第62話 草薙剣

文字数 3,258文字

「すぐに戻りますので、待っていて下さい」 耳の奥に木霊する
何が起こったのだろうか?。。。 天女様の温もりが。。。自分の唇を触ってみる
目の前に脱ぎ捨てられた 白い小袖と緋袴
天女様。。。なんて尊く なんて清らかで なんて美しく なんて愛おしいのだろう


独鈷杵に導かれ、光の届かぬ深い海の底へと身を沈めてく
400年もの永きに渡り、時の権力者の執念により封じ込められてきた 神器
その怨念から解き放たねばならない、この国に降りかかる厄災を払いのける為に
この神器を手にした時から、私の命の秒針が終へと向けて動き始める
伸ばした手が一瞬こわばる。。。
何を躊躇う??
私には、厄災を討つ責任がある、この国の民を、これ以上犠牲にする訳にはいかない
何を躊躇う??
自分の命が惜しいのだろうか? いやこの国の未来が見たい 私の大事な人達と共に
しかし贄となれるのは、私しか居ないのだから
手を伸ばす 柄に触れた瞬間 私の中から、私以外の力が剣へと流れる
漆黒の海底が紫色の光を反射し、海面へ向けて光の濁流が渦を巻き上昇する
昇り龍の如く 「これほどの力ですか。。。!?」

《こんなものではないぞ!! 我を振るう者に憑くことで、大地を切り裂くほどの力を与えようぞ》

「それは頼もしい限りです」

《女 忘れては、おらぬだろうな今日より毎日一樽の酒を供えるのを そして我の国を
白蟻の如く蝕む奴らを排除した暁には、お前の御霊を我の贄とする事を》

「もちろん忘れてなどいません 銘酒·鬼殺しを用意致しましょう ふっふっふ」


海面が泡立ち 船縁に細い指が掛かる 慌てて立ち上がり その手首を掴む

「遅いので心配しました 天女様」
胸に張り付いたさらしと、腰巻きから水が滴り 船縁に腰を下ろす姿が
あまりにも神々しく、あまりにも美しく 抱きしめたい衝動を必死に抑える

「忠勝殿、そこの風呂敷を取ってください」

「天女様。。。その剣は!?」

「あとでお話しますね 島に戻りましょう」剣を大事そうに風呂敷で包む


「皆さん お待たせしました帰りましょう バナナを積めるだけ積みますよ!!」

「。。。。忠勝殿、何かあったのですか?」忠勝の耳元に小声で尋ねる 山本管助

「い、いや。。。な。。。何も」

「そうですか? 何かお二人とも心ここにあらずといった感じなのですが。。。」

「早くバナナを積み込むぞ!!」

「猿さん、雉さん、岸に着きましたら、お二人が乗って来られた馬が居ますよね?」

「はい、預けておりますが」

「この護符を馬に貼って、一足先に吉田郡山城に戻って貰えますか?おそらく明朝には帰れると思います」

「この護符を馬に貼れば、数時間で走りきれるということですね!? はい!!もう驚きません!!」

「バナナも持てるだけ持って、輝元様に献上して下さい それと一番大事な事なのですが、お酒を一樽用意しておいて頂けますか? 我々は、徒歩ですので夜明けまでには到着するとお伝えください」

「はい もう驚きません! 確かにお伝えします」

「あっ!弥助の事も伝えてくださいね 驚かれるといけないので、私の従者ですと」


馬の尻の上に大量のバナナを結わえた2騎が街道を直走る
「何なのだ!? この護符は!? これほどの速度で走り続けているのに、馬がまったく疲れる様子もないぞ??」

「これを、人に貼ったらどうなるんだろうね〜」

「力が数倍も増して、まったく疲れないのか。。。絶対に将軍や朝廷に敵対しない事を殿に進言せねばならないな!」


バナナの山が5つ、街道を移動している よく見ると巫女と3人の武士、半裸の黒人が
体のほとんどが隠れるほどのバナナを担いでいる事がわかるのだが
バナナと黒人を知らない人々の目には、一体どのように映っていたのだろう。。。

「荷車が必要ですね。。。」



安芸国 吉田郡山城 
「あの方は、疑う余地も無く天より遣わされたと。。。そう申すのじゃな?」

「はっ それは間違いなく」

「まぁわしも清水殿も、そのような結論に達したがな、間違っても将軍·武田信玄公に敵対するような事は無いから安心せい。。。それにしても、このバナナという物は、実に甘くて美味いのう〜
我が領土で栽培できんものかのう。。。」

「天女様が仰るには、このバナナという果実は、栄養価が非常に高く、乳幼児にも最適だと仰っておりました」

「腹持ちも良さそうじゃのう、5本ほど食べたが腹も膨れてきたぞ」
すっかりバナナ談義に花が咲く 毛利輝元と猿


翌日の早朝
物見櫓に居る猿が、5つのバナナの山が麓の城門に近づいてくるのを見つけ、向かえの者を差し向ける

「天女様お待ちしておりました」

「猿さん、出迎えありがとうございます 早速ですが、お願いしていた酒は、用意していただけましたか?」

「もちろんに御座います お召し上がりになりますか?」

「いえ 私ではありません 案内していただけますか」
二の丸の中庭に置かれた 銘酒「鬼殺し」

「神事を執り行います 四方を用意して、幕を張って頂きたいのですが」

「はっ ただ今すぐに」
張られた幕に一人で入り、樽の前に置かれた四方に草薙剣を供える
ごっごっごっごっごっ ごっごっごっごっご
と喉を鳴らすような音が暫くの間、続き 満足したのか、刀身を震わせる

《400年ぶりの酒だが、人間どもも腕を上げおったな これほど旨い酒は、初めてじゃ》

「それは、何よりです 明日もまた用意いたします」
草薙剣を風呂敷に包み、幕を出る エヴァ

「天女様、食事の用意と湯を用意して御座います 他の皆さんは、あちらでお休みになっていますが」

「そうですね清水殿、その前に輝元殿に挨拶をしましょう起床されていますか?」

「では、ご案内致します」


「天女様、無事のお戻り、この輝元安堵いたしております」

「街道もよく整備され、領民も親切な方ばかりで、良い旅でした」

「天女様にそう言って頂けるとは、恐悦至極に御座います あのバナナなる果実も大量に頂き、ありがとうございます」

「この旅での収穫の一つです 輝元殿の領地で採れたのですから、栽培してみますか?」

「それは、是非にお願いいたします!!」

「帰りましたら、尾張の鳴海城にて試しに栽培してみようと思っています 何名か遣わして下さい」

「それは、有り難いことです 間違いなく国益にもなりましょう」

「色々と、お世話になったお礼です それでは、少し休ませて頂いてから京に戻ろうと思います」

「是非に数日滞在していただきたいのですが、そうもいかぬのでしょうな。。。将軍によろしくお伝え下さい この毛利輝元、有事の際はいつでも駆けつける所存で御座います」

「それは、何よりの土産となりましょう 頼りにしていますよ」


荷馬車を用意してもらい 出立の準備が整う
「では、皆さん予定より遅れています 中国大返しですよ!!」


京の都 丸田町周辺
5000戸の住宅、表通りに面した約200戸の住宅兼店鋪の建築も終わり 羽柴組の面々が畳を運び込み
戸や窓の建て付けといった、内装工事に駆け回っている
ちなみに5000戸の住宅に対して3万件を超える応募が殺到しており、役所では連日その対応に追われている

京の都 二条城
羽柴秀吉、秀長兄弟が浅井長政·お市の方夫妻を、内装のみを残すだけとなった二条城内を案内している

「浅井長政様、お市様、ここが避難所の食料備蓄倉庫になります 5千人が一週間に必要な水や米、瓶詰め等の食料を保管しておく事を想定して作ってあります」

「羽柴殿、旧知の貴方との仲だ 敵として向かい合った時もあったが、今は将軍·信玄公の元、志を共にする仲間で御座ろう 公の場以外でそのような敬称は不要としよう」

「長政様、朝廷より京都守護職を任じられ、将軍の右腕と目されている自覚をお持ち下さい」

「ただの役割なんだがな。。。正直荷が重い」

「殿、役が人を作るとも申します 足りないところは、人に頼れば良いのです 殿は、まだまだお若いのですから、焦らずに共に歩みましょう」
そっと長政の手を取る お市の方

「そうだな、義兄の分まで。。。自分に出来ることを、するとしよう」

「では、上階をご案内いたします」





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