第35話 ベヒーモス襲来

文字数 3,422文字

《ルイ! エヴァ!! 頼む届いてくれ!!》 《頼むエヴァ 助けてくれ!! アランが。。。》



「エヴァ。。。気づいているか?」

「ルイ! ここはお願いします ブルートが呼んでる!!」
そう言い振り向く2人の視界 天満山の中腹を砂煙と木々を巻き上げながら突進してくる赤黒い影

「これって。。。最悪の展開だよな! みんな!! 逃げろ!!」
この世界の住民が、経験したことの無い質量の生物が、経験したことの無い速度で襲い掛かる
天満山の麓にある、浅井·朝倉本陣を吹き飛ばし その場に居た数名の従者が爪と牙の餌食となる
ベヒーモスにとって、実に数年、数十年ぶりに恐怖に染まった血肉を喰らう

ベヒーモスは知っていた 自分への絶大なる畏怖、堪え切れない恐怖、覆す事のできない絶望が
最高の調味料であることを。。。。 

その為 ベヒーモスのメインディッシュとなるのが、恐れ·絶望·嘆き·悲哀·苦痛あらゆる負の感情に支配され
四方を武田、徳川、浅井、朝倉に完全に包囲された織田軍が餌食(えじき)となるのは、必定であった



「エヴァ ここにあるすべての武器に強化を頼む!」
風魔党から集めた槍と鎖鎌等と、ルイとお雪の十文字槍そして、本多忠勝の【蜻蛉切り】を並べる

「わかりました ルイにもあらゆる強化を掛けておきますね」杖を掲げ 祈るように眼を閉じる

「ブルートの所に行ってくれ それまでここは、何とか凌いでおく」

「はい、皆さん決して死なないでくださいね」
そう言うとエヴァの実体が薄くなる 隠密魔法[影法師]あらゆる影に潜みながら高速で移動ができる、人が密集した場所でより効果を発揮する魔法である



「さて皆 あれがベヒーモスだ!! [土壁]」 
ベヒーモスから浅井軍を守るために高さ5メートル幅5メートルの[土壁]を出現させる 
それを軽々と飛び越え 数十名の浅井兵を踏み潰しながら着地する ベヒーモス

着地地点を予め読んでいた 本多忠勝と風魔党の数名が四肢の自由を奪おうと槍を鎖鎌を放つ 
しかし、それらが届く寸前 織田軍に向けて飛ぶベヒーモス

「あれだけの巨体でなんて身軽なのだ!?」

「あれが噂に聞く、インドだかペルシャだかに居る 象ってやつなのか!?」

「天女様が戻られるまで、あいつを食い止めねばならん 行くぞ!!」

[縮地術]を使い 織田軍の中まで入り込み ベヒーモスを待ち受ける ルイと本多忠勝

「来るぞ! お前らは、逃げろ!!」 周囲の織田兵に逃げるようにと叫ぶ ルイ
ルイが地面に手を当て唱える[土柱] 直径1メートルほどの柱がベヒーモスの着地点に現れる そこに居た兵を吹き飛ばしながら、煩わしそうに土柱を破壊しようと尻尾を振り上げた隙きを付いて 縮地術で土中に潜んでいた本多忠勝がベヒーモスの左脇に向け【蜻蛉切り】を突き刺す

ギョロリッとベヒーモスの目玉が動き 本多忠勝を捉える ガバッと口が開き火炎が放射される
その火炎が鞭のように尾を引き 右に左にと薙払われる
声も無く絶命していく織田の兵士 [土柱] ベヒーモスの行く手を阻もうと立ち塞がる [土柱]
身を捻ったベヒーモスの鼻先に [土柱] [土柱] [土柱] [土柱] [土柱] [土柱] [土柱] [土柱]
高さ5メートルから10メートルと大小様々な土柱が20本以上聳(そび)える
その柱の上を縦横無尽に駆け回りながら 槍を突き立て 絡め取ろうと 鎖鎌を投げる 風魔党
少しずつベヒーモスの四肢を拘束していく 鎖鎌

「驚いた 鎖鎌がベヒーモス攻略の決め手になるとは ギルドに報告しないとな」
余裕が出てきたのか戯ける ルイ

「皆で休まずに削ってくれ!まだまだ油断は出来ないからな!!」




戦場を離れ、1人ブルートを探しに出た エヴァ
「ブルート! 本当にブルートなのですね。。。」

「ああ エヴァ良かったよ アランもそこに居る」 [浮遊する板]の上を指差す ブルート

「アラン。。。これは、酷いわね。。。あとは任せてブルートは魔力の回復に努めて」

「ベヒーモスは、ルイに任せておいて大丈夫なのか?」

「大丈夫な訳無いでしょう! でも独りじゃないから なんとかしてくれると思う。。。。 
それよりブルート、あなた洗浄魔法くらい掛けたらどうかしら? 昔 孤児院で飼っていたポチと
同じ匂いがするんですけど。。。」

「うん? そうか、すまんすまん長い間 人と接してこなかったからな あっちの池で体を洗ってくる」

「アラン、こんな姿になって。。。腰から下を全部再生させるのにどれだけ時間がかかるのやら。。。
じっくり腰を据えて治療して2週間ってところね 取り敢えず落ち着ける場所まで運ばないとね 
もうちょっと我慢してね」


《ルイ、ブルートだ そっちの状況は、どうだ?》

《ブルート! 良かったよ無事で。。。アラン、アランは!?》

《うん なんとか生きてる 今はエヴァに見てもらっている
もう少しベヒーモスを抑えることは、出来そうか?》

《良かった〜良かったよ。。。本当にアランが生きていて
ベヒーモスは、なんとか抑えるよ 魔力をあまり感じないんだ いけると思う》

《湖の底に縛り付けて 魔素を取り込めないように封印していたからな ちなみに俺も魔力が空だけどな 
すまんがルイ もうちょっとベヒーモスを抑えておいてくれ 回復し次第そっちに行く》

《うん なんとかやってみるよ、仲間もいるし》

《そうか仲間も居るのか 良かったよ本当にお前達が無事で居てくれて》



[土柱]に四肢を鎖鎌でぐるぐるに縫い付けられ 

わずかに自由になる首を左右に振り 拘束を緩めようともがく 付近にいた織田勢はベヒーモスの火炎放射と風魔党との戦闘の余波を受け沢山の屍(しかばね)を晒している 
そういった中でも運良く 難を逃れた者達は、武器を捨て包囲を狭めていた武田、浅井、朝倉軍に次々と投降していく

ひとしきり藻掻いていたベヒーモスが動きを止め 赤黒く脈打っていた体表から熱が冷めていくように
黒褐色へと変色していく 瞼(まぶた)も閉じられ 巨大な黒曜石の置物のように変貌していく

「なぁルイ これって死んじまったのか?」風魔小太郎が聞いてくる

「いや 寝ているようだな 魔力が尽きたんだろう。。。」

「息の根を止める好機では無いのか?」そう言いながらベヒーモスの鼻先で【蜻蛉切り】を扱く 本多忠勝

「並の攻撃では、通らないぞ やっても良いが エヴァやブルートの魔力を回復させる時間稼ぎをしたいんだけどな。。。」
遠巻きに成り行きを見守っていた 織田勢がざわつき始める

ベヒーモス対ルイや風魔党の戦闘を間近で見ていた彼らの目に、すでに戦意は残されてはいなかった
武器を捨て呆然と立ち尽くしている兵たちを掻き分け
一際 立派な甲冑を纏った武将が顔を青くしながら近づいてくる

「本多忠勝殿ではござらんか? 柴田勝家にござる」

「おぉ柴田殿 久しいですな とんだ邪魔が入りましたが さぁ戦の続きと参りますか!」
笑いながらベヒーモスの鼻先をコンコンッと叩く 忠勝

「そのような意地の悪い事を申されるか。。。これは一体どのような生物に御座るか?」

「柴田殿! 悪いがあんた等と慣れあう気はない! 我が殿が討たれた岐阜城にあんたも居たはずだ!!」

「本多殿 確かにわしもあの場に居った 止めねばならんかった 誠に止めねばならんかったと未だに後悔をしておる おそらくじゃが、殿も後悔しておる 口には出さぬが、わしらにはわかるのじゃ」

「口では、何とでも言える 織田信長の首級を挙げねば 我が殿も浮かばれぬでな このまま本陣まで攻め込ませてもらう 立ちふさがるものは全て切り伏せる!!」

「まぁ 待たれよ忠勝殿」背後より威厳に満ちた声音が響く

「これは お館様 ここは危険に御座います」片膝を付き 武田信玄を迎える一同

「お主もルイも居て 危険な場所などあるものか 誰がわしに傷1つつける事ができるというのじゃ?」

「もちろんお守りしますが このベヒーモスなる生き物 いつ目覚めるのか。。。」

「ふむ 長生きはするものよのう このような異形を目にするとは、これは西洋の書物で見た竜種に似ておるのう」

「龍では無く、(どらごん)でございますか? いずれにしても人の手には、余る生き物ですな」

「ところで柴田殿」平伏す 柴田勝家の上に信玄の声が冷たく突き刺さる

「はっ!」短く返事をすると、さらに額を地面にめり込ませる この武田信玄の一言に、ここに居る織田軍5万の命が掛かっているかと思うと 猛将で知られる柴田勝家も赤子同然である



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み