第111話 尊天の加護

文字数 3,338文字

晴明神社の山門を潜り 巫女に案内され、二の鳥居横にある詰め所へと足を運ぶ
「神主様、ご無沙汰しております」
詰め所の戸が開けられ 神主の安倍清親が姿を見せると 頭を下げるエヴァ
「これは、天女様 お久しぶりですね 何やら顔色が優れないようですが、どうかされましたか?」

「はい 今日は、神主様にご報告とお願いがあって参りました」

「それは、わざわざご足労いただきまして それで? どのようなお話でしょう?」

「はい まずは、京の町を襲った火竜ですが、私の仲間のルイという者が、岩村城にて討ち果たしました」
表情を一切崩さずに告げる エヴァ 

「それは、素晴らしい しかし天女様のご様子ですと、そのルイと言われる方も傷を負われているのでしょうか?」

「はい 重症を負いましたが、命に別状はありません それよりも問題は、火竜が3匹の子供を産んでいた事なのです 3匹のうち2匹は、母親である火竜と同じような生態で
もう一匹が、実体を持たない。。。私達は、霧の魔獣と呼んでいますが 怨霊に近い存在です 火竜は討ち果たしましたが、残された子竜達も討たねばなりません」

「なるほど それを報せにわざわざ来ていただいたのですね ルイ殿の回復を祈らせて頂きます」

「ありがとうございます それでお願いと言いますのが、神主様に頂いた独鈷杵と
この殺生石を錬成する許しを頂きたいのです」
そう言い、神主の前に独鈷杵と殺生石を並べる

「殺生石。。。この石は、殺生石というのですか? 凄まじい力を秘めた石なのですね? 
というより、力を秘める事の出来る石という事でしょうか?」
殺生石を手に取り、目を凝らす 安部清親
「はい 魔力や妖力を封じておく事の出来る石なのです お玉様が、400年もの間封じられていた 
石の欠片です」

「お玉様と言われますと?」

「九尾の狐の化身、玉藻前様です 先日、霧の魔獣を取り込んだ、崇徳院の怨霊に呪い殺されました 
その時に、この殺生石を使って治療をしたのですが 私の力が及ばず
お玉様を救う事は叶いませんでした しかしお玉様の死後、この殺生石の性質が変化したようなのです」

「天女様には、脅かされてばかりですな 玉藻前と言えば鳥羽上皇の寵愛を受け 当時の朝廷を牛耳っていた女傑 崇徳院を陥れ、讃岐に島流しとした張本人
それが九尾の妖狐の化身で、崇徳院の怨霊に呪い殺され、この殺生石に思いを残されたというわけですか。。。?」

「はい この殺生石が、この国の民を護ってくれる気がしてならないのです」

「もとより、この独鈷杵は天女様に差し上げた物 青龍の力も増しているようです 天女様の思うようにして頂ければ 宜しいかと 青龍と九尾の妖狐の同居する宝具がどのような力を持つのか、興味深いですな」

「ありがとうございます 私は、これから岐阜城へと向かいます 近々御嶽山に居る
火竜の子供達との決戦になるかもしれません それが終わりましたら またお話をしに戻りますね」
久しぶりに笑顔を浮かべる エヴァ

「楽しみにお待ちしております 必ず生きて戻って下さい」

晴明神社の山門を出て振り返ると 深く頭を下げるエヴァ
忠勝の魔力を探知する。。。反応は無いが、生きている事は間違いない
ふぅーと長いため息を吐き 東へと向かう


大天狗の大上段より、振り下ろされた穂先に、蜻蛉切りを、右下段より振り上げることで左に逸し
大天狗の懐に飛び込もうと、一歩踏み出したところを引き戻された十文字槍の鎌が、忠勝の右の太腿を抉る
右手に蜻蛉切りを、掲げたまま たたらを踏んで、大天狗に向かい倒れかけた忠勝の首を切断し
その勢いのまま 蜻蛉切りを持つ、振り上げた右腕の肘から先をも両断する
数えることを諦めるほどに、何度も何度も繰り返された死 地面に向けて落下していく頭部
普通の人間であれば、いやエヴァに会う前の忠勝であれば、立ち向かう気力を無くし 永遠の死をと懇願していただろう
コマ送りのように遅くなった時間の中、霞みゆく視界の中 自分の体の正面を落下していく蜻蛉切りを持ったままの右腕に左腕を伸ばし、右腕の切断された肘の部分を掴むと残された力で、右上に向けて振り上げる 
1秒にも満たぬ、わずかな時間。。。

100回に届こうかという死に戻りの時
対峙する大天狗の手に十文字槍は無く、大天狗の額に斜めに刀傷が走る
「本多忠勝 よくぞ人の身でありながら、大天狗の身体に一太刀を入れることが出来た」
天よりの声が、忠勝の脳内に響く
「その額の傷は、拙者が付けたものなのですか!?」

「ふむ 見えてはいなかったのか?無理もないか、すでに絶命した後の一太刀だったな
いずれにしても、この試練を初めて乗り越えた者と言う事だ 
そう言われても実感が無かろう? 貴様の脳内に再生してやるから見てみるがよい」

目の前に自分と大天狗が居る 大天狗が上段より振り下ろした十文字槍を、下段より
蜻蛉切りを当て逸らす 遠目で見ていても、目にも止まらぬ一撃をよくぞ逸らせたものだと自分に感心をするが、大天狗が引き戻した十文字槍の鎌の部分で太腿を抉られ
その痛々しさに、顔を歪める 傍観者の忠勝 
大天狗に向かい、寄りかかるように体勢を崩す忠勝に瞬きの暇もない速度で、右から左に払われた十文字槍の穂先が、忠勝の首を胴から切り離し、続いて蜻蛉切りを持った右腕を
肘の部分で切断する
崩れ落ちていく身体、ずれ落ちる頭部、落下する右腕には未だ蜻蛉切りが握られ
左腕だけが強固な意思を持って、落下する右腕の肘を掴み跳ね上げる
まさに虚を衝かれた一撃、蜻蛉切りの穂先が地面で跳ね、切断された右腕がしなり
大天狗の額を穂先が掠める。。。少し離れた地面にどさりっと落ちる右腕と蜻蛉切り
どくどくと血を流しながら、倒れ伏す頭部のない自分の身体
この先、何百回と対峙することがあっても 大天狗の身体に触れる事も出来なかったと
傍観者の視線で確信する 大人と子供以上の差があったと、奇跡の一撃だったのだと
地面に転がる、自分の首と目があったところで、現実に戻される

「どうじゃった?」

「自分の骸を見るのは、気分の良いものではありませんな。。。あれは奇跡に奇跡が重なった一撃でした 
しかしあれしか手が無かったのです」

「そうじゃな よかろう本多忠勝! 貴様に尊天の加護を授けよう 貴様の不屈の精神と意思が尊天の力を行使するに相応しいと判断する」

「ありがとうございます!では、もう帰ってもよろしいのですか!?」

「そう慌てるな 貴様の生身の身体では、尊天の力を行使する事は叶わぬ これより
貴様の身体を一から作り変える事になる 目の前の、大天狗の身体が貴様の物となるぞ」
大天狗の頭から爪先までをまじまじと見つめ、複雑な表情を浮かべる 忠勝

「頭の中までは、弄られないです。。。よね?」

「反応や処理速度を上げるために脳まで弄る事になるが、記憶や感情は今のまま変わらないので安心しろ」

「それを聞いて安心しました。。。」

「では、始めるが地獄の苦しみを味わう事になる。。。覚悟はしておけ」

「えっ!? ここまでで十分に地獄の苦しみでしたが。。。」


晴明神社を後にした エヴァ
「今日は、日曜日ですね 久しぶりに鳴海城によってから 岐阜城に行っても
みんなよりも早く到着しますね。。。行きますか。。。」
などと独り言ちり、鳴海城へ進路を変える これまでであれば、京から鳴海城まで
半日を費やした道程も、羽衣を纏ったエヴァなら1時間ほどで走破する距離だ


鳴海城 北曲輪 天女堂
毎週日曜日、一般の民に開放され 等身大の天女像に祈りを捧げるためにエヴァが不在にも関わらず 
毎週大勢の人が訪れる 中央に設置された長椅子に腰を掛け祈る人々
その外周に規則正しく並び、入り口から正面最奥に設置された 
等身大天女像に救いを求める人々 痛む患部を晒す者 病を患った者 天女像の額には
治癒魔法の込められた殺生石が嵌め込まれており 傷や痛み、軽い病であれば癒やすことが出来た 
長年患っている持病などは、毎週通うことにより改善されたと言う声が多数届いている 
その為に城下、近隣の農村だけに留まらず 東海、畿内、関東等からも人々が訪れ 
鳴海城下では、宿屋の増築や建設が相次いでいた
そしてこの日も、朝の早い時間から、人々が訪れていた



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