第47話 征夷大将軍と源氏長者

文字数 3,250文字

氏家定直の取り次ぎで、すぐに政宗の居室まで案内される2人
そこには、政宗の母で最上義守の娘·義姫と政宗の父親である伊達輝宗が、枕元に並んで座り 
医師と思われる白衣の男が政宗の脈を採っているようだ

「輝宗殿、義姫様 今日は、天よりの遣いの者をお連れいたしました」

「定直殿 久しぶりであるな わざわざ見舞いに来てくれたのか すまぬな
ご覧のように政宗の体力も限界のようじゃ 聡明で活発な子であるのにわずか6歳で。。。残酷な話よのう」伊達輝宗が唇を噛みしめる

「ルイと言います 時間が無いようですので急ぎます」
義姫と輝宗の間に割って入り 政宗の胸元を開く

「小さいのによく頑張ったな これは天女様より、お前を治すために預かった護符だ 今治してやるからな」政宗の耳元に顔を近づけ囁く 全身を膿疱に覆われた政宗の胸に符を貼り 右手の平を乗せる 
流す魔力量は学習済みだ 少年の身体が黄色く輝き、ルイの魔力に反応する 

「ん!?」
侍女の時よりも多めに魔力を流していく 膿疱が徐々に萎んでいき 黒ずんでいた表皮が
健康的な赤みを帯びていく 混沌としていた意識が回復したのか 母·義姫が握っていた手を握り返す 

「政宗!」流れる涙を拭う 義姫
あばたを残すことなく回復したが、片目だけは萎んだままだ。。。

「すまない俺の力では、これが精一杯だ病は完治しているが 片目のままだな。。。
天女様なら、おそらく治せるだろう」

「ルイ殿、この伊達輝宗 この恩は一生忘れぬ、何か困った事があれば いつでも力になろう」

「それでは、早速だが ベヒーモスという火竜が京の都を襲い、将軍義昭公が亡くなった 
織田信長とその重臣達もな市中の民は、数万人も犠牲になったそうだ」

「なんだと!? 将軍と天下に最も近いと言われていた 織田信長が死んだ。。。?」

「そうだ 武田信玄の元で俺と天女は仲間達と共に、その火竜を討つ この国の平定のためだ、武田信玄に何か要請を受ける事があれば、できる限り助力してやってくれ」

「どのような頼みでも、惜しみなく助力する事を約束しよう」

「それと鳩小屋を設置して帰るから、俺たちに何か連絡したい時には、鳩を飛ばしてくれ
あっ それと政宗だけど、何か特別な力を持っているな 俺には、よく分からんが 
俺の力を押し返したからな 一度、天女様に会わせるといいと思うぞ」

「ルイ殿。。。ありがとうございました」 「おう」政宗に笑顔で応える

「政宗! 気分はどうじゃ!?」

「父上 いつかルイ殿や天女様のお役に立ちたいと思います」

「じゃあ俺は、京に戻るよ 世話になったな」米沢城を出て、氏家定直に別れを告げる

「ルイよ、【鬼切·鬼丸】を忘れているのではないか?」

「ん?ここにあるぞ」ポンッポンッと胸元を叩く

「あっ それとこれをやるよ 馬に貼ると1日だけの効果だが、いくらでも走ってくれるし 
軽い病や怪我なら貼っておくだけで治るぞ」余った2枚の符を渡す

「良いのか!! これは天女様の加護が込められた。。。家宝にするぞ」

「使わなければ意味がないと思うぞ」
ー『急ぎ帰るぞ 嫌な胸騒ぎがしよる』ー 袴の裾を妖狐が引っ張る

「そうだな 行くか」風のように走り去る ルイと妖狐


急遽、正親町天皇に拝謁する事となった 武田信玄と浅井長政にエヴァも同行する
正親町天皇より、天女殿にも是非会ってみたいという要請にエヴァが快諾した
有事という事もあり、朝服ではなく武家の正装で望む2人と、いつもの緋袴姿のエヴァが
内裏の西 陰陽門から入り常寧殿へと案内される 右手を見ると天皇の居室である
清涼殿から南側のほとんどが焼け崩れている
承香殿を左に折れ、常寧殿を正面に臨む渡り廊下で正親町天皇を平伏して待つ

平伏する2人の横で、澄まし顔で佇(たたず)むエヴァ

ー『これは、思い至らなんだ。。。普通であれば、不敬罪と切り捨てられても文句も言えんが 天より遣わされた天女殿が今上天皇に頭を下げぬ事が、不敬となるのか?
天女殿に頭を下げろとも言えんしのう〜 こんな事で揉めても面白くないが
天女殿が平伏している姿なぞ 見たくないぞ! よし 天女殿の思うようにしたらよい』ー
色々と思い悩んだが、結局は開き直ることとした 武田信玄

ー『さて困ったぞ。。。天女様は、平伏をしないのか〜
我らは、天女様が神に列すると心得ているが ここの連中は、わかっていないよな〜
なにゆえ俺までここに居るのだ?
信玄公も黙っているところを見ると 朝廷を敵に回す覚悟もあるという事か?
居心地が悪すぎる。。。。』ー
ちょっと泣きそうになりながら、額から大粒の汗を垂らす 浅井長政

ドタドタと常寧殿の中がざわつき、「早く開けろ!」という声が聞こえ
廊下への襖が開け放たれる

「おお〜 そなたが天女殿か、待たせたようですまぬのう こちらへもっと近くで、お顔を見せてたもれ」

「それでは、失礼します」すくっと立ち上がり 流れるような所作で常寧殿内に入り
当たり前のように、正親町天皇との対面に座る エヴァ
居並ぶ従者も、それを止める素振りも見せない

「昨日は、挨拶もできずに失礼をいたしました 思金神(おもいかねのかみ)を氏と仰ぎ天界より遣わされております」

ー『嘘は言っていない! 勝手に氏と仰いでるだけで。。。ある意味、天から降ってきたのだから。。。 
やってて良かった 勉強会』ー

「おお〜その声でおじゃる しかも思金神でおじゃるか 朕(ちん)の祖である天照大御神が岩土に閉じこもられた時に、八百万の神々に岩戸を開ける策を授けられた神でおじゃるな!」

「はい そのように聞いております」ちらっと後ろの2人に目をやる エヴァ
二人のやり取りに平伏したまま、目を白黒とさせる 信玄と長政

「おお〜すまぬな 2人共 面を上げて楽にすると良いでおじゃる
実は、昨日の火災で煙に巻かれた朕が、なんとか難を逃れ貞観殿に皆と共に避難していたでおじゃる 
するとな、耳元に声が聞こえてのう “今から治療をするから楽にしていろとな“ すると貞観殿に暖かな光が差し込みここにいる皆が回復したでおじゃる 朕の嫡男の誠仁親王(さねひとしんのう)などは
煙を吸い過ぎたようで 危ない所だったでおじゃる そういう訳で一言お礼が言いたかった 
ありがとう助かり申した」 正親町天皇が頭を下げる 
今上天皇が天女を同列と認めたということか? 目を剥き驚く 信玄と長政

「帝に1つだけお願いがあります」

「天女殿のように美しい方にお願いなど言われると断れる自信が無いでおじゃるな」
風魔法に言の葉を乗せ正親町天皇だけに聞かせる

「うっ そ。。。それは、後日応相談で。。。天女殿、奥の貞観殿にお礼を言いたいという者が集まり
馳走も用意して待っておるそうじゃ 嫡男の誠仁親王も待っておるゆえ 楽しんでたもれ 朕は、この2人と政り事の話があるゆえ」

「わかりました では、また後ほど」驚いた事に、きっちりと平伏をして立ち上がる 
それが、武田信玄と浅井長政の背筋を震わせた 
ー『『さっきのお願いとやらを知りたくないぞ!!』』ー

「待たせたの近うよれ してあれがお主らの言っておった火竜でおじゃるな!?」
廊下の板の間から、常寧殿内に入る2人

「はい あれが火竜にございます」

「あんなバケモノを、人の手で討てるのか!?」

「その為の準備をしておる所でございます」

「二条城も焼け おそらく足利義昭も生きてはおらんじゃろう 織田信長の軍勢も全滅と聞く 
そこでお主ら2人に都の守備を頼みたいのじゃ」

「相手は、翼のあるバケモノです この日の本に安全な所など在りませぬ 我らも自領土の守備を疎かには出来ませんゆえ。。。」

「もう少し近うよれ。。。顕如より助言をされておったが、浅井長政 お主に都の守備を司る正三位·大納言にそして武田信玄 お主に日の本すべての守備を司る 正二位·征夷大将軍及び源氏長者の位を授ける」

「「謹んでお受け致します」」
1秒にも満たぬ時間で、頭を下げる 武田信玄と浅井長政

「二条城跡地を好きに使うが良い それとここの再建も頼むでおじゃる」



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み