第42話 河童

文字数 4,080文字

京都御馬揃えから一夜明けた早朝

「お館様 私は、そろそろ鳴海城へと戻ります アランの治療がありますので。。。それとお願いがあるのですが、東北の最上(もがみ)家に所蔵されている太刀で【鬼切·鬼丸】という二振りがあるそうなのです
手に入れたいのですが、何とか手を尽くして頂けますか? ルイが取りに行きますので」

「最上家と言われますと最上義守殿が当主でしたな 幕府の羽州探題職のお家柄 将軍義昭公に一筆頂き喜ばれそうな土産でも持たせれば なんとかなるかと」明智光秀が答える

「喜ばれそうな土産か。。。となると信長殿! 顕如より送られた【白天目茶碗】あれなどどうじゃ!?
わしでも知っているくらいの一品じゃ不足はないであろう?」信玄が信長にニヤリッと笑う

「なっ! 何を言う あれは。。。そもそもここは、わしの定宿ぞ 何故、お主等まで居るのじゃ!」

「義兄殿、天女様のお望みですぞ?」

「光秀殿を始め、沢山の家臣を救っていただいたそうですね?」

「長政にお市まで、そのような事を。。。仲が良いのは、喜ばしいことだが」

「信長殿、無理を言って申し訳ありませんが あの竜を退治するには、どうしても必要なのです」
上目使いに信長の目をじっと見る エヴァ

「【白天目茶碗】だけで良いのか?なんなら【へし切長谷部】も付けよう最上義守も嫌とは言わんじゃろう」 【童子切安綱】を取られている事を、すっかり忘れている織田信長が高らかに笑う
エヴァに否と言える男は未だこの世界には、居ないようだ

「今日は、午後から正親町天皇に拝謁じゃったのう 朝廷からも一筆頂けるか頼んでみるか」

「それでは、お館様 皆さんまたお会いしましょう 忠勝殿 お館様をお願いしますね
鳴海城の皆さんにお土産を買っていかなくてはいけませんね ぼた餅にわらび餅に鍵餅、忘れてはいけないのが、栗がまるまると入った羊羹ですね」

足取りも軽く部屋を辞するエヴァの背に、お市の方が声を掛ける

「天女様! この度は、兄信長と夫長政の件 本当にありがとうございました どのような言葉を用いても
足りないほど 心より感謝致しております」深く頭を下げる お市の方

「頭を上げてください お市様、私が何かをしたわけでは、ありません 感謝されるのでしたら皆さんに」

「いえ 私には、わかっております 天女様が信玄公をお導きくだされなければ 兄上と我が夫は、どちらかが死ぬまで争っていたでしょう それが手を取り合う結果になるなど 夢にも思っておりませんでした」

「聞かれていると思いますが、皆が手を取り合い更に強大な敵に立ち向かわなければなりません もっと過酷な戦いに導いてしまうかもと逆に申し訳なく思っています 許してくださいね」

「なにを言われます 肉親同士が争うことに比べれば些事に御座います 天女様のお役に立てますよう 陰ながら夫も兄も支えたいと思っております」

「あまり無理をされないでくださいね お腹の子に触りますよ」

「へ!?」目を丸くする お市の方

「ご懐妊されていますよ おめでとうございます」愛おしそうにお市の方のお腹に手をやる

「あらっ それは大変 あの天女様には、男の子か女の子かわかるのでしょうか?」
嬉しそうに微笑む お市の方

「わかりますが。。。知らないほうが楽しそうですけど」

「今度またいつ天女様とこうして話せる時が来るやも知れません 天女様に名を付けて頂きたいと」

「わかりました それでしたら。。。ただ私は、この国の文化に明るくありませんので気に入らなければ
使わないでくださいね では、女の子です 名前は、この国に無いような大きな河を江と言うそうです 
いくつもの国を繋ぐような江になって欲しいと あとは浅井長政殿の治める国が江州とお聞きしましたので
“江”でいかがでしょうか?」

「ありがとうございます とても素敵な名前です“江”と名付けさせて頂きます」

「はい 元気な子供を産んでください」


山門で昨日を上回る人々に囲まれ 何度か杖を振るう事になる エヴァ
しかしお供え物の中に、お目当ての甘味を見つけ 供廻りと洋々と鳴海城へと旅立つ

鳴海城へと帰る エヴァ一行 その共にとエヴァが選んだのが

小柄で猿顔 (こん)の使い手 孫田悟空

長身で頭頂部だけが見事に禿げた 穂先の広い槍の使い手 沙司悟浄

大柄で筋骨隆々 熊手のような棍を操る 猪熊八戒 

僧兵の3人が護衛、と言うより荷物持ちとして同行している

エヴァが、この3人を選んだ理由が昨年 真田昌幸との勉強会で聞いた唐から天竺へと仏教の経典を届ける
4人組の話がとても面白く 本能寺にてこの3人の名前を知った時には、雷に撃たれたような衝撃が走ったと言う
この奇跡を逃すわけにはいかぬと寺院に無理を言い 数日という約束で旅に出る事が実現した訳である
三蔵という名に改名することを考えたエヴァであるが、流石に思い留まり

「旅の間は、私の事を“おっしょさん”と呼んで下さい」が3人に対する第一声であった

「では! 冒険の始まりです!!」意気揚々と天竺。。。もとい鳴海城へと向かう4人組がこうして誕生する

「なんだか、私だけ馬に乗ってすいません お約束なものですから。。。みなさんには脚力強化の加護を授けていますので日暮れまでには到着するでしょう」色々な事にとことん(こだわ)るエヴァ

「おっしょさん 先ほどから疲れないし、足が軽いと思ってましたが そのような法術を授けて頂いていたのですね ありがとうございます」

「その調子です悟浄 法術。。。有りですね! 三蔵法師と言うくらいですから法術で行きましょう!!」
特に冒険と言えるようなこともなく 順調に歩みを進める一行
琵琶湖の南を抜け 山間部へと入る 太陽も高天へと登り春の日差しが気持ち良く降り注ぐ

「おっしょさん お腹が空きました お昼にしては如何でしょうか?」

「八戒 まさに貴方から聞きたかった台詞です! ありがとうございます!!用意していただいた握り飯があります ではお昼にしましょう」

通常の旅人の3倍ほどの速度で旅を続ける 4人

「伊賀、甲賀が近いのですから 忍者が襲ってくるとか 山賊が立ちはだかるとか無いものですかね?」

「おっしょさん 旅は安全が第一かと思いますが。。。」
孫田悟空の台詞に目を剥いて驚愕する エヴァ

「悟空! あなたは無鉄砲な傍若無人な子だったはず そのような模範的な台詞、私は心の底から悲しいです」
平和すぎる旅路にイライラを募らせていく エヴァ

尾張に入ろうかという木曽川の辺り
獣に囲まれた 子供達をエヴァの強化された視力が捉える

「キタッーーーー! 皆さん行きますよ!!」
風のように河原を上流に向かい駆ける4人

「キュキーーキーキューーッキーキュキュキッーキュー」

「キキューキーキュキューッキーキュキキッーキューキキー」

「こっちに来るな!」

男の子が幼い妹を獣から守るように、棒切を振り回している
子供たちと獣の間に滑り込む 4人

「おっしょさん こいつら河童です!」

「天竺を目前にして、ようやく冒険らしくなってきましたね」

♪シャリーン♫ 急遽 杖の先に取り付けた鈴を鳴らす

「えっと 悟浄、貴方の親戚ですか?」

狒々(ヒヒ)のような体躯に、体毛は無くヌメっているのか
太陽の光を反射している 背中には巨大な甲羅があり、頭には、緑色の皿のようなものを乗せている

「おっしょうさん 私は、人間ですが。。。」

「キュキーーキーキューーッキーキュキュキッーキュー」

「キキューキーキュキューッキーキュキキッーキューキキー」

「ふむふむ なるほど ちょっと待って下さいね」

「どうやら彼らは、相撲を取りたがっているようです」

「おっしょうさん こいつらの言葉がわかるのですか?」

「私は、翻訳の法術を常に発動していますので 自我のある生物の言葉は、すべてわかります で? 
どうしましょう??
勝ったら川を渡らせてやると言っています 負けたら尻子玉を抜かれるそうなのですが。。。?」

「勝てば良いのですね 私こう見えましても 都の相撲大会では、大関の番付を頂いております」
八戒が鼻息荒く答える

「それは頼もしいですね では、受けてもよろしいのですね?」

「キュキーーキーキューーッキーキュキュキッーキュー」

「向こうは、5匹いるので団体戦でと言っております」

上半身をはだけ、土俵に入る 八戒

「5人抜きますので 問題ありません」

「はっきょーい 残った!!」

バッチーン!!強烈な当たりから、“上手出し投げ“

「勝負あった!!」尻子玉を抜かれ、内股でヒョコヒョコと戻ってくる八戒

「だらしがないのう わしが仇を取ってやる!!」
悟浄が土俵へと上がる

「はっきょーい 残った!!」
右四つから下手を捻られ 膝を付く悟浄 尻子玉を抜かれ、
ほふく前進で土俵を降りる

「主役が5人抜きをして、盛り上がるというものよ!!」
強烈な張り手で、膝から崩れ落ちる 悟空

「あらあら 困りましたね。。。そう言えば、河童に勝つには、仏前に供えられた供物を食べると良いと聞きましたね あなたは、妹を守りたいですか?」

「もちろんです!」男の子が元気に答える

「では、このぼた餅を食べて5匹を倒してください」

「河童の皆さん もしもこの男の子が貴方達5匹に勝ったらもう悪さはしないと約束して下さい 
それと貴方達は水神の眷属と聞いています 水神様を紹介してくださいね」

「キュキーーキーキューーッキーキュキュキッーキュー」

「負けるわけが無いからいい その言葉を忘れないで下さいね」


残された妹と二人ぼた餅を頬張るエヴァ お尻を押さえながら、だらしなく悶える3人が見守る中 
軍配が返る

「はっきょーい 残った!!」

“押し出し” “うっちゃり” “内無双” “浴びせ倒し”
最後の一際大きな河童を見事“寄り切り”で下す 男の子

「キュキーーキーキューーッキーキュキュキッーキュー」 

「参りました だそうです 皆さんの尻子玉も返してくれるそうですよ 約束通り 水神様に会わせて下さいね もう悪さをしてはいけませんよ」
実に西遊記らしい結末に満足したエヴァが 幼い兄弟にお土産を持たせ帰路に着く


「皆さん! あれが天竺ですよ!!」

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