第95話 岩村城慕情

文字数 3,084文字

大きく肩で息をするエヴァ 降りしきる雨の中、立ち尽くし北の空を睨む
怒りのあまり強張った顔を空に向け、大粒の雨で冷ます 
しばらくして振り向くと、妖狐とおりんの元へと駆ける

岩倉城からも、大勢の民が妖狐を目指し駆けていた
おりんを、その体で守るように包み込んでいたはずの妖狐の巨大な体が、安心して
気が抜けたのか普通の狐と変わらぬ大きさとなり、おりんの膝に横たわっている
「おりんちゃん、遅くなってごめんなさい。。。」

「いえ ほんの数時間前に天女様に連絡をしたとルイに聞きました 駆けつけて貰えるとは、思いませんでした。。。ルイは!? ルイは大丈夫でしょうか!?」

「命に別状はありません。。。しばらくは、安静にしていなければなりませんが。。。」

「大嶽丸様は。。。間に合わなかったようですね。。。」

「はい 叔父上は、私や城内にいる人を庇って。。。」
炭化した、大嶽丸だった物を見て 堪えていた涙が、止めどなく溢れ落ちる おりん

「お玉様が以前、話されていましたが、大嶽丸様は、変り身の依代を用意されていたのですよね? 
確か大通連・小通連の2振りの剣に。。。」

「はい 数年後には、復活して戻って来るはずです」
少しだけ、おりんの表情が明るくなる

「では 約束は、出来ませんが、一緒に待ちましょう」
おりんの両手を優しく包み込む エヴァ

「えっ!? それは、生ある限り、お側に置いて下さると言うことですか?
病める時も? 健やかなる時も??」
おりんの顔が、パッと明るさを取り戻す

遠巻きに見ていた民たちの中を掻き分け、岩倉城主·秋山虎繁が2人の元へ駆け寄り、片膝を付く
「岩倉城主·秋山虎繁です 天女様、本当にありがとうございました」
深く頭を下げ、感謝の意を表す 

「いいえ 頭を上げてください もっと早くに到着できれば、もっと沢山の命を救えましたでしょう。。。」
エヴァが応えると

「えっ!?天女様がお二人??」

「あっ! えっと、こちらが、本物の天女様で、私は天女見習いです、おりんと呼んでく下さい」

ー『そっちが、本物の天女ですけどね。。。。』ー

「わかりました とにかく皆さんが来て頂けなければ 我等は、今頃全滅していました
城下の者を代表してお礼申し上げます」

「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」 
遠巻きに見守っていた者達から、口々に感謝の言葉が届く

「あの 向こうの街道の並木の下に、ルイという男を休ませています お手数ですが、こちらまで運んで頂けますでしょうか? それとそちらの大嶽丸様の遺骸を丁重に葬って頂きたいのですが」

「やはり!あの方が、龍神殺しのルイ殿でしたか!! おいっ!皆の者!!聞いた通りだ その辺の戸板を外して、ルイ殿と大嶽丸様をお運びしろ 手の余った者は、生存者が居ないか手分けして探すのだ!!」
秋山虎繁の指示に一斉に動き出す 家臣と民

「あの、そちらのお狐様は、やはり九尾の狐様でしょうか??」

「はい 九尾になるとは聞いていますが」

「やはり! そうでしたか!! ありがたい事です 神社を建立して祀らせて頂きたいと思います」

《あたしゃ、まだ死んじゃいないよ!》
むくりと頭を浮かせ、気怠げにまた目を閉じる

「お玉様、だいぶお疲れのようですが、死んではいないと怒っています」
通訳する おりん

「失礼いたしました!」
狐に土下座する なんとも奇妙な絵面の 秋山虎繁


その後、城内に案内されルイの治療にあたるが、左半身の損傷が激しく
しばらくの療養をエヴァに言い渡される

「ルイ 童子切安綱を返しますね いい太刀ですが、宿っている酒呑童子が、貴方を傷つけられた怒りから
暴走を仕掛けまして 私には、ちょっと扱いきれませんでした」
酒呑童子の怒りとエヴァの怒りが合わさり 狂戦士化しかけていたのは、黙っておく

「ああ 大嶽丸のおっさんは、死んじまったか。。。俺とお玉様を庇ってくれたんだ」

「ええ でも数年で復活されるはずですから また会えますよ」

「そうか。。。ベヒーモスは、死んだかな? 手応えは、あったんだけどな」
どこか虚ろな目で、天井を見つめながら 問い掛ける ルイ

「どちらにせよ、ベヒーモスは暫くは動けません その間に、ゆっくり治しましょう」

「エヴァにこうやって治療してもらうのも久しぶりだな。。。それは、そうと下着は
履いてもいいんじゃないか?」

「傷に触りますよ? 治っても変な跡になったら取り返しが付きませんよ」

「いや ほらっおりんって、人の布団に平気で入ってくるだろう? 身の危険を感じると言うか。。。」
おりんには、聞こえないように“ボソッボソッ”と小声でエヴァに囁く ルイ

「さすがにおりんちゃんでも、怪我人にいたずらをしたりしません。。。よね?」
妖狐の看病をしていた おりんが振り向き「私の話を、されていました?」と聞いてくる

「ええっ 仲間の到着を待って、明日にも大垣城に移動しようと思うのですが、おりんちゃんには
ここでしばらくの間ですが、ルイを見て頂けないかと。。。」

「な なんでだよ! なんでそうなる!!」と目で訴える ルイ 

「天女様が行かれてしまうのは、寂しいですが ルイの面倒でしたらお任せ下さい
殿方のいろんな所を隅々まで観察できる 良い機会ですので」

「おりんちゃん。。。観察って!?」
「はい 体を拭いて差し上げたり 厠にも行けませんでしょうから ルイの可愛らしい
$#@℉を、摘んで差し上げるのも(やぶさ)かでは、ありませんが?」

「数百年も大嶽丸様と暮らしてこられて、何にでも興味を持たれるのは、しょうがないですね 
では、ルイをお願いしますね」
可哀想な物を見る目で、ルイを見る エヴァ

「可愛らしいって言うな!!」


「お供の方々が到着いたしました」

「はい ありがとうございます ここへ通して下さいますか」
女中の一人が、アラン達の到着を告げる

「城下は、ひどい有様だな。。。ルイ!大丈夫か!? 遅くなってすまない」
ブルートがルイの枕元へ駆け寄る

「ああ なんとか生きてるぞ エヴァが来てくれなければ、やばかったけどな。。。」

「エヴァの走る速度は、尋常でなかったからな あれは、走ると言うよりも飛んでいたな
羽衣の効果らしいが、1度研究させて貰いたいな」
ブルートの研究者魂に火が点いたようだ

「あの羽衣は、私と天女様以外には、効果を発揮しませんよ はじめまして、おりんと申します」

本多忠勝は、部屋に入りエヴァの無事を確認すると安心したのか、その場にへたり込み
エヴァの手を取り 無言でしばらくの間、見つめ合う2人
「生きた心地がしませんでした。。。 あまり無茶は、されないで下さい」

「ごめんなさい でも、なんとか間に合いました。。。たくさんの犠牲を出してしまいましたが」


「「あの2人は、どうなってるんだ?[でしょうか?]」」
ルイとおりんが声を合わせて、ブルートに聞いてくる

「ああ あの2人は、結婚するそうだぞ」

「「ええっ!!⁇」」

「そうか。。。あのエヴァがな。。。幸せになって欲しいな しかしブルートは、良いのか? 
今まで悪い虫が付かないようにと、さんざん追い払ってきたのに」

「うん あの本多忠勝という男になら、任せても良いような気がしてな。。。ベヒーモスとの戦いで
どうなるかもわからんしな 幸せになって欲しいと思うよ」

「はっ?天女様がご結婚⁉ 私というものが、有りながらですか? お相手は、あの方ですね。。。」
不気味な笑みを浮かべる おりん


その頃、天武の面々と風魔党員約20名と、ひたすらに弓の修練に明け暮れた500名の精鋭部隊が琵琶湖の南端を東進し大垣城を目指す
来たる決戦の日を、ピリピリと肌に感じながら

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