第136話 特攻

文字数 3,267文字

ドームが瓦解した、新岐阜城の上空
この国で、いやこの星でかつて経験したことの無い、未曾有の生物同士の戦いが繰り広げられる 
空に無数の結界を浮かべ、それを足場に縦横無尽に空を駆け回る 九尾の天女と
巨大な翼を持ち、大空を駆ける 伝説の生物“竜”に酷似した2匹のバハムートとの戦い

大薙刀“玉龍”を操り、すれ違いざまにバハムートへ斬撃を繰り出し
魔力を纏った、大型の風刃でバハムートを翻弄する 九尾の天女エヴァ

赤き竜の覇気を纏い、強靭な肉体と鞭のようにしなやかな尻尾で肉弾戦を得意とし
炎属性の赤き竜の息吹を放ち この星のあらゆる物質を燃やし尽くす事が可能な
赤いバハムート·フォゴ
そのフォゴの弟竜であり、黒き竜の覇気を纏い 雷撃、腐食、治癒魔法までも使いこなし
未だ不明な点が多く 高い知能を有する 黒いバハムート·ナーダ

体格にして10倍以上の差 魔力量にしても10倍以上の差 そんな両者が互角に見える
戦いを繰り広げられているのも、戦闘経験の差、魔力操作の差であるが
容易には埋まることの無い体格、魔力量の差に比べ
学習能力の高い敵との戦いが、長引けば長引くほどに埋まってくるのが、戦闘経験の差、魔力操作の差である
エヴァにとって不運な事は、産まれて半年ほどの2匹のバハムート達の戦闘における学習能力は、あらゆる種族の群を抜くほどに高く エヴァとの戦いの中でも急速に成長し
敵との間合い、攻撃の緩急、敵の数手先の未来予測など、エヴァとの差が徐々にではあるが埋まりつつあった

竜の息吹を放つ動きを読み、結界を張り バハムートが踏み込む動きを読み、風刃を放つ
そんなエヴァの戦術も、わずかづつ歯車が狂い始め 防御に回る時間が増加していく
ナーダの尾による攻撃を防ぎながら 息吹を溜めているフォゴに風刃を放つ
それをナーダが広げた翼に阻まれ ナーダの翼を傷つけ落下していく 風刃
「させない!!」
一歩身を引き、結界を強く蹴りナーダの脇を抜け フォゴへと向かうエヴァ
ナーダの脇を抜けた瞬間に、大気が歪む 竜の覇気を結界で防ぐが、弾き飛ばされ
フォゴへの行く手に立ち塞がる ナーダ
フォゴの前方で練られた息吹、時間にして5秒間も溜められた球状の業火が渦を巻き
解き放たれる時を待つ
「まさか、狙いは!?」
新岐阜城への攻撃を恐れ、常に2体を牽制しながら、戦いの場を高空へと移したエヴァであるが
2体のバハムートの連携に今まさに攻撃を許そうとしている

羽衣に風魔法を纏わせ、新岐阜城へ向け急降下する エヴァ
そのエヴァの斜め後方を、巨大な獄炎が唸りを上げ新岐阜城へと突き進む
「間に合えっ!!」
九本の尾が空気を叩き、更に加速するが後方からじりじりと伝わる、自然界では決してありえない熱気に煽られる
両腕を交差させ、獄炎球の進路を反らそうと次々と結界を進路上に放つ
しかし獄炎の渦に巻き込まれ、消滅していく結界 まったく速度を落とす事もなく
ドームだった敷地の中央に突き刺さる 獄炎球!!
巨大な獄炎の玉がひしゃげ、大量の瓦礫を吹き飛ばし 凄まじい圧力が厚さ5mにも及ぶ
床面に、蜘蛛の巣のような亀裂を生じさせる
“みんなが、最下層まで避難していますように!!” そう願いながら 九尾を扇状に広げ
その場に滞空しながら、2匹のバハムートを仰ぎ見る


“ドッガンンンンンッッッッッ!!!!!!”
新岐阜城の最下層まで轟く爆音 練兵場に避難している全員が息を飲む
「天女様一人で、あの化け物共を相手に出来るわけが無いだろう!!忠勝〜!!
お前は何処で何をやってやがるんだ!!お前のかわいい嫁さんが死んじまうぞ!!」
風魔小太郎が天井を見上げながら 叫ぶ
「頭!!天女様の助太刀に行きましょう!!」
「そうだな!1秒でも2秒でも天女様を休ませられるのなら。。。お前ら弓を持て!!」
「「「「「「「おおっ〜!!!」」」」」」」
「小太郎殿!落ち着いて下さい!!私達が行っても、犬死するだけです!!
天女様が悲しまれますよ 間もなくルイやブルートが戻るはずです 信じて待ちましょう みなさんを守るように天女様に言われていますので、ここを通すわけにはいきません!」
階上への階段の前で両手を広げる お雪


「僕達が、不甲斐ないばかりに。。。申し訳ありません」
北条氏直がお雪の前に割って入り 風魔党員に頭を下げる
「若っ! 止めて下さい!そんなつもりで言ったわけじゃないです 天武のみんなは本当によくやっていると思いますよ それに比べて大人の俺達が、なんの役にも立っていないように感じちまって。。。どうにも情けなくって。。。」
「それは、僕達も同じです これだけの力を与えて頂いたのに、わずかな時間稼ぎも出来ずに殺されるなんて。。。」
「えっ!? 殺された?? 殺されたってのは、どういう事ですか?」
「ここに居る 全員は、茶々の即死回避の魔法が掛けられているんだ 1度だけ死んでも、蘇る事が出来るんだよ」
「それで、弓兵の何人かが、死んだと思っていたのに けろっとしているのは、その魔法のお陰ですかい!?」
「おりん様の話では、死ぬ数分前の状態で蘇るらしいから、どれだけバラバラにされて死んでも大丈夫らしい この戦いで天武の1番のお手柄は、間違いなく茶々ちゃんと天女様をこの場に呼んでくれた 千代ちゃんだな」
「そんなこと無いよ 全員が頑張ってるから みんなが生きているんだよ!!」
「そうです お雪殿の言うとおりです。。。と言うことはですよ、俺等も1度は死んでも大丈夫って事ですな!」
「小太郎殿。。。何を考えているのですか?」
「お前ら!聞いたか? 1度は死んでも大丈夫らしい お前らの中で死んだ奴はいるか? こんな機会はなかなか無いぞ 死んでおかなきゃ損ってもんだな!!」
「「「「「「「おおっ!!それは確かに!!」」」」」」」
「茶々〜 ちょっと来てくれ〜 ここにおかしな事を言っている大人達がいるぞ〜!」
満腹丸の繭の前で、膝を抱え座る 茶々が振り向く
「茶々は今、おかしな話を聞きたい気分では無いのですが。。。」
「風魔党のみんなが、即死回避があるのなら特攻をすると言っているんだ 本当に
大丈夫なのか?」
「ちょっと待って下さい ベルとフローに聞いてみます」
目をつむり、口元だけをわずかに動かす茶々に注目する 一同
「特攻をして肉体がすべて蒸発しても大丈夫なように ここに依代を残して行きなさいって言ってるよ 
藁や紙で人形を作って、その中に髪の毛等を入れて行けば、ここで蘇るから気兼ねなく死んできなさいって。。。」
「何気なく、酷いことを言う 精霊だな。。。」
「頭!俺の頭を見てくれよ!!ハゲなんだけど、どうしよう!?」
「馬鹿野郎!爪でも入れとけ それで心配なら、%@毛でもいいだろう!」

“ドッガンンンンンッッッッッ!!!!!!”
壁が振動し、天井からパラパラと埃が舞い落ちる

「お前たち、急いで人形を作るんだぞ! 十人一組で上に行って、矢が無くなるまで射るんだ 天女様の為に少しでも時間を稼ぐぞ!!」
「「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」」
その話を聞いていた 弓兵達もせっせと人形を作り始め 前田慶次郎の指示の元
特攻部隊が組織されていく


地上階の床面が破壊され、天女御殿が剥き出しとなる
「婦女子の部屋を覗くとは、感心しませんね! 羽柴組のみなさんがこだわり抜いて作って下さった私の部屋を!!」
2匹のバハムートが放つ竜の息吹を結界と風魔法で、なんとか反らしているが
同時に放たれた息吹に対応できずに、大穴を開けられてしまう
それを見て急降下してくる ナーダ 低空で息吹を溜める フォゴ
低空で滞空するフォゴに風刃で牽制しながら 玉龍でナーダに斬りかかる
尾の攻撃を交わしながら、大穴を背にして息もつかせぬ攻防を繰り広げる エヴァ
その時、大穴から殺生石の鏃のついた矢が十本放たれ、強化された筋力で射られた矢が、低空を飛ぶフォゴに襲い掛かる 凍結の掛けられた矢がフォゴの全面で練られていた獄炎球を霧散させ、僅かな時間ではあるが、フォゴの動きを止める
「みなさん!危険です!!逃げて下さい!!」

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