第27話 信長の憂鬱2

文字数 3,032文字

ー『俺が、この世界に来て2ヶ月が過ぎた この世界で目覚めたときに俺が見たものは
上半身だけの姿で湖畔に横たわるアラン そして湖面に半身を沈め意識の朦朧としたベヒーモス
意識を一瞬で覚醒させ 絶命寸前のアランと意識を取り戻しそうなベヒーモス
その2体に同時に魔法を飛ばす アランを【永久凍土の純氷】で包み、その中を【生命の水】で満たし仮死状態とし ベヒーモスには、自身の使える最強の封印魔法【完封鎖の呪い】で封じ込め湖底に沈める 
この判断は、間違ってはいなかった筈 もし仮にベヒーモスを殺す事を優先していたら アランは死んでいたかもしれないし
アランの処置を優先していたら ベヒーモスが目覚めていたかもしれない あれが最善しかし残り僅かだった
魔力を使い果たし アランの延命の維持とベヒーモスの封印の維持は無理だと判断するが
この転移された世界の肌がひりつくほどの魔素の濃さにギリギリではあるが 両方を維持することが可能だと判断をする』ー

それからのブルートは、アランを隠すために残された魔力をやり繰りし 少しずつ少しずつ土魔法で洞を作り
その中にアランを隠し 生命の水を注ぎ続ける
そしてベヒーモスの封印に魔力を注ぎ続ける 術者が離れる事で封印が弱まる性質の為に 
この地より離れる事が出来ず
満たされることのない魔力では、ベヒーモスにとどめを刺すことも叶わない
一撃で倒せなくては、戦いが長引けばブルートもアランもこの場で命を散らすことになる

わずかな望みを託し、念話をルイとエヴァに飛ばすが反応は無い
この世界に来ていないか 念話の範囲外にいるという事だろう 
念話の範囲などせいぜい5キロ程しかないのだから


ー『昨日 東の地で起きた凄まじい魔力の奔流に刺激され この湖の湖底で封印してきたベヒーモスが目覚めたようだ あとどの程の時間 奴を封印出来るかはわからない あの魔力の原因がルイとエヴァだったなら?
アランを連れて探しに行けばエヴァの回復魔法なら、時間は掛かるがアランは助かるだろう。。。 
しかし間違いなく、ベヒーモスは目覚める事になる まったく関係のない世界に俺のせいでベヒーモスを解き放つ事になるだろう
被害は出るだろうが、もしかしたら4人が揃えばベヒーモスを倒すことが出来るかもしれない
しかし、もしもあれがルイとエヴァでなければ。。。アランは死んで、ベヒーモスが解き放たれる
これが最悪の結果だな 俺一人では、ベヒーモスに勝てないだろう。。。
さて どうしたものか?』

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

皮肉な事に数日前にルイは、小谷城に鳩小屋を設置するために行っている
もしその時 どちらかが念話を試していたなら。。。。。。。

窮地に立たされているブルート そこから東に80キロほどの鳴海城にて
土魔法で鳴海城の土台、建造物の造作を終えたルイ
羽柴秀吉兄弟とその配下500名は、新たな鳴海城に入り整地、清掃、河原より取ってきた砂利を中庭に敷き詰めるといった作業に従事していた

「本当にこんな城を3日間で作るとは。。。夢でも見ているようだな。。。」

「お〜〜い 手の空いてるもの3人ほどで沓掛城に食料を取りに行ってくれ! 大急ぎでな!!」

「この壁に狭間[矢や鉄砲を外部に向け撃つための穴]を、どうやって穴を開けるんだ?」

「天女様に加護を授けて頂いた鑿(のみ)を使え! 簡単に開けれるぞ!」

「砂利が足らねえぞ! そこの大八車でもっととってこい!!」

「天女様はどこだ〜 指を切っちまった!」

「馬鹿野郎!つばでも付けとけ!! 天女様にそんな汚い指見せるな!!!」
と こんな具合に大忙しであるが ルイは、お雪ちゃんとうさぎを狩りに
エヴァは本多忠勝と徳本を連れて城下にて団子を頬張っていた

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

岐阜城 天守閣 西洋の豪奢な椅子に腰掛け 一人佇む
この城の城主 織田信長 話す相手は居ない 目を閉じ
先程からボソボソとなにやら独り言を呟く

「さて 困ったぞ いろいろおかしな事が、起きているようだ。。。
水野信元が裏切ることは、想定内っていうか 家康の生母も居るしな 
それより問題は、佐治信方に嫁がせたお犬ちゃんでしょ? まさか戦わずに降るどころか
武田に就くとか。。。ありえんでしょ? これは、さすがに精神的に応えたよ。。。
浅井の所に嫁がせたお市ちゃんは、浅井長政をなんとか思い留まらせようと 頑張ったって聞いてるけど
お犬ちゃんは、戦おうとする佐治信方を、裏切るように説き伏せたらしいんだよね、ありえないでしょう?
っていうか 政略結婚の意味がまったくないんですけど? 俺って家族運が無さすぎるのか?
そりゃ〜 そもそも実の弟と尾張の覇権を争って殺しちゃってんだから そんなもん、あるわけもないか」

薄い笑いを浮かべると 先日伴天連から献上された
ワインなるものを ビードロでできたコップに入れ 口に含む

「うまいな〜 このワインというのも旨いが このビードロのコップなるもので飲むから
さらに旨いんだろうな これ湯呑みで飲んでも どうかな〜? やっぱコップだろう?
みんなの前でコップのほうが良いなんて 口が裂けても言えないけどな はっはっは
さんざん値打ちこいて あっちこっちから大枚はたいて集めたけどさ正直何がいいんだかさっぱりわからんよ
金貨100枚で買った茶碗が、俺の手から将軍の手に渡った時点で、金貨200枚で買いたいって奴がいくらでも居るんだよ?
まぁ元々 与える領地がないから そこらにある茶碗に値打ちこいて金貨50枚で買った値打ちもんだって適当に言って 領地の代わりにあげたんだけどね
今では、城も領地もいらないから茶碗くれって。。。頭おかしいでしょ はっはっはっは
茶碗くれてやる分には、反乱とか心配しなくっていいから安心だけど。。。待てよ この茶碗を狙って、俺の寝首を。。。まさかな〜  
しかし、このコップを見ても ポルトガルだのオランダだのの技術は、凄いよな〜 ビードロをこんなに薄くして、こんなシュッとした物が出来るんだもの
正直、白天目茶碗なんかよりコップのほうがよっぽど良いよ ポルトガル行ってみてえ〜 ん?」
コップに残ったワインを一息に飲み干す

「いやいやいやいやっ! こんな事考えてる場合じゃなかった 
武田だよ 武田 たった4000に負けるか。。。? 
鳴海城に2万5000いたんだよ? しかも鉄砲3000丁 秀吉もいったい何をしてたわけ?
瀕死で逃げ帰ってきた前田利家の話では、向こうの弓は届くけど こっちの弓は、まったく届かずに
一方的にやられた上に 城内に乗り込んで来た 本多忠勝の槍の一振りで20人以上が吹き飛ばされたとか
あの慶次郎が手も足も出ずに逃げるだけで精一杯とか 
極めつけは、全焼した鳴海城が堀も石垣も強固に巨大になって 再建されてるって。。。
おかしい はっはっは おかしいなんてものじゃない」
コップになみなみとワインを注ぎ 零さないように口を付け(すす)

「よし! ここは俺らしく 武田は、放っておいて浅井を攻めるか! 家康の葬儀を大樹寺でやるそうだし
雪が溶けるまでは、ここまで上ってこれんだろ うちもキツイが小谷城までなら何とかなるか!?
5万も集めて囲めば。。。うん! そうしよう!!!そうと決まれば よし 織田信長を演るか」

コップに残ったワインを一息に飲み干し 階下に向かい叫ぶ

「蘭丸! 蘭丸は居るか!!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み