第168話 瘴気の雲 再び2

文字数 3,232文字

凄まじい爆風にエヴァを懐に収め守りながら、上昇気流に逆らいながら高度を下げていく 忠勝
なおも横に横にと、拡がり続ける 瘴気の雲
前回は、500kmを進むのに2日を要したのだが、魔王となったナーダの息吹と尊天の加護を受けた忠勝が創り出した竜巻がぶつかり合った その結果、音速を超え拡がり
1時間も要せずに本州すべてを瘴気の雲の傘の下に収める事となるだろう

「旦那様。。。ナーダが、この瘴気の雲から、雨を降らすことにより その土地の生物は、すべてが死滅する事になります。。。」

「そんな。。。私が、悪手を打ったという事でしょうか?」
肩を落とす 本多忠勝

「いえ、そんな事は。。。おそらく、どのような手段を使っても、この状況を作り出したでしょう 
この国の民のほとんどがナーダの人質になったと言うことです」

「この風袋を使って、すべて吸い込み 私の体を通すことで浄化してみます!」

「すべてを吸引するより早く、ナーダは瘴気の雨を降らせるでしょう 今は刺激をせずにナーダの条件を聞きましょう。。。予想は付きますが」

暗闇に包まれ、強風が吹き荒び、とてつもない速度で拡がり続ける雲下の新岐阜城上空
エヴァを抱き寄せる忠勝の全身から蒼い神威が光を放つ 
瘴気の黒雲を突き抜け、静かに下降してくる ナーダ
翼を広げ、忠勝達と同じ高度で滞空すると、暗闇の黒よりも、まだ黒い全身から尋常でない瘴気を発し赤い口を開く
「あと僅かな時間で、この国すべてを覆い尽くすぞ この手は使いたくは無かったのだがな、なんと言っても食えなくなるのでな」
ナーダの赤い口元がニヤリッと歪む

「卑劣な!俺と戦え!!」

「言ったであろう?守る者の無い我と、すべてを守りたいお前では、どちらが強いのかと、これがその答えだ!」

「魔王ナーダ、貴方の望みはなんですか?」

「話が早くて助かる あの時を操る子供を我に渡す事と、お前の伴侶を無に返す事だ
そうすれば、この瘴気の雲は即座に霧散させ 我は北の大陸へと飛ぼう この国の命を
狩るのは、最後にしてやるぞ」

「そんな条件が聞けると思っているのか!!せめて俺の命一つにしろ!!」

「わかりました。。。直政君と話してきます ここで待っていて下さい」

「えっ!?」
驚き目を見開く忠勝の両頬を、両手で慈しむように包む エヴァ
「旦那様も、ここで待っていて下さい すぐに戻ります」


京の都上空
東から驚くべき速度で迫りくる、厚く黒い瘴気の雲に、突然覆われた京の都
灯りが必要なほどの闇に包まれ、数々の戦禍やベヒーモスの襲来を経験した
肝の太い京の民も、前回よりも厚みと禍々しさを増した黒い雲得体の知れない恐怖
を抱き身震いをする

晴明神社 境内
竹箒を手に境内を清めていた安倍清親が、その手を止め迫りくる黒雲を見上げる
「これほどに禍々しい瘴気が、日の本を覆い尽くすというのか!?
私の代で、この国が滅ぶというのだろうか。。。無力な己が恨めしいが。。。
天女様。。。いやあの時空を超え来られた方達の武運長久を祈りましょう
我がご先祖、安倍晴明の加護があります様に」
印を結び、静かに目を閉じる 安倍清親


岩村城 三の丸
ナーダにより左肩を貫かれ、瀕死の重症を負った秋山虎繁だったが
エヴァより借り受けた 回復魔法の込められた殺生石の効果で動けるまでに回復していた
本丸、二の丸が壊滅的な被害を受け、未だ行方不明者の捜索など、慌ただしさの続く城内
「殿 城内の者たちが、西より再び黒い雲が迫ってきていると騒いでおります」
秋山虎繁の枕元で介抱している 奥方おつやの方が中庭を覗いながら 告げる
「あの黒い竜と、お館様達が戦っているということだろう 天女様やルイ達が、きっと
あの竜どもを退治して下さる! その黒い雲が晴れた時が、この国の新たな夜明けだ!」

エヴァの提案に無言で頷く ナーダ

「待って下さい!」
エヴァの手を強く握りしめる 本多忠勝

「この国の民すべてを犠牲にするわけにはいきません もしも貴方が死んだら 私もこの子もすぐに後を追います。。。」
そしてナーダに気取られない様に、風魔法に乗せて言葉を続ける

ー「考える時間を稼ぎたいのです 協力して下さい」ー

「わかりました。。。ここで待ちます。。。」
九尾を広げ 新岐阜城へと降下していく エヴァを見送る 忠勝

ー『時間を稼ぐ。。。? 何かを話せばいいのか?? 無理だろう!?』ー
ナーダへと向き直ると とりあえず ぎこちない微笑みを向けてみる
ここから本多忠勝にとって、人生で最も長い5分間が始まる。。。


「また瘴気の雲か。。。」

「しかも前回の物より、遥かに速く広がり、瘴気も濃くどす黒いな」
ルイとブルートが太陽の光も月の光も通さない、闇夜となった空を見上げながら、九尾を広げ降下速度を殺しながら着地態勢を取る エヴァを迎える

「「「エヴァ」」」

「「「「「「「「「「天女様」」」」」」」」」」

「みんな ごめんなさい、また瘴気の雲を出させてしまいました。。。しかも前回よりも広範囲に渡るようです」

「この国の。。。民すべてを。。。人質に取られたという事か。。。」

「天女殿!やつの狙いは、一体何なのだ!?」

「お館様 魔王ナーダの条件は、井伊直政君を渡す事と。。。旦那様の命です」

「天女様!僕の身一つで済むのでしたら、僕を引き渡して下さい その上で忠勝さんの
命は、差し出さなくても済むように僕が話をします 僕が従順にナーダの望みを叶える
という条件ならば、話に応じるかも知れません」

「直政君 貴方を渡す事は、絶対にありません では、どうすればいいのか? それを話すために降りてきました 時間がありません」

直政の背後から、金色のオーラが沸き立ち、次第に八頭八尾の八岐大蛇の姿を形作る
目を見開き、唖然としていた2,000人が、慌てて片膝を付き頭を垂れる
“産まれたばかりの神竜が調子に乗りおって!我が治める国の民を皆殺しだと!?
奴を魔界に落とすぞ お前達なら出来るはずだ 魔界ならば、あの程度の瘴気などなんの影響も及ぼさん”
この場に居る全員に、古龍の念話で事細かに詳細を話し始める 八岐大蛇
“µ§#№±$@^#∆№。。。。。。。。%$#&*@@。。。。。。$%❛¢&!§¥£。。。。。。”
話し終えるとルイが口を開く

「それだと、忠勝とエヴァが。。。」

「私と旦那様の事なら心配いりません 例えどうなろうと2人が一緒ならば。。。」


そしてエヴァが地上に降りてから、ちょうど5分後 ドームを解除して
上空の忠勝とナーダに向けてブルートが念話を飛ばす 条件を呑む事を伝え、人間に影響を及ぼさないように魔力を絞って降りてくるようにと
1秒にも満たぬ時間で、エヴァ達の前に瞬間移動で着地する 魔王ナーダと忠勝

初めて間近に見る 魔王ナーダのあまりにも禍々しく圧倒的な強者の姿を見上げ
息をすることも忘れ 只々立ち尽くす 2,000人
その後方に立つ 同じように3m程もある巨体に厳つい大天狗の容姿ではあるが、尊天から発する神々しさが、この場の空気を幾分か中和させ、なんとか皆の意識を保たせる

「愚かな人間共よ 賢明な判断をしたと思ってよいのだな?」

「お前が魔王ナーダか!?わしらの国に何という事をしてくれる!!」

「ほう お前が人間共の大将か?確か将軍·武田信玄とか言ったな、あまりにも非力な
お前達の種族を呪うがいい」

「お前はいったい何がしたいのじゃ!? すべての生き物を滅ぼし、お前一人が残ったところでどうするというのじゃ!?」

「ふむ それは我にも解らぬ ただお前たちも腹が減れば喰らい、眠くなれば眠り
(つが)いを見つけ子孫を残すであろう? 我がすべてを滅ぼすというのは、それと同じ事だ 我が種族の本能が、我ら以外の種族を滅ぼせと告げているのだ
そして その子供を我が眷属にすることにより、この星を滅ぼした後にも、異なる次元の世界で殺戮を繰り返す事が出来る これほどに心躍る事があるか?」

「その先にいったい何があるというのじゃ!!」
武田信玄の絶叫が木霊する



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