第15話 井伊直政

文字数 3,746文字

浜松城 二の丸
「もちろん皆さんと共に戦う覚悟ですが 7日後迄に揃えられる兵数ですと 500が限界かと。。。」井伊谷城.城主井伊直虎

唯一の女城主であるが、徳川家への忠誠心が極めて高い

「その覚悟だけで十分です 今回は挨拶代わりに近隣の織田方の城を襲う算段です 敵もこれほど早く動くと思っておりませんでしょうから」

「主力は、ここに居る武田軍5000が当たります 井伊殿のところからは、150兵を2部隊で300兵を日時までに岡崎城に
お願いします その後は随時増援を繰り返しながら岐阜を目指します」 酒井忠次と真田幸隆が答える

しばしの沈黙。。。。。。。



「あの。。。噂で聞いたのですが。。。」

「はぁ。。。?」

「武田軍に先の戦の折に天女様が御降臨されたとか。。。
しかも すべての負傷者を治療されたと これは、誠の話でしょうか?」
切実な様子で聞いてくる 井伊直虎

「。。。それは。。。」酒井忠次をチラチラッと伺う 幸隆

ー『口止めはされていないが、言ってもいいものか?』ー

それを察したのか 酒井忠次が話を引き継ぐ

「事実です 武田も徳川も負傷者は、全て治療して頂きました
それだけでなく古傷に苦しむ者、持病を持つ者まで全てが完治しております」 幸隆を見て軽く頷く

「それは誠なのですね! 実は私の先代 井伊直親の嫡男 井伊直政を、私が養子として育てております 今年で13歳になるのですが 先月より原因不明の熱が続きまして ここ3日ほどは
何も食べることもできずに。。。」 最後は嗚咽で聞き取ることもできない

「それはなんとも。。。直政殿は、今は井伊谷城に?」

「いえ 最後の望みと。。。実は連れてきております 何卒、天女様にお目通りを」
直虎が頭を下げて懇願する

「聞いてまいります しばらくお待ち下さい」真田幸隆が腰を上げ、奥の間へと消える

         〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「お館様、天女様にお話がございます」許しを待って 襖を開ける 幸隆

「聞こえていましたよ」
聴覚を強化して面談の様子を盗み聞きしており その成り行きを随時 信玄と話し合っていた

「皆さんの意志を確認してから、私の存在を知って頂こうかと考えていたのですが。。。まぁ 良いでしょう
では その子供を大広間に運んで頂けますか?」

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ざわつく広間内

中央に布団がひかれ、井伊直虎の養子である井伊直政が寝かされる 
高熱のためか意識があるのかも定かではない
奥の間の襖が開き 侍医である永田徳本が直政のもとに歩み寄る
脈をとり、直政の鼻先に耳を近付け、胸元を開き手を当てる

「脈も弱く、呼吸も浅い これまでの治療では、薬を処方し
様子を見るよりなく 助かるかどうかは5分5分といったところかの。。。」
そう言い 周りを見渡す徳本

横たわる幼い直政を、心配そうに覗き込む人垣ができる
傍らに座り込む直虎に徳本が向き直り、声を掛ける

「直政殿は運が良い」
そう言い 開け放たれた奥の間を見る 一人の巫女が大広間へと足を踏み入れる
ひと目で目を奪われ、その視線を引き剥がす事が難しいほどの
美しさと威厳を備えた存在 その場に居たもの、全てが息を呑む

「天女様。。。」井伊直虎が吐息とともに声を洩らす

エヴァと直政までの人垣が割れ 緋袴の緋色が残像を残しながら
直政へと進む 直政の横に立ち 杖を胸の前で掲げる

【命の鼓動よ 巡れ この者に命の息吹を】

杖から黃色に輝く粒子が放射状に直政へと降り注ぐ 優しく 暖かく 慈愛に満ちた光 
見るものは息をすることも忘れ、瞬きする間も惜しむように じっとその光景を見つめる

慈しむように 祈るように ゆっくりと時が流れる

水の中から酸素を求めて顔を出した時のように 数人が慌てて息を吸い込む 直政の速く浅かった胸の動きが ゆっくりと深い動きへと変っていく

「もう大丈夫です 食道から肺まで酷く爛れていました これでは、食べ物も喉を通らなかったのでしょう」

「天女様〜 ありがとうございます」直虎が涙で顔をくしゃくしゃにしながらエヴァの足に縋り付く

「貴方も熱があるようですね 流行り病の類いかも知れません
この子供に接触した者たち全てを、この広間に集めてくださいますか もちろん皆さんもそのままで」

直政を運び入れた 従者達も広間に集まる

エヴァが杖を翳す【慈愛に満ちたる天の光 天使の息吹となり 傷つき病む者すべてを癒やし給え 天光治癒】大広間の隅々までを暖かく優しい光が包む

「おぉっ何なのだこれは?」「天女様。。。ありがたや」

「わしの腰の痛みが。。。嘘のように消えておる」

「力が漲ってくる まだまだ戦えるぞ!!」 

戦意を沸き立たせる者 涙を流し拝む者 この場に居る者たち すべてが天女の奇跡に触れ 魅了されていく

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海津城下で散策を楽しむルイ
茶屋で団子を頬張り 次は何処の店を冷やかそうかと
歩き始めたときに ルイの魔力に引かれ一羽の鳩が肩に止まる
両足に括り付けられた紙片を取り広げる

〈1月16日迄に岡崎城に集合! エヴァ〉 脳内に転写された地図を確認する

「ふむ だいぶ期日までには余裕があるな さっきの茶屋の女の子を遊びに誘うかな」
鼻の下を伸ばし だらしなくニヤける

左足に括り付けられた もう一枚を広げる。。。。。。。

〈道中 信濃 甲斐 駿河 遠江 三河のすべての城に魔力アンテナを設置し連絡用の鳩を置いてくること〉

「ちょっと待て! 何個の城があると思ってるんだ!! 何個の山を超えると。。。こんなに小さな紙にどれだけの情報を? なぜ読めてしまうんだ??」
普通の人には極小の点にしか見えない。。。 なぜか読めてしまう ルイ

色々なことを諦め 海津城に戻り物見櫓に竹を突き立て
魔力を通す 鳩に識別が出来るように 魔力回路1番が海津城と脳内地図に書き込む 
空間収納から鳩小屋を取り出し設置する 従属した鳩を一羽放り込み 足早に内藤昌豊を探しに城内に入る
気配察知で二の丸にいることを確かめ中庭を駆け抜ける

「内藤様! 聞いてくれ 物見櫓に鳩小屋を設置して鳩を一羽入れてある 
俺やお館様に連絡したい時には鳩の足に文をつけて飛ばせば 俺が何処にいようが俺のもとに届くぞ
こちらから連絡したい時にも、どこから飛ばしても、この鳩小屋に到着するから 
必ず毎日見てくれ 餌やりは忘れないでくれ じゃあ 次の城に行かないといけないから またな」
早口で捲し立てると 風のように部屋を出ていく ルイ



脳内地図を広げて、走りながら道程を検討する
「北東に進んで飯山城 同じ道程を戻って南に葛尾城、残り6日で62城 1日に10城は絶対に行かないと。。。。これ絶対におっぱいの仕返しだろ!!」
泣き叫びながら 馬よりも速い速度で野山を突き進んでいく

エヴァの発案による、各領土に設置された伝書鳩により
あらゆる局面を武田家は常に有利に運ぶことになるのは、もう少し先の話

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その頃エヴァは、自室で煎餅(せんべい)(かじ)りながら ルイの魔力周波数は
いくつ有るのか? 鳩を何羽まで従属させられるのか?
などと頭脳労働に勤しんでいた


出陣の準備で慌ただしい 浜松城
各領主たちも、それぞれの領土へと帰り、戦の準備に追われていることだろう
糧食や備品の納入のために朝から何台もの牛車や大八車が出立して行く
そのような光景を縁側に座りながら眺めている エヴァ
暇なようである いや間違いなく暇なのだろう
勉強会をしたくても昌幸は、慌ただしく走り回り 話し相手といえば徳本先生しか居ない

そんな中、本丸の中庭を横切り こちらへと歩いてくる
井伊直虎、直政親子
エヴァの足元まで歩み寄り 中庭の土の上に正座から平伏する
額は地面スレスレ 2人揃って見事な土下座である

エヴァにとっては、何度も見た儀式であるが 正直好きにはなれ無い 
しかも子供の土下座など生理的に受け付けないようである

「天女様 我が兄の忘れ形見である」

「ちょっと待って」
直虎が震える声で話し始めたところを、ぶった切るエヴァ

「はっ?」

「ごめんなさい でも私には、そこが人間の座る所だとは思えないのです しかも直政君は病み上がりです
あなた方の様式美に意見はしたくないのですが 誰も見ていない この場では不要としましょう」

「はっ??」 

「こちらへ上がってください ここでお話をしましょう」
そう言い、縁側の自分の横を指差すエヴァ

「そんな! 滅相もございません!!」 額を擦り付けんばかりに平伏す直虎

「そこでは、お話をしたくないのですが。。。どうしましょう?」

「天女様 ありがとうございました」
そう言うと 直政が立ち上がりエヴァの横に腰掛ける

「あわわ 直政!」口をパクパクとさせ 言葉にならない 直虎

「どうですか? どこも痛いところはありませんか?」

「はい 天女様のおかげで以前よりずっと調子がいいです」
直政の頭に手をやり 微笑む

「あなたは聡い子ですね 領民を大切にする 立派な領主になってお館様を助けて下さいね」

「はい 天女様に約束します!!」

直虎のパクパクが止まらずに本気で心配になる2人

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