第83話 エヴァのルーツ

文字数 3,734文字

越後に入り、関川に沿って北上する
春日山城跡を、左手に見ながら上杉景勝に聞いていた通りに、さらに北進し日本海に突き当たる
日本海の荒波に剤られた、切り立った崖に立つ
「あの夫婦岩を正面から見た崖を降ったところに、家臣でも知らない 秘密の毘沙門堂があるそうです 無事で居てくれると良いのですが」
左手の沖に見える夫婦岩と言われる、2つ並んだ奇岩を指差す

「上杉謙信公といえば、この国で武田信玄公に並ぶと言われる豪傑です きっと無事で居られるでしょう」

「では、行ってみましょう」
海岸線を夫婦岩を目印に西に進んで行く 20分ほど進んだところで

「この辺が、ちょうど夫婦岩が正面に見えるようですね 降りてみましょう」
切り立った崖から、30cmほど張り出した岩場を足場にして、海に向かって降りていけるようだ
苔むした崖を左手に、夫婦岩を右手に見ながら降りていくと岩肌に洞窟の入り口が現れる
先を歩いていた 忠勝が足を止め、中を覗き込む

「天女様、どうやらここのようです」
中から、呪文のようなものを唱える男の声が微かに聞こえてくる 
「入ってみましょう」

「オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ
オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ。。。。。」
上杉謙信が唱えているであろう、毘沙門天の真言が洞窟の奥から聞こえてくる

「忠勝殿、上杉謙信殿は、どうやら無事のようです」
忠勝を先頭に洞窟の奥へと歩みを進める
毘沙門天像が洞窟の最奥に設置され、その両脇の燭台に明かりが灯る
毘沙門天像に対面し座禅を組む、長髪の男の背中にエヴァが声を掛ける

「失礼します 上杉謙信殿とお見受けいたします」

「ふむ。。。待っておったぞ、そなたが“時空を超えた者”か。。。」
振り返りもせず、返答する 上杉謙信

「“時空を超えた者”かは、解りませんが 貴方を救いに来ました 間に合ったようで良かったです」

「毘沙門天より、“時空を超えた者”を待てとお告げがあった」
そう言うと、体ごとゆっくりと振り返り 2人を目を凝らしながら見る

「もしも、お告げがなければ、涅槃へと導く者かと見紛うほどの美しき天女と
それを護る鬼神と思っていたろうな」
そう呟く 上杉謙信の頬は痩せこけ、無造作に伸びた無精髭に落ち窪んだ眼窩が痛々しい

「この洞窟の入り口に結界を張りました 休まれても大丈夫ですよ」

「ほう 陰陽の術か。。。そなた等を信じよう 話したい事もあるが、5日間ほど眠ることも出来ず、飲まず食わずでな。。。気を緩めると、あやつが頭の中に入ってきそうで
真言を唱え続けるより(すべ)が無かった。。。少し休ませて貰うとしよう」

「安心してお眠り下さい 拙者と天女様でお護りしますので」
本多忠勝が言い終わらぬうちに、横になり寝息を立てている 
自分の羽織を脱ぎ 謙信にそっと掛けてやる


洞窟の入り口脇の大きな石に腰を掛け、日本海を眺める エヴァ
その横に何者も通さぬと仁王立ちで腕を組む 本多忠勝
「見て下さい 忠勝殿、あの夫婦岩は、この海の荒波の中で太古より寄り添っているのでしょうね 大きな方の岩が小さな方の岩を守るように、これからもずっと」

「天女様 どのような荒波が押し寄せようとも、どのような強大な敵が立ちはだかろうともこの命が尽きるまで、拙者が貴女をお守りします」

「1つ貴方に言っておかなければならない事があるのですが。。。。火竜達との戦いを もしも生き延びる事が出来ればなのですが。。。あまり面白い話では、ないかもしれませんが聞かれますか?」

「天女様の話でしたら、どのような事でも聞きたいです 聞かせて下さい」


はるか上空より、洞窟の入り口を覗う ネボア
憑依する隙きを5日間に渡り、伺い続けて居たが 毘沙門天の真言の効力が強く
あの人間の体力が尽きるのを待っていたところに、見覚えのある 人間の女が現れる
自分の生みの親であるベヒーモスの尾を切り離した女が、自分の獲物が籠もる洞窟に
強力な結界を張り、こちらを見つめている
実に邪魔な存在だ! しかし今の自分では、敵わないことは本能で理解できている
ならば、次の獲物を探さねば。。。西の空へと消えていく ネボア

強化した聴力で、毘沙門堂の奥で上杉謙信が眠っている事を寝息で確かめる
そして、ぽつぽつと語り始めるエヴァ
「そうですね。。。どこから話せばいいでしょう 初めに言っておきますが
私は、忠勝殿よりも随分と年上ですよ ふっふっ」少し寂しそうに笑う エヴァ

「天女様のお年など気にした事もありませんし、これからも気にする事などありません」

「私の祖母の話からしなければなりませんね 会ったことはありませんが。。。
私の祖母は、マンダガル大森林という広大な森の住人でした
種族は、人間ではなくエルフと呼ばれる亜人種なのですが、人間よりも長命で魔力の操作に長け
魔力量も多い事で知られています そんな祖母が人間の男性と恋に落ち大森林を出る事になるのです 
エルフというのは封鎖的な種族ですから。。。
人間が大森林で暮らす事が許されなかったであろう事は、容易に想像できます
そんな祖母が、人間の暮らすマリアルバ王国の町で生活をし、私の父を授かります
エルフと人間の間で子を授かるという事は、とても珍しい事でした
父は、人間とエルフとの混血、ハーフエルフという事で、祖母の遺伝を強く受け継ぎ 
人間を遥かに凌ぐ魔力量で王国の魔導師として、長年に渡り軍隊を率いる事になります」
エヴァの目を見つめ 真剣に話に聞き入る 本多忠勝

「そんな父も、人間の女性と結ばれますが1度目、2度目の結婚で子供を授からず 
ようやく3度目の結婚で女の子を授かります それが私です
しかし隣国との戦争で、私の誕生を待たずに命を落としたそうです
しばらくして私が産まれることになるのですが、人間である母の寿命では、私を成人するまでは
育てられないだろうと父から聞かされていたそうです 
そこで母は、父が遺してくれた遺産と国から頂いた報奨金等を元手に孤児院を始めたのです 
自分が死んだ後も、私の居る場所を作るために」
ちらりっと忠勝を見る エヴァ

「聡明な、母上だったのですね。。。」

「そうですね本当にそう思います いえっ!それよりも、私が純血の人間では無いと話しているのですよ!?なにか思う所が、あるのではないですか??」

「思う所ですか? ああ!そのエルフという種族は、よほど美しい種族なのでしょう!? そうでなければ
天女様の人間離れした美しさの説明がつきません!!」

「。。。。続きを話しても、宜しいでしょうか?」

「はい 是非ともお聞かせ下さい」


一息つくと また滔々と語りだす エヴァ
「孤児院を始めてから10数年で、マリアルバ王国からの支援もあり 王国でもっとも大きな孤児院となり
優秀な魔導師を何人も育てた孤児院として信頼を得るほどになります 
母は、院長として長年頑張ってきましたが、父の言葉通り私の成人を待たずに他界します 
その後、母が信頼していた部下の方が院長を務められ 私も小さな子の面倒を見たり
年長の子供達に魔法を教えながら、今になって思えばもっとも平和な時を過ごします
そして私が魔法を教えた何人もの子供達が孤児院を巣立って行き 
冒険者や王国の魔法使いとして活躍する事になります
アランと、ブルートもその中で特に優秀な冒険者となり 時々孤児院にも魔法や剣術を
教えに来てくれるようになり ルイが15歳となり冒険者登録をするとアラン、ブルート、ルイの3人でパーティーを組み 破竹の勢いで冒険者ランクを上げていくのです
数年して彼らがCランク冒険者となり、彼らより先に冒険者登録をしていて、教会などで治癒·回復魔法を使い活動しており、Bランクとなっていた私をパーティーに誘いに来てくれたのです 
その時に私は、この4人なら冒険者の最高峰であるSランクになる事も可能であり
もしそうなれば、孤児院の名もさらに上がると考えました
私の予想通り、5年ほどでAランクとなり王国でも屈指のパーティーとして認められるようになりました そして王国の長い歴史の中でも2組しか存在しなかったSランクに挑戦することになるのです」

ここでなにか気になることでもあるのか 夫婦岩の上空に視線を向ける エヴァ
しかしすぐに興味を失ったように 忠勝に視線を戻す

「冒険者という職業がよく解りませんが、もしその王国に行ける事があれば、拙者も冒険者になってみたいものです」

「そうですね 忠勝殿なら向いていると思います 冒険者と言うのは国や民間の依頼で
魔獣や盗賊を退治したり、商人や貴族の護衛をしたりと仕事は多岐にわたります 
そして、その実績により冒険者としてのランクが上がっていき、より高難度で高報酬の依頼を受ける事が出来るようになるわけです」

「それを聞いて益々、冒険者に興味が湧いてきました」

「続きを話してもいいですか? この世界の誰にも話していない事です これを聞いてしまうと 貴方は、私の事が許せなくなるかもしれませんが。。。」

「どのような事があっても貴女を許します、もし何かの罪を犯しているのなら共に償います 償えない罪なら半分を生涯をかけて背負い続けましょう」



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