」」

「お兄ちゃん!!!」
満腹丸を支えたエヴァが、満腹丸に治癒魔法を掛ける
「そんな!満腹丸君 亀羅の甲羅では、呪いを防げなかったというのですか?」

「天女様、お兄ちゃんは大丈夫ですか!? 治せますか!?」
おりんが駆け寄り、満腹丸の胸に手を当てる

「茶々ちゃん 私の力では、この呪いを解く事も、見つける事も出来ないようなの。。。
おりんちゃん、満腹丸君は、どうでしょう?」
「この呪いは、かつて京の都を襲った 崇徳院の呪いと似ていますね この国で行使された呪いで
もっとも強力な物の1つです」

「解呪は?この呪いを解呪する方法は有りますか?」

「おりん様!お兄ちゃんを助けて下さい! お願いします!!」

「茶々ちゃんのお兄ちゃんは、必ず助けるわ 安心してね」
おりんの治癒の光で、徐々に呼吸が安定していく満腹丸

「おりんちゃん 満腹丸君の解呪が出来るのですね?」

「体に直接触れられたわけでは無いようなので、呪いの進行がとても遅いようなのです
ですから、私の力でなんとか進行を止める事は出来ますが、解呪までは無理そうです」

「どうすれば!?どうすれば満腹丸君を助けられますか!?」

「術者を倒すと呪いの効力は弱まります その後、尊天の加護を授かった本多忠勝殿でしたら
解呪する事は可能でしょう」

「ネボアを倒して、尊天の加護を授かった旦那様を待つ。。。みんな、やるしかありませんね!?」
おりんに満腹丸を預けたエヴァが立ち上がり、全員を見渡す

「「「「「「「「「「「「「「おおっ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
童夢内に全員の雄叫びが木霊(こだま)する


「ちょっと待てよ!」
そう言うと童夢の出口へと駆け出す ルイ
扉を開き、1羽の鳩を招き入れると、脚に結び付けられた文を外して広げる
その文に目を通すと、茶々の元へと行き そっと手渡す
「茶々、お前たちにだ」
泣き腫らした目を擦り その文を満腹丸の眼前に広げる 茶々

「お兄ちゃん!私達に妹が産まれたって!!女の子で名前は“江”《こう》だって、早く逢いたいね 
お兄ちゃん早く元気になって 会いに行こうね!」
意識の無い満腹丸が微笑んだように見えた



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