第2話 大将首

文字数 3,491文字

アラン。。。。。
アラン。。。。。。。。。。。
アラン!!!!!!!!!!!!!!!

徐々に意識が現実へと引き戻される
遠くから? いや すぐ近く、まさに頭上から何者かが争う剣戟(けんげき)が。。。
すぐ耳の横で重量のある生き物の蹄が土を抉る音 蹴り上げる土が頬に当たる

「ここは、どこなんだ? みんなは?」

「@%$#!&^%#$@&&^*!!!!!」

「%#^%@&%#$&^%#@!%#&*&**@^!!!!!!

まるで聞いたことのない言語が。。。悲鳴が、怒号が頭の上を行き交う
『落ち着け俺 どうやら戦場の真っ只中のようだ。 まず起き上がらなくては
腕は動く 足も動く 痛みもない。。。服も武装も無い!? 丸裸!?』

予備の服、武器を求めて空間収納を覗くが何も入っていない。。。
ヘルスティング! 念じれば手元に戻るはずの愛槍も反応がない

「まず服と武器を!」 素早く起き上がり 縮地術で混戦した地帯から抜け出し あたりを見渡す
見たことの無い赤い甲冑の一団と黒を基調とした武装の一団が争っていることが理解できた
「これは丁度いい」 足元に落ちていた旗竿(黒地に白字で風林火山)を拾い上げ
旗の部分を引きちぎり腰に巻く 残った竿の部分を脇に挟み横に振るってみる 

「心許ないが、丸出しよりはましか。。。」

ひときわ高価そうな黒い甲冑に穂が長めの十文字槍をこちらに向け、ルイのいた国の馬よりも
ひと回り小振りだが見事な栗毛の馬に騎乗した兵士がルイの腰に巻いた旗を睨みつけ

「%$^&@*&^$%!#$#@&!!!!!」何事か叫びながら迫ってくる

「どうやら言葉の異なる異国に転移したようだな しかも戦の真っ只中って」

身体強化魔法を掛ける 「身体硬化、筋力増加、加速と翻訳を常時発動で」
これだけの魔法を1秒未満の時間で唱えることが出来るのは、魔法戦士の職業の特色である
ただし身体強化魔法に限るという制限があり 攻撃魔法に限れば発動までコンマ数秒のタイムラグがある

「貴様も武田か!!」 眼前まで迫った槍の穂先を、わずかに首を反らすことで避け

馬上の兵士の喉元に竿を突き刺す 穂先もないただの木製の竿だが身体強化により
なんの抵抗もなく突き刺さる それと同時に首と肩で十字槍の柄を挟み奪い取ると 竿を手放す
奪ったばかりの十字槍を“ブンッ”と一閃、振るってみる

「ヘルスティングには遠く及ばないが 付与魔法に耐えられるのか?」

不意に周囲から雄叫びが上がる

「おぉぉぉぉ〜 裸の兄ちゃんが大将首を討ち取ったぞ!!!!

「ほら お主のものだ」赤い甲冑の兵士に黒い兜のついたままの生首を差し出される

『討伐証明のようなものなのか? 討ち取った首をギルドに持っていくと換金されるとか?』

「ありがとう」 初めてこの国の言葉を発してみる 

「なかなかの腕だが 我が軍の軍旗を腰に巻くのは感心できんな 槍だけでなく甲冑も奪ったらどうだ?」

「動きにくそうなので、これの方がいいな。。。」

「欲のない奴だ ならばこれを使え」 赤い甲冑の兵士が胸元から手拭いを取り出し投げてよこす

風林火山と書かれた旗を襷掛けにし、貰った手拭いを腰に巻く

『風林火山と書かれていたのか(翻訳の効果により読む事ができる)意味はよくわからんが、いい言葉だな』

改めて大将首を見つめる これで自動的に俺は、赤組ということか? 黒組を殲滅すると報奨金が貰えるのか?

大将首を空間収納に入れたいのだが、人目が多いため躊躇する
自分のいた国でも空間収納という空間魔法を使えるのは上位冒険者でも一握りで
空間収納持ちだとバレると引き抜きや勧誘、商業ギルドからの
指名依頼など煩わしいことの方が多いため 隠す癖がついていた

「女だ!! 裸の女がいるぞ!!!」

「裸!? 女!!??。。。。。エヴァ!!!???

強化された聴力で男たちのざわめきを確かに聞いたが、周りを見渡しても 戦場が広がるばかりである

「いったい どれだけの人数が戦っているんだ? 数万??

上級冒険者になり、指名依頼などで紛争にも参戦したことがあるが
この戦場の兵数は、ルイの知る戦場の数倍の規模である

「貴様ら!! その女に近づくでない」

『なぜこのような所に女が? それにしても美しい 辱めを受けた様子でもないな?』

腰まで伸びた黒髪に、透き通るような裸身 どこを見ても汚れた箇所が無いところから
ここまで歩いてきたわけでなく まるでこの平原に何者かにより丁寧に置かれたような印象だ
男は馬から降り 女に近づくと自分の赤い羽織を脱ぎ、そっと掛ける

「おいっ 女! 起きろ!!

目を覚ます様子もない 軽く揺すってみる

『ここに捨置くわけにもいかんな 我が陣まで連れて行くか』 女を軽々と抱き上げる

「おいっ そこの者、すまぬが我が陣まで護衛を頼む」

3人の男らが、女を抱えた鎧武者に背を向け囲み 槍を構え周囲を睨む

なんの気配も前触れもなく一人の男が行くてを阻む 
咄嗟に槍を構える3人だが 見た目には10代の小僧だが、敵将の首級を持ち 軍旗を襷掛けにし 
武田菱の入った手拭いを目にすると 自然と力が緩む

「俺はルイという その女は、俺の知り合いだと思う 確認させてもらえるか?」

「おっお前 山県様に対して、何という口の聞き方!!

「よい! こちらへ参れ」

ルイは、その場に槍を置くと 山県と呼ばれた鎧武者まで歩をすすめる

「間違いない エヴァ! 良かった無事で。。。 助けてくれたようだな ありがとう」

「ふむ 怪我などしている様子も無いが 目を覚まさぬ 我が陣まで連れて行くところだったのだが
知り合いであれば お主に預けてよいか?」

羽織を掛けているとはいえ、ほぼ全裸の女である、誰彼かまわず預けるわけにもいかない

「いや すまない 裸のエヴァを抱くとか。。。あとで殺されかねない 悪いがその陣までお願いできないだろうか? ベヒーモスとの戦いで魔力が枯渇しているだけなので まもなく目を覚ますと思う」

「ベヒーモス? 魔力? いったいお主らは、何者だ? 忍びか??

「いや 俺たちは、この国の者ではない マリアガ王国の冒険者なのだが。。。」

「マリアガ? 冒険者??。。。。まあ良い 詳しくはあとで聞くとしよう お主も護衛を頼む」

「もちろんだ 任せてくれ! 黒組は絶対に近づけさせん!!

「黒組?ははははっ なるほど徳川は黒組か するとこちらは、赤組だな 面白い小僧だ
急ぐぞ この戦もまもなく終わる 徳川の首級を挙げるぞ」

ルイを先頭に、やや小高くなった丘に張られた陣を目指す
相変わらずの乱戦模様だが、こちらの赤組が押しているのは一目瞭然である
左手から黒い甲冑 黒地に金の刺繍のはいった陣羽織を纏った武者が芦毛の馬に跨り駆けてくる

「拙者は青木貞治 山県昌景殿とお見受けする 二俣城の恨みここ“ゴフッ”」

5メートル以上離れた所からの口上であったが、山県へ槍が向いた瞬間に

ルイの縮地術から首への一突きで、青木貞治は絶命した

「おいっ 見えたか?」 「いや。。。まったく」 3人の護衛が囁き合う

「最後まで言わせてやれ。。。やはり忍びか?」

「あんたに槍を向けたからな、敵だろ? こいつも首級を持っていけばいいのか?」

「ああ2つ目の大将首だな 青木殿も二俣城に続いて不憫な事よ」

陣まで無事たどり着き、エヴァを茣蓙(ござ)の上にそっと降ろす その所作からも山県の人柄が伺え
ルイは、山県に対し そっと頭を垂れる

「この女になにか着物を けして手を出すことは許さん わしが戻るまで守り抜け」従者に命じる

「ルイと申したな その首級は、首級改め(しるしあらため)まで そこの台に置いておけ」

首級がいくつか並んだ台の上に、2つの首級を並べる 軍監が近づいてきて2つの首級を見る

「ほー、これは青木貞治殿 二俣城に続き災難な事で こちらは、おそらく織田家の若武者 
平手汎秀 信長の悔しがる顔が目に浮かびますな」ルイの顔を見る

「貴方が倒したのですね? お手柄ですね 正式に召抱えて頂けるかもしれませんね」

右も左もわからぬ国だ 自分とエヴァの当面の食い扶持くらいは稼がねば
山県昌景が、その場に居る家来に向かい吠える

「この戦 武田の圧倒的勝利は揺るがぬ 敵は間もなく敗走にはいるであろう
 ねずみ一匹逃さぬ 殲滅じゃ!!!!

それまで、どこか柔和だった山県の顔が鬼の形相に変わる

「山県。。。。様! 俺にできる事なら 何でも言ってくれ」

「よかろう ルイよ エヴァ殿の事は、この者たちに任せておけば安心だ 
ここは敵の本陣に最も近い 徳川の首級を挙げるぞ!! 」

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