第164話 勇者·本多忠勝

文字数 3,052文字

「戯言を!!直政君をどうしようというのですか!?」

「案ずるな、殺しもせんし喰いもせん その子供の能力である次元を超える力が欲しいのだ おそらく1年も掛からずに、我はこの星の生物を喰らい尽くすだろう
滅する命が無ければ、我の存在意義が無くなる その時点で我が種族の本願が成就だと
そう考えていた しかし別の次元があるのだぞ!? 永遠に喰らい滅ぼせるという事ではないか!?」

«ほう 奴も直政の能力に気づいたか 天女よ直政を絶対に渡してはならんぞ!»
「言われるまでもありません!絶対に直政君は渡しません!!」

「でも、天女様。。。僕一人を渡せば、この国の民を見逃すと言っているのですよ 
魔王となったナーダは、嘘をつかないような気がします」

「直政君、自分達の命が助かるために直政君や他の世界の命を差し出す訳にはいかない
たとえ本当にナーダが直政君を手に掛けなかったとしても、君は永遠に魔王の虐殺を見続けるのだぞ?」
巨体を屈め、直政の視線で目を覗き込む 忠勝
「それは。。。耐えられないかも知れません。。。」

「直政君、貴方は優しい人ですからね 大丈夫ですよ 私と旦那様で貴方もこの世界も守りますから」
«その直政に助けられたばかりじゃがな»
「古龍様。。。それは。。。直政君!3人でナーダを倒しましょう!!」

「愚かな選択をしたと、すぐに気づく事になるぞ!?」
3人の頭上で不気味に笑う ナーダ

「2人はここで見ていて下さい!」
神威を纏った忠勝が地を蹴り蜻蛉切りを扱く 蜻蛉切りの穂先が伸び、ナーダへと迫る
軽々と尻尾を払い、それを凌ぐと 瞬間移動を使い、直政の正面に立つ ナーダ
3mもの巨体が直政を見下ろし、右手の人差し指を直政の額へと向ける

「時間停止!」
がむしゃらに草薙剣を振るう 向けられた右手を切り落とし 腹に胸にと刺突を繰り出す
ナーダの足を蹴り、飛び上がると首を払う
«直政 落ち着くのだ!お前の力では致命傷は与えられん 下がるのだ!!»

エヴァが動き出す 
「直政君!下がって! お玉様!青龍!私に力を!!」
エヴァの頭に狐の三角耳が生え、尻の九尾が風を打つ 玉龍に魔力を込め
ナーダの首へ向け、渾身の力で薙ぎ払う! ずるりっと滑り落ちる ナーダの巨大な首
ナーダの左腕がぴくりっと動き 落下する首を掴み取る
「そんな!?まだ時間停止は解除されていないのに!!??」

「えっ!?」
頭上の忠勝を見上げる 時間の停止した色褪せた世界で空中で停止したまま固まっている

「そんな!?なぜ動けるのですか?」
左腕に抱えられた、ナーダの口が開く

「はっはっは 考察を重ねたからな 理屈を理解すれば、他者の能力に溶け込む事も
それほど、難しい事ではない まぁ随分とやってくれたようだがな。。。
改めて素晴らしい能力だ!」

「時が動き出す。。。」

瞬時に再生された右腕で頭を定位置に乗せ、こきっこきっと首を曲げ鳴らす
ナーダとエヴァ達の間に瞬間移動で現れた忠勝が、ナーダの腰に両腕を巻き付け
エヴァ達から距離を置こうと、押し込む 胸に頭をつけ 2歩3歩と押し込んだところで
地面に踵をめり込ませ 押し返すナーダ
「相撲で他種族に負けるわけにはいかん!!」
忠勝の纏った蒼い神威が膨れ上がる それに呼応するようにナーダの漆黒の魔王の覇気も
膨れ上がり 砂埃が舞い上がり 地面が揺れる

がっぷり四つに組んだ両者の映像が大食堂の壁面に映し出され 大いに盛り上がる

「行け!!忠勝殿!! 右手を挿すんだ!!」

「頭を付けて押し込め!!」 「忠勝!!投げろ!!上手投げだ!!」
ナーダが繰り出した尻尾が、忠勝の左膝を砕くと あっさりと尻を付く 忠勝

「「「「「「「「「ああ〜〜〜ぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」」」」」」」」」
落胆の声が大食堂を支配する
「相撲で尻尾を使うなど卑怯だぞ!!!」

«天女よ あ奴らをここで戦わせては、地下に避難している者たちに被害が出るぞ»
「そうですね 空へ誘導します 直政君をお願いします」

無数の結界を投げ 玉龍を脇に挟み、結界を蹴りながら上空へと駆け上がる エヴァ
玉龍に魔力を注ぎ、いくつもの小型の竜巻を創り出すと風刃をそれぞれに投げ込んでいく

「ナーダを切り裂いて下さい!行け〜!!」
唸りを上げ 地上のナーダへと襲い掛かる いくつもの竜巻
3mもの巨体とは思えない 軽快な脚さばきで、次々と襲い掛かる竜巻を交わしながら
上空のエヴァに竜爪を飛ばす 瞬間移動でエヴァの前に現れた忠勝が、それを弾く
巨大な忠勝の蒼い背中に守られた エヴァが「ほぅっ」と溜め息を漏らす
愛する者に守られる安心感、長い時を生きた自分が、初めて味わう少女のような
感情に戸惑う エヴァ

「旦那様。。。その腰に挿した団扇は何なのですか?」

「えっ!? あっ忘れていました 魔王殿で貰った物です 使ってみましょう!」
蜻蛉切りを背に結び付け 羽団扇を手に取る 神通力を通し面積を増した羽団扇を地上のナーダへと向け扇ぐ
“ぶわっ〜〜〜〜っ!!”とてつもない突風! まさに神風が、エヴァの創り出した 竜巻をも呑み込み 
地上の砂や石、岩までも巻き上げる 上空へと巻き上げられたナーダが
強風に揉まれ、態勢を立て直そうと藻掻くのだが、まるで質量を持った突風が、上下左右
あらゆる角度からナーダに襲い掛かり まるで子供が乱暴に扱う操り人形のように空中で上へ下へと奇妙な踊りを披露する ナーダ

「旦那様!凄いです 良い物を頂きましたね!!」

「はい これを鞍馬山の大天狗に持たれた時には、手も足も出ませんでした。。。
近づけば飛ばされ、何度地面に打ち付けられた事か。。。」
急に思い出し、しょぼんっと肩を落とす 忠勝

「その憂さを、魔王ナーダで晴らしましょう!!」

「そうですね!見ていて下さい!!」
羽団扇を握る手にさらに力を込め ナーダに向けて扇ぐ 忠勝から発せられた竜巻がうねりながらナーダを呑み込み さらに高空へと押し上げる

「行ってきます!直政君をお願いします!」

「旦那様、ご武運を!」
自らも竜巻へと飛び込み ナーダを追う忠勝

周辺の雲までも吹き飛ばし、吹き荒れる竜巻の中 睨み合う ナーダと忠勝
極限まで細く絞った黒い息吹をナーダが放つ 羽団扇を一振りし軌道を反らすと
懐より取り出した雷大鼓を乱れ打ち、幾本もの雷をナーダへと落とす 
一瞬動きの止まったナーダへ蜻蛉切りへと持ち替え
弓へと変幻させると、すかさず引絞り 千本を越える矢を放つ 【神威·千本桜】
蒼い尾を引き、ナーダへと迫る矢
尻尾を振るい 瘴気を纏った竜鱗を飛ばし 千匹を越える魏頭魔を産み出す ナーダ


地上より上空を見上げる エヴァと直政
「忠勝さん 凄いです!ナーダと互角に戦っています!!」

「ええ。。。本当に。。。魔王殿でどれほどの苦行に耐えたのか。。。何度も死んだと言っていました 指の肉が裂け、剥き出しになった骨を岩の隙間に突き立て、崖を登ったそうです その他にも様々な試練を私や仲間を救う為に乗り越えて戻られたのです」
«尊天と言うのは、そういう者だ 並の精神力、体力の人間が与えられる加護では無い
この星に厄災をもたらす者が現れた時、それを討つ為に宇宙の大いなる意志が650万年もの太古に用意していたのが、三位一体·尊天じゃ 650万年もの間、その加護を授かる者が居なかったのだ 魔王の誕生と同時に
お前の夫がそれを授かった。。。そういう運命だったのだろう»
「魔王を倒す者と言うことですか?」
直政が古龍に問い掛ける

「エヴァの旦那は、勇者という事だな!」
いつの間にか、直政の背後に立つ ルイが応える



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