第104話 2つの月

文字数 3,395文字

妖狐は、エヴァ達の居る大垣城に向けて飛んでいた
北東の御嶽山に居る2匹の竜に動きがない事を感知し、遠く西の都に居るネボアを感知
していた時に、ネボアの気配が何者かに呑み込まれた事を察した
遠い昔に感じたことのある気配。。。生きながら夜叉となり、死後に怨霊となった者
この気配は間違いない!! 崇徳院か!!??
その崇徳院がネボアを取り込み何をしようというのか?
まさか、このあたしに復讐をするために?
このままエヴァの居る大垣城に行くか。。。
京の都に真相を確かめに行くのか。。。迷う妖狐
《あの子達の顔だけ見たら 京に行くとするかね》
高空を飛びながら 独り言ちる


ちょうど修練中だった天武の子供達の邪魔にならぬように、少し離れた垣根の後ろに降り立つ
「「「「「「お玉様だ!」」」」」」
子供達の気配探知も、随分と上達したようで、意味が無かったようだ。。。
「お玉様 体の方は、もう大丈夫なのですか?」

《ああ ありがとうよ茶々 すっかり元気になったよ》

「ルイの具合はどうでしょう?」

《あと一週間もあれば、動けるようになるだろうけどね 戦えるようになるには、もうしばらく掛かるね 
ブルートあんた等に話があって来たんだけどね ちょっといいかい?》

本多忠勝、エヴァ、アラン、ブルートの4人を引き連れ 二の丸の縁側に腰を下ろす
エヴァの膝の上に飛び乗ると、みんなの顔を見渡し話を始める

《あんた等、それぞれ気配探知を使えるんだろうけど、ここから御嶽山は探知出来ているかい?》
お互いに顔を見合わせ、首を振る 

「お玉様 私達の、気配探知は10kmほどなので御嶽山どころか、京の都にも届きません」

《そうかい あたしゃ尾が8本になってから、大きな魔力なら、かなりの距離を探知できるようになったんだけどね 岩村城から御嶽山に帰った火竜の母竜は死んだよ》

「「「おおっ!?」」」

「ルイが討ち取っていたのですね!?」

《そう言う事になるんだけどね 母竜が死んですぐに、子竜2匹の魔力が、急激に大きくなったんだよ 
いろんな物の怪を見てきたけどね そのどれとも比べ物にならないほどにね》

「それは、具体的にどれほどの魔力量でしょう?」

《あんた等が先日ここで 空から巨石を落としただろう? あれに使った魔力量を奴らは、一匹で超えているね》
あの日の事を思い出したのか、青ざめる 一同

「一匹であれを超えるなど。。。」

《これは、あたしの憶測だけどね ネボアとか言う霧の魔獣だけどね、あれが2匹の火竜を操っているね 
2匹それぞれに憑依しているんだと思う。。。と言うのも、岩村城での戦いの際 あの2匹にネボアが憑依したと思ったら それまでは、ただの魔力が大きいだけのデクの棒だったのが、急に洗練された動きになり
知性まで感じられるようになったからね》

「つまりネボアは、分身をする事も出来るという事ですか??」

《さっきも言った通り憶測だけどね、さらに別のもう一体が、京の都へと飛んで行き、またとんでもないのに取り込まれたんだか、融合したんだか知らないんだけどね。。。
それを確かめたくて、いても立っても居られずに岩村城を飛び出して来たのさ》

「お玉様よくそれを教えに立ち寄ってくれました そのまま京に飛ぶかどうかを迷ったでしょうに」

《あんたらの拙い気配探知では、まだあたしは、死ぬわけに行かないようだからね
大嶽丸もあたしも死という概念など無いから、死んでも数年後には、蘇るけど
その時に、あんたらみんなが死んでいたら後味が悪いからね》

「そりゃ、奴らの動きを常に把握できる、お玉様が居るのと居ないのでは、大きな違いだ 
出来れば、奴等を撃つまで行動を共にして貰えないだろうか?」
ブルートが妖狐の顔を覗き込む

《そのつもりなんだけどね さっき話した もう一体のネボアが取り込まれたのが
あたしの昔の、因縁の相手みたいなんだよ 昔は随分と人の道に外れた事をしていたからね。。。
それを確かめに行きたいんだけどね》


京の都に向かうという妖狐を、なんとか全員で説得し 1日の猶予を取り付ける
「旦那様、私達はみんな、もっと強くならねばなりません。。。」
陽も落ちた大垣城、10月に入り随分と涼しくなった縁側で2人で月を見上げている

「ああ お玉様は、それを伝えたかったのでしょう」

「お玉様は、おそらく一人で京に行き、その因縁の相手とのカタをつけたかったのでしょう
しかしそうすると、自分も生きては帰れないのではと。。。
自分が居なければ、私達の火竜との戦いが大きく不利になると考えたのでしょう」

「関ケ原で戦った あのベヒーモスよりも、それほどまでに強くなっているのだろうか?」
本多忠勝は、関ケ原でベヒーモスに一太刀浴びせたが、表皮に傷一つ付ける事が
出来なかった事を思い出す

「お玉様の、あの表情は、今の私達では、勝ち目が無いと。。。そう物語っていました」

「強くなりたいな。。。いや貴女を守るために強くならねばならんな。。。」
月を見上げながら 独り言ちる 忠勝

「そういえば、言っていませんでしたけど私の生まれた国では、2つの月があるのですよ1つは【ルナ·アモー】もう一つが【ルナ·ソーノ】毎夜12時に高天で重なり合うのです
何百年も何千年も何万年も昔から、そしてこれからもずっと。。。」

「天女様の生まれた国に一度行ってみたいな。。。その月も見てみたい。。。」
2人だけになれる、この時間が大好きだった もちろん仲間と共に過ごす時間も大事だが
人並みな幸せを噛み締められる この時が、2人には、かけがえのない時間であった

「明日も早いです そろそろ休みましょう」
天女様呼びを禁止すると、まったく会話が続かず、もう変えられぬと、観念したエヴァだった。。。 
過度な敬語が無くなっただけマシだと。。。


翌朝 広間で朝食を摂っている席に美福門院の姿で現れる 妖狐
ほぼ全員の箸を持つ手が止まり、あまりの美しさに「「「「「「「ほ〜っ」」」」」」」
という溜息が漏れる
「みんなと一緒に食事をしたくてね」
そう言い、エヴァの横に腰を下ろす 妖狐
妖力でお玉様だと気づいた天武の子供達が寄ってくる

「お玉様!お美しいです!!」

「何をどうしたら そんなに綺麗になるのですか!?」

「こんなに綺麗な人、初めて見たぞ!!」

「天女様と並んで座られると、ここが現実の世界だと信じられないのだが!?」
ちょっとした騒ぎとなる広間

「あんた達、世辞は良いから さっさと食べちまいな! 今日も修練があるんだろ!!」

「あの話し方は、間違いなくお玉様だ。。。綺麗な女の人に変幻しても、話し方は変わらないんだな〜
勿体ない。。。」

「満腹丸!!聞こえてるよ!!」

「ひっ!? すいません!!」
蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻って行く 子供達

「昨日 話した通り、これを食べたら、京に行ってくるよ」
箸で、焼き魚を上品にほぐしながら言う 妖狐

「お玉様 教えて下さい 私達は、どうすれば今より強くなれますか?」

「あんた達は、十分に強いよ 人の域をはるかに超えるほどにね」

「でも、今のままでは、火竜の子らに勝てないと。。。お玉様は、思っていますよね?」
箸を止めて エヴァを睨む妖狐

「あたしはね、九尾になれば、この世に勝てない者など居ないと思っていたよ
でもね、今御嶽山に居る、あの2匹には勝てる気がしないね そもそも九尾になる方法も解らないんだけどね、出来る事なら、あんた等には何処かに逃げて欲しいと思ってるよ」

「逃げるという選択肢は無いのです!私達が出来る事を、教えて下さい!!」
必死の形相で食い下がる エヴァ

「天武の子供達を別にして あんた等の中で、唯一伸び代が残っているのが、あんたの
旦那じゃないか おりんから毘沙門天と千手観音の加護を分け与えられたんだろ
今のままじゃ宝の持ち腐れさ」

「お玉様は この力の使い方を知っているのか!? お願いだ!教えてくれ!!」

「忠勝や あんたがおりんから与えられた力は、本来この世界の力では無いんだよ
あんたがあんたじゃなくなる。。。あんた人で無くなるんだよ?」

「構わない!みんなを救えるのなら!!」

「あんたの天女を好きだという気持ちも無くなるかもしれないんだよ?」

「それは、無くならない! たとえこの身体が(ちり)となろうとも 天女様を好きだという気持ちは
絶対に無くならない!!」
「旦那様。。。声が大きいです。。。」
頬を染める エヴァ
やれやれと箸を置く 一同


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み