第160話 尊天対魔王

文字数 3,050文字

「はい もう決して貴女と離れません えっ!?」
エヴァの右手にある草薙剣に視線が釘付けとなる 本多忠勝
「あっ!。。。抜いてしまいました。。。」

「なぜっ!? それを抜いてしまっては、あの魔王を倒しても、貴女は生贄に。。。」

「そうですね、ごめんなさい でもこれが無ければ、今頃、私も含め全員の命はありませんでしたから 本当にごめんなさい お腹に貴方との子供も居るのに。。。
でも最後に旦那様に会えて本当に良かった」
無理矢理、はにかんだ笑顔を向ける エヴァ

「子供。。。。?? えっええええええええええええぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!???
この俺に。。。子供。。。」
指を折り、数を数えだす 忠勝

「旦那様? それは何を数えているのですか?」

「いえ 夢屋で初めて結ばれてから。。。その。。。営んだ回数を。。。」

「そんなものを数えてどうするのですか!?」

「いや〜どこで授かったのかと 何れにしろ女の子で間違いありません!!」

「あら!?なぜ解るのですか?」

「夢屋で夢を見ました 草原を天女様にそっくりな幼子を馬に乗せて共に歩く夢を。。。
一生忘れることの無い、幸せな夢でした」

「旦那様。。。私も同じ夢を先日見ました!!三方ヶ原の草原のようでした」

「貴女もお腹の子供も絶対に死なせるわけにはいきません!なんの為に死ぬような思いでここに戻ってきたのか」

«久々の再開に水を指すようで悪いのだがな、我との約定は必ず守ってもらうぞ
それととんでもない攻撃が来るぞ!我の贄となる 天女に死んでもらっては困るのでな
忠勝!お前が、あの魔王を倒すのだ 我はお前の伴侶と子を守ってやる»

「私の妻を生贄に捧げる事は了承できませぬが、古龍様!妻と娘をお願いします!」
そう言うと、ナーダへと振り返る 本多忠勝


「あの突然現れた 人間と天女は、この魔王を前にして、何を微笑み合っているのだ?
我を愚弄しているのか!!??死ね〜!!」
時間にして10秒もの間、じっくりと練った魔力を一息に放出する ナーダ
ナーダの顔前で凄まじい唸りを上げ、暴れる黒い球体がナーダの口から、長い尾を引きながら放たれる 

神槍·蜻蛉切りに神通力を通す 本多忠勝
眩いばかりの蒼い神威を纏い 元々大きかった忠勝の体が、肩や胸、腕の筋肉が盛り上がり、さらに大きく厚みを増す 

「なんてものを放つのだ!?この辺一体を吹き飛ばすつもりか!?」
蜻蛉切りを横に持ち、両腕を突き出す 【神威·千本桜】
蜻蛉切りが弓へと変幻し、見えない弦を引き絞る ばしゅっ!! 炸裂音とともに放たれる無数の青い光の矢が、大気を切り裂き 唸りを上げ襲い来る 黒い息吹に吸い込まれるように飛翔する 2射目、3射目と続けざまに射る 本多忠勝
黒い息吹に先頭の矢が着弾する 瞬く間に消滅する矢と、矢の触れた先から“ジュッ”と音を立て蒸発していく、黒い魔力を湛えた息吹
すべての息吹を蒸発させ、ナーダへと襲い掛かる蒼い光の矢 息吹を吐き切り、弛緩したナーダの肩を胸を腹を両腕、両足を貫いていく


「旦那様!? これほどの力を得たのですか?いったいどれだけの苦行を。。。」
«毘沙門天、千手観音、護法魔王尊。。。三位一体の加護が生み出す力とは、これほどに凄まじいのか!? この星に害をなす脅威を滅する力とは本当だったという事か!?»

「みんなが避難している所まで、退いて貰えますか? あそこだけは命に変えても守り抜きます」
背中のエヴァに首だけを巡らせ、話し掛ける 忠勝

「えっ!?仕留めたのでは無いのですか?」

「いえ おそらく奴は無傷です 黒い魔王。。。予想以上の強さです」

「わかりました 必ず生きて戻ってくださいね」
名残惜しそうに、忠勝の袖を引く エヴァ
「もちろんです、もう離れないと約束しましたので」
おもむろに振り返ると、エヴァを抱きしめ 唇を重ねる 

«いつまでやっているのだ? 大天狗が接吻を交わすところを見る事になるとは、その鼻は邪魔ではないのか?まぁよい魔王は尊天に任せて、いったん降りるぞ傷を治してやる»
「旦那様 すぐに加勢に戻ります」

「いや 下で観ていて下さい お腹の子の為にも。。。」
腫れ物に触れるように エヴァの下腹を大きな手で包み込む 本多忠勝

「古龍様 妻を頼みます」
初めて妻と呼ばれて 頬を赤く染めるエヴァと、初めて妻と口にして赤らむ忠勝

«お前達、緊張感に欠けるのう あ奴はまだ、すべてをさらけ出してはおらんぞ
気を引き締めて掛かれ»
「承知しました お任せ下さい」


新岐阜城 地上階
負傷した足を庇うように、そっと着地するエヴァ
「天女様!すぐに治療しますね!」
エヴァに駆け寄り、手を翳す おりん
「みんな。。。無事で良かった。。。」
「天女様も、よくご無事で。。。」

「エヴァ!大丈夫か? エヴァ1人にナーダを任せてすまなかった」
おりんの後ろから、傷の様子を覗き込む ブルート

「私は大丈夫です みんなも無事なようで良かったです。。。ルイ 助けられなくてごめんなさい」

「何を言っているんだ 俺も先走ってごめん エヴァが居なければ、ここも無事ではなかったよ」
神妙な顔つきで頭を下げる ルイ

「よくみんなで、ここを守ってくれました 忠勝殿が、戦っている間に魔力を回復させましょう お腹が空きました 大食堂ヘ降りませんか?」
ふわりっとエヴァを抱き上げる ルイ

「軽いな。。。エヴァ こんなに小さな体で、ナーダと戦っていたんだな 草薙剣まで抜いて。。。俺達は、エヴァに何をしてあげられるんだ?」

「気にしないでルイ もちろん私も死にたくはありませんが。。。せめてこのお腹の子が産まれるまでは
生きていたいです でも自分で決めた事ですから、みんなが助かるのなら天命だと諦めるよりありませんね」

「「「「「「「「天女様!!!!」」」」」」」」
堪えていた涙が溢れ出し、一斉にエヴァに縋りよる天武の子供達
子供達の頭を1人1人撫ぜながら、優しい笑みを浮かべる エヴァ

「もしも もしもこのお腹の子が、産まれることが出来たなら 貴方達のような人を思いやれる子供に育って欲しいです」

「天女様の子です 誰よりも優しい子供に育つに決まっています!」

「そうですよ! 僕が毎日遊んであげますし、勉強も教えます!!」

「満腹丸 勉強は僕が教えるよ 君ではちょっと心配だからな」
久方ぶりにみんなの顔に笑みが浮かぶ

全員で大食堂へと続く階段を降り 重い扉を開ける

「「「「「「おおぉぉ〜〜〜天女様〜〜〜!!!」」」」」」

「「「「「「「「天女様〜〜〜!!!ありがとうございます!!!」」」」」」」」
割れんばかりの歓声に包まれる 大食堂
ルイに頼んで、降ろしてもらうと 羽衣の汚れを“ぱんぱんっ”と叩き 襟を正す

「みなさん ご心配をお掛けしました 魔王を名乗る、あのナーダは想像を絶するほどに強大でしたが、きっと私の夫である本多忠勝が倒してくれると信じています」

「天女殿 あの蒼い大天狗が、本当に本多忠勝なのか?」

「はいお館様、三位一体尊天の加護を授かり、魔王殿から戻られた 私の旦那様です」
武田信玄とエヴァの間に割って入る 上杉謙信

「お〜〜!あれが、誠に忠勝殿なのだな!!尊天を授かると大天狗になるのか。。。
そこはかとなく毘沙門天の波動を感じるのう 後で我が旗印に一筆入れてもらえぬだろうか? 
我が友·上杉謙信殿へなどと入れて」
まるで子供のようにキラキラした瞳で壁面を見つめる 謙信

大嶽丸二刀流剣技で本多忠勝の蜻蛉切りと切り結ぶ
刃と刃がぶつかり合うたびに、新岐阜城の上空に雷が落ちたような 轟が鳴り響く


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