第73話 大嶽丸の決意

文字数 3,276文字

おりんの距離の近さにタジタジとなり、もう少しで禁断の扉を開けそうになった エヴァ
『正規の扉も開けていないのに、危ない。。。危ない。。。』
不意に本多忠勝の顔が頭に浮かぶ エヴァ

「あの。。。天女様、その巫女の衣装に千早(巫女の衣装に重ねる、薄手の上着)が素敵ですね」

「おりん様。。。おりん様に天女と呼ばれるのは、なんと言いますか。。。」

「天女様は、この世界に来られて短いようですが、どれだけの人を救われて癒やしてこられたのか。。。
私には、解りますし 私は、それほどの力は持っておりません
貴女が、天女でなければ誰が天女を名乗れるのでしょう?」

「おりん様に、そう言ってもらえるのは、有り難いのですが。。。」

「天女様、その千早と私の羽衣を交換しませんか?」

「おりん様 これはなんの変哲もない千早ですよ? その羽衣は、見ただけで、この世のものではないと解ります」
「はい 母上が残してくださった物です 私が持っているより天女様に使って頂いたほうが世の為になりますし 私には、この羽衣の力を引き出せませんので。。。もう1つ同じ物がありますので是非お願いします」

「本当に宜しいのですか?」
差し出された羽衣を手に取ると 独鈷杵に似た神通力を感じ取れる

「纏ってみてください 良くお似合いになると思いますよ」
言われるままに、袖を通してみると自分の体が宙に浮くような。。。
自分の質量がこの世界に干渉していない 一歩踏み出せば宙を歩けるのではないか!?
風の属性の効果なのだろう そのような感覚に襲われる

「このような物、頂けません!」

「差し上げるのでは、ありません その千早と交換してください その羽衣は、火竜との戦いで役に立ちませんか?」

「とても役に立つと思いますが。。。」

「それでしたら、お持ちになって下さい この千早は頂きますね」
大事そうに千早を胸に抱き くんくんっと匂いを嗅いでいるようにも見える。。。?

「あの新しいのが。。。有りますが」更に強く胸に抱き ふるふると首を降る おりん


お雪と2人で、露天風呂で火照った体を、涼みに中庭へと出る 
「天女様 その羽衣って、そんなに凄いものなのですか?」

「そうですね 装備で言えば伝説級。。。いえ神話級だと思います 私の風魔法と併用すれば短時間なら空も飛べるでしょうね しかも今気が付きましたが結界魔法が使えるようになってしまいました」

「天女様は障壁魔法が、使えましたよね? 障壁魔法と結界魔法は、違うのですか?」

「お雪ちゃん、魔法を良く勉強をしていますね 障壁魔法は、お雪ちゃんにも使えるようになると思いますよ 障壁魔法というのは、基本的に自分の魔力を盾状から熟練してくると壁状にする事により、物理や魔法攻撃を防ぎますが常に魔力を流していなければなりませんね
例えばこの独鈷杵を媒介にする事により、さらに強力な障壁を張ることもできますが、魔力量によって範囲も強度も違ってきます
そして結界魔法ですが、魔法陣を展開して障壁を張るのが大きな違いです
範囲も強度も魔法陣に込められた魔力量に応じて変わりますし 例えば物理なら物理特化
火魔法でしたら火炎に特化した結界を張ることも出来ます 封印も結界魔法の一種ですね
一番の違いは、術者がそこに居なくても効果を発揮する事と魔法陣に込められた魔力が切れるまでは
その場で効果を発揮するのが結界魔法です」

「それは、とても便利ですよね! 誰かを結界魔法で守りながら、自分は離れた所でも
戦えるということですね」

「こんな事も出来ますよ」地面に対して平行に高さ1mほどの空間に魔法陣を展開し、さらに1m上に、上にと5段の魔法陣を階段状に展開していく その階段を1段1段と登り5m上からお雪を見下ろす エヴァ 

「お雪ちゃんも、どうぞ登ってきてください」恐る恐る魔法陣に足を掛ける お雪

「これは、火竜との戦いに使えますよね!!空中に足場を築けるなら戦術も広がります」

「お雪ちゃんも、本当によく勉強しているのですね」

「ブルート先生の授業がとても為になります 魔法だけでなく兵法なども面白いです」


《あんた達!! ちょっと目を離したすきに大嶽丸が居なくなっちまったよ!!》

「天女様!お雪ちゃん!叔父上が出て行ってしまいました!!」

《あの馬鹿が!!御嶽山に向かったんだろうね。。。あれほど言ったのに》

「華陽様、このような置き手紙が。。。」

《読んでみてくれるかい》

[おりん、姉さん、お客人 やはり俺様には、おりんに災いをもたらすであろう
あの火竜を放っておくことは出来ん ましてや、あのように若く美しい娘達に戦わせるなど、俺様の矜持が許さん!! すぐ戻るので、それまでおりんの事をよろしく頼む]
顔を青ざめ、手紙を握り締める おりん

「追います!」すぐにも駆けだそうとする エヴァ

《待ちな 本気で空を駆ける大嶽丸には、あんたでも追いつけないよ おりん、大嶽丸の魔力は、どのくらい溜まっていたんだい?》

「はい、鈴鹿城の封印を解き、現世に顕現させる為にかなりの妖力を使ったと言っていましたが。。。
おそらく半分くらいは、あると思います」

《まぁ簡単にやられる事は、無いとは思うが おりんあんたは、通力の譲渡って出来るのかい? 
たしかほとんどの天女が出来ると聞いたことがあるんだけどね》

「はい 母上に教わりましたが、叔父上は、私の神通力を妖力に変換する事が出来なかったものですから 
実は、まだ試した事がありません」

《そうかい じゃあ、あたしで試してくれるかい? あたしなら神通力を妖力に変えれるから安心おし》

「はい 半人前天女の通力で宜しければ、すべてお渡しします 羽衣を取ってまいります 少しお待ち下さい」

《すべては要らないよ2割くらいは、残すんだよ》

羽衣を纏った、おりんが妖狐の傍らに立ち 古の呪文を詠唱する
「光の恩寵を以てここに宣ずる ここは聖域にして我が領域 全ての通力は我が意に降り この力無き者に 我が通力を与え給え」

羽衣が風に吹かれたかのようにはためき、おりんの長く黒い髪がたなびく
おりんの力の奔流が細い渦を巻き自分と妖狐とを繋ぐ 妖狐の黄色かった毛並みが徐々に白みを増していく

《ありがとうよ この辺にしておこう とりあえず戦えるくらいには、溜まったようだ》

「お玉様 それでは、参りましょう お雪ちゃんは、ここでおりん様と待っていてくださいね」

《ああ 行こうか、あたしの背にお乗り》
そう言うと、尾が6本になり人の数倍の大きさへと変幻する

「あらっ 尾が2本も増えています!?」

《ああ。。。天女の通力というのは、妖力に変換すると物凄い量になるんで、驚いたよ じゃあ行こうか》
中庭へと出て、地面を軽く蹴ると中空へと浮かび上がる妖狐に、羽衣をはためかせ背へと飛び乗る エヴァ 夕焼けの雲に溶け込むように 東へと飛ぶ 妖狐


御嶽山
自分達に猛烈な敵意を持った巨大な存在が、飛翔して来ていることを悟ったベヒーモス
傍らに寝そべる我が子らを見る 自分の半分ほどの大きさにもなっただろうか?
そろそろ狩りを教えても、良い頃合いだろう ネボアと名付けた末っ子が、誘導してくる餌を玩具代わりに(もてあそ)び、断末魔の叫びと共に喰らう事を覚え、体内で魔力を練る事も覚えさせたが、独り立ちするまでには、まだまだ時を要する
この子達は、何がなんでも守らねばならない。。。
火口を見上げるベヒーモス ネボアにここに残るよう念じ 翼をはためかせる

御嶽山上空
陽も落ちかけた薄闇の空を 雲に紛れながら、目的地の上空で噴煙の上がる御嶽山の火口を睨む 鬼神の姿となった大嶽丸 漆黒の表皮に頭からは、2本の角が突き出し 血走った眼が赤く光を湛え 獰猛なまでに牙を剥く
人間の考える黒鬼の姿が、そこにあった 人間が考えるより遥かに強靭で巨大ではあるが

ー『付近に生き物の反応は無いか。。。喰いつくしやがったな 今から俺様がお前らを喰い尽くしてやるからな!!』ー
天候を自在に操る大嶽丸が、御嶽山の火口を中心に豪雨を叩きつけながら
2本の氷の剣を創り出し その2振りを両手に火口へとゆっくりと降りていく



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