第148話 新岐阜城開戦

文字数 3,151文字

瘴気の雲を突き抜け、2匹のバハムートが姿を現す
悠然と翼を広げ、遊覧飛行でもしているかのような静かな動作から降下体勢へと入る 
余計な風も音も立てずに、スタっと着地する フォゴとナーダ

彼らが、戦っている姿しか印象にない者達には、今見せたような優雅な振る舞いが
ほんの1時間ほど前まで岩村城での、虐殺の限りを尽くしていた生き物とは思えず
薄気味の悪い違和感に眉をしかめる事となる
“いつもの天女と呼ばれる女とネボアの姿が、見当たらないようだが?”
この場に居る全員の、脳内に念話が直接に響く 魔獣とは思えない、いや人間であったとしても人を魅了するような、そんな声音が脳内に自然と入ってくる

「ああ 階下でネボアをもてなしているのさ、約束通りあの瘴気の雲を排除してくれたらすぐにこの場に連れてくる」

“なるほど それは、お前達の当然の要求とも言えるか。。。 しかし逆に言えば約束通りネボアを返せば、あの雲を取り払う事を我等が実行するとも言えるな”
グルルルルルルッと低く唸り 口角から煙を上げる フォゴ

「そう身構えないでくれ、ナーダと言ったな? 俺達には、あの巨大な雲が簡単に排除されるとは到底思えないのだ」

“ふむ。。。お前達の脆弱な魔力では、この規模の現象を排除する事は出来ぬのだろうな。。。”


大食堂
「あれは、何を言い合っておるのじゃろう?」
全員が壁面の映像に文字通り釘付けとなっている サンドマンの視点は両陣営の中間から
やや引きで撮られ、動きのあった陣営に切り替わったり みんなの視線が上空に向くと
同じように上空へと切り替わったりする かなり優秀なその道の専門職だと言える

「お館様 おそらくは、ネボアを先に返すか、あの雲を先に取り除くのかの交渉をしているのだと思いますが」

「ふむ なんとなくじゃがな、奴らは暴虐の限りを尽くすが、嘘はつかないような気がするのじゃがな。。。」

「数百万人の命が掛かっていますので。。。ブルートも慎重にならざる負えません」

「それはそうじゃがな、今を凌いだとしても奴らは2日もあれば数百万人も殺す事の出来る術を完成できると言う事じゃろう? 民の命よりも、奴らの息の根を止める事が優先では無いのかのう?」

「それはそうなのですが。。。お館様!ブルートから念話でネボアを連れて来いとの事です 行って参ります!」

「天女殿!我等の事は気にせずに戦うんじゃぞ!! わしらは自分らの命は自分らの責でここに居るのじゃ 天女殿は自分の命と敵を滅する事だけを考えて戦って下され」
黙って、悲しそうな笑顔を浮かべ 頷く そのまま振り返ると階上へと続く扉を開ける
ネボアを閉じ込めた 封印結界を一瞥すると 風のように地上へと続く階段を駆け上る

夕暮れ時ではあるが、瘴気の雲によりさらに暗さの増した 屋外で仲間達の顔に安堵し
その反面、離れたところに立つ、2匹のバハムートにこれまで何度も対峙したにも関わらず 感じたことの無い戦慄を覚える エヴァ
身体の芯から沸き立つ震えを無理矢理に抑えるように、玉龍を右手で強く掴み
まるで母親に縋るかのように、正面に突き立て身体を預ける エヴァ
ー『自分と自分の子供の命を脅かす者に、無意識に身構えているのだろうか?』ー

“さぁ 女!ネボアをこちらへ寄越せ!”

「1つだけ聞いてもいいですか? なぜそれほどまでしてネボアを取り返そうとするのでしょう? 
私の感じたところでは、このネボアは本体ではありませんよね?」
そうなのか!?と顔を見合わせ合う 天武やブルート達

「ほぅ 面白い事を言う ネボアの本体をあえて言うならば、我等兄弟の中に取り込まれたのが、本体だろうな しかしその後に分裂したそれも、我等の兄弟である事に違いは無い 生物の頂点として兄弟を見捨てるなど出来るはずが無かろう!?」

「なるほど。。。ブルート ネボアを返しても彼らが約束を違える事は無いように思えます 
お館様もそう言っていましたが。。。」


「わかりました ネボアを引き渡します ところで、あの雲は、どのような方法で消すのですか?」
全員が空を見上げる
“お前ら脆弱な人間では、あの雲は手に負えぬと言う事か。。。? 我等、兄弟ならば
即座に無効化出来るがな ちなみに教えてやるが あの雲は、腐蝕効果のある瘴気を大気よりも軽い比率で浮かばせているだけだ あと少しでも瘴気を追加してやれば重さに耐えられずに瘴気の雨となって大地に降り注ぐ、それも腐蝕の雨がな。。。
当然、その範囲内の生物はすべて死に絶える この国の生物の半数以上が腐蝕で死ぬなど我等とて本意ではないがな、文字通り瞬時に腐れ果てるので食料にもならんのだからな
あの瘴気の雲には、一定の割合の水素と酸素を送り込んでやれば、フォゴの息吹で
あっという間に燃え広がり無害化するから心配するな”

「ご丁寧にありがとうございます わずか2日の間に随分と流暢に話されるようになったのですね? 
なぜ岩村城を襲ったのですか?」

“お前らの言葉で言うところの、腹が減っては戦が出来ぬと言う事だよ そしてな最近気づいたのだが
人間を喰えば喰うほど、その人間の持つ能力や知識も取り込めている様だ 流暢に話せるようになったのもその為だろう”

「なるほど、貴方達は、やはりクソ野郎ですね!! ネボアを返しますので、瘴気の雲を除去して下さい!!」
球状の封印結界を解除し、手足が折り畳まれた夜叉が解放される よたよたと這うように
兄弟竜の元へと歩き始めると、ナーダが頭上に向けて息吹を放つ
すると灰色だった瘴気の雲が息吹が触れた端から侵食するように、白い膜のようなものが波を打ちながら急速に拡がっていく
そこにフォゴが火炎の息吹を吐くと、たちまちの内に円状に四方へと燃え広がって行き 
薄暗いが、わずかに陽光の残る本来の雲が顔を出す
ネボアである夜叉をくるりっと尻尾で抱え上げる フォゴ


“これでお前達との用も済んだな 我らは、これから北へ向かい ゆっくりと捕食しながら、南下する予定だ またいずれ会うこともあるだろう お前達は、餌としてだがな”
くっくっくっくっと低く笑う ナーダ

「貴方達を、このまま行かせるわけには、いきません! ここで滅んで頂きます!!」

“未だ我等との力の差が理解できぬほどの愚か者なのか!? せめてもの情けで死を先に伸ばしてやったと言うのに!?”

「この国の民を捕食すると言っている者を、行かせるわけがないです」
そんなエヴァの背後にゆっくりと近づく ブルートがエヴァの耳元に囁く
「エヴァ 少し眠っていてくれ。。。茶々!頼む!」
茶々から睡眠魔法が飛ぶ
「天女様、ごめんなさい! ベラとフロー天女様を眠りに導いて!!」

「ブルート、茶々ちゃん どういうつもりか知りませんが、私に状態異常の魔法は効きませんよ!?」
そう言う、エヴァの足元からカサカサッと極太の縄のような物が巻き登ってくる 
たちまちの内に胸元まで巻き付き、玉龍をブルートがそっと取り上げる

「エヴァ お前に一瞬だけ動きを止めるための魔法だ 本命はこっちだ! 少し休んでいてくれ」

「ビシュー【交雑 ムカデ+ヒキガエル=毒百蛙】天女様ごめんなさい 僕の新しいスキルで新しい生物を産み出し、ムカデとヒキガエルの神経毒を混ぜ合わせて強制睡眠毒を
作りました 天女様はお腹の赤ちゃんの事だけ考えてね!! おやすみなさい」

「満腹。。。丸。。。君 そんな。。。。!?」
必死に眠りに抗おうとするが ことりっと頭を垂らす エヴァ

「茶々、お千代 エント·キングを出したら エヴァを下へ連れて行ってくれ
2人ともそのまま後方支援を頼んだぞ」

「そういう訳で、お前たちをここから返すわけにはいかない 死んでくれ!!」
ルイが【幻影散棘】を放つ

“貴様らを喰らうと、どんな力が身につくのか楽しみだな!?”


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