第60話 鬼ヶ島

文字数 3,677文字

安芸の関所にて物々しい歓待を受け、吉田郡山城下に入る 天女一行
茶店で買った団子を食べながら歩いていると、前方から駆けてくる6騎の騎馬 
3人の前で一斉に降り立つ強面の侍たち

ー『きたー ついに来ました〜〜 待ちわびました〜〜』ー
ちょっと、涙目のエヴァ すると3人の前に平伏す侍たち

「天女様御一行とお見受け致します 拙者、毛利家臣·清水宗治と申します 我殿·毛利輝元が是非におもてなしをしたいと、城内で待っております ご同行頂けますでしょうか」

「急いでいるのですが。。。」

「打ち立ての蕎麦に、鰻の蒲焼、穴子の天ぷらなど、用意させて頂いております」
事前に天女を釣る餌を仕込んでいた 清水宗治

「急ぐ旅でもありませんし お言葉に甘えましょうか」
輿に揺られながら 郡山城へと向かう

吉田郡山城 本丸 謁見の間

「勝さん、なぜ私は、ここに座らされているのでしょう?」
忠勝だけに聞こえるように小声で問い掛ける

「天女様が、上座に座られるのは、当然でございますが?」

「私は、ご飯を食べに来ただけなのですが。。。」
エヴァを上座に左右にずらっと50名ほどの毛利家臣が居並ぶ 正面の襖が開き 礼式に則た朝服を着た若者がエヴァの正面まで歩み寄り 流れるような動作から平伏すると家臣団も一斉に平伏す

「天女様、お初にお目にかかります 安芸国主·毛利輝元に御座います」

「面を上げてください 天女と呼ばれております」

平伏したまま、動かない一同に本多忠勝が声を上げる
「皆の者、面を上げよ」

「この度は、我らが領土に天女様御一行が、足をお運びくださった事、恐悦至極にございます 
しかもそれだけに留まらず 入っております報せだけでも、高波で座礁した漁船を引き揚げ、遭難した漁師まで助けて頂き 土砂崩れで通行不能となった街道を修復して頂き落石の被害にあった領民の治療まで施され 播磨国では、50名以上の流行病による重症者を治療するだけでなく、根治までして下さったとの報せを受けております」
清水宗治の報告に居並ぶ家臣団が感嘆の声を上げる

「我が領民をお助けくださった事、心より御礼申し上げます」
主の感謝の弁に、揃って頭を下げる一同

「ここまでの道中、まったく悪意のある者に出会わない。。。落ち着いた良い国ですね
輝元殿、貴方のお人柄が国の民にも出ているのでしょう」

「はっ 有り難きお言葉、痛み入ります 家臣を含め領民には、出来ることならば、戦などない生涯を送ってもらいたいと思っております 腑抜けだと笑われますが」自嘲気味に笑う 輝元

「素晴らしいことです 今この国は、征夷大将軍·武田信玄公の元、一つになろうとしています きっとその願いが叶うことでしょう」
「はっ この毛利輝元、微力ながら、天女様の信の厚い武田信玄公に如何なる助力も惜しまない所存で御座います」

「それを聞けただけでも、この旅に出た甲斐がありました 頼りにしていますよ」

「天女様、一つお訊きしてもよろしいでしょうか?
朝廷よりの書状にもありました 火竜というのは、どのような生き物でしょうか?」

「現在この国の最大の懸念です 体躯は、あそこに見える二の丸程でしょうか 翼を有し高速で空を駆けます 京の上空に現れ、口から竜の息吹という火炎を吐きます 僅か数分で京の町を火の海とし数万人の民と二条城に居た将軍·足利義昭公、本能寺に居た織田信長公等が犠牲になりました」

「にわかには、信じられなかったのですが。。。真の話だったのですか 空を飛ぶということは
我が領土も安全では、ないという事ですね そのような怪物を相手に打てる手は、あるのでしょうか?」

「この国の何処にも、安全な場所など無いのかもしれません しかし私達が必ず討ちますので。。。
信じていてください」
 
その後、膳が運び込まれ豪勢な料理に舌鼓を打つ
「この鰻の蒲焼というものは、美味しいですね〜
この甘辛いタレがたまりません! この国の蕎麦も風味が豊かでいくらでも食べれてしまいます」

「気に入って頂けたようで 何よりで御座います」

「天女様は、この後は、どちらまで行かれるのでしょう?」

「長門国の壇ノ浦まで行ってから、京に戻ろうと思っています」
「何か私に手伝えることは、ありませんでしょうか?」

「壇ノ浦で船を一艘用意して頂けると助かります」

「それでしたら案内の者を1人付けますので、その者に船を用意させましょう 良いな犬飼」

「はっ お任せください」

天女一行と犬飼次郎を見送る 毛利輝元
「清水殿、あのようなお方が本当に居るのだな。。誠に天より遣わされた、天女様なのかもしれんのう」

「聞いた話が、すべて。。。いや半分でも真実であれば天女以外の何者でもありませんでしょう」

「猿、雉 天女様が、我が領土を出られるまで陰ながらお守りしてくれ」

「はっ 畏まりました」
子飼いの忍びの者2人を、護衛として後を追わせる 毛利輝元

「天女様!拙者の足なのですが! 異様な速度で歩いているのですが!?しかもまったく疲れません。。。」
「はい 加護を授けましたので、予定より遅れていますので急ぎますよ!」
「すぐに慣れますよ。。。」なにかに悟りを開いた 山本管助
「馬で駆けても、追いつかれるわけだ。。。」

周防国を一気に抜け、長門国に入る
「天女様、壇ノ浦が見えてまいりました 船を手配致します」
漁船が集まっている集落へと入っていく 犬飼次郎

「天女様!! ここが源平合戦の最後の決戦地です!! この目で見れるとは感激です!!!」

「そうなのですか〜 それよりお腹が空きましたね」

「お侍さん方。。。海に出られるのですか?」日に焼けた老人が近づいてくる

「そのつもりですが。。。」

「あそこに島が見えますでしょう 最近あの島に鬼が出るなどと噂になっておりましてな。。。もともと名前などない島だったのですが 今では、鬼ヶ島などと呼ばれております 命が惜しければ近づかない事です」
言われた方を見ると 海流が重なり合い渦を巻く海域に小さな島が、濃い霧の中に浮かぶ
確かに見るからに不気味な島である

「それは、ぜひ腕試しをしたいものですな!!」

「本多殿、あの流れでは、小舟では近づけません」

「お待たせ致しました そこの船着き場に係留されていますが、すぐに出しますか?」

「そうですね〜お腹も空きましたし、腹拵えをしてからにしましょうか」

「あの、恐れ入ります 私ども周防国で和菓子屋を営んでおります 新婚旅行で旅をしておるのですが
もし海に出られるのでしたら同乗させては頂けませんでしょうか?」
身なりの良い男女が声を掛けてくる

ー『海に出られては、護衛も出来んからな、なんとか同乗させて貰わねば。。。』ー

ー『猿〜 私ら怪しくない? 行き先も聞かずに乗せてくれって。。。』ー

ー『こ奴ら、殿の子飼いの忍びであったな確か猿と雉だったな、なるほど密かに護衛の任に就いておるのか。。。しかしいきなり乗せてくれとは、無理があるだろ』ー

「お礼と言っては何ですが、これを皆さんでお召し上がり下さい 当店自慢の吉備団子です」
腰に下げた包みを差し出す

「揺れますので、足元に気をつけてお乗り下さい 遠慮なく頂きます」
6人を乗せた船が沖へと漕ぎ出す 独鈷杵を掲げ、青龍に囁く エヴァ ー『お導き下さい』ー

「天女様、どちらへ向かいましょう?」舵を握る 山本管助が聞いてくる

「取り敢えず、あちらの方角へお願いします」北東の方角を指差す
山本管助が舵を操り、本多忠勝が櫂(かい)を漕ぐ 尋常でない速度で水面を走る
独鈷杵が反応する方向を指差すエヴァ その方向に舵を取ると 正面には鬼ヶ島が。。。

「海流がぶつかり合う付近ですね。。。取り敢えず、あの島に上陸しましょう」

「あそこは、老人が言っていた鬼ヶ島ですが!?」

「特に禍々しいものは、感じませんので大丈夫でしょう」

「鬼が居るのなら、是非とも死合ってみたいですなぁ!!」さらに速度を上げる 本多忠勝

「新婚旅行に鬼ヶ島とは、浪漫ですね ふっふっふ」いたずらっぽく笑う エヴァ

「はい 良い思い出になります」雉の手を取り 鬼ヶ島に足を踏み出す
島を一周しても1時間もかからない程の小さな島に、熱帯に植生しているような樹木が生い茂り、緑色の見たことのない湾曲した果実のような物を実らせている

「少し奥まで入ってみましょう」本多忠勝を先頭に隊列を組み 草を掻き分け進んで行く

「きゃあっ!!」最後尾を歩いていた 雉の叫び声に振り向くと片足を縄に絡め取られ樹上
にゆらゆらとぶら下がっている 「助けて下さい!!」

「「うわっ!!」」雉に続き、猿も犬飼も樹上に絡め取られる
ガサッガサッと木々の間を黒く大きな物体が、森の奥へと逃げて行く

「「待て!!」」その後を追う 本多忠勝と山本管助

風の刃を飛ばし、3人を降ろす
「もう護衛は、大丈夫ですよ ご自分の身を守ってくださいね」きょとんっとする3人

「お恥ずかしい。。。お見通しでしたか 殿より陰ながらお守りする様にと命を受けました 猿と申します」 

「雉です 助けて頂き、ありがとうございます」

「吉備団子をまだ隠し持っている事も、お見通しですよ」


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