第50話 大原安綱

文字数 3,119文字

葵生殿で夕食を終え、居室に籠もる ブルート
そこに真田幸隆が尋ねてくる

「お邪魔でしたか?」

「いえ どうぞ真田幸隆殿、どうされました?」
座卓を挟み、向かいの座椅子を幸隆に勧める

「実は、名刀、宝刀というものに目が無くてですな お邪魔でなければ見学させて頂けないかと思いまして」

「それは、構いませんが 人のもてなし方の心得が無いものですから、退屈されるかもしれませんが」

「邪魔をするつもりは、ありません 居ないものと思って頂いて結構です」
間にある座卓を横に押しやり 畳の上に三振りの太刀を抜身のまま並べる
ルイから借りてきた【童子切安綱】【鬼切】【鬼丸】

「エヴァに聞かれているかもしれませんが。。。私の居た国では、ほぼすべての人間が魔法、この国でいう法術を使えます 個人差があるのですが、指先に小さな火を灯せる者から 一撃で城を壊せるほどの火球を落とせる者まで様々です ですから、武器の概念が違ってくるのですが より強い素材を見つけ 錬成という魔法を使える者が武器の形を作り 火や水や土といった属性を決め 使用する者が強化の魔法を付与します」

「ほう〜それは面白いですな そうなると武器の強さに上限が無いということですか?」

「さすが知将と言われる真田殿ですね より強い魔物から取れた素材を使い、より高位の錬成術士に作られ、より高位の付与魔術師に強化された武器が最強ということになりますが、まさに上限がありません」

「一度、ブルート殿の居たという国の刀を見てみたいものですな」
ブルートの話に、真剣に耳を傾ける 幸隆

「ところが、この国の武器には、錬成や属性を付与するという前提が無いわけですから
素材を鍛えるという、我々には無かった発想から刀の優劣が決まるという進化を遂げているようなのですが 
この三振りに至っては、初めから人外。。。物の怪を切るために作られたように感じられるのです」

「年寄りの独り言と思って聞いてください」
訥々と語りだす 真田幸隆
「この三振りを鍛えたのは、大原安綱という今の山陰伯耆国の大山の修験者でありました
修験者とは、霊山に籠もり修行をし霊力を身に付け
他界と現界を繋ぐ役目を持つ者です
安綱は、彼の属する寺院で沢山の稚児を育てていました 流行り病で親を亡くした稚児、戦火で親を亡くした稚児、捨てられた稚児等に親以上の愛情を注ぎ育ててていたと伝えられています
ある日いつものように修行をしていた安綱は、捨てられた男の稚児を見つけ寺に連れ帰ります
そしてその夜、血の匂いに気付き目を覚ました安綱は、嫌な予感に稚児達の眠る部屋に駆けつけると
一匹の鬼が稚児達を貪り食う様を目撃するのです
その鬼は、今日拾ってきた稚児に化けていたのです
帯刀していた刀で斬り付けますが 修行を積んだ安綱の剣でも鬼に傷1つ負わせることは叶わず
鬼は、稚児達の骸を残し悠々と山へ帰っていきました
愛情を注ぎ育てた稚児を自分の連れ帰った鬼に殺された安綱は、自らを鬼と化し、鬼を滅するための刀を作ることに心血を注ぎ 己の血と肉と命を数本の太刀に込め後進に託したのです
この【童子切安綱】は、最強の鬼と言われる【酒呑童子】を、【鬼切】は【茨木童子】を、【鬼丸】は、妖怪【土蜘蛛】を見事に退治するのです
伝え聞いた昔話です とんだ邪魔をしてしまいましたかな?」

「いえ なるほど納得がいきました その安綱の執念が鬼どもをその身に宿し続けているのかもしれません」

「あまりにも美しく悲しい太刀達ですな。。。」


「ルイ! 起きろ!! 起きてくれ!!!」

「うん? 朝飯か??」

「ルイ、聞きたいことがある」

「ブルート。。。東北から2日間、不眠不休で走って来たんだ。。。寝かせてくれ〜」

「そうだったな、すまない 1つだけ教えてくれ 殺生石は、空間収納にどのくらいあるんだ?」

「そうだな。。。でっかいぞ全部で1000Kgは余裕であるな」

「そんなにか!ありがとう昼まで寝てくれ」


正親町天皇·朝廷は、火竜という高速で飛行が可能な竜種が現れた事
その火竜による攻撃を受け、京の町が未曾有の被害を被った事
その攻撃により将軍·足利義昭とその重臣達 並びに尾張国主·織田信長とその重臣達が
死亡した事を正式に公表し
それと同時に浅井長政を京の守護職に武田信玄を征夷大将軍並びに源氏長者に任命した事を 全国の諸大名に通達した事を明らかにした
それに伴い尾張と美濃の織田領は、武田家の預かりとなり朝廷の名において、一切の侵略を禁じた

それを聞いた京の民は、喪に服しながらも
武田、浅井を歓迎する世評が高まり
大惨事の直後にしては、人々の顔は明るい
それと同時に朝廷の書状を持った早馬が京から諸大名に向け四方に散っていく

下鴨神社 葵生殿
岐阜城より戻った 馬場信春、山県昌景

「お館様、おめでとうございます この馬場信春 もういつ死んでも、悔いはありませぬ がっはっは」
強面の顔をくしゃくしゃにして、泣き笑いの馬場信春

「ふむ 祝詞は、喪が明けてからじゃな。。。まだ死ぬでないぞ、まだまだ仕事は残っておる で? 岐阜城の様子は、どうであった?」

「はっ 我々が駆けつけたときから、丸1日経っても鎮火せず救出活動は困難を極めましたが、なんとか城下も落ち着きを取り戻した様子です 岐阜城内は壊滅、生存者の確認は出来ておりません」

「ふむ 山県よご苦労であった 聞いた通り織田領の管理を朝廷より任されておる 幸隆と相談の上、人材を送らねばならん 民の治安を第一に兵を募り混乱のないよう頼むぞ」

「お館様、織田信長殿の嫡男·信忠殿ですが信長殿の叔父にあたる守山城主·織田信次殿の所に身を寄せているそうです」

「おお そうか無事であったか それは僥倖であったな早速使いをだし、今後の事を話さねばならぬな 幸隆よ任せたぞ」

「はっ それと織田の重臣である前田利家殿も療養中で無事だったそうで、京に向かっているとの事です」

「ふむ 引き続き安否の確認の方を頼んだぞ 鳴海城に鳩を飛ばし羽柴兄弟にも京に上るように伝えよ

再建、再興は奴等の得意分野であるからな 働いてもらおう」
そこに従者の若者がエヴァの言伝を告げる

「恐れながら、天女様より伝言に御座います
新しい武器の実験を行う故 お時間があれば、矢場まで起こし願いたいとの事に御座います」

「そうか、それは行かねばならぬな ご苦労であった」

下鴨神社 矢場
両脇を檜の林に囲まれ、白石が敷かれた長さ約60mのよく整備された矢場に、主だった者たちが集る

「昨日ルイが持ち帰りました この殺生石の欠片なのですが、入手した経緯は省きますが
この石には、魔力を封じ込める性質がある事がわかりました これを(やじり)に用い
魔力を込め弓で射ると、どのような威力を発揮するのかを見ていただきたいと思います」
ブルートが殺生石の欠片から作った鏃を着けた矢を掲げる

「よくわかりませんが、それは楽しみですな!!がっはっはっ」

「それでは、馬場殿に弓を射って頂きましょう 弓は通常の物です 馬場殿にも一切の加護を授けていません 鏃にのみ風属性2 雷属性2 火属性6の魔力を封じています」

「益々よくわからんが、あの岩を狙えばよいのか?」
40mほど先に人の身の丈ほどの大岩を用意して、その四方を障壁で囲ってある

「あれなら、目を瞑っても当たるが 射って良いのか?」

「はい お願いします」
弓を引き絞る 馬場信春 呼吸に合わせ引き絞った弦を解き放つ 放物線を描くことなく一直線に大岩へと吸い込まれる
ドッガアアアァァァァァンンンンンンン!!!!!!!!!
小さな破片となり、四方へと砕け散る大岩

「へっ!?」 「な。。。何が起こったのじゃ!?」「また、とんでもないものを ハッハッハッハッ」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み