第151話 ルイと酒呑童子

文字数 3,114文字

「お玉様の仇は、俺が取る! エヴァは手を出さないでくれ!!」
「ルイ。。。ネボアは瞬間移動を使います 気をつけて下さいね 直政君の様子を見てきます」


なぜか空中で腕を組み動かないナーダを横目に、井伊直政の気配を探り地上へと降りる
窪地に背を預け 気配を殺すように小さくなっている直政を見つける エヴァ
「直政君!よく無事でいてくれました!」

「天女様! 僕。。。僕は、なんの役にも立てませんでした!!逃げる事に精一杯で
みんなが殺されていくのを見ているしか出来ませんでした。。。」
直政の頭を胸元に引き寄せ、抱きしめる エヴァ

「良いのですよ、直政君が無事で居てくれれば、私達はまだ戦えます 魔力は大丈夫ですか?」

「天女様が、戻られるまでと温存していましたので、十分に残っています」

「おおよその事は、おりんちゃんに聞きました ナーダはフォゴを食べた後に脱皮をしてあのような姿になったと。。。みんなは、どのようにして殺されたのでしょう?」

「はい 時間遅延を使って見ていましたが、ネボアとは違い1秒間の猶予もなく瞬間移動で一人一人の前に現れ、手をかざすだけで、人体が内部から蒸発していきました
僕は、ナーダが目の前に現れたと同時に時間停止で逃げられたのでなんとか無事でしたが
ルイ先生は鬼神の覇気で相殺してはいましたが、無傷では無いと思います 
ちなみに僕の時間停止ですが、今は3秒間くらい止められるようになりました」

「それは、頼もしいですね ところでナーダは、あそこで動きませんが、何をしているのでしょう?」

「わかりません ですが、僕には何かを待っているように見えるのですが。。。」


千里眼を使ってナーダを観察してみる
漆黒の身体にまとわりつく空気までもが、黒い瘴気に染まり それに触れた生命をすべて
消滅させるような禍々しさを感じる
人間のように直立した3mほどの体躯に、鞭のように細くしなやかな尻尾 額からは3本の湾曲した角が天に向かって伸び 尖った耳にまで届きそうな口角からは絶え間なく瘴気を吐き出しているように見える 
バハムートであった時の名残といえば、全身にびっしりと張り付いた竜鱗くらいであろうか?
もしこの姿を、絵に書き 世界中の老若男女、誰に見せても、返ってくる答えは
【悪魔】あるいは【魔王】であろう 人間の遺伝子に刷り込まれた
悪の象徴である姿がそこにあった


「何かを待っている。。。? まさか!?」
首を巡らせ、ルイと夜叉を探す 
童子切安綱をニ刀に持ったルイが、左の太刀で夜叉の胴を払い、右の太刀を夜叉の脳天に振り下ろす瞬間であった
「ルイ!!待ちなさい!!ネボアは捕らえます!!!」
その言葉を言い終える前に、唐竹割に両断された夜叉がルイに向け呪詛を吐く

“ルイ!感謝するぞ ようやくこの身体から解放され 我等が真の魔王となる”
両断された夜叉の骸が、地上に向かい落下していき、その断面から黒い霧が浮かび上がり
ナーダに向けて疾走する

「あれをナーダの元に行かせてはいけない!! 直政君!!私の命を貴方に預けました」
結界を蹴り ナーダへと駆け昇る エヴァ

地上から高度100m、黒い霧がナーダに向け滑るように飛ぶ
それを迎えに飛び出す ナーダ  その距離わずか50m
その中間地点へと駆け上る エヴァ 到底間に合う距離では無いのだが、直政の時間停止
の中で0,7秒ほど動けるようになったエヴァが、右腕にネボアを捕らえるための球状結界を発動させネボアへと迫る
2度目の時間停止で、ネボアまで5m、視界の端にとらえたナーダは10mほどの距離を残す 
ー『私が先にネボアを捕らえる!!』ー
結界を蹴り、ネボアへと右手を伸ばす エヴァ

球状結界の前面を開き、霧化したネボアを捕らえるために右腕を伸ばす
その瞬間、エヴァは左の頬に風を感じ、目の前の黒い霧が、ナーダの居る方向に吸い込まれるように急加速しエヴァの目の前から消える 咄嗟に左手の玉龍を叩きつけるが
するりっとくぐり抜け、ナーダの大きく開かれた口内へと吸い込まれていく ネボア

「ちっ!!」
九本の尾を、目一杯に広げ急制動から振り向き、ナーダと対峙する エヴァ
「女。。。天女と言ったな? 残念だったな、しかしこの国を、いやこの世界を滅ぼす者の誕生に目の前で立ち会えた事を、あの世で誇るがいいぞ」

「ちょっと見ない間に随分と変わったようですが、そんな冗談も言えるようになったのですね? 
ところで貴方は、ネボアなのですか?それともナーダなのでしょうか?」
ネボアを喰らったナーダは、身体に纏っていた瘴気の厚みが増し輪郭がぼやけて見える
そして広角をさらに吊り上げ笑ったように見えた

「ふむ。。。ネボアでもあるし、ナーダでもあるし またフォゴでもあると言えるな
しかし固有の名など必要ないだろう ベヒーモスでもバハムートでもない、同じ時代に2体と存在しない
世界に唯一の魔王という種族なのだからな」
背中に折り畳んでいた翼を、バサッと広げた その瞬間にエヴァの前に現れ 顔前に右手を差し出した 
ナーダの動きが止まる
不意を突かれたエヴァは、反応もできずに ただ目を見開き 直政の時間停止の世界の
0,7秒をナーダから離れる事に使い 直政を、ちらっと見て感謝を込め、こくりと頷く

「ほぅ 天女よ、お前もあの生き残った子供と同じ術を使えるのか?
それともあの子供の術に便乗しているのか?」

「今さらですが、その容貌で人と同じ言葉を話すというのは、醜悪極まりないですね
以前の貴方のように“ぐるるるっ“とか、唸っていた時のほうが、よほど可愛気がありましたね」

「ふっはははははっ 俺を怒らせて何を狙っているのだ? 貴様らのお得意の時間稼ぎか? 
時間を稼いだところで何も変わらないだろう? 自分に注視させたいようだが
天女よ、お前は最後だ 残った仲間の断末魔を聞かせてやろう」

「ルイ!!逃げなさいっ!!!!」

ルイへと振り返るより早く、ルイの眼前に移動したナーダが右腕をルイへと突き出す
鬼神の覇気を身に纏い相殺するが、受け切れずに上空へと吹き飛ぶ ルイ
ナーダの背中を追って、結界を蹴り 玉龍をナーダの背中へと叩き込む エヴァ
斬撃が手の平に伝わるはずが、ただ空を切り さらにルイへと追撃するために飛ぶナーダを、羽衣と九尾に風魔法で推進力を与え、追いかける エヴァ


“ルイよ! わしも色々な神や化け物を見てきたが、こいつは危険すぎるぞ!!”
「ああ わかっている それでも俺が奴を殺らねばならないんだ! 力を貸してくれ
酒呑童子よ!!」

“まあ お前が死んだら また退屈な日々が始まるからな。。。わしの全力にお前の身体が耐えられるか保証できんぞ!?”

「ああ 耐えてみせるさ 終わったらとっておきの酒を一緒に飲もう」

“その約束を忘れるなよ!”
全身を鬼化しているルイの身体が真紅に染まり ぶちぶちっと筋肉の断裂する音とともに身体全体の厚みが増していく 額からは角が突き出し 下顎からは歯茎を裂き、湾曲した牙が2本 獰猛な肉食獣の如くよだれを滴らせる

「“エエヴァヴァ 来来るるなな!!!! 俺わしがが 殺殺るる”」

「ルイ!?酒呑童子!?」
鬼神の赤い覇気を纏わせ、両手に童子切安綱を構え 大気を蹴ると、ナーダに頭から突っ込んでいく ルイ
刹那の時間、赤い尾を引く覇気と黒い尾を引く覇気が空中でぶつかり合い
耳を劈くような剣戟が響き渡る ルイの後方から100本を超える黒い太刀が、一斉に射出され ナーダの上下左右あらゆる方向から襲い掛かる
それを尻尾の数振りですべて払い落とし ルイの喉元へと鋭い尾を伸ばす
がきっ!左手の童子切安綱で受けると、右腕で尻尾を掴むが、見る間に右腕の血管が膨れ
破裂し血が吹き上がる



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