第40話 京都御馬揃え

文字数 3,649文字

「では、お館様 私達は、鳴海城へ向かいますので 道中くれぐれもお気をつけください
忠勝殿、お館様の護衛をお願いしますね」
膝から崩れ落ちる 本多忠勝

「て。。て。。。天女様! お館様を京までお送りしたら、鳴海城へ戻っても宜しいのでしょうか?」

「うーん 駄目ですね、躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)まできっちり護衛をしてくださいね」
爽やかな笑顔でバッサリと切り捨てられる 忠勝

「そうなりますと一月ほど、お会いできないと言うことでは?」
今にも泣きだしそうに顔をくしゃくしゃにする 本多忠勝

「忠勝殿 もしもお館様に何かがあっても、貴方なら絶対に大丈夫だと信じているから任せるのです
わかってくれますね!」
膝を折り鼻先が触れそうなほどに顔を近づけ、忠勝の目を覗き込む エヴァ

「はい。。。。」これを断れる男など居ない! 今なら笑いながら死ねる!! 後日 忠勝は、そう語る

騎馬隊3000を残し、鳴海城へと引き上げて行く武田本隊とエヴァ一行

「では、明智殿お主は、幕府にも朝廷にも顔が利くと聞いておる上洛の件を伝えてもらえるか?
武田、朝倉、浅井、織田の連合軍およそ2万騎 京都市中で御馬揃えを行うとな 
時は、4月1日 馬に乗れるものならば参加を歓迎するとな」

「な なにを申しておる! そのような話し聞いておらんぞ!!」

「宜しいではないですか、朝倉殿 実に楽しそうだ 我々の武勇を朝廷に見せつける良い機会ですぞ 
女子の参加も宜しいですかな? お市にも見せてやりたいものですから」

「おぉ もちろんじゃ 馬に乗れるのならば女子供も参加させるが良い 
源義経公が駿河国で行ったという馬揃えを超える 京都御馬揃えを見せようぞ!」

「では、早速 具足も馬も磨き上げねばなりませぬな」 俄然張り切る 浅井長政

「しばらく小谷城で厄介になるぞ」 実に楽しそうな 武田信玄


「光秀よ。。。我々に拒否権とか無いのだろうな。。。」
小声で囁く 信長に、小さく頷く 明智光秀

「こうなりましたら御馬揃えで、我々の勇姿を見せつけてやりましょうぞ!!」
鼻息を荒くして柴田勝家が気合いを込める

          〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

鳴海城へと行軍する ルイとブルートとエヴァ

「まさか ベヒーモスまでもが、転移に巻き込まれて、この世界に来るとは、思いませんでしたね」

「転移阻害を無理矢理キャンセルしてからの、転移魔法の行使でボス部屋の魔力に干渉して暴走してしまったようだ この世界の住民には申し訳ないことをしてしまった」ブルートが肩を落とす

「まさか翼まで生えて まるっきり違う生物に進化するとはな、あのマントから出てきた呪いが 
あれほど強力だとはな。。。」

「そこまで予想できずに、なんの準備もしていなかった 私達にも責任があります 早急に対策を練る必要がありますね」

「ルイ 御嶽山に降りたベヒーモスに動きはないのか?」

「火口から、だいぶ降りているからな 姿までは見えないが、火口の入り口付近には、動きはないな」

「産卵までしていると仮定して、対策を練ったほうが良さそうですね」

「まずは、武器だが この世界の素材から研究をしなくてはな [童子切安綱]がベヒーモスに通用することは、わかったが、あれだけではな。。。あとは、戦える人材も集めなくては」

「アランの治療を最優先で、武装の素材集めと人材探しですね」

「それまでベヒーモスが待ってくれればよいのだがな」

「確か、ベヒーモスの産卵から巣立ちまで半年ほどだと聞いたことがあります」

「その間に、やれるだけの事をやろう後悔しないようにな」

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“晴天に恵まれました 1573年4月1日午前8時
かの源義経公が駿河の国で行ったとされる 御馬揃えが
ここ日の本の都 京都にて執り行われようとしております
その観兵式を一目見ようと京都近郊より集まった市民
その数30万人が沿道に詰めかけており、京都御馬揃えの開催を今や遅しと待ちわびております”

“実況は、京の街で愛され続ける瓦版職人·弥次北馬右衛門がここ本能寺前よりお送り致しております
まず簡単に会場をご紹介いたしましょう ここ本能寺を起点といたしまして
京都市中を練り歩く御馬揃え その数、増えに増え6万騎と聞き及んでおります
そこから室町通りを北上し、一条通りを曲がって入った内裏の馬場が終点です”

“本来、内裏の東側の陣中は、牛車を乗り入れる許可を持たない者は、馬を含む一切の乗り物で入ることを禁じられていましたが、今日この日ばかりは許可されたようです
そして内裏の東側に幅109メートル、長さ872メートルの馬場や、正親町天皇が観覧するための豪華絢爛な御座所が造られました 
本能寺大手門がざわついて参りました バンッバンッバンッバンッバンッバンッ!!沢山の爆竹が鳴らされております

“京都御馬揃え 最初に本能寺から出て参りましたのは、かの源頼朝より授かったという[三盛木瓜]の旗印
朝倉義景率いる 越前の騎馬隊が金糸銀糸を贅沢にあしらった幟に旗印 揃いの陣羽織を身に着け
本能寺参道を練り歩きます 注目すべきは、騎馬に被せられた金色の面に馬鎧まさに勇壮の一言に尽きます
事前の情報では「余は、派手な事は、あまり好みではないが 朝廷へのお披露目であれば致し方なし」
と言う、朝倉義景公の言葉でしたが 目の肥えた京の民も目を剥くほどの贅を尽くした御馬揃え”

“続いて姿を現しましたのが[三盛亀甲花菱]お隣近江より馳せ参じました 若き戦国武者·浅井長政の騎馬隊です
質実剛健、派手さはないが黒一色で統一され、磨きこまれた鎧兜 見るものを圧倒させる迫力を感じさせます
そしてなんと!! 浅井長政本人の騎馬に並走する見目麗しき女武者は、織田信長の妹にして浅井長政の愛妻·お市の方様 沿道より一際大きな歓声が挙がっております

“そして姿を現しましたのが、この御馬揃えの実行委員 明智光秀を先頭に尾張の織田軍団が本能寺参道を練り歩きます 形容するならば派手!派手!!ドッ派手!!! 武将にも馬にも金銀赤黄色に青に緑と色彩豊か この御馬揃えの注目度一番 沿道が更に盛り上がっております いよいよ姿を見せる 織田信長公 決して期待を裏切らないその装備は
見事な体躯の黒馬に跨り、頭には唐冠、白地の唐草模様に紅梅をあしらったものに唐綿の小袖を重ね、紅緞子(どんす)に桐唐草の肩衣と袴の姿 ヤクのしっぽの腰蓑に、金銀飾りの太刀・脇差を差し、手には白革に桐の紋の入った手袋を着用し梅の生花をあちらこちらにあしらっております 京のご婦人の黄色い声援を一身に受ける織田信長  絶大な人気を誇ります!! 
事前の情報によりますと「この4国が一丸となり、日の本の和平に尽くす」あまりにもらしくない言葉を頂いております”

“そして最後は、甲斐の虎 日の本最強の騎馬軍団 京の都に初見参となります 武田信玄公が率います
ついに京の町に武田菱の旗印のお目見えです 風林火山の幟が風になびく
赤備えの山県昌景を先頭に馬場信春、諏訪勝頼、真田幸隆と続き あまりの迫力に京の民も息を呑んで見守っております 一際大柄な若武者·本多忠勝に続き姿を現す武田信玄公 その横を並走する巫女姿の女性
この方が、京の街でも噂になっております天女様ということですが 噂に違わずあまりにも美しく、あまりに可憐 沿道の民衆に手を降っております あまりの美しさにため息に包まれる民衆
その天女様に事前にお言葉を頂いております「都の名物料理はなんでしょう?」なるほど冗談の心得もお持ちということですね”


「エヴァ アランの治療に専念するんじゃなかったのか?」無理矢理連れてこられたルイが嫌味を言うと

「このような楽しそうな催しに参加しないわけには参りませんでしょう アランは、ブルートが見ていますから大丈夫です それに天皇や将軍にも会ってみたかったですから」
沿道に手を振りながら、子供のように笑う エヴァ



天女を間近に見ようと、押し合う観衆 その一角が人々の圧力に負け参道に崩れそうになるのを 
ルイが、右の手の平を翳(かざ)し風魔法で優しく押し返す

沿道へと誘導する 兵の目から逃れた幼い少女が、参道に1人ポツリッと取り残され右手に握りしめた一輪の黄色い花を、エヴァに差し出す 母親と思われる女性が幼女を連れ戻そうと駆け寄るのを目で制し 
馬から降り立ち幼女の視線まで身を屈め 花を受け取る

「ありがとう とてもきれいな花を あなたのお名前は?」
幼女はニコニコとしながら、両手を使い何かを伝える仕草を懸命に続ける

「すいません天女様 この娘は、生まれつき聴くことも、話すことも出来ないのです」
両手を広げ エヴァの目を真っ直ぐに見つめる幼女、彼女を抱き上げ呪文を言の葉に乗せ、幼女へ吹き掛ける

「私は、天女です」 幼女の口が動く「て。ん。。。にょ。。」
一瞬唖然とする 母親と観客たち ざわざわとざわめきが伝播し やがて徐々に歓声へと変わっていく

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