第65話 エヴァの憂鬱

文字数 3,187文字

「天女様!誠に申し訳ありませんでした!!」荷車を引きながら、必死に謝る 山本管助

「管助殿、私は怒っていませんので 気にしなくても大丈夫ですよ」

「あの天女様。。。この荷車ですが、昨日よりも非常に重いのですが。。。」

「ああ 加護が切れたのかもしれませんね、うっかり忘れてしまったようです 魔力が尽きたようなので人力で頑張って下さい」
管助の方も見ずに淡々と話す エヴァ

「やはり怒っていらっしゃるのですね」半泣きの管助

「誰にでも、うっかりはありますよ まさかあの者たちが平伏するのをドキドキしながら
待っていたら 身内である貴方が、ひたすら土下座するとは思ってもみませんでしたが」

「ちょっと待ってください この荷が重くって、上り坂ですし」

「先に行っていますね バナナが痛みますので急いで下さいね」
天女様を怒らせるのだけは、絶対に止めておこうと心に誓う 本多忠勝と弥助であった

これから百数十年後、気の良さそうな老人が2人の従者を連れ、印籠を振りかざし人々が平伏したところで、高笑いを浮かべながら説教をするという旅を数年に渡り続ける事を エヴァが知ることはない


下鴨神社 葵生殿
「お館様、いえ将軍様ただいま戻りました」
武田信玄、真田幸隆、ルイ、ブルートに迎えられる エヴァ、本多忠勝、弥助の3人

「天女殿、長旅であったな して、目的の物は、手に入れられたのか?」

「はい ここに」
白いさらしで厳重に包み直した草薙剣を指差す

「ご覧になりたいですか?」激しく首を横に降る 信玄と幸隆

「そういえば山県殿や馬場殿は、どちらに?」
「うむ あ奴らは、いったん国へ返した 長く留守にしておったからな 警護のものだけを残し大半の兵を連れてな それより変わった者を従者にしたようじゃな」

「はい ポルトガルからの商船に奴隷として無理矢理連れてこられた者です
弥助と言います 祖国ではバナナという果物を栽培していたそうです」

「弥助と言います よろしくお願いします」
各々の前にバナナを置き、食べるように勧める

「ほ〜 これは、上手いものじゃのう〜 日持ちがするのなら、戦場に持っていくのも良さそうじゃのう」
強面の武田信玄がバナナに齧り付くという絵面に笑いを堪える エヴァ

「確かに、食したことの無い食感に甘さですな 腹持ちも良さそうだ」

「美味いな! お雪ちゃんにも食べさせてやりたいな これしか無いのか?」

「ルイ心配しなくても、遅れて大量に届きますよ 保管は、貴方に任せますね」

「エヴァ、このバナナを栽培するために弥助を連れて来たわけだな 食べる物に関して抜かりが無いのは
相変わらずだな」

「ブルート、ルイ!鳴海城下に、このバナナを栽培するための巨大な温室を作ります!! 
熱帯でないと栽培できないそうですのでお願いしますね」
やれやれと肩を竦める ルイとブルート

「二条城も内裏も見てきましたが、予定よりもだいぶ早く仕上がったようですね ご苦労さまでした」

「そうだな 俺もブルートも魔力量が増えたようで捗ったぞ 後は羽柴組が内装を済ませたら終わりだな」


「ところで上杉謙信からの返事は、どうなったのでしょうか?」

「それなのですが、まだ無いのです どうやら遣いの者も返事を貰う為に向こうで待機をしているそうです」

「そうなのですか。。。では、もうしばらく待つことになりそうですね」

「我々は、明日にでも鳴海城に戻りますので 返事が届き次第、伝書鳩で報せて下さい 
護衛には、本多忠勝殿を付けます」

「承知しました 道中お気を付けください。。。あの。。。孫の幸村の事宜しくお願いします」
姿勢を正し頭を下げる 真田幸隆 なかなかの孫馬鹿のようだ

「はい とても見込みがあると聞いています 安心して下さい」

「ところで、山本管助の姿が見当たらないようなのですが。。。?」
そっと目を逸らす 本多忠勝と弥助

「脆弱な精神と肉体を鍛え直すために、鍛錬をしながら、こちらへ向かっています もう間もなく到着すると思います」

「はぁ。。。何かやらかしたのですね。。。?」



薄闇が迫る 下鴨神社の境内
いつもの巫女装束の上に白い千早を纏い、薄闇が迫る下鴨神社の境内を本多忠勝を連れて散策に出る エヴァ
天女小堂にお参りする者たちを驚かせ、立ち止まり暫しの間 世間話などに講じて見る
忠勝の手を取り、下鴨神社を抜け出し、鴨川沿いを歩いてみる

「天女様 今日は、どうされたのですか? なにかいつもとご様子が。。。」

「忠勝殿。。。壇ノ浦までの旅ですが、楽しかったですね」

「はい 生涯忘れることの無い、思い出となりました」

「私もです もうこのような時間は、この先に望めないかもしれません 火竜との戦いまでに
貴方には、貴方のしたい事をして欲しいと思います 家族や友人、愛する人に会いに行くのも良いでしょう」

「天女様のお側に居ることが拙者のしたいことで、私の愛する人は、天女様だけです」
顔を真っ赤にしながらも、エヴァの目から、決して目を逸らさない 本多忠勝

「笑わないで下さいね 私は、殿方に真剣にそのように言われた経験が無いのです ですから。。。
貴方の言ってくれる言葉も【従属の契約】が言わせているのでは?。。。と疑ってしまいます」

「そのような契約など無くとも、拙者の魂が告げているのです 貴女を守りたいと 貴女を愛おしいと 
それにお忘れですか? 拙者は、契約に逆らう事が出来る事を」

「ありがとうございます その言葉、嬉しく思います しかし私が死ぬ事で、貴方までが死ぬ必要はありません【従属の契約】を破棄する事を、私が鳴海城より戻る間に考えておいてくださいね」
すっかり陽も落ちた鴨川の河原に座り 本多忠勝の肩に頭を預けるエヴァ

翌朝、武田信玄に正親町天皇への“目的の物は無事入手”という伝言を託し、鳴海城に向けて旅立つエヴァ、ルイ、ブルートそして弥助

「俺のバナナの苗は、どこに有るんだ」

「ん? ここに有るぞ」ぽんぽんっと胸元を叩く ルイ

《あんたは、またとんでもない物を手に入れて来たんだね》

「わかりますか? お玉様には、隠せませんね」さらしに包んだ太刀に目をやる

《過ぎたる力には、それなりの代償を払わねばならないのは知っているね?》

「はい 心得ています」

《それなら、仲間を信じて、それを使わずに火竜を倒すんだよ》

「もちろん、そう出来るのなら。。。」寂しそうに薄く笑う エヴァ

《あんたは、なんでも一人で背負いすぎるようだね ルイ見せてやりな》

「最近、お玉様の言いなりになっているような気がするんだが。。。“幻影散棘”」
“童子切安綱”を胸の前に掲げ、土魔法で作った“童子切安綱”の数十本もの複製がルイを中心にして回転する、上段に構えた太刀を振り下ろすと同時に風魔法に乗った無数の太刀が、強烈な加速と共に上空へと撃ち出され、尾を引きながら一瞬のうちに大空に吸い込まれていく

「これは。。。凄いですねルイ、ベヒーモスを撃ち落とせるかもしれませんね!!」

「エヴァ この国の民を傷つけたくないのは、皆同じだ もっと頼ればいいんだぞ」
ブルートは、そう言うと右手の甲をエヴァに向け 5本の指先から黒い糸をスルスルと空に向け伸ばしていく、上空で複雑に絡み合い瞬く間に巨大な蜘蛛の巣が現れる

「“雷牙”!!」指先から雷が糸を伝い、蜘蛛の巣の中央に達し爆ぜる 曇天の空に巨大な花が咲き落ちる

「ブルート、敵を絡め取り、雷撃で屠る いつの間にこんな技を。。。」

「エヴァにこき使われて、毎日魔力をギリギリまで使った賜物だな あとこの世界の濃い魔素だから可能なのかもしれん」

《いいね あんたは、それを使わなくても済むように戦術を練るんだよ。。。どうせあんたの事だから。。。》
軽く跳躍をすると、4本の尾をくねらせ中空を舞う 妖狐

「お玉様の尻尾が4本に!? 5本になるのが楽しみだな!! フッヒッヒッヒ」
ルイが鼻孔を膨らませニヤつく

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